恋はステップでキメろ

ファーマーズ

読切(脚本)

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〇空
  この世界では、ダンスは恋の言葉。
  昔、孔雀が羽を広げて求愛したように、
  人間も感情を「動き」で表す文化を発展させた。
  話すより、踊る。
  想いを伝えるなら、ステップで示す。
  それがこの社会の常識となっている。

〇教室の教壇
  (スマホを覗くクラスメイトたちのざわめき)
学生A「見た!? “#求愛ステップ男子”! 再生数3万超えてる!」
学生B「このステップ、どっかで見たことあると思ったら・・・ リョウじゃん!」
学生C「屋上でミナの名前呼びながら踊ってるやつだよね!?」
リョウ「ちょ、ちょっと待て!?」
リョウ「待て待て待て!あれは“練習”だ! 予行演習だ! 本番なんて来る予定ないのにぃぃ!」
学生A「うわー!風で髪なびかせてる!」
学生B「あのターン、孔雀みたい!」
ミナ「リョウ! あんた何してくれてんのよ!」
リョウ「違うんだミナ! あれは本当に偶然!」
ミナ「偶然で“求愛ステップ完全版”は踊れないのよ!」
リョウ「完全に未完成版だよ!」
リョウ「彼女はミナ。冷静でツッコミが鋭すぎる、俺の片想い相手」
リョウ「・・・・・・そして、たぶん今、俺の人生で一番冷えた視線を向けてる人」
ミナ「なんで“ミナ、見ててくれぇ!”って叫んだの?」
リョウ「・・・・・・気の迷い・・・・・・」
ミナ「気が迷って投稿バズるな!!」
レン「Yo〜、噂の“風の王子”じゃねぇか。バズりおめでとう、リョウくん♪」
リョウ「うるせぇチャラ神!」
レン「チャラ神って新しい宗教名か?」
ミナ「アンタたち、朝から元気すぎ!」
レン「コメント欄、“愛の暴風が尊い”って書かれてるぜ?」
リョウ「尊くねぇ!」
レン「でもさ、あの動画見て思った」
レン「お前・・・・・・ミナに本気なんだろ?」
リョウ「なっ!? そ、そんなわけ──」
ミナ「否定しなさいよ即答で!」
リョウ「い、今考えてた!」
レン「だったら勝負しようぜ」
レン「俺とお前で、 どっちが本気のダンスを見せられるか」
リョウ「なんでそうなる!?」
ミナ「勝負って何、また廊下で風起こすの!?」
レン「俺が勝ったら、ミナ。 次の文化祭、俺のペアになってもらう」
ミナ「はぁ!? 勝手に決めんな!」
リョウ「待て、それは断固拒否だ!」
  クラスメイトたちが「バトルだー!」「恋のステップ対決だー!」と盛り上がる。
  机のプリントが舞い上がり、教室に風が吹く。
ミナ「・・・・・・ちょ、また風!?」
リョウ「くそ、止まれ風ぇ!」
レン「フッ・・・・・・これが“恋風”ってやつだな」
ミナ「バカが二人・・・・・・」
リョウ「いいぜ、レン。 バズったついでだ、次はお前に勝ってやる!」
レン「言ったな。体育館で決着だ」
ミナ「ちょ、勝手にステージ決めんな!!」

