龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

第漆拾弐話 三郎殿(脚本)

龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

今すぐ読む

龍使い〜無間流退魔録外伝〜
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇見晴らしのいい公園
三郎「あー、いいですねえ・・・」
  その青年は、平坂市郊外の展望台に来ていた。
三郎「ここは、街中よりも『気』が多い・・・」
  胸一杯に息を吸い込むと、青年の胴体が一回りも二回りも大きく膨れ上がる。
  まるで風船だ。
  その胸郭に肋骨が存在するのか怪しく思えてくる。
三郎「少しは、気も満たせるかな・・・」
  青年が気持ち良い雰囲気に浸っていると、
「三郎殿、ここにおられましたか」
三郎「!!」
  何者かの声で中断させられた。
  声のした方向に振り向くと、一人の男が立っていた。
  特徴が有りそうで無い人相と風体、気配が有りそうで無い雰囲気。
  普通の人間ではない。
  本来ならば異様なのだが、なぜかそれが気にならず意識から外れてしまう。
三郎「魔族、か」
  三郎と呼ばれた青年は、男を見て呟いた。
三郎「人の食事を邪魔するとは、無作法ですね」
魔族「っ!!」
  穏やかな面立ちとは正反対の鋭い殺気が男に叩き付けられる。
魔族「お食事中でしたか、失礼致しました」
  男は即座に膝を着いて頭を垂れ、謝罪の言葉を述べる。
三郎「・・・まあ、いいです」
  それを見て、三郎と呼ばれた青年は再び穏やかな雰囲気に戻る。
  男の謝罪は無事受け入れられたようだ。
三郎「僕に何か用ですか?」
  青年・三郎が男に訊ねる。
魔族「はい」
  男は頷き、
魔族「是非とも、あなたのお力を貸して頂きたいのです」
魔族「憎っくき龍どもを討ち果たすために」

〇カラフルな宇宙空間
姫野晃大「これは・・・」
  光龍の力を引き出し、感覚を広げて研ぎ澄ました晃大に見えたもの。
  それは、この世界の姿だった。
  無限の広がり。
  無数の世界。
  それらが接し、重なり、果てしなく続いている。
姫野晃大「うひゃえ・・・」
  思わず変な声が出てしまう。
  宇宙論などとは無縁の世界を生きてきた晃大である。
  そんな一介の若者にとって、今目の当たりにしている世界は刺激が強すぎた。
姫野晃大(クラクラする・・・)
  五感が許容限界を超え、意識が遠のきそうになる。
光龍「コウ、気をしっかり待て!!」
姫野晃大「!!」
  脳裏に響き渡る光龍の声で、晃大は我に返った。
光龍「白虎が言っていた事を思い出せ!!」
姫野晃大「そうだ、そうだった」
  光龍の属性である、光。
  あらゆるものを照らし出し、明らかにして可視化する。
  その能力で晃大がやるべきことは、
姫野晃大「俺たちの世界を、見つけなきゃ」
姫野晃大「けど、」
  無数に並び、接し、重なり合う世界。
  その中から、一つの世界を見つけだす。
  それは、砂浜で特定の砂粒一つを見つけ出すよりも遥かに難しい。
姫野晃大「どうしろってんだ・・・」

〇カラフルな宇宙空間
穂村瑠美「うそ、こんなに、いるの・・・!?」
  いや、『在る』と言うべきか。
  晃大が照らし出した世界の真の姿。
穂村瑠美「活動するものって、めちゃくちゃ多いじゃないの・・・」
  その中から、生命活動をしている存在を探り出す。
  それが、瑠美の役割だ。
  赤龍の属性である炎。
  即ち燃焼とは、活動の証である。
  物質同士の分離や結合によって生まれるエネルギーの余波が炎である。
  その余波の大元である燃焼活動をしているものを探し出す。
  瑠美たちの世界に固有の燃焼をしているものを探し出そうとしているのだが、
穂村瑠美「お、多すぎる・・・」
  燃焼活動をしているものがあまりにも多すぎて特定に苦労していた。
  恒星も燃焼活動をしている。
  惑星も、その内部でマグマやマントルが動いている。
  緩やかで穏やかな変化により、極々微量の熱を出している物質もある。
  赤龍の力を解放して感覚の鋭くなった瑠美。
  そんな彼女の感覚は、極微細なものすらも鋭敏に捕捉していた。
  目の前に広がる無数の選択肢の中から、絞り込まなければならない。
穂村瑠美「生命体の、燃焼活動は、どれ・・・?」

