山田らの集団/西峰のゴーストライター(脚本)
〇アパートの台所
今日は珍しく、夕飯を作っている母を眺めながら、時間を持て余したあたしは
部長に電話してみようと思い立った。
納二科寧音(なにかねね)「山田って知り合いいませんか?」
部長「山田?」
部長「山田か・・・・・・よくある名前だが何があった? 私に聞くということは、出版社か」
納二科寧音(なにかねね)「いえ、そう決まった訳ではなくて」
納二科寧音(なにかねね)「家の前に居たんです。勝手に住所や、名前を調べて」
寧音母「アイアイアイアイランドー♪」
寧音母「ネェネェ、ねねちゃんは、何を嗅ぎ廻るの♪」
納二科寧音(なにかねね)「!?」
部長「どうかしたか?」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・」
母は、ストーカーされている?一方、
本人にも不気味さがある。
納二科寧音(なにかねね)「母さん、最近言葉遣い?や返事がきしょくなったんですよね」
納二科寧音(なにかねね)「返事が「あーい!」だったり、」
納二科寧音(なにかねね)「アイアイアイアイランド♪ みたいな歌を歌いながら近付いてきたり」
部長「何だそれ」
納二科寧音(なにかねね)「分からない・・・・・・前はそんなこと無かったのに、」
納二科寧音(なにかねね)「ネネちゃんが嗅ぎ廻っている、みたいな歌を歌って急に黙ったり」
部長「・・・・・・」
部長「他にはあるのか?」
納二科寧音(なにかねね)「献立・・・・・・」
寧音母「あぁ、魔法が使えたら、料理なんて一瞬なのにね」
納二科寧音(なにかねね)「文学的? ファンタジックなことを言うようになりました」
部長「・・・・・・」
納二科寧音(なにかねね)「怖いですよ。ここ最近母が、急に業界用語しか喋らない知らない人になったみたいで」
〇病室のベッド
村田紗香「今日も怒ってたな・・・・・・」
母が出ていった後。
扉を見つめながら呟く。
村田紗香「努力なんか関係ない」
村田紗香「全然関係ないよ」
村田紗香「いつもやったことが、全部ひっくり返って、」
村田紗香「急に謎のゲストが優勝したり、」
村田紗香「上位にいく途端に毎回大会ごと無くなる気持ちなんて、あの人には分からないよ!」
努力しろ、遊んでいる、無謀な事をするな、これまでそればかり言われてきた。
だけど、私は知っている。
頑張ればすぐ報われるのは子どもの世界だけだ。
現実はそうじゃない。
自分が出ると、例えば大会ごと無くなるのだ。
何かを叶える努力だけじゃ
何もかなわない。
周りの人から圧力をかけられる環境を変えないと、何も変わらない。
今は、もう、圧力というイレギュラーが現れる、通常努力以上の段階なのだ。
村田紗香(そう、言えないのは。 そう思ってもらえないから・・・)
賞だとか、経歴だとか、肩書。それを以て『証拠』とする世界では、
例えばその前に大会がつぶれては、示せるものが残らない。
村田紗香「?」
こんなときに、電話。
誰だろう。
母からのお叱りメールだろうかと携帯を手に取る。
納二科寧音(なにかねね)「もしもし?」
村田紗香「あ、寧音ちゃん」
納二科寧音(なにかねね)「あの、さ。 えっと・・・・・・」
なんだか緊張したような。言いよどむ声。
村田紗香(な、なんだろう)
納二科寧音(なにかねね)「いきなりこんなこと言うの、アレなんだけど・・・・・・」
深呼吸するような呼気の音。
それから、彼女はつづけた。
納二科寧音(なにかねね)「モデルに、なってくれないかな」
村田紗香「え?」
納二科寧音(なにかねね)「あ、あの。 小説の。私、文学部だから・・・・・・」
びっくりした。
モデルってそっちか。いや、意味としては同じか。
村田紗香「急に、どうしたの」
納二科寧音(なにかねね)「実は、村田さんの事件を見ていて、 あたしと同じじゃないかと思ったんだ」
彼女は語った。
幼い頃から、自分が作品として利用されている事。
作家にとっては一方的に知られた存在であること。
恐らく親戚か誰かが作家をしている事。
作家は、暴力団と繋がりがある事。
村田紗香「コネと、圧力が働いてるってこと?」
納二科寧音(なにかねね)「簡単にいうと、そう」
納二科寧音(なにかねね)「だから、あたしが小説を出しても 西峰維織の作品として発売されるの」
村田紗香「ええっ!? でも、文芸誌もあるのに」
納二科寧音(なにかねね)「あー、うん。なんかそれと同じ名前の雑誌作ったり、同じ名前で作家されたりしそう」
納二科寧音(なにかねね)「な、雰囲気を年々感じているよ」
納二科寧音(なにかねね)「困ったよねぇ。 あたし、いつの間にか、西峰のゴーストライターをしていてさ」
納二科寧音(なにかねね)「あ、同じって言ったのはね。 多分、ゆう子さんみたいな存在が『西峰維織』なんだ」
納二科寧音(なにかねね)「それで、勝手に降りようとすると 暴力団に巻き込まれる状態になると思う」
