本編(脚本)
〇森の中
――1524年――
渋谷城、場内
関東攻略に乗り出した後北条氏。
その精兵たちが渋谷城を取り囲んでいた。
北条家将軍「・・・・・・そうか。勧告を拒んだか。 まったく、時流が見えておらぬ者は 愚かよの」
[北条家兵士]
「いかがいたしますか?」
北条家将軍「・・・・・・手はず通りにやれ」
[北条家兵士]
「はっ!」
〇屋敷の大広間
五郎右衛門「・・・・・・兵をまとめろ。 裏門から突破するぞ。 城主様だけでも、なんとか逃さねば」
[兵士]
「・・・・・・しかし、
どこへ向かわれますか?」
五郎右衛門「・・・・・・致し方あるまい。上杉だ。 彼奴らに助けを求めるのは癪だがな」
[兵士]
「御意。準備いたします」
五郎右衛門「・・・・・・はぁ・・・・・・」
「[???] 「あら、嘆息だなんて。 時と場合によっては打首ものよ?」」
五郎右衛門「・・・そりゃ嘆息したくもなりますよ。 お雛様」
お雛「ふふ。そんな顔をするでない。 せっかくの男前が台無しじゃぞ?」
五郎右衛門「そりゃそんな顔もするでしょう。 ・・・・・・なぜ姫様がこんなところに?」
お雛「なに、北条方の様子を見にな。 それと、主の困り顔をひと目見ておこうと思うてのう」
五郎右衛門「そうですか。 お望みのものは見られましたかね?」
お雛「うむ。いつも空を見上げて、 のほほんとしておるお主とは かけ離れておるのう」
五郎右衛門「そりゃそうでしょ。 別働隊とはいえ、城を囲う北条兵の数は 多いですからね」
お雛「・・・・・・劣勢か」
五郎右衛門「大分ね」
お雛「・・・・・・そうか」
お雛「ならば五郎右衛門。妾の付き人たるお主に命令を下す」
お雛「――城主を・・・父上だけでも逃がせ。 渋谷の血を絶やすな。必ずや復興せよ」
五郎右衛門「・・・・・・お雛様は?」
お雛「妾はついでで構わぬ。 どうせ妾の子。正当な血筋継承権は薄い」
五郎右衛門「・・・・・・左様でございますか」
お雛「うむ。なんなら、 この戦の恩賞にお主に妾を――」
五郎右衛門「っ!? ――誰かおるか! 何事じゃ!」
[兵士]
「ほ、北条方が・・・・・・北条方が、
城に火を放ちました!」
五郎右衛門「火・・・・・・? っ! 急ぎ城主を連れて行け!」
[兵士]
「・・・・・・は、はっ!
五郎右衛門どのは・・・・・・!」
五郎右衛門「・・・・・・後から向かう。急げ!」
[兵士]
「御意」
〇屋敷の大広間
お雛「・・・・・・無駄じゃな。 もう裏門にも火の手があがっておる。 直に城全体を猛火が包み込むじゃろう」
五郎右衛門「・・・・・・左様ですか」
お雛「・・・・・・のう、五郎右衛門」
お雛「主は、人が死んだら どうなると思っておる?」
五郎右衛門「宗教の話ですか? 申し訳ないですが、俺は興味が」
お雛「そう言うな。 妾はな、人は死ねば、別の命を授かり 再びこの世に生まれ落ちると思うておる」
五郎右衛門「・・・・・・・・・・・・」
〇屋敷の大広間
気がつけば、
火の手が城を包み込んでいた。
煙と、畳が燃える匂いが
鼻孔へ届く。
不思議と、心は落ち着いていた。
主が――お雛様が、
いるからかもしれない。
お雛「・・・・・・五郎右衛門。 先の命令を撤回する」
お雛「代わりに、1つ新たな命令を 聞いてもらうぞ」
五郎右衛門「・・・・・・なんなりと」
お雛「・・・もし、再び妾と主が 再び相まみえたら・・・」
お雛「その時は――」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
〇神社の本殿
ゴロー「・・・・・・・・・・・・」
渋谷駅から徒歩5分。
金王八幡宮の境内で、俺はただぼーっと
空を見上げていた。
なぜ仕事を放り投げて、
こんなところに来たのか。
なぜ俺は、
無性に青空を見上げたくなったのか。
「[???] 「・・・・・・お兄さん、こんなところで どうしたんですか?」」
ゴロー「・・・いや、なんとなくな。 ・・・・・・君は?」
ヒナ「・・・・・・や、あたしも なんとなくですかね」
ヒナ「なんとなく、今日・・・・・・ 誰かと一緒に ここで空を見上げたいなって」
ゴロー「・・・・・・なんだそれ」
ヒナ「あはは、なんでしょうね♪ あ、アタシ、ヒナって言います!」
ヒナ「・・・・・・隣、もらっちゃいますね♪」
少女が隣に腰を下ろす。
ふわりと、
蜜柑の香りが鼻孔をくすぐった。
ヒナ「・・・・・・約束」
ゴロー「え?」
ヒナ「ううん。なんでもない」
ヒナ「・・・・・・けど──」
ヒナ「これからよろしくね? ゴロー♪」
現代では幸せになれそうですね。こういうハッピーエンド好きです!肝心の言葉が聞こえなかったところが切なくて素敵です。ゴローさんもヒナちゃんも前世の性格そのままで、思慮深い感じと度胸の座った感じがなんとなく伝わってきてすごいと思いました。
最初はシリアスな戦国時代のお話で、二人の関係も悲しかったけど、現代に話が変わった時は、なんだか良かったという安堵感が出ました。
時を超えて、生まれ変わった2人が再会するという設定は大好きです。そういう運命的なストーリーって何か憧れてしまいますよね。