第捌拾壱話 代行者(脚本)
〇古びた神社
雀松司「どうにか逃げ切れたかな・・・」
橘一哉「ここなら、大抵の魔族からはやり過ごせるはずです」
司たちが縮地で移動した先は、
穂村瑠美「確かに、ここなら森が深いから隠れるにはうってつけだけど・・・」
竹村茂昭「神社で本当に大丈夫なのか?」
八十矛神社だった。
姫野晃大「カズが大丈夫だって言うなら、大丈夫だろ」
一哉は龍使いで一番の古参である。
魔族との戦いが日常に染み込んでいる彼が言うのならば間違いはない。
それだけは晃大も確信していた。
それに、龍脈を開いた時に行き先を細かく考えている暇はなかった。
ただ、あの場から遠ざかり、安全な所へ行く。
それだけを考えて辿り着いたのが、この八十矛の杜であった。
梶間頼子「ここに『引き寄せられた』と思って、信じるしかないね」
頼子の言う通りでもあった。
今はただ、あの強大な魔族の嗅覚から逃れる事が出来ると信じるしかない。
???「あら、いらっしゃい」
そこへ、聞き慣れたあの声がした。
〇古びた神社
姫野晃大「美鈴さん!」
ここ八十矛神社の管理人、佐伯美鈴だ。
佐伯美鈴「また遊びに来てくれたの?」
一同を見回す美鈴だったが、
佐伯美鈴「まだ授業がある時間じゃなかったっけ?」
その一言で学生たちの顔色が一変する。
穂村瑠美「そういえば、そうだったわ・・・」
梶間頼子「ヤバいかな・・・」
竹村茂昭「なんで学校に戻ろうとしなかったんだよ!?」
橘一哉「仕方ないだろ、無我夢中だったんだから」
顔を突き合わせて学生たちがヒソヒソと話し合う中、
雀松司「あなたは?」
佐伯美鈴「ここの管理を任されている、佐伯美鈴と申します」
大人二人は暢気に自己紹介をしていた。
佐伯美鈴「見たところ、あまり体調が良くなさそうですわね」
雀松司「いえ、お気になさらず」
雀松司(・・・意外と鋭いな)
美鈴の視線が気になるが、司は努めて平静を装う。
雀松司(消耗が激しかったのは事実だが、)
だからといって不調に陥っているのを悟られる訳にはいかない。
佐伯美鈴「ごゆっくりしていってくださいな」
美鈴は司にニコリと微笑み、
佐伯美鈴「学生諸君は早く学校に戻りなさいね」
ぽんと一哉の背を叩くと戻って行った。
〇古びた神社
雀松司「橘くん、君は彼女と親しいのか?」
司は一哉に訊ねた。
橘一哉「わかりますか?」
雀松司「ああ」
頷く司。
美鈴は軽く一哉の背中を叩いただけだが、それができるだけの気安い間柄。
性差と年齢差を考えても、二人が近しい間柄にあるのは司にも見て取れた。
橘一哉「あの人、俺の又従姉なんですよ」
親戚関係にあること。
幼い頃から、それこそ生まれた時から面倒を見てもらっていること。
美鈴との関係を簡単に話すと、
雀松司「そういうことか」
司は納得した。
雀松司「随分目をかけられているんだな」
梶間頼子「そうなんですよ」
そこへ頼子も話に加わってきた。
梶間頼子「この二人、姉弟のような親子のような、面白い関係なんです」
昔から知っているかのような口ぶりで話す頼子。
今は玲奈がいない分、頼子がその代役を果たしている。
梶間頼子(玲奈だったら、)
もっと面白い話ができただろうにな、と思う。
一哉と玲奈は家が隣同士で親同士も仲が良い。
それこそ二人揃って美鈴の世話になってきたはずなのだ。
頼子が二人と知り合うのは、小学校に入ってからの話。
その数年の違いは、大きい。
頼子が知らない一哉を、玲奈と美鈴は知っているのだ。
そんな鬱憤を晴らすかのように、頼子は一哉と美鈴のエピソードを語り続けた。
〇古びた神社
雀松司「さて、これからどうするかだが、」
言いかけて、
雀松司「っ!!」
司は顔を苦悶に歪める。
竹村茂昭「司さん!?」
雀松司「いや、大丈夫だ」
膝から崩れ落ちそうになるのを堪え、近寄ろうとした茂昭を制止する。
雀松司「力を使いすぎただけだ」
竹村茂昭「何言ってるんですか司さん!」
制止を無視して茂昭は司に駆け寄った。
