スーツランナー物語

悠々とマイペース

人数合わせの誘い(脚本)

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〇教室
???「なぁ、志乃原〜。 今日ヒマ?」
  放課後の教室で、その言葉はだいたいロクな用事を連れてこない。
「バイトある」
  即答すると、勇斗が机に身を乗り出してきた。
勇斗「バイト前にちょっとでいい。 いや、お前しかいねぇー!」
「遊びならパスするぞ」
  勇斗がニヤッと笑う。
勇斗「お前、スーツあるよな?」
  教室の空気が、ほんの少しだけ動いた気がした。
「・・・・・・確かに持ってるけど、中古のボロ」
  周りの数人が、話題に乗り遅れまいと耳だけこっち向ける。
勇斗「それそれ。それでさ、“E-TRACE”出てくんね?」
  出た、この数週間よく聞く単語。
  E-TRACE。
  パワードスーツ専用のアスレチックレース。
「それで、なんで俺なの?」
勇斗「人数足りねーの。代表選考会、メンバー4人必要なのに、3人しかいねえ。先生に“あと1人どうにかしろ”って言われてさ」
「だから、なんで俺?」
勇斗「坂」
  勇斗は一言で済ませた。
「もう少し具体的に」
勇斗「お前さ、朝の坂道、人の足じゃねーじゃん。あれ、他のやつと全然違うから」
「バッテリーの力だわ」
勇斗「じゃあなおさら向いてんだろ。スーツで走る競技なんだからさ!」
  理屈がおかしいようで、微妙に反論しづらい。
  教室の隅から、別のクラスメイトが口を挟む。
???「スーツ野郎が出たらウケるだろ。話題性バッチリじゃん」
???「そうそう。負けてもネタになるし、勝ったらヒーロー。おいしいし」
「おい、俺の人生をおいしいで語るな」
  笑いが起きる。
  そうだよ。
  いつもみたいに笑って受け流して、断ればいい。
  悪い。そういうの、俺似合わねーし。バイトもあるし
  口が、そう言おうとした。
  でも代わりに出てきたのは、ちょっと違う言葉だった。
「・・・・・・コースてさ、どんなの?」
  言ってから、自分で「あ」と思う。
  勇斗の顔がパァッと明るくなった。
勇斗「聞く? 聞いちゃう?」
「うぜぇ。さっさと言えって」
勇斗「仮設コースの吊り輪、ロープ上り、壁登り、バランス足場、最後に斜め壁からのジャンプ。時間内にクリアすればOK」
  頭の中で、勝手に映像が流れた。
  
  足場の位置、距離、手を伸ばしたときの角度。
  坂道で鍛えた脚で飛べるかどうか。
勇斗「膝やばいって言ってた中古スーツでも、ギリいける。むしろ、お前、そのガタガタの癖の方が分かってるだろ?」
  勇斗は俺の足元を指差す。
勇斗「他のやつが新品の簡易スーツに慣れるより、お前がそのボロで走る方が、よっぽど可能性あるって」
「たかが、人数合わせだろ?」
  確認みたいに聞くと、勇斗は即答した。
勇斗「人数合わせの中で一番戦力としてガチで期待してる」
  ああ、ズルい。
  そう言われると、ちょっと、いや結構、悪くない。
「俺素人だぞ?」
勇斗「素人でも代表なったら大会出られるんだぞ? そこで活躍したら、なんかスカウトとか来るかもよ〜?」
「あるかよ」
勇斗「ゼロじゃないだろ?」
  一瞬、脳裏に浮かんだのは、あのサイトの写真。
  タワー。専用コース。
  「パワードスーツ競技成績優秀者は〜」の、あの文字列。
(バカ言え。 ねぇよ)
  自分で打ち消す。
勇斗「なぁ頼むって。な? 先生にも言っとくからさ、バイトは時間調整して貰えるように新聞屋の親父に俺からも言っとくからさ〜」
  勇斗は頭下げてきて、周りも盛り上がる。
  断るのは簡単だ。
  「夢なんか見ない」って決めたばっかだ。
  でも・・・・・・
「一回だけな」
  気づいたらそう言っていた。
???「マジ!?」
???「スーツ野郎出るのか、動画撮っておこ」
  ちょっと後悔したのと同時に、胸の奥のどこかが小さく鳴った。
(パワードスーツで競う競技・・・)
  救助部隊とか訓練校より、よっぽど安っぽい、イベント的なやつ。
  でも、俺にとっては、あの日の「光」と同じ場所の匂いがした。

〇白い校舎
  放課後。
  仮設コースを遠目に見ながら、俺はスーツの膝を叩いた。
「今日だけ、頼むから最後まで動いてくれよ」
  ギギ、と情けない音がする。
???「ビビってる?」
  勇斗が肩を組んできた。
「うるせ、コケたらお前のせいな」
勇斗「おう! なんでも俺のせいでいいから全力で頼むぜ」
  こいつは本気でそう言ってる顔をしていた。
  コースの向こうでは、体育教師がタイマーを確認している。
  タワーなんかない。観客席もない。
  小さな町の、小さな仮設コース。
  どうせ人数合わせ
  どうせ一回きり
  そう言い聞かせながら。
  
  心のどこかで、もっと図々しい声が囁いてた。
(もしも、ここで証明出来れば・・・)
「・・・・・・バカか、俺」
  小さく笑ってスタート地点へ向かう。

次のエピソード:極限集中の目

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