〇カラフルな宇宙空間
梶間頼子「うわうわうわぁ・・・」
  晃大が照らし出したすべての世界。
  瑠美が絞り込んだ、生命活動をしているもの。
  そこに最後の決め手となるのが、頼子の力だった。
  人間、自分たちと同様の身体構造が生み出す生体電流。
  そのパターンを見つけ出すのが、頼子の役割だった。
  雷の属性を持つ紫龍と、その宿主たる頼子にしかできない役割なのだが、
梶間頼子「こんなにあるなんて聞いてないよ・・・」
  類似するパターンが余りにも多すぎる。
  端的に言って、人型のパターンが無駄に多い。
  世界の数が無限にあるのだから、それも当然と言えば当然か。
梶間頼子「これはちょっと、やり方に一工夫が必要だね・・・」
  人型のいる世界の中から、更に条件を加える。
梶間頼子「鳥、魚、獣、虫・・・」
  人間以外の生き物の生体電流パターンが存在する世界を探し、絞り込む。
梶間頼子「やっててよかった、生体電流感知・・・」
  鍛錬も兼ねた日頃の遊びがここで役立つ日が来るとは。
梶間頼子「むううぅ・・・」
  思い出せ。
  自宅の周辺、学校の内外、今までに行き来したことのある場所。
  自分たちの世界の生き物たちが発している微弱な電気に囲まれた環境を。
梶間頼子(あそこは違う、これも違う・・・)
  少しでも違うものは除外していき、確率の高いものを残す作業を続けていく。

〇カラフルな宇宙空間
姫野晃大「世界が、宇宙が、減っていく・・・?」
  晃大は驚いた。
  目の前の世界が、どんどん数を減らしていく。
  脳の理解を超えて意識が遠のきそうなほどだった拡がりと重なり。
  それが、どんどん縮小していく。
光龍「瑠美と頼子の絞り込んだ世界のみを、照らすようにしている」
  光龍が語りかけてきた。
姫野晃大「そんなことができるのかよ」
  瑠美も頼子も意識を集中しており、晃大への働きかけは一切無い。
  そんな中でどうやって二人の見たものを知っているかと思ったら、
光龍「二人の意識の働きも見ている」
  答えが返ってきた。
光龍「私の独断な上、いささか反則気味ではあるがな」
  光龍の声には僅かながらも苦悶の様子が窺える。
  そこまでやるのは難易度が高いらしい。
光龍「さあ、もうすぐだ」
光龍「道を照らし出せ」
光龍「お前たちの行くべき、道を」
姫野晃大「・・・おう」
  もう少し。
  もう少しだ。
  もうすぐ、道が見える。

〇カラフルな宇宙空間
橘一哉「何すかコレ」
  一哉の目にも、それらは見えていた。
  無限に広がる無数の世界。
  重なり接するそれらが、少しずつ数を減らしていく。
黒龍「三人は、しっかり仕事をしているようだな」
  満足気な黒龍の声が一哉の脳裏に聞こえる。
黒龍「その内、見える世界が一つだけになる」
黒龍「そしたら、お前の出番だ」
黒龍「光龍の宿主と一緒に、世界の壁を破って元の世界への道を作れ」
橘一哉「お、おうよ?」