竹村茂昭「それだけで、こんなになる訳が無いでしょう!!」
橘一哉「その通りです、司さん」
茂昭の言葉に一哉も頷く。
竹村茂昭「なんで、」
竹村茂昭「血塗れになってるんです!?」
〇道場
草薙由希「カズが消えたぁ!?」
あまりにも突拍子も無い話だった。
辰宮玲奈「カズだけじゃないの」
辰宮玲奈「頼ちゃんと、瑠美と、姫野くんもいなくなっちゃったの」
いなくなった人物の組み合わせは微妙だ。
コンビ二組といったところか。
草薙由希「どうせ結界の設定ミスでもしたんでしょ」
辰宮玲奈「そうかなぁ・・・」
由希の言葉に懐疑的な玲奈。
由希も何気なく適当に言っただけだった。
だが、正にその通りというのが事実の小説より奇なるところである。
辰宮玲奈「昼休みに屋上に行ったのは知ってるんだけど・・・」
その後の消息が分からないらしい。
昼休みが終わっても戻って来ず、午後の授業は全て欠席。
そして今。
放課後になり、玲奈は武道場で由希に四人の消失事件の報告をしている。
草薙由希「まあ、そのうち帰ってくるわよ」
由希は玲奈に笑顔で語り掛けた。
草薙由希「カズは必ず戻ってくるし、それなら頼ちゃんも多分一緒のはずよ」
玲奈と一哉はいつも一緒だ。
離れてしまうことがあっても、必ず一哉は玲奈と由希の所に戻ってくる。
妙な胸騒ぎや嫌な予感もしない。
無事に帰ってくるはずだ。
由希には確信があった。
辰宮玲奈「だといいんだけど・・・」
はあ、と溜息をつく玲奈。
それは、心配というよりも急に行方を眩ました事への呆れの意味合いの方が強かった。
〇古びた神社
竹村茂昭「これで無事なわけがないでしょう!!」
語気強く言い放ちつつ、茂昭は司の体をささえる。
その司の服には無数の赤黒い染みができていた。
袖口からは血が滴り落ちている。
橘一哉「一体何がどうなってんです!?」
司は三郎との戦いで傷を負っていない。
なのに出血しているというのは、一体どういう事なのか。
知らないうちに無数の攻撃を受けていたとでもいうのか。
竹村茂昭「とにかく、手当てをしますから!」
茂昭は司の服を無理矢理脱がしていく。
そして茂昭たちが目にしたのは、
「!!」
あのさぶろうのように、全身を覆う紋様。
その紋様から、止め処なく血が流れていた。
雀松司「いつもなら、根性で止めて血の跡も朱雀の炎で消滅させているんだが、」
司は大きく息を吐いた。
今は意識を保つのが精一杯らしい。
雀松司「・・・俺も、そろそろ限界かもしれないな」
ポツリと司が呟いた。
竹村茂昭「限界?」
橘一哉「何言ってるんですか」
司はまだまだ若い。
むしろ今が最盛期かもしれない。
限界には程遠いはずだ。
雀松司「代行者としての、限界かもしれない」
竹村茂昭「?」
今一意味がわからなかった。
竹村茂昭「四神の使い手に、限界なんてあるんですか?」
四神の力を使って、身体が限界を迎えたことは無い。
限界など存在せず、無限に心身が高まり続けるのを感じている。
限りなく活性化はしても、それで自身が傷付くのは感じたことが無い。
雀松司「言っただろ」
雀松司「俺は四神の『使い手』じゃ無い」
雀松司「『代行者』なんだよ」
〇古びた神社
雀松司の戦歴は長い。
龍使いたちと同じく、十代の頃に四神の力に目覚めた。
それは、
〇ベビーベッドの置かれた部屋
〇古びた神社
妹の朱乃の誕生と同時だった。
雀松司「朱乃は、生まれた時から不思議な出来事に見舞われ続けた」
雀松司「そんなあの子を、どうにかして護りたい」
雀松司「そう思った時に、聞こえたんだ」
ならば、暫しの間お前に守ってもらうことにしよう
雀松司「誰かは分からないけどな」
雀松司「それからだったよ、俺が朱雀の力を使えるようになったのは」
竹村茂昭「なら、司さんが朱雀の使い手じゃないんですか?」
雀松司「・・・違うんだ」
司は首を横に振った。
雀松司「違うんだよ」
雀松司「俺は、ただの代理人に過ぎない」
本当の朱雀の使い手は、
雀松司「俺の妹、朱乃だ」


