〇黒
　　ほの暗い森を彷徨うは蛇と犬
　　蛇は草むらを掻き分け這いまわる
戌丸「ふん、気色の悪いクチナワ野郎だぜ」
戌丸「ひゃあっ！何者！お助け！なみあむ！」
英林「狼狽えるでない」
戌丸「お、お館様！ご無事で何より！」
英林「それと・・・南無阿弥、だ」

〇黄緑（ライト）
　　やがて森は少しずつしらみはじめる
蛇「お前」
戌丸「お、お館様に対してお前だと？ この無礼者！」
英林「よせ」
英林「今一度尋ねる。名は覚えておるのか？」
蛇「お前」
戌丸「無礼者！」
英林「話が進まん！黙っておれ！」
戌丸「は、はっ」
英林「つまり『お前』がお前の名なのだな」
蛇「はい。妻からそう呼ばれておりました」
英林「随分わわしい女だな」
蛇「お前とお呼び下され」
戌丸「ははは！お前はお前か！そりゃあいい！」
戌丸「俺は戌丸だ！ ちゃんと 『お』とか『様』とかつけろよな！」
蛇「はい。お犬様」
戌丸「丸もだ！」
英林「ははは。面白い男よな」
戌丸「チッ、ガリガリの骨皮野郎が」
英林「ふむ。骨と皮の道化か」
英林「されば、これより骨皮道化と名乗れ」
英林「よいな」
蛇「畏まりました。お館様」
　　蛇、改メ　骨皮道化
英林「道化ならば舞のひとつも覚えよ。 その煌びやかな角帽子が廃れるぞ」
道化「トミ・・・」
道化「何故、おれに斯様なものを・・・」
英林「まだ過去の欠片しか思い出せぬか」
戌丸「芸事を極めりゃ地位も名誉も手に入らあ。 御細君の優しさって奴じゃねえのかい？」
戌丸「それとも手切れ金だったりして。 ひゃははは！」
「・・・・・・」
戌丸「冗談だよ」
英林「如何した？」
道化「風の匂いが変わりました。 おそらくはもうすぐ森を抜けます」
戌丸「よっしゃ！ これで散り散りになった仲間と 合流できますぜ！」
英林「皆、無事だと良いが」
戌丸「大丈夫でさ。 どいつもこいつも逃げ足だけは早いんで」
英林「胸を張ることか！ だから負けたのであろうが！」
戌丸「ごもっとも！」
英林「生き残った全員、 鍛え直してやるから覚悟しておけ」
戌丸「しかしですぜ。 都には東方の兵がウロウロしてまさあ」
英林「ふむ・・・如何したものか」
道化「獣になればいいです。 おれはそうして生き延びてます」
道化「刀も鎧も捨てて這いまわります。 それで・・・」
英林「なんと！我に乞食になれと申すか！」
道化「乞食ではありません」
道化「それ以下の獣です」
英林「・・・」
英林「これ、何をしておる！」
戌丸「見ての通り顔に泥を塗ったくっております」
戌丸「これで身も心も立派な獣でさあ！」
道化「大変結構です、犬殿」
戌丸「『丸』な」
道化「では私も」
戌丸「ほら、お館様も早く！」
英林「・・・」
英林「くそ・・・南無三宝！」

〇黄緑（ライト）
　　続