13 明日立てるなら(脚本)
〇魔界
三人は、荒野の向こうに見えた「街の影」に向けて歩みを進めていた。
ミムレット「こっちだ、こっち!」
ハパルム「待ってください!」
ハパルム「歩調を合わせて~!ミムレット~!!」
叫び声を背に、ミムレットは岩場を軽々と越えていった。
ハパルム「・・・もう! すぐ一人で行っちゃうんだから!」
ハパルム「あ、大丈夫ですか?ハランさん」
ハパルム「ペース、早すぎませんか?」
ハラン「大丈夫だよ」
ハラン「気にかけてくれて、ありがとう」
ハパルム「えへへ」
ミムレット「おい!置いてくぞ」
ハパルム「ミムレット! ハランさんは「人間」なんですよ?」
ハパルム「私たちが合わせないと──」
ミムレットは、銀色の尻尾をゆらゆら揺すって、鼻面にシワを寄せた。
ミムレット「平気だよ!ハランは」
ミムレット「身軽だぞ? そこいらの「猫人」よりもな!」
ハパルム「そう・・・なんですか?」
ハラン「「球」の中は、歩き慣れている」
ハパルム「あ、じゃあ、疲れたら教えて下さいね?」
ハパルム「まって、ミムレット~!」
ハラン「ふふっ」
ハラン「私が守られる側、か」
ハラン「シャラが聞いたら卒倒するな」
〇闇の要塞
たどり着いたのは、寂れた建物郡だった。
ミムレット「なんだ砦か」
ハパルム「「なんだ」じゃないでしょ、砦だよ?」
ミムレット「猫人の砦だよ?ありふれてるだろ?」
ハパルム「ありふれては、ないです」
ハパルムは耳を伏せて、即座に訂正した。
ハパルム「あ!ミムレット、国境に住んでたの?」
ミムレット「知らない」
ハパルム「辺境の方は外敵も多いから 砦も多い・・・んじゃないかな?」
ハパルム「と、思ったんだけど・・・」
ハラン「人の気配はないな」
ミムレット「まあ良いじゃないか。行こう!」
ミムレット「食べ物あるかも!」
ハパルム「あ!もう!」
〇要塞の廊下
ミムレット「パンがあったぞ!」
ハパルム「走りながら食べちゃダメだよ!」
ハパルム「ん?」
ハパルム「これ・・・」
立ち止まったハパルムは、壁にかかった紋章に手を伸ばした。
ハラン「どうかしたか?ハパルム」
ハパルム「鎧とか、紋章とか、おんなじ・・・」
ハパルム「ここ、あいつらの街だ」
ミムレット「お前達を追い出した家族か?」
ハパルムはフルフルと首を振った。
ハパルム「ちがう」
ハパルム「あの家族を追い出したやつら」
ハパルム「街を戦場にしたやつらだ」
〇城門の下
ハパルム「争った挙げ句に」
ハパルム「みんなモンスターになったヤツラだ」
〇要塞の廊下
ハパルム「なんで来たの」
ハパルム「・・・ここだって、十分住めたじゃない」
ハパルムは、小さく地面に吐き捨てた。
ミムレットが、そっとハパルムの額に額を擦り付けた。
ミムレット「・・・良いんじゃないか?」
ハパルム「え?」
ミムレット「良いんじゃないか?悔しくても」
ハパルムは、ハッとしたように耳を立てた。
ハパルム「悔しい?・・・」
ミムレット「悔しいだろ?」
ハパルム「悔しい・・・けど」
ハパルム「決めたから」
ハパルム「『いいってことにする』って」
ハパルム「だから──」
ミムレットは、しなやかな腕にハパルムを抱き締めた。
ミムレット「いいんだよ」
ハパルム「えっ」
ミムレット「悲しくて、悔しくて」
ミムレット「引き裂きたいぐらい憎くて」
ミムレット「それで、いいんだよ」
ハパルム「でも、私は──」
ふわりと腕をほどくと、ハパルムと視線を合わせた。
ミムレット「いいんだよ」
ミムレットの手のひらが、ハパルムの肩に置かれた。
ミムレット「明日立てるなら、今泣いても」
ハパルム「わた、私・・・私は」
じんわり滲んだ涙が、ミムレットの腕の隙間に、落ちていった。
ハパルム「うぇ──」
ハパルム「うわぁぁぁあん!」
ハパルム「どうして!どうして?」
ハパルム「どうして──」
〇要塞の回廊
ハパルム「うわぁああん!!」
ハランは、鎧の隙間から取り出した櫛を、一撫でした。
漆が艶やかに光り、引き結んだ唇を映した。
ハラン「これが救いか?姉君」
ハラン「いや」
ハラン「師姉(しし)」


