第捌拾参話 真の朱雀(脚本)
〇センター街
三郎「おや、おやおや、これはこれは」
目を細めて三郎は一点を見つめる。
そこには、
雀松朱乃「な、何かご用ですか・・・?」
司の妹、雀松朱乃の姿があった。
三郎「これはまた珍しい」
朱乃に歩み寄る三郎。
物珍しげに、ゆっくりと、三郎は朱乃へと近づく。
雀松朱乃「・・・」
朱乃もただならぬ雰囲気を感じ、三郎を見たまま、ゆっくりと後ずさる。
しかし、朱乃と三郎では歩幅が違う。
朱乃の視界に占める三郎の面積は拡がり、その影が少女を覆う。
いつの間にか三郎は朱乃の眼前に迫っていた。
三郎「朱雀は、二人いたのですか」
朱乃の瞳を覗き込もうとする三郎。
迫る見知らぬ男の顔に、朱乃は反射的に飛び退る。
三郎「・・・おや?」
三郎は何かに気づいたような顔をする。
三郎「君は、あの男とは違う」
三郎は気付いた。
三郎「君こそ、本物だ」
三郎「あの男は、偽物だったか」
〇高い屋上
橘一哉「あー・・・」
放課後。
茂昭と龍使い達は八十矛神社から学校に戻っていた。
本来は部活動の時間なのだが、一哉は屋上で黄昏ていた。
その隣には晃大がいる。
瑠美、頼子、茂昭の三人はそれぞれ部活動に行った。
この場には、一哉と晃大の二人だけ。
珍しい組み合わせだった。
珍しい、といえば、
姫野晃大「珍しいよな、お前が逃げを選ぶなんて」
一哉が敵を前に退却したのも珍しい事だった。
敵とみれば先陣を切り一番槍を付けるのが一哉の常だった。
姫野晃大「お前は戦闘狂だと思ってたよ」
目の前の相手に対して戦の構えを怠らないのが、晃大から見た一哉だった。
魔族だけではない。
林間学校で出くわした人外に対しても、それは変わらなかった。
そんな一哉だから、好戦的な性格なのかと思っていたのだが。
橘一哉「相手くらい、俺だって選ぶよ」
そうでもなかったようだ。
橘一哉「あいつ、すげえ強いもん」
姫野晃大「それは俺だって分かってるさ」
龍の力が通用しない相手など初めてだ。
光龍「油断はするなよ」
光龍が顔を出す。
光龍「奴、饕餮の三郎は未だこの町にいるのだからな」
姫野晃大「分かってるよ」
フェンスの向こう、学園の敷地の外を晃大は眺める。
この街の何処かに、あの規格外のバケモノはまだいるのだ。
橘一哉「どうも、なあ・・・」
はあ、と一哉はため息を漏らす。
橘一哉「何か違う気がする・・・」
フェンスに背中を預け、右手を見つめて握ったり開いたりを繰り返す。
武器が無ければ無手でということで新たに黒龍が用意した籠手と脛当。
無手の技術の一助になれば、と司から教わった朱雀招式。
いずれも、何か違和感がある。
使いこなせていない訳ではないが、いまいちしっくりこない。
橘一哉「何なんだろうな、一体・・・」
姫野晃大「お前の言う通りだよ」
ポツリと漏らした一哉の言葉に晃大も頷く。
姫野晃大「あの三郎ってやつ、何なんだ・・・」
本当に、訳の分からないことだらけだ。
〇道場
辰宮綾子「はあ・・・」
道場の片隅で、辰宮綾子はため息をついた。
草薙由希「あら、あんたがため息なんて珍しいわね」
隣に由希がやってきて腰を下ろす。
草薙由希「明日は雪でも降りそうね」
茶化すように由希が言うと、
辰宮綾子「バカを言うな」
睨み返す親友には覇気がない。
草薙由希「カズが居ないだけで落ち込みすぎじゃない?」
辰宮綾子「何を言う」
綾子は頭を振った。
辰宮綾子「三度の飯より剣道が好きなアイツが居ないんだ、気にもするさ」
何より、
辰宮綾子「張り合いがなくてなぁ・・・」
草薙由希「だいぶ重症ね、これは・・・」
綾子がここまで落ち込むのは初めて見たような気がする。
それだけ一哉と稽古するのが楽しみだという事なのだろう。
辰宮綾子「どこで何をしてるんだ、アイツは・・・」
〇センター街
三郎「あの男、確か、」
自分を地に組み伏せた相手の姿と名前を思い出す。
龍使いや白虎の宿主が口にしていたのは、
三郎「司、といいましたか」
雀松朱乃「あ、兄の知り合いですか?」
おずおずと口を開く朱乃。
三郎「いいえ、違いますよ」
三郎は首を横に振った。
三郎「彼が朱雀かと思いましたが、」
朱乃を頭から足元までしげしげと眺め、
三郎「あなたが、本物の朱雀のようですね」
雀松朱乃「すざく・・・?ほんもの・・・?」
何のことやら朱乃には全く分からない。
〇センター街
