第漆拾捌話 朱雀対饕餮(脚本)
〇見晴らしのいい公園
雀松司「橘くん、よく見ておけ!」
雀松司「これが翼の闘技、羽類の皇・朱雀の闘技だ!」
炎気を纏わせた右の貫手を繰り出す司。
三郎「おっと」
しかし、直線的な動きは簡単に見切られて躱された。
貫手を繰り出し半身となった司の背後に回り込もうとする三郎だったが、
雀松司「はあっ!!」
体を大きく左に回しつつ、司は左手を大きく横に振った。
三郎「!!」
そのまま後ろを向く形になった司。
その左腕は柔軟に振り抜かれ、三郎の左腕を直撃した。
三郎「っっ!!」
左上腕を押さえて数歩退く三郎。
雀松司「四神を舐めるなよ」
雀松司「貴様ら四凶を遠ざけるだけの力を持っているのだからな」
姫野晃大「四凶?」
雀松司「そうか、君たちは知らなかったな」
雀松司「この三郎こと饕餮を含めた、凶悪な存在だ」
〇地球
青龍・白虎・朱雀・玄武による守護結界。
人類に徒為す存在から人類を守るために張り巡らされた守り。
その真の目的は、ある存在たちが人間社会に入り込むのを防ぐことにあった。
即ち、
窮奇。
渾沌。
饕餮。
檮杌。
俗に『四凶』と呼ばれる者たちである。
〇見晴らしのいい公園
雀松司「そいつらは、各々性質が並外れていてね」
雀松司「彼らは存在するだけで人類社会を脅かすほどの連中だった」
雀松司「例えば、」
司は三郎を指差し、
雀松司「こいつ、饕餮の悪しき性は、貪欲」
雀松司「あらゆるものを喰らい尽くす」
三郎「空腹を満たすことの何が悪いのです?」
雀松司「ならば聞こう」
雀松司「その空腹、満たされたことはあるのか?」
司の問いに、三郎の顔から笑顔が消えた。
雀松司「貴様は貪毒の化身」
雀松司「放っておけば、森羅万象を有象無象の区別なく食い尽くしてしまうだろう」
三郎「ならば、私にどうしろというのです?」
問いながらも、三郎の瞳に迷いはない。
誰に何を言われても、その行動を曲げることは無いのだ。
当然、司の答えも決まっている。
雀松司「今ここで、退ける」
〇見晴らしのいい公園
雀松司「穂村さん、」
穂村瑠美「はい」
雀松司「君の赤龍は、属性が炎だったな」
穂村瑠美「そうです」
雀松司「種族こそ違うが、俺の朱雀も属性は同じ炎だ」
雀松司「俺の戦い方、君のヒントになるかもしれない」
穂村瑠美「よく見ておきます」
三郎「遺言は、それで終わりですか?」
雀松司「遺言ではないよ」
司は首を横に振り、
雀松司「これは、同じ神獣使いの先達としてのアドバイスだ」
火の粉が舞い、気温が少し上がったように感じられる。
雀松司「ここで、お前の力を削ぎ落とす」
三郎「倒す、ではないのですね」
雀松司「倒すために、削ぎ落とすんだよ!」
両手首を丹田の前で交差させ、司は三郎へと間合を詰める。
〇見晴らしのいい公園
三郎「面白い構えですね、ですが、」
三郎は右の手を前に突き出す。
がら空きの頭を鷲掴もうとしたのだが、
雀松司「せいっ!」
左右に開かれた司の両腕。
同時に炎の壁が生まれ、三郎の手が弾かれる。
そして、
雀松司「はっ!!」
更に一歩踏み込みながら、開かれた左右の腕を打ち合わせる。
それを三郎は紙一重でかわすが、
目標に当たらなかった両手は打ち合わされ、パアンと見事な音を立てる柏手となり、
爆ぜた。
が、
三郎「これは驚きましたよ」
熱も、爆風も、三郎に傷一つ負わせることはできていなかった。
三郎「こんな芸当もできるのですね、すごいです」
雀松司「こっちも、炎気の使い方は実戦込みで研究してるんでな」
三郎「ますます、喰らいたくなってきましたよ」
口角を上げる三郎。
自然と唇が開いて歯列を覗かせる様は、まるで獣が牙をむき出すようで。
雀松司「お前が食い切れるほど、朱雀の力は小さくはないぞ」
対する司も、気迫を漲らせて言葉を返す。
〇見晴らしのいい公園
三郎「さあ、もっと見せてください!」
全身の紋様を光らせ、今度は三郎が間合を詰める。
