龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

第漆拾伍話 ソムリエ(脚本)

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〇見晴らしのいい公園
橘一哉「せぇやっ!」
  気合と共に、一哉は右手を叩き付ける。
  その鋭い五指が長身痩躯の青年目掛けて繰り出されるが、
  その爪が三郎の肌を引き裂くことは無かった。
橘一哉「おおっ!?」
  その不可思議な手応えに、一哉は思わず素っ頓狂な声を上げた。
三郎「これは面白い」
  対する三郎も、些か興味を引いたと思しき反応を示す。
橘一哉(なんだ、今の!?)
  爪の先端まで気を通し、一哉は三郎の身体を切り裂くつもりだった。
  だが、当たった瞬間の手応えがおかしい。
  抵抗が返ってこない。
  力を出し、勢いを付けて振り抜いた指先に当然返ってくるべき手応えが、無い。
  手応えのなさを言い表す諺に、暖簾に腕押しという言葉がある。
  が、今の手応えに比べれば、暖簾の方が遥かに手応えがある。
橘一哉(吸い取られた!?)
  正に、その表現がしっくり来る。
三郎「龍の使い手が翼の闘技とは、珍しい組み合わせですね」
橘一哉(こいつ、)
  三郎の言い回し。
  四神招式を知っているかのような言い方だ。
三郎「種によっては龍にも翼はある」
三郎「悪くはない、悪くはない組み合わせです」
三郎「が、」
  何の前触れもなく腕を振り抜く三郎。
  一哉は咄嗟に後ろに跳んだが、
橘一哉「うわ、制服が・・・」
  ギリギリ紙一重のところで避けきれていなかった。
  切り裂かれるまではいかなかったが、制服にははっきりと分かる跡がついてしまった。
三郎「まだ、熟成が足りないようだ」
  振り抜いた手をしげしげと眺める三郎。
三郎「まだ、青さが濃厚で馴染みきっていない」
三郎「君の闘技の本領は、素手ではありませんね?」
橘一哉(そこまで分かるのかよ!)
  鋭い。
  つい最近剣術から素手に切り替えた一哉の状態を完全に見抜いている。
三郎「さあ、君の龍を味わうとしましょうか」
  三郎は無造作に一哉へと歩み寄る。
  一歩、また一歩。
  ゆっくりと歩を進める度に、全身の紋様が明滅する。
橘一哉「食わせてたまるかよ!」
  神 気 発 勝
  対する一哉も気合を入れ直す。

〇見晴らしのいい公園
姫野晃大「なあ、助太刀した方がいいんじゃないか?」
  隣の瑠美にこっそり話しかける晃大。
穂村瑠美「そりゃあ、そうでしょうけど・・・」
  その言葉を瑠美は肯定するが、しかし歯切れが悪い。
魔族「おまえたち、何をコソコソと話している?」
姫野晃大「げげっ」
  目聡く見つけられてしまった。
魔族「三郎殿の邪魔をしようなどとは思わないことだ」
  そして釘を刺された。
魔族「あの方は、邪魔をされるのが何よりもお嫌いなのでな」
姫野晃大「もし邪魔したら、どうなるんだ?」
  あえて晃大は問うてみた。
  最初に三郎は自ら口にしたのだ。
  『五人がかりでも構わない』と。
  今更晃大達が助太刀に入ったところで、それを嫌がるとは思えない。
  晃大たちの力をものともしない強さの持ち主なのだ。
  複数人が相手でも涼しい顔で立ち回るだろう。
魔族「助太刀したくば、名乗りを上げてからいくのだな」
姫野晃大「へえ、そうかい」
  今の魔族の返事が全てを物語っている。
  三郎が嫌がること。
  それは、

〇見晴らしのいい公園
梶間頼子「────────!!!!」

〇見晴らしのいい公園
姫野晃大「やったぜ梶間さん!」
「!!」
  歓声を上げる晃大。
  その隣と対面では、瑠美と魔族が驚きに目を見開いた。

〇見晴らしのいい公園
「!!!!」
  突然発生した、眩しい閃光。
  耳を劈く轟音と共に飛んできた稲妻が、二人の間に割って入った。
三郎「・・・」
  三郎の足が止まる。
  そして、稲妻の着地点へと目をやると、
三郎「ヴァジュラ、か」
  黄金色の小さな武具が突き刺さっていた。
  そして、稲妻の発信源へと目を移すと、
三郎「貴方ですか、紫龍」
梶間頼子「助太刀は、OKなんだよね?」
  投擲を終えて手を伸ばした体勢のまま、頼子は三郎に語り掛けた。
三郎「・・・」
  三郎は答えない。
  無言で無表情のまま、じっと頼子を見つめている。
梶間頼子(さあ、どう出る?)
  三郎の足元に刺さった金剛杵を意識しつつ、頼子は三郎を凝視する。
  何が起きてもいいように、紫龍と意識を通じておくのは欠かさない。
三郎「この大たわけが!!!!!!!」
梶間頼子「!!」

〇見晴らしのいい公園
  地の果てまで響き渡り、天地を震わすような怒声。
  それまでの丁寧で穏やかな口調と態度からは到底想像しがたい姿。
  そんな三郎の姿は、正に怒気を纏っているという表現が相応しかった。
三郎「横合いから余計なものを混ぜるな!!!」
梶間頼子「え、あの」
  その豹変ぶりには、強敵への恐怖よりも変貌への困惑が勝った。
  構えていた力が萎えていく。
三郎「貴様、己が何をしたか分かっているのか!?」
  ズカズカと大股で三郎は頼子へ歩み寄り、
三郎「この無粋者!!」
梶間頼子「あぐあっ!」

