第捌拾捌話 四神対饕餮 急(脚本)
〇センター街
飯尾佳明(結局俺も来ちまった・・・)
佳明は内心でため息をついた。
古橋哲也「やっぱり、飯尾くんが居てくれると助かるよ」
正体不明の衝動の赴くまま、街中へと繰り出した哲也。
特に何かを考えるでもなく、足の向くまま気の向くまま。
感性に任せて歩き続ける彼の横には、佳明の姿があった。
〇電器街
飯尾佳明「あぁ、もう、」
明確な目的もなく足を進める哲也の姿が、何故か佳明の不安を駆り立てた。
そして、
〇センター街
気が付けば、哲也と一緒に歩いていた。
飯尾佳明「で、どうなんだ?」
歩く速度もランダム性も緩くなった哲也に、佳明は問いかけた。
飯尾佳明「そろそろ衝動の行き先は見つかったか?」
古橋哲也「そう、だね・・・」
ふと足を止め、哲也は周囲を見渡す。
飯尾佳明「ちょ、急に止まるんじゃねえよ」
後ろをついて歩いていた佳明、急ブレーキを掛けた哲也にぶつかりそうになった。
同性の背中に顔を埋めるのもキスをするのも趣味ではないので全力で回避する。
飯尾佳明「この辺か?」
古橋哲也「・・・うん」
佳明の短い問いに、哲也も短く答えて頷く。
二人とも、普段とは異なる気配を既に感じ取っていた。
飯尾佳明「・・・結界、だな」
古橋哲也「そうだね」
空間の中に感じる異物感。
水中に、水を満たした透明な容器があるようなイメージ。
何かがあり、何事かが起きている。
飯尾佳明「・・・入って、見るか」
佳明の右腕に龍の痣が浮かび上がる。
古橋哲也「そうするしか、ないね」
哲也の右腕にも、黄色い龍の痣が浮かび上がる。
二人は意識を集中する。
そして、
消えた。
〇センター街
三郎「やはり、君は、モノが違うようですね!」
顔と声と動きが全く噛み合わない。
楽しそうな大音声と声音。
満面の笑顔。
殺気を纏い、鋭い風切り音と共に繰り出される左右の剣。
そんな彼が今攻め手を向けているのは、
橘一哉「馬鹿力だなぁオイ!」
こちらは余裕が感じられない。
声も顔も動きも必死。
しかし、その対応は素人のものではない。
繰り出される、拳、蹴り、貫手、掌打。
三郎の間断無い攻めを受けるだけでなく、攻撃で潰しにかかっている。
肘と膝よりも先、手甲足甲の部分で三郎の攻撃を相殺している。
だが、如何せんリーチの差が大きい。
平均的な体格の一哉に対し、三郎は高身長で手足も長い。
その上で武器も手にしている。
懐に潜り込みたいのだが、その前に立ち塞がる二つの刃が難関だ。
橘一哉(力と速さが半端ない!!)
最初に相対した時も感じた。
テクニカルな動きをしているわけではない。
が、その速さと力が兎に角強い。
司から習った朱雀の闘技。
その全てに通底する『崩れない形を保って動く』という基本。
全身の気脈を通じさせて繋げた状態の維持。
それが出来ていなければ、防御諸共、或いは繰り出す手足諸共。
こちらの動きや体勢に関係なく押し負けて叩き潰されているだろう。
それでいて、
草薙由希「はあっ!」
由希が一哉を援護すべく横合いから切りかかると、
三郎「邪魔しないでください!」
無造作に板剣を振り出して由希の一撃を止め、
三郎「貴方は彼の次ですよ!」
由希の薙刀と交差した板剣を跳ね上げる。
草薙由希「っ!」
態勢を崩されまいと由希が飛び退くほど、三郎の巻き上げは強かった。
一哉を攻める片手間に、腕力のみで振り抜いたとはとても思えない剛力。
〇センター街
雀松朱乃「橘さん!」
目の前で繰り広げられる激戦。
その背に真紅の炎の鳥・朱雀を出したまま、朱乃は兄たちの戦いを見守っていた。
今、三郎の狙いが朱乃にあることは彼女にも理解できた。
それを全力で阻止しているのが一哉だ。
武道や格闘技の試合なら、朱乃もTVで見たことはある。
しかし、命懸けの戦いはこれが初めてだ。
命の安全が保証された試合の緊張感とは異なる、全力の動きと必死の気迫。
正直に言って、怖い。
今更ながら、恐怖が湧き上がり始めていた。
こんな多人数で掛かっても、拮抗するのがやっと。
そんな相手に、本当に勝てるのか?