格闘技の基本などあったものではない。
力任せ、勢い任せに腕を突き出すだけ。
あるのは、『目の前の獲物を捉える』という意思のみ。
単一ゆえに純粋で強靭な意思は、その身体に確かな力を満たして司に迫る。
雀松司「ふん!」
三郎「うお!」
その手を司は蹴り上げた。
蹴り上げた、はずだった。
しかし、伸びた三郎の手は弾かれることはなかった。
ただ、三郎の動きを止めたのみ。
だが、司の動きは止まらない。
司の蹴り足が三郎の伸ばした手と交わった一瞬。
蹴り出した足を戻しながら軸足を振り上げ、
雀松司「せっ!!」
跳び蹴り。
最初に蹴った足を三郎の手に絡めて落としながらの跳び回し蹴り。
それは三郎の鼻先を掠め、
三郎「っ!?」
初めて三郎の顔に動揺が浮かぶ。
〇見晴らしのいい公園
姫野晃大「すげえ・・・」
竹村茂昭「司さんが、マウントを取った・・・」
正確には三郎を地に倒しただけだ。
馬乗りの体勢にはなっていない。
だが、それは晃大たちからすれば充分な快挙だった。
穂村瑠美「これが、朱雀の闘技・・・」
瑠美には見えていた。
穂村瑠美「常に炎を纏っている・・・」
はっきりと目に見える形ではない。
だが、全身を常に覆う炎の力が、瑠美の目には見えていた。
それは、炎と言うよりも熱。
熱の鎧を身に纏い、三郎の反応を狂わせているのだ。
〇見晴らしのいい公園
雀松司(炎雀之法、効果はあるようだな)
全身に炎気を纏う朱雀の闘技『炎雀之法』。
その熱を以て我が身を覆う攻防一体の鎧と為す秘技。
確かに効果はある。
饕餮に、効いている。
雀松司(このまま押し切る!)
〇見晴らしのいい公園
腕を足を絡め取られ、司の体重と重力で引き倒される形となった三郎。
三郎「なんと、」
抜け出そうとするが、
三郎「!!」
手を踏みつけられており、抜け出せる気配がない。
三郎(靴越しで、この力・・・!!)
司の足の指が、三郎の手をしっかりと掴んでいるのが分かる。
雀松司「くらえ!!」
その脳天目掛けて司は貫手を繰り出す。
三郎「!!」
三郎は一瞬驚いた顔をしたが、
雀松司「!!」
続けて司の顔も驚愕に彩られた。
三郎「ふう、危ない危ない」
安堵のため息をつく三郎。
その額には司の貫手が確かに命中しているのだが、
雀松司「何・・・!?」
その司は信じられないものを見たという顔をしている。
雀松司「額に顔だと・・・!?」
・・・そう。
何もなかったはずの額に、顔が出現していた。
顔、といっても紋様ではあるのだが、
雀松司「いつの間に・・・!?」
その額に表れた顔の紋様の口の部分に、司の貫手が当たっている。
三郎「間一髪で食い止められましたが、」
三郎「熱い、ですねえ」
空いている左手を動かして司の貫手を掴みにかかる三郎だったが、
雀松司「ちぃっ!」
それよりも早く司は三郎から離れて距離を空けた。
〇見晴らしのいい公園
梶間頼子「紋様、動いたよね」
我が目を疑い隣の一哉に確認を取ると、
橘一哉「つうか、動きっぱなしだけどね」
もっととんでもない答えが返ってきた。
梶間頼子「マジで?」
確認のために重ねて問うと、
橘一哉「マジマジ」
一哉は頷いた。
橘一哉「なんかさ、」
三郎の様々な挙動に合わせて動いているらしい。
梶間頼子「見間違いとかじゃないよね?」
橘一哉「あれを見間違いと言うには、多分無理があるなぁ」
橘一哉(で、どっちがどっちなんだろうね)
一哉の目には、紋様が三郎を動かしているようにも見えた。
三郎が力を発揮する事で紋様が蠢くのではなく、その逆。
紋様が動き、三郎を操っているのではないか。
だからこそ、紋様が位置自体を変え、胸にあった顔が額に動いたのではないか。
橘一哉(まさかねぇ)
ありえない話ではないが、本人に確認しない限りは推測の域を出ない。
橘一哉(聞ける雰囲気じゃ、なさそうだしなぁ)
当の本人は真剣勝負の真っ最中である。
これに水を差すような野暮はしたくない。
橘一哉(暫くは、眺めていた方が良さそうだ)


