泣かない蝉

真庭

エピソード10(脚本)

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〇屋上の入口
破月「誰かいるっぽい?」
破月「磨りガラスだから何も見えねーけど」
「・・・! ・・・!」
  確かに、扉越しに聞こえる声がある
「・・・!」
  只事ではないだろう、しかし──
憂月「まだ、意識はちゃんとあるらしいな」
  抗っているだけなのか、
  ”誘われて”いるのが本人でないだけなのか
  ──どちらにせよ、だ
憂月「・・・今際なのは変わらねぇか」
憂月「とっとと行くぞ」
破月「おう!」

〇黒
「だから・・・!」

〇フェンスに囲われた屋上
ソラ「そっちは駄目だってば・・・!」
患者の男の子「──っ」
  作業用のドアが設けられているタイプの
  落下防止柵
  その柵の手前で──
  少女が、子どもを羽交い締めにしていた
ソラ「おねがいっ まって・・・!」
  多少の身長差はあるらしいが、
  それでも幼い──それも身体に
  患いがある少女だ
  さらに幼いとはいえ
  人ひとりを抑え込むのは
  厳しいのだろう
  所々にある水溜まりで室内履きや
  靴下が汚れることも気にする余裕もなく
  必死に──
  徐々に、しかし確実に
  柵へと引きずられている
  ──そして
  茶々か、”誘って”いるのかは判らないが
???「♪︎♪︎♪︎」
  身体を揺らしながら
  その光景を見守る”悪意”──怪異が、
  そこにいた

〇フェンスに囲われた屋上
憂月「お前は怪異(アレ)を引き剥がせ 取り敢えず意識を子どもから逸らさせろ」
破月「っしゃぁ行くぜー! あらよ・・・っと!」
  その──人体なら頭部に中る──スレスレに
  投げられた短刀
???「?」
  人のようなかたち・・・ではあるが
  『まだ、辛うじて』だ
  どこに目となる器官があるのかも
  判らないが──意識は逸れたらしい
破月「しんみょーにお縄につけー!」
  自らが投げた短刀を追うように、
  馬鹿が怪異に突っ込んでいく
  それを横目に
憂月「まだ無事だったらしいな」
ソラ「・・・あ・・・」
ソラ「・・・赤い髪のおにいさん・・・」
  少女──ソラは目を伏せる
ソラ「ごめんなさい、おにいさん・・・」
  ”誘われて”いた子どもが
  糸の切れた人形のように崩れ落ちる
  それを支えながら、
  ソラも座り込んだ
  ・・・俯けば、こちらから見えるのは
  小さくまろい頭──その旋毛と、
ソラ「夢じゃない時に足音が聞こえたから、 知らないふり、できなかった・・・」
  斬首を待つように髪から覗く頚だけだ

〇フェンスに囲われた屋上
憂月「・・・」
憂月「気にすんな」
  何となく、そうだろうとは思っていた
  ──歳の割には聡明なのかも知れない
  昼間言われたこと──
  その裏、”言葉にされなかった言葉”も
  ソラは理解していたのだろう
  ──それでも、ソラには見捨てられなかった
  見て見ぬふりはできなかったのだ
  怪異──悪いオバケによる、
  新たな被害者という可能性を
憂月(やさし過ぎたんだ、お前は)
憂月「おかげで、被害者が一人減った」
  生者ながら──子ども、さらに患いがある──
  怪異から、人ひとりを救ってみせたのだ
憂月「誰にでもできることじゃねえ」
憂月「誇れ」
ソラ「・・・」
  俯いたまま、ソラは応えない
  答えあぐねているのかも知れない
  ──難儀なものだ
  だが──本当にそれだけだろうか

〇フェンスに囲われた屋上
憂月(・・・やっぱコイツ、何か知ってたな?)
  言葉にされなかった言葉を察していた──
  聡明だろう
  それでも見捨てられなかった──
  やさし過ぎたのだろう
  しかし──責任感が強いだけでは、
  乗り越えられない境界線を越えている
憂月(・・・俺から言えることじゃねえか)
  何を知っていたのだとしても──
  その隠し事が、今、
  この事態を引き起こしていたとしても
憂月(コイツは”まだ”生きてるんだしな)
  生者の選択を、生者以外は咎められない
  それに──その選択を今この時、誰より強く
  罰しているのはソラ自身だ
ソラ「・・・」
  子どもを抱いている右手の爪が、
  左腕の袖に深く食い込んでいる
  どれくらい強く食い込ませているのか
  僅かに震えてすらいるほどだ
憂月「・・・」
  傍らに屈み、その手に触れる
憂月「腕、痕になるぞ」
ソラ「・・・っ」
  見開かれた丸い瞳と、視線が交わる

〇フェンスに囲われた屋上
憂月「俺たちは生者(おまえ)を責めたりはしねえ」
憂月「俺の役目は、あそこで暴れてる馬鹿と一緒に 怪異(アレ)をあの世にしょっぴくことだ」
憂月「・・・そこに、」
憂月「お前が抱えたことも、選んだことも 何ひとつ関係することも影響することもねえよ」
  記録や怪異の状態を鑑みるに
  あの怪異の発生や被害にソラは一切関係ない
  ソラが生まれる前から
  あの怪異はこの病院にいたし、
  ソラが何を知っていたとしても、
  あるいは知らなかったとしても、
  あの怪異はソラを含めた生者を襲うのだ

  現世(うつしよ)には現世の、
  幽世(かくりよ)には幽世の理がある
  そして──
  幽世のものが現世のものに関わるのは御法度だ
  だから、生者を襲う怪異は
  然るべきところへ連行する

〇フェンスに囲われた屋上
憂月「だから」
憂月「お前も、自責はやめろ」
憂月「お前が知っていたこと、 お前が選んだことに、罪はない」
憂月「お前が抱えているもの全部・・・」
憂月「怪異(アレ)の所為にしとけ」

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