龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

第玖拾話 発動(脚本)

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〇センター街
三郎「人と龍の合いの子が、いつまで粘る!」
  内反りの鎌剣と、無反で切っ先の無い板剣。
  特徴の異なる二つの得物を手に、三郎は一哉を攻め立てる。
  今までと決定的に異なるのは、彼から笑みが消えていること。
  憤怒の形相と声音で圧力を発しながら、一人の若者のみを狙い続けている。

〇センター街
橘一哉(おお、怖い怖い)
  穏やかな笑みと声音で底知れなさを感じさせた今までと百八十度異なる態度。
  しかし、これもこれで直接的な怖さがある。
  だからといって怖じけている訳にもいかず、一哉は応戦し続ける。
橘一哉「おおおっ!」
  ガン、ガン、ギィン、と金属音が連続して響く。
  躱さない。
  一哉は三郎の攻撃を躱さない。
  指先まで覆う手甲を装着した両の腕で、その攻撃を受け、弾く。
  その両手を、刃にぶつけにいく。
  全身の気脈を繋いで四肢五体を一繋がりとし、崩されぬ態勢を維持しながら動く。
  三郎の攻撃は、速く、重い。
  小細工の一切無い、真正面からの攻撃ばかり。
  駆け引きの類は感じられない。
  しかし、強い。
  一哉も全力でぶつかりにいく。
  三郎の攻撃の唯一の違和感と言えば、
橘一哉(こいつ、俺をただ倒すのが目的じゃ、無い)

〇センター街
  戦いとは、勝敗・生死を争うものである。
  だが、三郎が見ているのは単なる勝ち負けや互いの生死ではない。
  もっと言えば、その目的は一哉を倒すことではない。
橘一哉(コイツの目的は、)
  一哉を倒した、その先にある。
  戦術的な勝敗の先にあるのは、
橘一哉(こいつ、俺を、)
  喰らうつもりだ。
  文字通りの意味で。
  三郎が一哉に向けているのは、敵意ではない。
  殺気はあるが、敵意はないのだ。
  そして、その殺意の中に含まれているのは、
  食 欲
橘一哉(こいつ、俺を捕食対象として見てやがる)
  その現れこそ、彼が両の手に握り締め、今振るっている二つの得物。
  右手の鎌剣は、本来ならば生贄の儀式において生贄の首を斬り落とすためのもの。
  そして、左手の板剣は、『エグゼキューショナーズ・ソード』。
  罪人の首を切り落とすための、処刑用の剣である。
  何れの剣も、戦闘用の剣ではない。
  用いられる場面こそ違うが、首を切るための道具である。
  つまり、三郎は、
橘一哉(敵ですらない、ってのかよ)
  一哉を、戦う相手とみなしてはいない。
  あくまでも『獲物』であり、狩りの対象でしかない。
  だからこそ、
橘一哉(サブちゃん、アンタの見立てが間違ってるって思い知らせてやるよ)
  真正面から三郎の攻撃を受け止めに行く。
  結果として、その行動は正解だった。
  狩り、捕らえ、喰らう。
  一方的な行為の対象であるはずの一哉に頑強に抵抗され続けている。
  その事実は、三郎を苛立たせるには充分すぎた。
  哲也と佳明という新手が加わった今ですら、三郎は一哉にのみ集中している。
橘一哉「随分と悠長だな、サブちゃん!」
三郎「何!?」
橘一哉「俺だけに集中してて、良いのかい?」
三郎「?」
  一瞬、三郎の動きが止まる。
  その瞬間、
「そらあ!!」
  横合いから気合い一声。
  声のした方を振り向いた瞬間、
三郎「っ!」
  金属音が響き渡る。
「アレで反応できるのかよ、すげえな」
  感嘆の声の主は、
  両手の鞭剣を同時に三郎へ叩き付けた佳明。
  その攻撃は、三郎の板剣に防がれている。
  驚くべきは、その大きな得物を素早く振り上げて防御した反応速度。
橘一哉「サブちゃんは単純に強いから」
飯尾佳明「お前はどっちの味方なんだよ」
  別の意味で二度目の溜息が佳明から漏れる。
三郎「邪魔しますか緑龍」
  ギリ、と奥歯を噛み締める三郎。
飯尾佳明「勿論、邪魔させてもらうぜ」
  佳明は三郎を挑発するようにニイ、と笑い、
飯尾佳明「カズだけじゃ手に負えそうに無いからな」

