第捌拾話 撤退(脚本)
〇見晴らしのいい公園
雀松司(見えたきたぞ)
何度も攻撃を繰り出し、分かったことがある。
雀松司(この姿、こいつの真の姿ではない)
〇見晴らしのいい公園
饕餮の力を操る、三郎と名乗る青年。
この姿は、
雀松司(まやかしだ)
その正体、本体は別。
雀松司(この人間の姿は実体ではない)
人間の姿に見えるそれは、幻。
彼の本当の姿は、
雀松司(あの紋様こそが、本隊にして実体だ)
三郎の様々な箇所に攻撃を当てて、漸く理解した。
司の攻撃に確かな手応えがあったのは、紋様の部分のみ。
素肌の部分は薄皮一枚だけで、その下にあるべきものの手応えが無い。
つまり、
雀松司(あの紋様を焼き尽くせば、奴は倒せる!)
幸いにも、紋様は三郎の全身をびっしりと覆っている。
当てる場所には事欠かない。
雀松司「片っ端から焼き尽くしてやるぞ、饕餮!」
〇見晴らしのいい公園
橘一哉(・・・お?)
司の様子が変わったことに、一哉も気が付いた。
橘一哉(攻め方が変わったな)
攻め手に迷いが無い。
何かを確信したのだろう。
それが何かを掴めれば、助太刀ができるかもしれない。
橘一哉(何が見えたんだろ)
竹村茂昭「なあ、カズ」
それは茂昭も同じだったようで、
竹村茂昭「司さん、何か変わったな」
彼も四神の先輩の変化に気が付いたのか、一哉に声を掛けてきた。
橘一哉「シゲちゃんもそう思う?」
竹村茂昭「ああ」
茂昭は頷く。
竹村茂昭「司さんは、何かを狙ってるみたいだ」
橘一哉「だよな、やっぱり」
穂村瑠美「明らかに何かに狙いを定めてるよね」
人の意図や行動は、まず目つきに現れる
。
〇見晴らしのいい公園
その司の目線は、しっかりと何かを見据えていた。
そして、
三郎「攻撃が鋭くなってきましたね」
三郎「本気、というわけですか」
彼と直に相対する三郎は、その変化を誰よりも感じ取っていた。
雀松司「その余裕、いつまで続くかな!」
鋭い蹴りを繰り出す司。
三郎「!!」
二人の間に、パッと赤い飛沫が散った。
三郎の目が驚きに見開かれ、よろけながら数歩後ずさる。
雀松司「余裕と油断は紙一重、だぞ」
司は追撃をしなかった。
残心をとり、三郎を見据える。
三郎「・・・やりますね」
変わらぬ笑顔。
しかし、その声音は一段低くなっていた。
三郎「傷を負わされるなんて、何千年ぶりでしょうか」
口調も丁寧なままだが、
三郎「代償は、高くつきますよ」
その眼は笑っていなかった。
雀松司「朱雀の代行者が相手だということ、忘れてもらっては困る」
〇見晴らしのいい公園
梶間頼子「すごい」
二重の意味で頼子は驚いた。
梶間頼子「あの三郎に傷を付けた・・・」
それは、三郎がこの戦いで初めて手傷を負ったという事。
そしてもう一つ。
梶間頼子「素手でも傷、付けられるんだ・・・」
素手の攻撃でも、創傷を与えられるという事。
素手の攻撃は鈍器と同じ打撃である。
内出血の痣を作ったり骨折をさせる事はできても、切傷は珍しい。
姫野晃大「それよりも、すげえよ、司さん!」
姫野晃大「俺達じゃアイツに傷一つ付かなかったもんな!」
梶間頼子「コウ、あんた、」
穂村瑠美「だいぶ変わったわね、アンタ」
頼子が言いたかったことを瑠美が代弁した。
姫野晃大「へ?」
晃大が怪訝な顔をすると、
穂村瑠美「たとえ誰であっても、コウは人が傷付くのを喜ぶ人間じゃなかったよ」
姫野晃大「・・・」
瑠美の悲しそうな顔に、晃大は押し黙ってしまった。
穂村瑠美「別に、悪いわけじゃないけどさ、」
相手は只の人間ではない。
全員が薄々感じ取ってはいるが、三郎は人ならざるもの。
人外の化け物である。
しかも、明確にこちらを狙っている敵である。
黙って座していては、此方がやられてしまう状況でもある。
敵にダメージを与えることが出来たのは、喜ばしい事態ではあるのだが。
橘一哉「なんやかんやでコウちゃんもこちら側に染まってきましたなぁ」
一哉の言う通りである。
初めの内こそ戦いに消極的な晃大だったが、少しずつ、状況に慣れてきていた。
〇見晴らしのいい公園
雀松司「饕餮の三郎」
雀松司「貴様の正体は見切った」
雀松司「ケリをつける!!」
三郎「やってみてくださいな」
三郎は強い。
強すぎて、四神招式のような『型』を用いる必要が無い。
力を効率的に用いる『型』に頼る必要性が無いのだ。
只々、目一杯に。
渾身の力をぶつけるだけ。
それだけで充分な程の力に恵まれている。
武力ではなく、暴力。
それだけで龍使いすら圧倒し、四神の使い手にも有利に戦いを展開できる。
緻密な型や戦略・戦術。
それらと無縁な彼のやり方が、今回は徒となった。
雀松司「いくぞ!!」
鳥類の動きを模した四神の武術、『朱雀招式』。
そのあらゆる技が、三郎に襲い掛かる。
最短、最小限、最大効率。
蹴りが、掌が、貫手が、次々と三郎に繰り出される。
三郎「っ・・・!」
防御一辺倒を強いられる三郎の顔に、苦悶が浮かぶ。
〇見晴らしのいい公園
三郎(これほどとは・・・!)
