かいせん

たくひあい

prologue(脚本)

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〇歩道橋
  曇り空、風のびゅうびゅうと吹く日だったと思う。
  そいつ――藍鶴 色を、
  初めて見たのは。
  猫毛。白い肌、細い身体。全てのパーツが華奢な女の子みたいだ。
  それが歩道橋の上。昼間から真下の道路を見下ろしている。
  酷くやつれていたし、何かを怖がっているようでもあった。
  なんていうんだろう、
  目が離せない。
  その日実は前に居た会社をクビになった帰り道だった俺は、
  行く宛も、明日からのことも考えられないでいたのだけど、
  そんな気分で暗く俯いていた俺が、あのとき思わず振り向いてしまったくらい。
  危うい、異様な空気を纏っている。
  だから――――
界瀬「どうか、しましたか」
  つい、声を、かけてしまった。
藍鶴色「何? ナンパ?」
  彼は俺を見て、ふっと儚く笑ってから、
  別に、と橋の一部みたいにまた、橋に寄りかかっていた。
  下を通る車を、なんとなしに、無気力に眺めている。
  頼りない目をしたそいつがいつかここから落ちてしまうのではと、
  俺はなんだか気が気じゃなくて、思わずその手を握った。
界瀬「手」
藍鶴色「手?」
界瀬「ちょっと、いいですか」
  ――――俺は生まれつき、変な技術を持っている。
  その場にいながら遠くの物を見ることが出来るのだ。
  そして、いわゆる、サイコメトラーでもあった。
  触れたものの奥に残る何かを、読んでしまう。
界瀬「・・・・・・っ」

〇怪しげな部屋
  今も、手に触れた瞬間に、イメージが流れてきた。
  それは藍鶴色の記憶。
  だと思う。
  監禁され、暴行され、そして、乱暴され、あらゆるものでまみれたその記憶は
  たどるだけでも吐き気がしそうで、それに耐えてきたのだと思うと
  目の前の彼が、ここから飛び立つ資格は、充分にあるように思えた。
  ・・・・・・
  なにを言っているんだろう。
  ――そんなものに、資格なんかないのに。
  なのに、少し触れたら消えてしまいそうな、そんな気がして。
界瀬「・・・・・・お前、居場所ないのか?」
  思わず口を突いて出たのは、そんな余計な一言だった。
  そいつは、スローモーションみたいにゆっくりと振り返る。
「うん」
  そいつは、どこか楽しげに、でも寂しそうに笑った。
藍鶴色「おれ、藍鶴 色(あいづ いろ)っていうんだ」

〇歩道橋
界瀬「俺は、解瀬 絹良(かいせ きぬら)」
藍鶴色「変な名前」
  藍鶴はくすくすと笑っていて、俺は、ある事を尋ねた。
界瀬「あの、さ・・・・・・」

  今でもふと考える。
  あの日、あの瞬間から、俺たちの世界は音を立てて壊れ始めていたんだって。

〇スーパーマーケット
  一年後。

〇スーパーの店内
  色とりどりの旗が揺れ、ガラガラと回る抽選器の音が響く。
  その列の最前列。
界瀬「えーっ。もう、なんで今なの」
「『そんなこと言われても。藍鶴がいなくなったんだ。探してくれ』」
  受話器の向こうの声。
界瀬「・・・・・・またかっ」
おばさん「何々? どうしたの?」
  店員が心配そうに俺を見る。
  答えるより先に体はもう、福引きの行列に背を向けていた。
界瀬「あー、ちょっと・・・」
界瀬「すみません、通ります」
  頭を下げつつ列を逆行し、
おばさん「あ、王子様行っちゃうの?」
おばさん「仕事? 大変ねぇ」
  おばさまたちの残念そうな声を背中で受け止めながら
  俺はわざとらしく、けれど心からの熱を込めて振り返った。
界瀬「――えぇ。愛しい恋人に呼ばれたので」
  金髪をさらりと揺らし、まるで恋に焦がれる騎士のようにして颯爽と出て行く。

〇大きい交差点
  俺は界瀬絹良。
  ちょっとした世間的事情で、あちこち転々としている会社員だ。
  あの頃は若かったが、そろそろ30代に差し掛かっている。
  王子様なんて呼ばれるけれど、そんなに金があるでもなく・・・・・・
  めちゃくちゃ庶民として暮らしている。
界瀬(何故か、追手は居るけどな)
  コソコソ隠れて、細々と暮らして、老後まで持つのか?
  ってのが最近の悩みなんだけど・・・・・・まぁ、焦っていても仕方ない。
  まず、目の前の仕事だ。
界瀬「ちゃちゃっと探して戻りますか」