〇センター街
如月玄伍「好機到来だな」
  玄伍は呟いて哲也を見た。
古橋哲也「好機、ですか?」
如月玄伍「うむ」
  玄伍は頷く。
如月玄伍「あの二人が時間稼ぎをしている間に、此方も態勢を整えるぞ」
竹村茂昭「あの何とか陣ってやつですよね?」
如月玄伍「そうだ」
如月玄伍「準備と言っても、大したものではないし時間もかからん」
草薙由希「本当に?」
  由希が疑いの目を向けると、
如月玄伍「詳細は神獣たちが直接教えてくれる」
「!!」
「!!」
  哲也、茂昭、由希、司、朱乃の顔に、同時に驚きが浮かぶ。
古橋哲也「これが、」
雀松朱乃「おじさんの言った、」
雀松司「方陣、か・・・!?」
如月玄伍「さあ、やり方は分かったな?」
竹村茂昭「え、ええ・・・」
草薙由希「確かに、分かりましたけど・・・」
  心配な事が、唯一つ。
如月玄伍「心配するな、私も初めてだ」
如月玄伍「兎に角、全力を解放することだけ考えろ」
「・・・はい」
古橋哲也(本当に、僕にまとめきれるんだろうか)

〇センター街
飯尾佳明「強いなコイツ!」
橘一哉「だから言ったじゃん、強い、ってさ!」
三郎「軽口を叩いて、癇に障る!!」
  二人がかりでも、三郎の有利は変わっていない。
  しかし、一哉と佳明は言葉を交わし軽口を叩く程度の余裕が出来ていた。
飯尾佳明「サブちゃんとか言ったか、処刑道具が得物とは随分と洒落てるな!」
三郎「貴様らは只の獲物だ、勘違いするな!」
  二刀流同士で打ち合う二人。
  佳明が押されているが、彼の口にする言葉も又戦術の一つ。
  あえて会話をすることで、攻撃から少しでも気を逸らさせる。
飯尾佳明「デカい得物で少し疲れてきたんじゃないか、ええ?」
  力も、速度も、三郎の方が遥かに勝っているのは一哉の様子からも理解できた。
  真正面からぶつかれば潰されるだけだ。
  だから、口撃も含めたあらゆる技術をフル活用して三郎の注意を引きつける。
飯尾佳明(ったく、よく持ち堪えたもんだな、カズは)
  この結界に入った時に目にしたのは、三郎と真正面から打ち合う一哉の姿。
  全身全霊、限界を超えた力を振り絞っているのが見て取れた。
  それよりも何よりも驚いたのは、
飯尾佳明(よく笑ってられたもんだ)
  一哉は、笑っていた。
  こんな殺気まみれで此方を敵と認識していないような相手を前に、一哉は笑っていた。
  今だって、佳明と一緒に戦いながら笑っている。
  笑いの種類こそ違うが、こんな必死の戦いの最中に笑っていられるとは。
飯尾佳明(やっぱコイツ、おかしいわ)
  思い返せば、おかしい事だらけだ。
  龍使いになったのも、魔族との戦いも、全部が全部。
  魔族と直接関係なさそうな三郎と戦っている今のこの状況も、充分おかしい。
  そんな事を戦いながら考えている自分も充分おかしい事に、佳明は気付いていない。

〇センター街
如月玄伍「さあ、準備は良いかな?」
古橋哲也「はい」
雀松司「勿論」
  玄伍の言葉に由希、哲也、茂昭、司、朱乃の五人は力強く頷く。
  六人の神獣使いは、必殺の方陣を発動するために配置についた。
  中心にいるのは黄龍使いの哲也。
  彼を中心として、
  哲也の後ろに、玄武使いの玄伍。
  左に青龍使いの由希。
  右には白虎使いの茂昭。
  そして、哲也の前方には朱雀使いの朱乃と代行者の司の兄妹。
  これで陣形は整った。
  五体の神獣の力を合わせた奥義が今、発動する。

〇センター街
草薙由希「四大の水、五行木行、少陽・青龍!」
「四大の火、五行火行、太陽・朱雀!」
竹村茂昭「四大の風、五行金行、少陰・白虎!」
如月玄伍「四大の地、五行水行、太陰・玄武!」
古橋哲也「四大四神の力を束ねるは、太極央元・土行の黄龍!」
古橋哲也「四大・陰陽・五行の相生、以て辟邪の陣と成す!」
  四 神 黄 龍 五 行 陣

次のエピソード:第玖拾壱話 決着

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