然程不思議なことでもないか、と三郎は思い直した。
神獣の力を借りた者など、歴史を紐解けば枚挙に暇が無い。
あの青年も、その一人にすぎないのだ。
朱雀を宿しているのは、三郎の目の前にいる少女。
あの司という青年は、その力を借り受けているだけ。
朱雀の招式と奥義を放ったことから勘違いしていたようだ。
目の前にいる少女の方が、神獣の芳醇な香りがする。
あの青年の香りも確かに朱雀の香りだったが、
三郎(この少女に比べれば、)
取って付けたような感じが強い。
手の込んだ代替物、といったところか。
三郎「・・・」
ぐうう、と一際大きく三郎の腹が鳴った。
雀松朱乃「!!」
緊迫した空気に似つかわしくない音に、朱乃の目が見開かれる。
三郎「では、お嬢さん、」
ゆらり、と三郎を取り巻く空気が歪む。
三郎「あなたを、頂くとしましょうか」
〇電器街
雀松司「!!」
虫の知らせ、とでも言えばいいのだろうか。
雀松司は得体の知れぬ危機感を感じ取った。
雀松司「朱乃!?」
真っ先に浮かんだのは、年の離れた妹の事だった。
雀松司「まさか、」
それは確信にも似た予感。
雀松司「待ってろ、今行く!」
それを感じた司は走り出していた。
〇道場
「!!」
稽古の真っ最中だった茂昭と由希も、その予感を感じ取った。
そして。
「ちょっとトイレ行ってくる!!」
全く同じ言い訳をして面と篭手を外すと道場を飛び出した。
〇高い屋上
橘一哉「・・・あ」
屋上にいた一哉も、何かを感じて街の方に目を移した。
姫野晃大「どうした?」
何事かと一哉の方を見た晃大の目の前で、
橘一哉「行ってくる」
一哉は姿を消した。
姫野晃大「行ってくるって、何処にだよ・・・」
呆れ返る晃大。
一哉のいた空間をしばし眺めていた晃大だったが、
姫野晃大「・・・帰ろ」
一人でいても何もすることがないので帰ることにした。
〇センター街
雀松朱乃「え、え、え・・・?」
朱乃は戸惑っていた。
雀松朱乃「なに、これ・・・!?」
三郎「ぬ、お、・・・っ」
朱乃の目の前には、巨大で真紅に燃え盛る炎の鳥。
その巨大な炎鳥が睨みつけるのは、全身を炎に包まれて歯を食いしばる三郎。
全身を炎に包まれたなら、その熱と苦痛で絶叫し悶え苦しむはずだ。
だが、朱乃の目の前の青年は違う。
ちょっとした痛みを堪えている程度にしか見えない。
しかも、炎に包まれているというのに、衣服も、皮膚も、髪も、焼けていかない。
更に、二人の間を分け隔てる巨大な炎の鳥。
羽毛が赤いのではなく、炎が鳥の形を取り続けている。
雀松朱乃「なんなのこれ・・・」
全くもって朱乃の理解を超えていた。
三郎「拒みますか、朱雀・・・」
声を絞り出す三郎。
???「饕餮よ、今はその姿か」
雀松朱乃「喋った!?」
朱乃の目と耳に間違いがなければ、今、炎の鳥が喋った。
炎の鳥「朱乃、貴方を死なせる訳にはいかない」
炎の鳥は朱乃に向かって語りかけ、
炎の鳥「饕餮、やはり貴様は滅ぼさねばならぬ」
三郎に向けて厳しい口調で言い放った。
〇センター街
雀松司「朱乃!!」
それを探し出すのは容易かった。
自分と同質の力を追いかければ良いだけだったのだから。
四神の太陽、火気の朱雀。
それは簡単に見つかった。
余りにも力が大きすぎたからだ。
司が用いる時とは比較にならない程に巨大な炎の力。
それを見つけ、辿り着いた時には、
雀松司「遅かったか・・・っ!!」
時既に遅し。
『それ』は既に発現し、最も見せたくない者の目の前に姿を晒していた。
〇センター街
雀松朱乃「お兄ちゃん!?」
突然の侵入者に朱乃は驚きの声を上げた。
雀松司「朱乃・・・」
悔恨の表情で妹を見る兄。
雀松司「お前には、それを見せたくなかった・・・」
雀松朱乃「それって、」
炎の鳥「来たか、代行者よ」
雀松司「当たり前だ!」
炎の鳥に向かって司は叫ぶ。
雀松司「お前を朱乃に会わせないために、俺は頑張ってきたんだ!!」
炎の鳥「だが、もはや時は一刻を争うぞ」
雀松司「分かっているさ」
雀松司「四凶の一角、今この場で討つ!!」
〇センター街
三郎「本物と偽物の揃い踏みですか」
雀松兄妹を見て三郎が呟く。
いつの間にか、彼を包む炎は消えていた。
彼自身にも、衣服にも、炎による損傷や火傷は見られない。
三郎「これは、面白くなってきましたね」
ニイ、と口角を歪めて笑う三郎。
三郎「本物と偽物、食べ比べといきましょうか」