〇大きい交差点
  スーパーから出ると、塀を登り、どこかのお宅の屋根に勝手によじのぼる。
界瀬「よっし」
  捜索、開始。
  目を閉じて一心に念じる。
  しばらく脳裏に浮かんでいた暗闇が、
  集中と共に、具体的に辺りの風景に切り替わり――――

〇古いアパートの一室
界瀬「視えた」

〇古いアパート
界瀬「と押しても、居留守の常連の奴のこと。 どうせ出てくれないんだよなぁ」
  ・・・・・・俺の自宅。
  映ったのは案の定、そこだった。
界瀬「たっだいまー」
  もう慣れた手つきで鍵を開け、中に入る。
  幸い、チェーンはかかっていない。
  ひんやりとした空気が流れる2LDKの廊下を抜け、
  少し重たくなった襖をそっと開けた。
「あーいーづーくん、見っけ」
  そこには、予感通りの愛しい姿があった。

〇古いアパートの一室
  女の子みたいに華奢な肩、透き通るような白い肌。
  此方に背を向けていても分かる藍鶴色の姿。
  何か面白いのか、ケタケタと笑い続けている。
  ――――そして、その足下では
  、俺の「ロボ君一号」のプラモデル(1/50スケール)がバラバラに解体されていた
界瀬「(・・・・・・あーあ)」
  この具合は。
  相当酷い案件に当たったようだ。
  未だ熱心に分解を続ける背中も、それを物語っている。
界瀬「確保」
  彼の背に肩から覆い被さってみた。
  彼は、拒絶も受け入れもせず
藍鶴色「・・・・・・かいせ」
  視線すらこちらに向けず、感情の削げ落ちた声で俺の名を呼んだ。
藍鶴色「おかえり」
  後ろから腕を回せば、驚くほど簡単に収まってしまう細い体躯。
界瀬「うん。ただいま」
  ぎゅっと力を込めると、彼の疲れ切った体温がゆっくりと俺に溶け出してくる。
界瀬(落ち着く。ペットの腹に顔を埋める人の心境だ)
  ずっとこうしていたい。
  もはや何の為に帰宅したのかすらどうでもいい。
  眠り――――
藍鶴色「あの・・・・・・」
界瀬「んー?」
藍鶴色「俺、まだシャワー浴びたりしてない」
  あ、
  そうだった。
界瀬「俺はさ、呼びに来たんだよ。仕事だ」

〇地球
  ――――この世界には、超能力者が居る事を知っているだろうか。
  彼らは今も存在し、その情報は『Xファイル』に機密として隠され、
  まるで表向き存在しないかのように、他言無用でひっそりと管理されている。
  やがて、その機密の中でしか生きられないはぐれ者達は、隠蔽工作にも負けず、
  自分たちの価値を自ら定め貫くべく、
  職務として集まるようになった。
  例えば地方警察に試験的・秘密裏に設置された特異能力科という部署。
  この世界に稀に存在する超能力や霊能を主とした
  特異体質・技能を持った人たちの寄せ集め。
界瀬「俺もその一人」
  心を読む能力と、千里眼という心の目を持っている。
  さっきだって脳裏に浮かぶ風景を足し算して、居場所を割り出していて・・・・・・
  色を見つけたのはそういう力によるものだ。
界瀬「ま、生まれつき。天性の才ってやつかな。 な―んて」

〇大きい交差点
  あの日行く当てを失っていた俺の能力を、色が視止め、
  推薦してくれたのが今居る会社である。

〇古いアパートの一室
藍鶴色「緊急の仕事は無かったと思うけど?」
  その色は今、形の良い眉をひそめ、不満げに俺を見上げていた。
  その瞳には、隠しきれない落胆と、独占欲の混じった熱い色が滲んでいて
  ちょっとドキドキする。
界瀬「いやー、なんか急に話があるっぽい」
藍鶴色「ふうん」
藍鶴色「なにそれ。仁郎さんが言ってたの?」
界瀬「所長、な」
  特異能力科、特殊未解決事件対策本部・事務所所長、英賀仁郎。
  よく連絡を寄越す癖に普段は事務所に居ないので、何をしてるか不明だ。
界瀬「いや、実は指示はもっと上――――」
界瀬「あ」
界瀬「はい、居ました。わかりました・・・・・・少ししたら、そっち戻りま・・・・・・」
  報告を終えようとした瞬間、視界が色の端正な顔立ちで埋まり、強引に唇をふさがれた。
界瀬「・・・・・・」
  脳が痺れるような刺激に、肩が大きく跳ねる。
  どうにか顔を離し、
界瀬「色、ちょっと、落ち着いて・・・・・・」
  と喘ぎながら懇願すると、彼は満足そうに笑った。
藍鶴色「落ち着いてるよ」
藍鶴色「他人の匂いもしないし。嘘じゃないみたいだね」
界瀬「なっ」
藍鶴色「もう、戻るんでしょ」
界瀬「あ、うん・・・・・・」
藍鶴色「シャワー浴びて来るね」

