エピソード1(脚本)
〇レトロ喫茶
倉沢純「はあ・・・・・・」
店内が見渡せる窓際から二番目のソファー席。
そしていつもの様に大学で出された課題をテーブルに広げつつ、溜息をつくとコーヒーを口にした。
そんな中、俺の斜め前で常連客と楽しそうに話す女性を思わず目を止める。
ボブの緩フワした髪に幼い顔立ちの彼女。名前だけは知っている。『みのり』というらしい。
常連客がそう呼んでいるのを耳にしたのだ。たが、他の情報は全く知らない。
見た目かして俺と同い年ぐらいだと言うぐらいだろうか。
俺もあんな風に話してみたいんだけどな
〇教室
倉沢純。大学一年。小、中、高と数人の男子と過ごすといった、小規模コミュニティーで生活をしてきた俺。
勿論、野外生活も特定の場所しか行かない。それでも良いと思っていた矢先の事。
〇寂れた雑居ビル
大学に通う事により、少し広くなった行動範囲内で、何気なく入った喫茶店。
〇レトロ喫茶
そこのバイトの女性に初めての恋心を抱いてしまったのだ。
そんな背景もあり、週3回その店へと足を運ぶ。
だが、半年も経つと言うのに、最低限の会話しかしたかことがないのだ。
以前は見ているだけでも良いと思っていたが、人とは欲が出てくるもので、最近は彼女と常連の会話的な事をしたいと思っている。
が、この性分のせいで一歩が踏み出せず、今はただただ自己嫌悪に陥っている状態なのだ。
〇山中のレストラン
今日はそれに拍車を掛ける出来事が起きた。
それは、俺が家で長年飼っている犬の備品で、唯一贔屓にしていた犬専門レザー雑貨店が移転してしまったのだ。
しかもその移転先が渋谷だという。
〇レトロ喫茶
基本内向的な性格うえ、根本的にああいった賑やかな雰囲気に飲まれしまいそうで足を踏み入れる勇気がない。
まあそれに俺みたいな冴えない人が行く感じじゃないよな。今時の事とか疎いし
だが、こんな内向的で極狭テリトリー内という安全パイだけでの行動では今の俺のままであり彼女と話したいなど夢のまた夢である
行ってみるか渋谷
そう決めた直後今日一番深い溜息を思わず吐いた。
〇山中のレストラン
店員さん「ありがとうございました」
か、買えたぞ!!
達成感に満ちた思いが溢れ、店の前だと言うのに余韻に浸りつつ立ち尽くす。
渋谷駅構内しかり、土地勘が無く改札口出口を間違えどうにかハチ公前に出ると、かの有名なスクランブル交差点と共に
神田通り、文化村通り、道玄坂、センター街と言った名だたる通りに多くの人が闊歩する姿に
思わず駅の壁に寄りかかり、途方に暮れる事暫し時間を費やしたのは一時間程前の事。その経緯を経ての今の状況である。
やれば出来るじゃん俺!!
〇商店街
高ぶる気持ちが穏やかになった所で周りを見ると、どこかレトロさのある雰囲気に気づく。
この店が奥渋谷エリアとやらにあるらしい。
人も駅を降りた当初に比べれば断然少なく、どこか落ち着いた空気が漂っており、今まで抱いていた印象の違いと共に
こんな所もあるのだなと新な発見にどこか胸が躍る。
まあ、帰り道だし人も駅前と違っていないから少し見ながら帰るか
ゆっくりと歩き出すと、様々なジャンルの店が軒を並べている事に驚かせると共に
自然と足が止まり見入ってしまう中、一件の雑貨セレクトショップの前で足がビタ止まる。
倉沢純「良いじゃん」
独り言を呟きウィンドウにある商品を見つめる事暫し。俺は店のドアを開けていた。
〇レトロ喫茶
今日も日課の喫茶店へ足を運び、彼女を目の前にし電子マネー精算をするべく、スマホを翳す。その時だった。
みのり「それ、ラブハチのスマホリングですよね?」
いきなりみのりからの声かけに、慌てて顔を上げ彼女を見ると、みのりはスマホを指差す。
みのり「ラブハチ好きなんですか?」
倉沢純「いや、その・・・・・・ 先日渋谷に行ったら、これ見つけて。何かこの感じが良いかなと・・・・・・」
みのり「そうなんですね。私も可愛いなって思っていて、でも持ってる人を見かけなくて」
みのり「ラブハチ私が薦めて持ってる人以外で会ったのお客様が初めてなんです」
みのり「しかも、それ私持ってないんですけど、どこで購入したんですか?」
倉沢純「え、えっと・・・・・・ ちょっと俺も初めて入った店で説明しずらいっていうか・・・・・・」
みのり「じゃあ。今度一緒に行って教えてくれませんか? それどうしても欲しいので!!」
倉沢純「お、俺で良ければ!!」
〇ハチ公前
その後は話はトントン拍子で進み、彼女の名が貝塚みのりと知り、同じ年とわかった。
そして二日目の今日彼女と渋谷のハチ公前で待ち合わせをしている。
一回足を踏み入れているせいか、最初の弱腰からくる緊張感は弱まったものの、違う意味で鼓動が速まっていた。
やっぱ2人で待ち合わせって緊張するな
まあしかしここ数日で起きた奇跡的な展開に驚きしかないし
この誘因を作ってくれた渋谷の街が以前より好感を抱ける街へとシフトしたのは間違い。
なんせ俺が変われる切っ掛けをくれた街だもんな
ふとほくそ笑むと、視界にみのりの姿を捕らえと同時に
彼女も気づき破顔を称えつつこちらへと走って来る姿に、胸元で手を軽く上げつつ自然と顔が綻ぶ。
みのり「すいません。待ちました?」
倉沢純「いえ。俺も来たばかりなので。じゃあ早速行きますか?」
みのり「はい!!」
待ち合わせのドキドキ感にキュンってなりました!
勇気を出して渋谷に行ってみてよかったですね!
本当は彼女も彼のことが気になってたのかも…と少し思いました。笑
実はみのりちゃんもずっと気になっていて、話しかけるチャンスを伺っていたのかも…。
世界が少しずつ広がっていく時って、本当に楽しくてわくわくしますよね。羨ましいです。
恋の予感と未来へのドキドキ感も伝わってきて読んでいて嬉しくなりました。というのも、私自身、賑やかな渋谷のような場所が得意でなく、主人公に共感してしまったからよけいかもしれません。勇気をだしてコンフォートゾーンを抜けるとこんな感じでいいことがありそうですね。前向きになれる作品でした。