〇学校の屋上
  (夕陽が傾く屋上。リョウがイヤホンで音楽を聴きながら踊っている)
  動きはぎこちない。
  ステップのたびに風が“ぷすっ”と漏れるように起こる。
リョウ「なんで俺だけ“風圧がズレる”んだよ・・・・・・!」
???「へくしっ! 風、寒っ!」
ミナ「あんた、ここでまたバズる動画撮る気!?」
リョウ「ち、違う! 練習だって!」
ミナ「・・・・・・あのね」
ミナ「普通“好きな人に告白ダンス”って、一発勝負なの」
ミナ「毎日練習してる人いないから」
リョウ「俺は・・・!」
  風でミナのスカートがひらっと
ミナ「リョウォォォ!!」
リョウ「す、すまん風の仕業!!」
レン「Yo〜、愛のレッスン中か、リョウくん?」
リョウ「なんでお前、いつも風と一緒に出てくんだよ!」
レン「俺の髪は風がないと動かないんだ」
ミナ「物理法則ねじ曲げんな」
  レンがリョウのスマホをひょいと奪って動画を再生。
レン「昨日よりマシだな。風圧がちょっと安定してる」
リョウ「勝手に見んな!」
レン「俺と勝負する以上、監視は必要だろ?」
ミナ「いつ勝負するって決まったのよ」
レン「今、ここでだ」
  レンがリョウにスマホを投げ返した
レン「明日、体育館で。 お前の“本気の求愛ダンス”を見せてみろ」
リョウ「・・・・・・逃げねぇよ!」
レン「いいね。俺が勝ったら、ミナは俺のペアになる」
ミナ「勝手に人を景品扱いすんなぁぁ!!」
リョウ「それは絶対に譲れねぇ!」
レン「じゃあ、明日だ。風、止めとけよ?」
リョウ「お前の髪型みたいに、無理だな」
ミナ「くだらない口ゲンカで空が曇るなぁ!」
ミナ「・・・・・・でも、ちょっとだけ、かっこよかったかも」

〇お祭り会場
  (体育館前はお祭り騒ぎ。なぜか屋台もある)
学生A「いよいよだ! “恋の求愛ステップ決戦”!」
学生B「うわ・・・ 公式でもないのに実行委員みたいなのできてる・・・」
リョウ「なんでたこ焼き屋あるの!? どこのイベント!?」
リョウ「もう無理。帰りたい。 穴があったら転校したい」
  ミナが屋台のチョコバナナを持ってきた
ミナ「リョウ、落ち着いて」
ミナ「・・・・・・ていうか、 なんで体育館前が文化祭みたいになってるの?」
リョウ「俺が聞きたい!」
ミナ「ていうか、まだ言ってなかったけど・・・・・・」
ミナ「“ミナ見ててくれ〜!”って叫んだ理由、 今ここで説明して?」
リョウ「・・・・・・風に乗って声が出ちゃった」
ミナ「風で告白が漏れる人生やめなさい!!」
リョウ「もうやめてる!!」
  そして二人ははしゃぎながら体育館に入った。