〇白いバスルーム
  そして服を脱ぎ、
  シャワーを浴びに行ってしまった。
界瀬「なんだ、行く気あるんじゃん」
藍鶴色「でも。どのみち今やってるの、沼だからなー。どうしようかな」
界瀬「沼かぁ。受け持ちだろ?」
藍鶴色「というか・・・・・・上手く言えないや」
  沼、というのは業界用語で底無しな、いつまでも続く案件のことを指す。
  多分賭博漫画とかからの引用なのだろうけど・・・・・・
界瀬「前も変なの引き受けてたような・・・・・・」
  聞いてみると色は苦く笑った。
藍鶴色「警察学校とか行ってないし、妬まれてるのかも」
界瀬「あー、体力測定とかも無いしなぁ」
藍鶴色「あ。バスタオル置いといて」
界瀬「はいはい」
  俺はしぶしぶバスタオルを浴室に置きに行こうとして、
界瀬「っー!」
  何かを踏んだ。
  足元――無惨にバラバラになったプラモデルがある。
  パーツの一つ一つが、まるで時間を巻き戻したかのように、
  ランナーから切り離された直後のような状態で並んでいる。
界瀬「そういえば、昨日、確かにロボ君が組みあがっていたと思うんだけど」
  朝から今までの時間に何が?
藍鶴色「もう一度、遊べる」
界瀬「達人じゃないんだから・・・・・・」
  無言。水音が聞こえる。
  うーん。
  少しでも心を満たしたくて、恋人になったけれど・・・・・・
  今も変わらず色はあの頃のままだ。
  もしや「完成」も「達成感」も、彼の宇宙には存在しないのだろうか。
  作っては崩し、作っては崩し、
  一種の芸術性すら感じるそれは
  永遠にそこに留まることを強いられ、
  自立の出来ないまま延長をされ続けるみたいで、胸が苦しくなる。
界瀬「おい、片付けるぞ?」
藍鶴色「えー」
界瀬「えーじゃありません」
  なんて言っていると
  シャワーの音が止む。
界瀬「あのさ・・・・・・わかるよ、言いたいこと」
  カーテン越しに、色の細い脚が見える。
  『――――どうして、いつも、外に出れないのに他人の為に使わなくちゃならいの』
  特異能力。
  特別に、特殊に異端な能力。
  多くの人が『他に代わりが居ないから』俺達を頼る。
  本来、多くの人が使うべきでない力。
  なのに・・・・・・
界瀬「「でもどうしても叶えたい事があって、どうしても自分を信じてやりたいから」
界瀬「どんな目で見られても此処に居るんじゃないか」」

〇水たまり
  色は予知能力者だ。
  元々、それが運命だったなら、捻じ曲げるなんておかしいじゃないかという気持ち、
  怒り、矛盾を抱えている事だって数えきれない。
  5歳の時既に自分自身の事ですら大事な物全てを手放し続けるように教育され、
  執着を捨てるように囲われ続けてきた彼だからこそ、
  これまで自分の捨てた、奪ってまで捨てるようにされ続けてきた
  『くだらない拘り』に時間を割かなければならない
  その苦痛すら抑え込んで、依頼だからという名目、定義を守っている。

〇白いバスルーム
藍鶴色「界瀬は俺の大事なものを否定しないから、そのままで居てもいいから好き」
  カーテンを開けた色が微笑む。泣きそうで、笑っている。
  儚いその笑顔に胸が締め付けられる。
藍鶴色「未来が、俺にあるって」
界瀬「あぁ、そうだよ。だから――――」
界瀬「力を認められる地位を築くんだ。能力者の居場所を守る。だろ?」
藍鶴色「うん」
  「俺達が、やらなきゃ」
  色はやっと少し元気を取り戻して、窓の外を見つめる。
  「でも、俺にはわかる。今日はトンネルで、ココアの粉塵爆発が起こる日なんだ」
  「どこの工作員だ」

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