あの日も、そして今も。(脚本)
〇黒背景
──2020年4月。
僕は、渋谷にいた。
〇渋谷のスクランブル交差点
言葉を失った。
・・・誰も、いない。
それはいつだって人が溢れていたはずの、
騒がしい思い出でいっぱいに満たされていたこの街から、
人という人が、姿を消したのだ。
──。
このぽっかりと穴があいてしまうような静寂を、ただ降りしきる雨音だけが埋めていた。
・・・交差点、こんなに広かったんだな。
ぽつりと信号へ青が灯る。
僕はまるで渋谷を初めて訪れた観光客みたいに、
この一部始終を全て目に焼き付けておこうと、
一歩一歩、大切に踏み出していく。
〇高架下
振り返れば世界は、このたった数か月で劇的に変わってしまった。
〇ハチ公前
──かつては当たり前だった幾つもの光景。
〇モヤイ像
ごった返す人込みから友達を探し出すのに苦労したあの日だって、
〇センター街
飲み会の会場がわからず、携帯片手にセンター街を右往左往する先輩達の姿だって、
〇渋谷ヒカリエ
微笑ましくも輝かしい、そんな思い出達はすべて、
〇SHIBUYA109
──過去のものになった。
それが僕にはとても悲しくて、
〇道玄坂
いやきっとまだどこかに一つくらい、"思い出のかけら"が残っているんじゃないかって、
〇公園通り
ずぶ濡れになりながら夢中でこの街を駆けずり回ったけれど、
〇渋谷駅前
───結局、何も見つけられなかった。
〇黒背景
──僕たちは、たくさんのものを失った。
でもいつか、またかつてのように明るい日々がやってくるのを信じて、
時に非難され、耳をふさぎたくなるような冷たい言葉と共生しながら、
一日一日、耐え続けた。
──そして2年が経った、2022年。
〇渋谷駅前
僕は今、再び渋谷にいる。
〇駅のホーム
あれから世界は紆余曲折を経て、ほんの少しずつ元の姿へ戻ろうしていた。
〇アーケード商店街
かつて人の消え去った街は賑わいを取り戻し、
まだ距離はとらなきゃいけないけど、でも決して一人ぼっちではなくなった。
〇渋谷ヒカリエ
そしてこの街にも、ようやく賑わいが戻ってきたんだ。
〇渋谷駅前
──わかっている。
僕たちは、まだすべてを克服したわけではない。
"新しい日常"なんて言ってしまえば聞こえは良いけれど、
昔では考えられなかったストレスに今も晒されながら、
〇渋谷の雑踏
僕たちは誰かを待ち、そして誰かのもとへ向かっているんだ。
でもそんな世知辛い日々の中で、僕はとても重要なことに気づけたように思う。
それは、自分が"大切にしたい"と思っている人、物が何かということ。
〇渋谷のスクランブル交差点
──僕にとってそれは、この街だ。
たくさんの喪失を経て、僕はそんな自分にとって"当たり前"の事実へやっと正直になることができた。
仮に、これからどんな姿へ変わっていこうとも、
〇SHIBUYA SKY
僕は、この街のことが好きだ。
それは過去も今も未来も、きっと同じだろう。
正直、これから世界がどんな風に変化していくのかは誰にもわからない。
でもそんな変化も何もかも、僕はこの場所から見守っていこうと思う。
今日までだって生きてこられたのだ。
何があっても、僕たちならきっと大丈夫なはずだ。
いつの日か、かつての日常へ戻れるような日を夢見て。
〇黒背景
僕たちは生きる。
──あの日も、そして今も。
言葉通り止まない雨はないのですよね。
作中にもありますが、これからどんなことが起きるのか誰もわかりません。が、その度それを乗り越えていく、そんなときに人間の底力が見れるのかもしれません。
あの感染症により引き起こされたこととして、人気のない渋谷は象徴的な出来事ともいえます。渋谷の活気が社会活動のバロメーターなのかもしれませんね。
前向きな気持ちにさせて頂けるそんなお話しでした辛いことも沢山ありますがその後には必ずいいことがあると信じています。楽しく読ませて頂きました。