村田紗香「ひどい・・・・・・ 勝手に巻き込んでおいて、 やめさせないように手を回すなんて」
村田紗香「本当の、話、だよね? どうして、そんな話を私に」
彼女は、また一呼吸おいて言う。
納二科寧音(なにかねね)「ゆう子さんの関係者が強引に 優勝候補から外させたって話を聞いて」
納二科寧音(なにかねね)「そのあとに、暴力事件になったのを見て、他人事じゃないと思った」
村田紗香「・・・・・・」
納二科寧音(なにかねね)「だから、言わなきゃって」
納二科寧音(なにかねね)「前から思っていたんだ」
村田紗香「・・・・・・そう、なんだ」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・何もしなくても、 目をつけられただけで、向こうから来る。 時間がない」
村田紗香「それは・・・・・・」
納二科寧音(なにかねね)「これが「彼ら」のやり方。 力づくで優勝して、気に入らない者は潰している」
納二科寧音(なにかねね)「あたしも多分、」
彼女は何か言いかけて、そこで止める。
納二科寧音(なにかねね)「あ、あのね。 私、だから一度応募してみようと思うんだ」
納二科寧音(なにかねね)「西峰と同じ舞台に、 ゴーストライターじゃない、自分だけの姿で」
ゴーストライターとして、西峰維織の作品として改ざんされる可能性を背負って
それでも、私がゆう子さんに打ち勝ったように挑みたいと言うのか。
納二科寧音(なにかねね)「でも、それだけじゃ、私がどんな目に合うかわからない・・・・・・」
納二科寧音(なにかねね)「村田さんを見ていて、多分、根元にあるのが同じ『暴力』だと感じているのも事実」
納二科寧音(なにかねね)「殺して、首を切って入れ替わる・・・・・ なんてお得意の芸当をされるかもしれない」
納二科寧音(なにかねね)「勝手に付き合ってたこととかにされて、 無理やり隠蔽されそうだし・・・・・・」
確かに、そう聞くと私と同じだ。
まるで身代わり、保険のように生身の人間を利用する上層の芸人。作家たち。
生身の人間が出演するものとはまた危険が違うのだろうが
身体的に、直接危険にさらされる代わりに
作家には、『ゴーストライターとして扱うのが容易』という暗黙のパワハラが存在する
しかも、ゴーストを悟らせないように、
自分語りやインタビューに余念がない。
納二科寧音(なにかねね)「単に、被害の話を小説にすればいいって 最初は考えたんだ」
納二科寧音(なにかねね)「だけど、それもダメ。 昔にあたしと同じような経験を持った人が居てね、」
納二科寧音(なにかねね)「その人の体験談で作られた作品がすでに世の中に溢れていて、」
納二科寧音(なにかねね)「そのまま語っても、 全部その人の事にされて「もう片付けた事件」扱いされてしまう」
納二科寧音(なにかねね)「今! 起きているの! 首吊り師も、馬田の事も、村田さんの事も、全部、昔じゃない」
納二科寧音(なにかねね)「『今』を残せるものを、集めて、ショウさじゃなくあたしたちを見てもらうんだ」
村田紗香「・・・・・・」
村田紗香「だから、私なんだね」
納二科寧音(なにかねね)「うん」
納二科寧音(なにかねね)「フラッシュバックが怖いかもって、 思った。 でも、一応聞くだけでも聞いてほしくて」
納二科寧音(なにかねね)「こんなこと、頼むのもどうかって考えたんだけど、これしかないと思うの」
納二科寧音(なにかねね)「今まであった作家・・・・・・の人は、 みんな、そうだったんだけど」
納二科寧音(なにかねね)「プロ以外は、自由に利用していい、舐められていくものだ。って思ってる」
納二科寧音(なにかねね)「あたしたちの日常を壊しても、部活や趣味の活動でさえも、全部安全圏にある素材」
村田紗香「・・・・・・実績、だけ残せないようにする。 プロは結果がある人だけ」
村田紗香「それは、私も目の当たりにしたよ」
村田紗香「結果が出る事じゃない、その先、確実に存在が残る事の方が大事なんだってわかった」
村田紗香(圧力を受けているのが私なら、それも私の実績。今のゆう子さんには無い)
納二科寧音(なにかねね)「あたしも、自分の日常が作家と共にあった事、頑張って話そうと思う」
村田紗香「いい、ね」
村田紗香「私も、ゆう子さんが暴れたの見てた」
村田紗香「自分の事以上に、せっかくの票が、誰かの思いが 無駄にされたのが悲しいと思った」
村田紗香「もし、ゆう子さんと、出版社で同じ「暴力」のつながりがあるというなら」
村田紗香「お互いに出来ることがあるかもしれない」
納二科寧音(なにかねね)「!」
西峰維織が、「それは自分です」と、彼女からなんでも奪ってしまうとして
それでも、残るものは、
『今』自分達が此処にいるということ。
存在と概念。
西峰がなんでも私物化する事を知っているのなら
自分がやったことだ、と自ら名乗り、
その通り、
『事件』の話をしてみよう。
〇黒
運が悪かった。
俺もお前も、
それだけだろ?