〇見晴らしのいい公園
姫野晃大「梶間さん!?」
穂村瑠美「頼子!?」
  前触れもなく振るわれた全力の拳。
  その一撃を受けた頼子は派手に吹っ飛んだ。

〇見晴らしのいい公園
竹村茂昭「おい、しっかりしろ!!」
  咄嗟に駆け寄り、茂昭は頼子を抱き起こす。
梶間頼子「う、あ・・・」
  幸いなのは、場所が公園だったことだろう。
  幸運にも頼子は植え込みに突っ込む形となって地面への激突は免れた。
梶間頼子「いきなり殴るとか・・・」
竹村茂昭「大丈夫そうだな、立てるか?」
梶間頼子「一応、ね」
  茂昭に肩を借りて立ち上がる頼子だが、
梶間頼子「やば」
竹村茂昭「・・・そうみたいだな」
  茂昭も頼子の足を見て眉をひそめる。
  膝が震えている。
  先程の一発の衝撃は全身に行き渡っているようだ。
梶間頼子「肩、もうしばらく借りるね」
竹村茂昭「おう、いくらでも貸してやる」
  頼子の肩を支える茂昭だったが、
竹村茂昭「・・・って、握力強いなお前!?」
  茂昭の肩に食い込む頼子の指の力はかなり強かった。
梶間頼子「あれ使ってるからね、普段から」
  チョイチョイと地面に突き刺さったままの金剛杵を指差す頼子。
竹村茂昭「握る力は一級品かよ・・・」
  龍使いも大概だな、と茂昭はため息をついた。

〇見晴らしのいい公園
  吹っ飛んだ頼子を睨みつけて一息つくと、
三郎「さて、」
  三郎は一哉へと向き直り、
三郎「先ほどは余計なものが入ってきてしまいましたが、続きを始めましょう」
橘一哉「・・・」
  一哉は言葉が出ない。
  豹変の落差に唖然とした。
三郎「どうしました?」
  問いかけながら三郎は歩を進める。
三郎「あなたは、どんな龍の宿主なんでしょうね」
  頭から足元まで、三郎はじっくりと一哉の全身を見る。
橘一哉「俺の龍は、黒龍」
  一哉の身に着けた手甲と足甲、そして全身から黒い霧が噴き出す。
三郎「そのようですね」
三郎「紛れもない龍気だ」
  一哉から吹き出した霧を見て三郎も頷く。
橘一哉「物理が駄目なら、」
  一哉は肘を引いて両手を腰の辺りに付け、呼吸を整える。
橘一哉「ふうぅ・・・」
  全身の気血の巡りを高める。
  そして、
橘一哉「はっ!!」
  再び一哉は間合を詰める。
橘一哉(一気に片を付ける!!)
  徒に長引かせる必要はない。
  相手が全力を出し切る前に。
  こちらの手の内を全て曝け出す前に。
  何より、こちらはちょっとした異世界から戻ってきたばかりなのだ。
  これ以上消耗する前に、短期決戦で決着を付ける。
  剣術から素手に戦法を変えた一哉の必殺技。
  玄武の無敵の甲を破り、白虎の爪牙と拮抗してみせた黒龍の力。
  倶 利 伽 羅 掌
  着地の反動を乗せ、両手を三郎に僅かに時間差を付けて叩き付ける。
橘一哉(単発が駄目なら連撃で!)
  時間差で叩き込まれる連撃ならば無効化は出来ないと踏んでの攻撃は、
三郎「いや、お見事」
橘一哉「・・・」
  あっさりと、至極あっさりと破られた。
橘一哉「マジかよ・・・」
  紋様が光を放ち、まるで喜んでいるかのようだ。
橘一哉「まだだ!!」
  一哉は足を振り上げ、
橘一哉「だあぁっっ!!!」
  連続で蹴りを繰り出す。
  前蹴り、横蹴り、回し蹴り。
  蹴りつけた反動で一哉は宙に浮き、
橘一哉「せえいやっ!!」
  落下する際に手を地に着け、逆立ちするような形で更に蹴りを繰り出す。
  蹴りの軌道に合わせて黒い霧が発生し、幾筋もの黒帯が三郎の眼前を覆う。
  そして、
三郎「?」
  片方の足裏を三郎にピタリとつけると一瞬停止し、
橘一哉「ふっ!」
  ズシン、と重い音が響き渡り空気を揺らす。
  同時に黒い霧が一哉が蹴りを当てた箇所から噴き出す。
三郎「と、と、」
  これには流石に三郎も耐えきれなかったようだ。
  僅かにバランスを崩し、蹈鞴を踏みながら後ずさる。
  その蹴りの反動を利用して一哉は器用に一回転して立ち上がった。
橘一哉「どうよ!」

〇見晴らしのいい公園
橘一哉「流石に食いきれなかったみたいだな、サブちゃん」
  ニッ、と笑う一哉。
三郎「そうですね、流石に量が多すぎました」
  一哉の言葉に三郎は頷く。
三郎「しかし、あなたも中々不思議な力の持ち主のようですね」
三郎「貴方の力は、他の三人とは微妙に違っている」
三郎「あなたは、本当に、『龍使い』ですか?」

次のエピソード:第漆拾陸話 苦戦

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