第一幕『今日香の過ち』(脚本)
〇会見場
司会者「それでは・・・発表いたします」
〇黒
いよいよね
〇会見場
司会者「朝の連続ドラマストーリー 『おいなりさん』」
司会者「主演を務めますのは・・・」
〇黒
あたし、とうとう
〇会見場
司会者「この方です!」
〇黒
スターになるの──
〇会見場
〇会見場
関係者「ひぇー、園山かぁ・・・」
関係者「デビューから1年半で 朝ドラヒロイン・・・」
関係者「ま、だが納得ではあるな、 今の彼女の勢いと実力なら──」
関係者「だが、惜しむらくは・・・」
関係者「一度見てみたかったな」
関係者「園山姉妹の共演を──」
〇黒
こんな日が来るなんて
あの夜の絶望から考えると夢のようだ
そう、あの夜の──
〇黒
「・・・もしもし、田所さん?」
「今すぐあたしの家に来て!」
「とにかく急いで!」
〇綺麗な部屋
田所「なっ・・・!」
田所「・・・」
田所「どういうことだ、今日香?」
今日香「・・・あたし」
今日香「殺すつもりなんて、なかったの──」
〇綺麗な部屋
大輔「どういうことだよ!別れたいって──」
今日香「・・・なんだか退屈なの」
今日香「大輔といても──」
大輔「はぁ!?」
今日香「大学卒業して、 女優の道に足を踏み入れて」
今日香「運よくお仕事ももらえてさ」
今日香「周りを見れば、 憧れていた人たちがたくさんいて──」
今日香「大輔と恋人同士だった5年間、 それはそれでとっても楽しかったよ」
今日香「でも、あたし・・・ なんだか物足りなくなっちゃった」
今日香「大学の演劇サークルの頃とはもう違うの」
今日香「就職してサラリーマンになった大輔とは、 もう見ている世界が違うのよ──」
大輔「そんなの・・・」
大輔「納得できるかよ!」
今日香「ごめん、身勝手なのはわかってる」
今日香「でも、これ以上 自分の気持ちに嘘はつけない──」
大輔「天狗になってんじゃねぇよ!!」
大輔「ちょっと芝居が評判になって メディアに取り上げられたからって・・・」
大輔「調子に乗んな!!」
今日香「はぁ!?そんなんじゃないわよ!」
今日香「まぁなにを言っても・・・」
今日香「ただのサラリーマンの大輔には わかんないでしょうけどね!!」
大輔「・・・」
大輔「ふざけんな!!」
大輔「俺だって!俺だってな──」
今日香「ちょ!ちょっと!」
大輔「俺だってな、一生懸命──」
今日香「来ないで!」
大輔「今日香!」
今日香「やめてぇっ──!!」
〇綺麗な部屋
田所「・・・なるほど、ね」
田所「芸能マネージャーやってウン十年・・・」
田所「男と女のすったもんだは あれこれ腐るほど見てきたけど」
田所「殺しちまったのは アンタが初めてだよ──今日香」
今日香「自首・・・します──」
田所「自首ねぇ・・・」
田所「仮に執行猶予がついたとしても 数年の活動自粛は免れまい」
田所「それが明ける頃にはアンタもう三十路だ」
田所「しかも前科持ち──」
田所「そんな女優を使いたいと思う 酔狂なプロデューサーなんているかねぇ」
今日香「・・・」
今日香「おわ・・・り」
今日香「もう、終わりよ──」
今日香「・・・スター女優になりたかった」
今日香「なれると思ってた」
今日香「思ってた・・・のに──」
田所「まぁ・・・こうなりゃ アンタも死ぬしかねぇなぁ」
今日香「ええ、そうね・・・死ぬしかないわ」
今日香「・・・え?」
田所「園山今日香は・・・死んだ」
田所「そして、生まれ変わるんだ──」
田所「双子の妹、園山明日美として!」
〇黒
つ づ く