第捌拾肆話 決意(脚本)
〇センター街
雀松司「朱乃、下がっていなさい」
雀松朱乃「え、でも、」
雀松司「いいから」
幼い妹を戦わせるわけにはいかない。
雀松司「ここは、俺がケリをつける」
司は巨大な炎の鳥の前に立ち、三郎と向かい合う。
四凶の一角、饕餮の三郎。
彼を倒すのは、
雀松司「これは、俺の使命だ」
炎の鳥「代行者よ、意地を張るな」
炎の鳥が司に語りかけてきた。
炎の鳥「此奴は、代行者のお前にどうにかなる相手ではない」
雀松司「それでも、俺はやらなきゃならない」
雀松司「俺が、やらなきゃならないんだ」
朱乃を守るために。
雀松朱乃「お兄ちゃん、私も戦うよ!」
雀松司「朱乃!?」
妹の言葉に司は目を丸くした。
雀松朱乃「そいつは私達の敵なんでしょ?」
雀松朱乃「なら、私も戦う!」
雀松司「だめだ」
司は妹の申し出に首を横に振った。
雀松司「朱乃、お前は戦っちゃいけない」
朱乃はまだ子どもだ。
まだ小学生だ。
遊び盛りの子供を戦わせるなど、道義に反する。
雀松司「戦いは、大人がやることだ」
殺し合いなど、軽々しく行ってよいものではない。
法三章というものがある。
前漢成立時、過酷だった秦の法制度を廃して簡素な法を施行した。
殺すべからず。
傷つけるべからず。
盗むべからず。
殺人、傷害、窃盗の三つを禁じる。
たったそれだけのものである。
後に更に整備されたものになっていくのだが、それはまた別の話。
戦い、殺し合う。
それを子供に課すのは、絶対に避けねばならない。
炎の鳥「代行者よ、我が宿主では不足だというのか?」
炎の鳥の問いに、
雀松司「子供を戦わせることの何処に正義があるというんだ、朱雀!」
司はこれまでに無い激しい口調で言葉を返した。
〇センター街
橘一哉「あれが、朱雀・・・」
結界の気配と、三郎の気配。
それに、巨大な人外の気配。
なぜか見過ごすことができず、勝手に身体が動いていた。
駆け付けた一哉が目にしたのは、驚きの光景だった。
四神の朱雀。
司の力の源が、顕現していた。
草薙由希「そうよ」
橘一哉「由希姉・・・」
由希が一哉の隣に立つ。
草薙由希「あれが朱雀」
草薙由希「そして、あの子が本当の朱雀の宿主よ」
橘一哉「あの女の子が・・・?」
草薙由希「そう」
由希は頷く。
草薙由希「あそこにいる司さんの妹・朱乃ちゃんが、真の朱雀の宿主」
橘一哉「マジかよ」
驚いた。
あのような少女が四神の宿主だったとは。
しかも、司の妹だったとは。
草薙由希「あんたも、黒龍が覚醒したのは十歳のときだったでしょうに」
橘一哉「それはそうだけど・・・」
だが、一哉とあの少女、朱乃では事情が異なる。
橘一哉「あの子、大丈夫かな・・・」
司はともかく、朱乃が荒事に向いているようには思えない。
竹村茂昭「向き不向きなんて関係ないだろ」
橘一哉「シゲちゃん・・・」
茂昭も現れた。
竹村茂昭「なっちまったものは、しょうがない」
竹村茂昭「選ばれちまったんだから、後は全うするしかないだろ」
竹村茂昭「俺達が、そうだろ?」
〇センター街
三郎「勇ましいお嬢さんだ」
三郎「私は何人がかりでも構いませんよ」
三郎の手に剣が現れる。
「ならば、我ら四神が総出で掛かっても構わんのだな?」
三郎「!!」
三郎の背後から声がした。
三郎が振り向くと、
如月玄伍「四神が揃えば、貴様を再び放逐するのは容易いぞ」
如月源伍が立っていた。
その両腕には、玄武の籠手・金剛鉄甲を装着している。
臨戦態勢だ。
しかも、その籠手は一哉と相対した時とは形状が変わっていた。
より洗練された形になっている。
三郎「ほう、玄武、ですか」
如月玄伍「如何にも」
源伍は両手を上げて構えを取る。
三郎「ならば、」
三郎は目を見開き、
三郎「こちらも、本気を出しましょうか」
〇センター街
雀松司「橘くん、」
橘一哉「はい?」
雀松司「朱乃を、頼む」
橘一哉「え、でも、」
雀松司「いいから、頼む」
橘一哉「・・・はい」
渋々頷く一哉。
雀松司「朱乃、彼と一緒にいなさい」
雀松朱乃「イヤだ」
朱乃は兄の言葉に拒絶で応えた。
雀松司「朱乃!」
状況がまったく分からないわけでもあるまい。
雀松朱乃「私にだって分かる」
雀松朱乃「この炎の鳥は、私の力」
雀松朱乃「そして、」
朱乃は三郎を見据え、
雀松朱乃「あの人は、私たちの敵」
雀松朱乃「なら、私も戦う!」
雀松司「・・・」
司は言葉を失った。
最も起きて欲しくない事が、起きてしまった。
雀松司「朱乃、」
司は言葉を絞り出す。
雀松司「場の雰囲気に、流されるな」
雰囲気や空気。
そういったものは大事だ。
だが、場の雰囲気や空気を大事にする事と、それに流されるのは違う。
雀松司「お前は、この場の雰囲気に流されてるだけだ」
雀松司「こいつとの戦いは、我々大人に任せて、お前は逃げるんだ」
雀松朱乃「やだ!」
朱乃は頑として聞き入れない。
雀松朱乃「私も力があるのなら、私と戦う!」
雀松司「・・・」
沈黙が流れる。
炎の鳥「代行者よ、私とて無能ではない」
その沈黙を破ったのは、炎の鳥だった。
朱雀「四神の一柱・朱雀の誇りと名誉にかけて、宿主の朱乃を護ると誓おう」
炎の鳥・朱雀は、じっと司を見つめる。
雀松司「・・・わかった」
朱雀の言葉を受け、漸く司は頷いた。
雀松司「朱雀、あなたは朱乃の護衛を最優先にしてくれ」
朱雀「良かろう」
朱雀は首を縦に振り、その姿を消した。
だが、この時の、この判断が、後に司の明暗を分けることになる。