〇見晴らしのいい公園
三郎「こちら側に来たのは随分と久しぶりだけど、美味しいものが増えましたね」
  眼下に広がる街並みを眺めつつ、三郎は楽しげに言った。
  そして、すぅ、と大きく息を吸い込む。
  胸が風船のように大きく大きく膨らむ。
三郎「ああ、美味しそうな良い匂いばかりです」
魔族「そうですか」
三郎「でも、」
魔族「なにか?」
三郎「舌は満たされ血肉は補えても、魂が満たされないですね」
魔族「魂が・・・ですか?」
三郎「はい」
  三郎は頷く。
三郎「それに、」
  三郎は目を細め、
三郎「人の香りは、ひどく悪くなりました」
  眉根に皺をよせ、人混みに焦点を合わせる。
魔族「・・・」
魔族「人は、堕落の一途を辿っています」
魔族「だからこそ、どうにかせねばなりません」
三郎「そうですか」
三郎「私は、美味しいものを美味しく頂ければ、それで充分なのですが」
魔族(量さえ考えなければ、な)
三郎「いいですよ、その話、乗ってあげます」
魔族「そう言って下さるとありがたい」
三郎「では、景気付けに一食行きましょうか」
魔族「え」

〇地球
姫野晃大「あ、あれは!」
  無数の世界が次々と姿を消していき、最後に残ったもの。
姫野晃大「地球!」
  それは、写真や動画で見慣れた青い星。
  地球。
「!!」
光龍「よし、見えたな!」
  光龍が晃大の右手から姿を現し、
光龍「いくぞ、黒龍の!」
  一哉へ声をかけた。
橘一哉「お、おう!」
  一哉も慌てて返事を返すが、
橘一哉「どうするんだ?」
姫野晃大「そうだよ、どうするんだよ!」
  光龍も黒龍も、晃大と一哉が力を合わせろとは言った。
  しかし、具体的にどうすればいいのかまでは二人は聞いていない。
  彼らが今いる世界と彼らの元いた世界は、複数の隔たりを経ていた。
  直接繋がっている訳では無い。
  今もそうだ。
光龍「光の道を繋ぎ、黒龍の力で固定する」
「!!」
黒龍「それしか方法はないな」
  黒龍も顔を出した。
光龍「出力が足りなければ赤龍の力で補い火事場の底力を無理矢理出させる」
黒龍「微調整が困難ならば紫龍の生体電流制御で無理矢理操作する」
「無理矢理かい!!」
白虎(仮)「迷ってる暇はないぞ」
白虎(仮)「私の結界維持もそろそろ限界が近い」
白虎(仮)「早く元の世界に帰れ」
竹村茂昭「そうだよ、お前ら早くやれよ」
  絞り出すような声で茂昭も龍使い達を急かす。
  白虎の負担は宿主の茂昭にも跳ね返ってきているようだ。
姫野晃大「ええい!」
橘一哉「やりますか!」
  晃大と一哉も腹を括った。

〇見晴らしのいい公園
三郎「では、行きましょうか」
  展望台を去ろうとした三郎だったが、
三郎「!!」
  突然、目の前が眩い光に包まれた。
三郎「な、何事ですか!?」
  あまりの眩さに袖で顔を覆う三郎の耳に、
「おわっ!」
「あだっ!」
「ぐえ」
「いたっ」
「あがっ」
  複数の呻き声が聞こえてきた。
三郎「・・・?」
  光も収まり、腕を下ろして袖を顔から外した三郎の目に入ってきたのは、
  芝生の上に折り重なる五人の少年少女。
三郎「あ、あの、皆さん、大丈夫ですか・・・?」
  恐る恐る中腰になって三郎は声をかける。
橘一哉「あ、はい、なんとか・・・」
  流石の若さというべきか、少年少女はすぐに立ち上がった。
  が、
魔族「貴様ら、龍使い!!」
  それを見た男が声を上げて身構える。
三郎「・・・へえ?」
  それを聞いた三郎も姿勢を戻して五人を順繰りに眺める。
三郎「・・・」
  三郎は目の前の空気の匂いを嗅ぐようにスウ、と一息すい、
三郎「ああ、確かにそのようですね」
  男の言葉に納得し、頷いた。
三郎「君たちからは、とてもよい匂いがします」
三郎「神獣の、気高く清らかな匂いが」
三郎「とても、美味しそうですね」

次のエピソード:第漆拾参話 饕餮

成分キーワード

ページTOPへ