龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

第陸拾捌話 綻び(脚本)

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〇校長室
矢口朱童「理事長、御報告があります」
理事長「なんだね?」
矢口朱童「四神と龍が同盟を結んだようです」
理事長「妥当なところではあるな」
  思惑は異なれど、人類を守るという行動は共通している。
  敵の敵は味方でもある。
矢口朱童「ただ、」
理事長「ただ、何だね?」
矢口朱童「四神の一柱、玄武が重篤な傷を負った模様です」
理事長「玄武が!?」
矢口朱童「はい」
  頷く朱童に、安曇理事長は驚きを隠せない。
  玄武と言えば、亀の姿形をした神獣。
  その堅牢にして堅固なることは数多の神獣の中でも随一を誇る。
  その玄武が傷を負うとは。
理事長「綻びが、出たか」
矢口朱童「はい」
  四神の中でも決して破られることはないと思っていた所が、破られた。
理事長「となると、あの者たちが動き出すな」
矢口朱童「『四凶』ですか」
理事長「うむ」
矢口朱童「かつて人界の外に追いやられ、四神によって戻ることを阻まれた者たちですな」
理事長「窮奇、渾沌、饕餮、檮杌⋯」
矢口朱童「危険ですが、人界の守りを崩すのに利用価値はあります」
矢口朱童「接触しますか?」
理事長「いや、その必要はない」
理事長「彼らは余りにも我が強すぎる」
理事長「彼らの動きを利用した策を色々と用意しておけばよいだろう」
矢口朱童「・・・わかりました」

〇高い屋上
草薙由希「四神招式?」
青龍「そうだ」
  怪訝な顔をする由希に青龍は頷く。
  四神が邂逅する切っ掛けとなった、仮初の青龍顕現。
  それ以来、青龍の存在感は強くなった。
  右腕に宿る力が、以前よりも増している。
  それに合わせて、自身の心身の力も増しているのを由希は自覚していた。
  活力、自信、漲る力。
  自分の中で何かが変わりつつあるのを、薄々感じていた。
青龍「四神が揃った今、お前にも教えておこうと思う」
  そんな時に青龍の口から出てきた言葉。
  それが、『四神招式』なるものだった。

〇大樹の下
  平坂市内某所にある公園。
雀松司「うーん・・・」
  雀松司は、そこはかとない違和感を感じて眉根に皺を寄せた。
橘一哉「どうしたんです?」
  そんな司の前にいるのは、黒龍の宿主の橘一哉。
  素手の闘法の手解きの真っ最中なのだが、
雀松司(何かが、)
  しっくりこない。
  そんな師匠の様子に、一哉も動きを止めて司を見た。
雀松司「いや、そんな深刻なものではないんだよ」
  一哉の動きは正しい。
  動きの形も、どういう技として動いているかの意識も、間違ってはいない。
  司が知る朱雀の闘法『朱雀招式』に則ったものだ。
  間違っているところはないのだが、
雀松司(何なんだ、この違和感)
  何かがおかしい。
  ズレている。

〇高い屋上
青龍「四神には、固有の技の体系がある」
青龍「それを称して、」
  四神招式
青龍「我ら四神の力を最大限引き出す様々な技だ」
草薙由希「そんな便利なものがあるなら、もっと早く教えてよ」
  由希の言葉ももっともだ。
  技の引き出しが増えれば、戦いはもっと楽に、有利に進められていたはずだ。
青龍「事はそう簡単なものでもなくてな」
青龍「招式の扱いには注意を要する」
草薙由希「注意?」
青龍「そうだ」
  青龍は首を縦に振り、
草薙由希「!!」
  由希の顔が驚きに染まる。
青龍「わかったか?」
草薙由希「ええ、分かったわ」
  真剣な顔で由希は頷いた。
草薙由希「・・・こんなに、すごいものだったのね」
草薙由希「いえ、むしろ恐ろしいわ」
  由希が感じたもの。
  それは、
草薙由希(これは技なんかじゃない)
  由希が青龍に見せられたのは、
草薙由希「これは、」
  暴力
青龍「理解したようだな」
青龍「四神招式とは、四神の力を最大限まで引き出し操る技の体系」
青龍「四神とは、自然の地形を神獣に擬したもの」
  自然の力を最大限用いる四神招式とは、即ち。
草薙由希「正に、災害級の威力ね」
  自然の暴力そのもの