朱雀である。
四神の一角である。
己を遠方に放逐した主犯の一柱である。
強いのは分かっていた。
しかし、単体でここまで自分を圧倒してくるのは予想外だった。
と、その時。
???「そろそろ潮時か」
三郎「!?」
三郎の心身全体に響き渡るような声。
???「貴様の役割も、ここで終わりだな」
三郎「何者です!?」
三郎が思わず問いかける。
だが、その声は眼前の司には聞こえていないようだ。
司は攻撃の手を緩めない。
???「そろそろ、貴様には消えてもらう」
三郎「っ!!」
雀松司「!!」
三郎の変調を感じ取った司は攻撃の手を止めた。
三郎「っ!!」
〇見晴らしのいい公園
三郎「何者です、あなたは・・・」
全身の紋様の疼きに堪えつつ、三郎は口を開いた。
???「我は汝なり」
『何か』は答える。
???「仮初の名を捨てよ」
???「汝は三郎に非ず」
???「思い起こせ」
???「汝の真なる名は」
三郎「私の、真の、名・・・」
???「汝の真なる名は、」
饕 餮
〇見晴らしのいい公園
雀松司「何だ!?」
三郎の雰囲気が一変した。
三郎「そう、です」
その眼は不気味な程に澄み渡り、落ち着いている。
全てを飲み込み溶かし尽くすような、見る者の不安と恐怖を掻き立てる瞳。
三郎「私は、饕餮」
雀松司「何を今更、」
それは分かりきっていた事だ。
だが、
雀松司「!!」
三郎こと饕餮の纏う雰囲気、放つオーラは、それまでと一変していた。
雀松司(まずい)
司の勘が告げている。
これは非常に不味い状況だ。
司に備わる『朱雀眼』。
状況を見通す朱雀の眼力が、ある変化を感知した。
三郎「まずは貴方を潰しましょう、偽朱雀」
剣の切っ先を司に突き付ける三郎。
その剣に、紋様が伸びて絡みついていく。
それ自体も異常だったが、
雀松司(こいつ、なぜそれを!?)
三郎の言葉に司は衝撃を受けた。
誰にも明かしていないはずの事を、何故彼が知っているのか。
三郎「さあ、捌いてあげましょう」
雀松司(速い!)
瞬時に間合を詰めてきた。
思わず、
雀松司「おおっ!!」
全力の朱雀劫炎翔。
三郎「!!」
巨大な炎の壁が三郎の前に立ちはだかる。
三郎「これは・・・!」
熱い。
そして厚い。
余りの熱気に三郎は反射的に後方へ飛び退く。
その向こう側の敵手を見ようとしても、炎が分厚すぎて向こう側が全く見えない。
影すらも見えない。
「皆、にげるぞ!!」
その向こう側で、退却を促す司の声だけが聞こえた。
そして暫くして炎の壁が消えた時、
三郎「・・・逃げられました、か」
そこには三郎一人だけが残されていた。
司も、一哉も、晃大も、瑠美も、頼子も、茂昭も、姿を消していた。
三郎「まあ、いいでしょう」
三郎「次に遭った時は、纏めて喰らい尽くすまで」
そう言い残して三郎はスッと姿を消した。
〇見晴らしのいい公園
雀松司「くっ・・・!」
三郎の危険な変化、咄嗟の反応で繰り出した朱雀劫炎翔。
熱く燃え盛る分厚い炎の壁を前に、司はガクリと膝を着いた。
竹村茂昭「司さん!?」
思わず駆け寄る茂昭。
雀松司「心配ない、大丈夫だ」
茂昭を制止してゆっくり立ち上がる司。
姫野晃大「ホントに大丈夫ですか?」
晃大も歩み寄る。
司と三郎の戦いが一旦中断されたのは、誰の目にも明らかだった。
その証拠は、今、司の目の前にある。
そして、苦悶の顔で膝を着いた司の姿。
雀松司「皆、ここから逃げるぞ」
「!?」
「!?」
司の口から出た言葉に、一同は驚いた。
雀松司「作戦は失敗した」
すまない、と司は頭を下げ、
雀松司「奴はまだ力を隠していた」
このままでは勝てない
雀松司「この炎の壁が消える前に、逃げるぞ」
橘一哉「・・・分かりました」
姫野晃大「え!?」
晃大は驚いた。
戦いに最も積極的だと思っていた一哉が、真っ先に頷いたのだ。
穂村瑠美「私がこの炎の壁を補強するわ」
それで多少なりとも稼げる時間は増えるはず。
穂村瑠美「その間に縮地使って逃げましょう」
梶間頼子「合点!」
竹村茂昭「でも、追いかけてきたらどうするんだよ!?」
雀松司「それなら大丈夫だ」
雀松司「奴がこちらを捕捉する前に遠くに行く」
竹村茂昭「でも、」
さらに食い下がる茂昭に、
姫野晃大「あのカズも逃げるっつてんだ、早く行くぞ!!」
晃大がその手を掴む。
竹村茂昭「おい!?」
いきなり手を掴まれて動揺する茂昭に構わず、晃大は地脈を開いて足を乗せたた。
姫野晃大「おっひゃあ!?」
素っ頓狂な声と共に晃大は姿を消し、
竹村茂昭「おわあ!?」
次の瞬間には茂昭も姿を消し、
雀松司「よし、行くか」
全員が一瞬でその場から姿を消していた。