〇体育館の舞台
リョウ「もう約束した時間になったけど、 あいつはどこにいるんだ」
レン「Yo、待たせたな。 愛とダンスの申し子、神崎レン、降臨」
リョウ「勝手に降臨すんな!!」
レン「ところでリョウ・・・・・・ 今日は一段と風、吹いてんな」
  ドヤ顔した瞬間、レンの髪がブワァァッと上に立つ
ミナ「スタイリング剤どんだけ強いの!?」
レン「セットじゃない。愛の風だ」
リョウ「その愛、台風なんだわ!!」
  (生徒たちが円になってリョウとレンを囲む)
学生A「さぁ! ジャッジは拍手で決めまーす!」
学生B「勝ったほうが白石ミナに“公式求愛ステップ”できまーす!」
ミナ「公式って何!? 私の許可どこ!?」
リョウ「やめて!! 俺の人生にエフェクトつけないで!!」
レン「桜庭リョウ」
レン「お前、昨日の動画の急上昇ランキング、見たか?」
リョウ「見てねぇよ!」
レン「3位だ」
リョウ「なんでそんな報告されなきゃいけないの!!」
レン「・・・・・・今日さらにバズらせようぜ」
リョウ「いや、俺はバズりたくない!」
レン「じゃあ俺がバズる!」
ミナ「勝手にしてよ!? なんなのこの戦い!!」
  (生徒たちがスマホを一斉に向ける)
観客たち「3!2!1! ――ダンスバトル、スタートォォ!!」
  (音楽が鳴り響く──誰も流してないのに)
リョウ「・・・・・・なぁ、誰かこの“不可抗力文化祭”止めてくれ・・・・・・!!」
レン「行くぜ、リョウ。 恋と風と再生数のすべてを賭けてな!」
リョウ「お前だけ別ジャンル生きてるんだよ!!」
  (リョウとレン、謎の風を巻き起こしながら踊り始める)
ミナ「・・・・・・もう知らない!!」
  (カメラが引き、 なぜか体育館全体がフェス会場のように光り出す──)
  (体育館中央で向き合うリョウとレン)
レン「桜庭リョウ・・・・・・ 今日の俺はいつもの3倍チャラい」
リョウ「そこ強化する意味ある!?」
ミナ「もう風吹いてるけど!? 誰も踊ってないのに!?」
  レンのチャラターンがキラキラの風を巻き起こし、
  リョウの事故みたいなステップが巨大竜巻を生む。
レン「恋のストーム・チャラターン!!」
リョウ「俺そんな名前つけてねぇ!!」
ミナ「なんで体育館で災害起きてんのよ!!!」
レン「いくぜ・・・・・・ “チャラメント・フィナーレスピン”!!!」
ミナ「なんで虹っ!? 体育館、屋内ぃぃ!!」
  リョウも回り始めて竜巻が巨大化。
ミナ「この学校、絶対保険料上がる!!」
  (体育館の床が揺れるレベルの爆音)
観客A「これ恋バトルだよね? 災害じゃなくて?」
観客B「この学校、年に一回は滅びてる気がする」
ミナ「キャァ──────」
  (ミナが風に飛ばされそうになる)
リョウ「ミナァァ!!」
  (リョウ、竜巻の中から飛び出してミナを抱き止める)
観客たち「キャーー!!」
レン「・・・お前・・・やるじゃねぇか・・・・・・」
  (爆風の煙が散った)
ミナ「・・・・・・ほんとにやり切っちゃったね、リョウ」
リョウ「う、うん・・・・・・」
リョウ「まさか体育館で“告白ダンス選手権”が始まるとは思わなかったよ・・・・・・」
レン「フン・・・・・・負けたのは悔しいが・・・・・・」
レン「お前のダンス、割と・・・・・・いや、かなり・・・・・・面白かった」
レン「笑いすぎて腹筋が死んだ」
リョウ「褒められてるのかディスられてるのか分かんないな!?」
リョウ「っていうか、レンお前・・・・・・途中でコール&レスポンス求めてきたよな!?」
レン「演出だ」
ミナ「二人とも、もう仲良しじゃん」
「絶対に違う!!!」
ミナ「でもさ・・・・・・。 あの動画のことも、屋上のこともさ」
ミナ「全部ひっくるめて・・・・・・ 私、あれでよかったって思ってる」
リョウ「え・・・・・・?」
ミナ「だって・・・・・・あれがなかったら」
ミナ「リョウがあんな必死な顔で私のこと守ろうとしてくれるなんて・・・」
ミナ「知らないままだったもん」
リョウ「・・・・・・っ」
レン「・・・・・・なら、俺の役目はここまでだな」
リョウ「レン・・・・・・」
レン「勘違いするな」
レン「恋愛バトルは撤退するが、 “ダンスライバル”としては続行だ。 次は負けん」
リョウ「そこはまだ続くのかよ!!?」
ミナ「ふふっ・・・・・・リョウ、がんばってね」
リョウ「・・・・・・ミナが笑ってくれるなら、なんでもやるよ」
ミナ「じゃあ・・・・・・帰りに一緒にジュース買って帰ろ?」
リョウ「お、おう・・・・・・!」
レン「・・・・・・桜庭」
リョウ「ん?」
レン「ミナを泣かせるなよ。 泣かせたら、また体育館で決戦だ」
リョウ「安心しろ! 体育館はもう使いたくない!! 床がツルツルで滑るんだよ!!」
  (レンは笑いをこらえながら踵を返して去る)
ミナ「リョウー! 行こ!」
リョウ「・・・・・・よし。 屋上ダンスの黒歴史は残ったけど・・・・・・」
リョウ「それでも今日、守りたかったのはミナの笑顔だ」
リョウ「わかったー! 今行く!」
  ――こうして、
   桜庭リョウの“黒歴史ダンス事件”は幕を閉じた。
  でも、ミナとの距離がちょっと近くなった気がして、
   リョウはまんざらでもなかった。

コメント

  • 超絶に、バカバカしく、ぶっ飛んだ、独特の設定だが、非常に丁寧に作られているので、受け入れてしまえる。演出、エフェクトが効果的かつ豊富に使われており、これでもかと作者のこだわりを感じる。動かない立ち絵を、竜巻などの演出によって、プレイヤーにダンスシーンを想像させられているのは大したもの! ありえない世界観に、説得力を持たせている。また、セリフのひとつひとつも面白い。

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