〇大樹の下
雀松司「橘くん、君は俺の教えたことを忠実に形にできている」
  一哉の物覚えは中々に良い。
雀松司「その動きを忘れないように鍛錬を重ねていけばいい」
  あとは鍛錬を重ねるのみ。
雀松司「その形と威力を自然に出せるようになるまで練り続ければいい」
  それでいいのだが、
雀松司(何かが、)
  引っかかる。
橘一哉「?」
  褒められてはいるが、どこか引っかかるような物言い。
  一哉も何やらしっくりこない。
橘一哉「あの、やっぱり何かが変なんですよね?」
  思い切って一哉も聞いてはみたが、
雀松司「うーむ・・・」
  司は明確には答えられなかった。

〇高い屋上
青龍「どうだ、由希」
青龍「限りなく暴に近い四神招式」
青龍「会得する覚悟はあるか?」
草薙由希「勿論よ」
  青龍の問いに、由希は間を置かずに答えた。
  勿論、肯定である。
草薙由希「魔族に勝つためなら、やってやるわよ」
  それが、龍使いの使命なら。
草薙由希「会得してみせるわ」
  四神招式が一つ、青龍招式
  青龍轟河陣

〇大樹の下
雀松司「さて、組み形をやってみようか」
  武芸は舞踊ではない。
  技を仕掛ける相手がいるものだ。
  一人の形稽古の繰り返しで技の形と基礎体力を練るだけでは片手落ちだ。
  実際に仕掛けてみなければ何も分からない。
橘一哉「はい」
  司と一哉は向かい合い、
「いざ!!」
  構えた。
  四神招式が一つ、朱雀招式。
  南方に配された朱雀に範を取った形。
  即ち、鳥類の動きを模した技である。
  その動きは、次の五種に大別される。
  翼を広げる『展翅』。
  翼を羽ばたかせる『羽撃』。
  素早く間合を詰める『飛翔』。
  相手を鋭く突く『啄嘴』。
  指先で握り込み捉える『鷹捉』。
  これらに加えて用いられるのは、『炎』の意識。
  周囲に次々と燃え移り広がっていく炎。
  その炎の如く、相手を責め立てる。
  二人はしばらく打ち合いを続けていたが、
雀松司「っ!!」
  司は大きく後ろに飛び退いた。
  一哉は追撃せずにその場に留まる。
雀松司「今日は、ここまでだ」
橘一哉「はい、ありがとうございました」

〇公園の入り口
雀松朱乃「お兄ちゃん、迎えに来たよ」
雀松司「ありがとう、朱乃」
橘一哉「可愛いお迎えですね」
  公園の入口を見ると、司の妹の朱乃が来ていた。
雀松司「それじゃあまたな、橘くん」
橘一哉「はい、今日はありがとうございました」
雀松朱乃「さようなら」
  朱乃も一哉に一礼すると、兄妹は連れ立って帰っていった。

〇住宅街
雀松司(あぶなかったな・・・)
  帰り道、司は心の中で呟いた。
  組手の最中に急に彼を襲った『発作』。
  最近、『発作』に見舞われる回数が増えている。
  その強さはまちまちだが、頻度が次第に高まっている。
雀松司(気付かれてはいないよな⋯?)
雀松司「っ・・・!!」
  まただ。
雀松朱乃「どうしたの、お兄ちゃん?」
  妹の朱乃が立ち止まって司を見上げる。
雀松司「いや、なんでもないよ」
雀松司「ちょっと、お腹が、ね」
  司は下腹部を押さえる。
雀松朱乃「もう、レディーに話すことじゃないよ、それ」
  顔をしかめる朱乃。
  下の話だと思ったのだろう。
雀松司「ハハ、ゴメンゴメン」
  笑いながら司は妹の頭を撫でる。
雀松朱乃「はやく家に帰ろっか」
雀松司「そうだな」

〇住宅街
雀松司(頼むから、朱乃にはバレないでくれよ・・・)
  数歩前を歩く妹の背中を見ながら、司は祈った。
  発作の主は分かっている。
  発作の正体も、分かっている。
  だからこそ、司は祈る。
雀松司(保ってくれよ、俺の身体⋯)
雀松司(朱雀の力、まだ朱乃に返すわけにはいかないんだ⋯)

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