西峰維織「最悪だ! あれを、自分だと思われるなんて」
あの日来た一通の封筒を、まだ恨んでいる。
その中にあった原稿が、まさか自分を、糾弾するとは夢にも思っていなかった。
〇オフィスのフロア
「あれ?西峰さん、自白する事にしたんだ(笑)」
「やっぱりね(笑)」
西峰維織「皆、何を笑っている?」
会社を訪れたある春の事だった。
いつもの『西峰ストック』にあった私物の新人賞原稿を見たやつらの様子がおかしい。
「今月の、西峰ストックにあったのを読ませて貰いましたけど(笑)」
「面白い。西峰先生が、まさか今までの伏線を回収なさるとは(笑)」
なんだか小馬鹿にしたような、納得しているような空気感で褒められていた。
見せて貰うと、其処には見覚えのある文体の原稿。
自分の罪を揶揄するかのようなエピソードが、コメディタッチで楽しく描かれている。
西峰維織「違う、あれは自分じゃないんだ!友人に貰った」
そう言った自分に向いた白い目。
「これは、だから、自分のなんだよ」
その必死の言い訳は、社内に虚しく響いた。
あの日の辱めを、どうしても忘れられない。
今まで、三人仲良くやってきたじゃないか。
・・・・・・だろ?
そうだと言ってくれよ。
?「なら、ほら紹介してくださいよー(笑)」
担当たちは、西峰の一部だという嘘に乗っかりそう絡みだした。
?「私も気になりますね。 あの先生、全然接触出来なくて、有名なんですよ」
?「なんか知らないですか? どんな人かとか、普段の事とか」
?「何故、今西峰維織名義を使わず、 単独で動いているのかとか」
西峰維織「ちょっと喧嘩しただけ!」
?「はぁ、喧嘩・・・・・・ でも原稿は自分のにするくらいの仲なんでしょ?」
?「お願いしますよー」
西峰維織「ふざけるな。俺は、連絡係じゃない! 嫌だ!!」
?「本当は知らないんじゃない?」
西峰維織「クラスメイトで! どっ、同級生だ」
?「ほう、同級生?」
西峰維織「でもバカな奴だからそういう難しい事はやりたがらないかな。 モデルにしてるだけで・・・」
西峰維織「だから、紹介は嫌だ」
?「そういわれましても、」
??「ずっと三人でやってきたなら、給料は三人分になりますよね?」
??「まさか、急に人を、出したかと思えば 給料が独り占めなんてことは・・・・・・」
?「そうそう。約束か何かあったなら、その証拠を出してもらわないと・・・ 契約違反かも」
西峰維織「書いてるのは全部俺だよ。 あいつらには一銭も払う必要ない」
西峰維織「全部許可とってあるから。使っていいって約束もしてるから」
?「ほう。でしたら、あの原稿は?」
?「西峰さんが書いていない、自らそうおっしゃいましたね」
?「自分の新刊にしようというのは? いつものように西峰名義にしないのも変ですし」
?「許可とってないんじゃないですか?」
(畜生・・・・・・何処でもれた? 携帯会社か?)
(あいつら、移し替えのときに、構成員のメンバー情報とか見てるんじゃないのか?)
?「あんな奴!煙草を吸いまくって肺がんで死んでしまえ!!!」