退けることが、出来るのだろうか?
〇センター街
「うお、何じゃこりゃ」
雀松朱乃「!?」
背後からした声に、思わず朱乃は振り返った。
雀松朱乃「・・・?誰・・・?」
そこにいたのは、
二人の若者。
一人は、やや痩せ型で鋭さと知的な雰囲気の漂う若者。
もう一人は、身長180cmはありそうな大柄な体躯と穏やかそうな面立ち。
飯尾佳明「なんだ、お子様まで、」
痩せ型の若者が言いかけた時、
飯尾佳明「うおお!?」
炎が荒ぶった。
二人の若者は揃って後ずさる。
飯尾佳明「何だ、コイツ!?」
二人の若者は揃って炎の出所を見上げて唖然とする。
古橋哲也「火の鳥⋯?」
飯尾佳明「朱雀、か?」
雀松朱乃「知ってるの?」
朱乃は恐る恐る訊ねてみた。
飯尾佳明「何となく、な」
痩せ型の若者は視線を移す。
その視線の先には、
〇センター街
朱乃の兄、司の姿。
衣服を通して浮かび上がる、真紅の鳥の紋様。
全身から舞い散る火の粉。
全力を解放して、
〇センター街
対照的な表情で戦う二人の、
雀松司「えあぁっ!!」
三郎「無粋ですね!」
隙を見計らい一哉に助け舟を出している。
〇センター街
飯尾佳明「君、司さんの関係者だろ?」
雀松朱乃「兄を知ってるんですか?」
飯尾佳明「ああ」
古橋哲也「司さんには、お世話になってるからね」
朱乃の問いに佳明と哲也は頷く。
飯尾佳明「俺達は、」
二人は右腕をかざし、
飯尾佳明「龍使い、緑龍の飯尾佳明」
古橋哲也「同じく、黄龍の古橋哲也」
龍の痣を浮かび上がらせて各々の得物を出現させた。
飯尾佳明「君の盾役やってるカズの同類さ」
雀松朱乃(そこまで分かっちゃうの?)
二人には何も話していない。
しかし、状況を把握していた。
飯尾佳明「テツ、やるぞ」
古橋哲也「うん」
〇センター街
如月玄伍「黄龍と、緑龍!?」
侵入者の姿を見た玄伍は驚いた。
誰にも何にも被害を及ぼさぬよう、張り巡らせた結界。
侵入も漏出も不可能な特殊な結界を、四神の力を利用して形成した筈だった。
強固に張り巡らせた領域に、侵入できる者がいたというのが驚きだった。
如月玄伍「いや、これは僥倖か」
だが、すぐに考えを改めた。
というのも、
如月玄伍「黄龍がいるならば、アレが使える」
とある秘儀の発動条件が揃ったのだ。
如月玄伍「橘くんに奴の意識が向いているならば、」
これは好機だ。
如月玄伍「問題は、」
雀松兄妹に移す。
如月玄伍「本来の朱雀は、まだ未熟」
如月玄伍「朱雀の代行者は、万全とは言い難い」
如月玄伍「それでも、」
大丈夫だろうか。
如月玄伍「・・・いや、」
思い悩む暇はない。
相手は無類の強敵。
躊躇いなど無用。
使える策は全て出し切らねば、打ち倒すどころか退ける事すら難しい。
如月玄伍「・・・やるか」
玄伍は意を決した。


