この手術が成功したら(脚本)
〇黒
「あの・・・」
「ボク、決めてるんです」
「この手術が無事成功したら」
「・・・彼女と結婚しようって」
〇病院の診察室
園田「・・・」
園田「は?」
橋本「いや、ですから、 園田さんの手術が成功したら」
橋本「彼女に結婚を申し込もうと」
園田「・・・あのさ、先生」
園田「それは普通、患者側が言うセリフだろ?」
橋本「園田さん、何度かお話ししましたがね」
橋本「今回の心臓バイパス手術は 非常に難しいんです」
橋本「成功率は5割、いや4割・・・」
橋本「もしかしたら3割・・・」
園田「やめてくれよ・・・心臓に悪い」
橋本「もう十分悪いんです、園田さんの心臓は」
橋本「ですから、ボクも全力で執刀します!」
橋本「そして、成功したあかつきには・・・」
橋本「彼女と結婚しようと」
園田「・・・」
園田「さっぱりわからん」
園田「・・・あのよぉ先生」
園田「こんな独り身のおっさんの 手術の結果なんか気にしねぇで」
園田「結婚したけりゃすりゃいいじゃねぇか」
橋本「・・・ボク、昔から 自分に自信が持てないんです」
橋本「どうせ失敗するんじゃないかなんて やる前からあれこれ考えてしまって」
橋本「だから、結婚して 彼女を幸せにできるかも自信がなくて」
園田(コイツに手術を任せて大丈夫なのか?)
橋本「でも、園田さんの手術が成功すれば、 ボクにとって大きな自信になります」
橋本「病院内外での評価も上がり、 医師としての未来は明るいものとなる」
橋本「そうなればやっと、 彼女と一緒になる決心がつく・・・」
橋本「この手術は、ボクの人生の ターニングポイントなんです!」
園田「・・・オレの人生の ターニングポイントでもあるけどな」
橋本「ええ・・・ですから命がけで挑みます!」
園田「いや、かけてるのオレの命・・・」
「失礼します」
高島「田辺先生、504号室の中山さんが 治療方針について相談があるそうです」
橋本「わかりました、30分後に 診察室に案内してください」
高島「はい、では・・・」
高島「失礼します!」
橋本「・・・」
園田「アイツだろ? 彼女って」
橋本「ち」
橋本「違います」
園田「いやいや、今の様子は明らかにそうだろ」
橋本「プライベートな質問にはお答えできません」
園田「いや、さっき一番のプライベート情報を 自分からオレに・・・」
橋本「ちょっと失礼」
橋本「・・・」
橋本「今夜はカレーかぁ」
園田「同棲してんだろ」
橋本「・・・すいません、 病院には秘密なんで、くれぐれも内密に」
園田「いや、たぶんバレてるぜ・・・ 漏れてるもん、浮かれ具合が」
橋本「そうですかね?」
橋本「ボクもりなぴも 普通にしてるつもりなんですが・・・」
園田「りなぴって普通に言っちまってるもん」
園田「まぁでもいいじゃねぇか、 結婚するんなら遅かれ早かれバレるよ」
橋本「それは園田さんの手術の結果次第です」
園田「だから、それとこれとは話が・・・」
園田「それによぉ、もし、もし万が一だけど」
園田「・・・手術失敗したらどうすんだよ?」
橋本「・・・」
橋本「別れます」
園田「・・・」
園田「なんで?」
園田「い、いや、別れるこたねぇだろうよ」
橋本「手術ひとつ成功できない男が・・・」
橋本「彼女を幸せにできると思いますか!?」
園田「・・・なんかズレちゃってんだよなぁ、 ストイックさの方向性が」
橋本「とにかく、ボクの中では そう決めてるんです」
橋本「・・・さ、では本日の診察はじめますか」
園田「前置きなげぇよ」
橋本「これも、 インフォームドコンセントの一環です」
園田「インフォームドコンセントって こういうのも含まれんの?」
〇黒
一週間後・・・
〇病室(椅子無し)
橋本「いよいよですね、園田さん」
園田「頼むよ先生、 オレの命はアンタにかかってんだ」
橋本「あ、そうだ」
橋本「手術の前に、お見せしたいものが・・・」
橋本「婚約指輪です」
園田「・・・」
園田「おい!」
橋本「手術が成功したら、 その場でりなぴに渡すつもりなんです」
園田「その場で?」
橋本「ええ、サプライズで」
園田「サプライズすぎるだろ」
橋本「あ、もちろん、園田さんの 術後の処置が終わってからですよ」
園田「当たり前だろ・・・ 血まみれの手で渡されたらホラーだよ」
橋本「・・・園田さん」
橋本「もうボクたちは、運命共同体なんです」
橋本「この手術を乗り越えて、 一緒に幸せになりましょう!」
園田「・・・」
園田「いや、オレにプロポーズ してるみてぇになってるから」
〇黒
その後、麻酔が効いたオレは、
暗闇へと落ちていった
〇手術室
「・・・」
園田「・・・」
園田「なんだよこれ?」
園田「・・・手術台の上にオレがいる」
園田「ってことは、オレ、まさか・・・」
園田「死・・・」
「・・・」
園田「お、おい! なんとか言ってくれよ!」
園田「・・・聞こえてねぇのか?」
橋本「・・・」
橋本「別れよう」
園田「・・・」
園田「そこは『御臨終です』だろ!」
橋本「皆さんすいません」
橋本「りなぴ・・・高島さんと2人きり」
橋本「いや、園田さん含めて 3人きりにしてもらえませんか?」
園田「どんな申し出だよ」
園田「お、おい! みんなもあっさり従うのかよ!」
高島「・・・」
高島「別れよう、ってどういうこと?」
園田「りなぴ、しっかり聞いてた!」
橋本「実は、決めていたんだ」
橋本「園田さんの手術が無事成功したら・・・」
橋本「りなぴにプロポーズしようって」
高島「・・・」
高島「は?」
園田「そのリアクションで正解だと思うぜ」
橋本「この手術が成功すれば」
橋本「ボクも医者として、ひとりの男として、 少しは自信が持てるかなって・・・」
橋本「でも・・・ダメだった」
橋本「これで病院の待遇は しばらく冷たいものになるだろう」
橋本「そんなんじゃ、 りなぴを幸せにはできない」
橋本「だから・・・別れてくれ」
橋本「君にはもっと、ふさわしい人がいるはずだ」
高島「そんなの勝手すぎるよ!」
高島「タケタケは、いっつもそう! ひとりで勝手に突っ走って・・・」
園田「・・・タケタケって呼ばれてんだ」
橋本「ごめん、でももう決めたことだから・・・」
高島「なんでよ!」
高島「園田さんじゃなくても、 他の手術なんて腐るほどあるじゃない!」
園田「・・・言い方」
橋本「ダメだ・・・この難しい手術を 乗り越えてこそだったんだ」
橋本「あ」
橋本「16時34分、御臨終です」
園田「・・・今言う?」
高島「・・・」
高島「わたしたちの愛も、御臨終?」
園田「・・・りなぴ?」
橋本「・・・ああ」
高島「やり直せない?」
橋本「無理だね」
高島「もう、脈はないの?」
橋本「・・・見りゃわかんだろ」
園田「・・・」
園田「うまいねぇ」
園田「いや、言ってる場合か!」
高島「・・・さよなら」
園田「お、おい!りなぴ!」
橋本「う、うう・・・りなぴ・・・」
園田「号泣しとる!」
橋本「・・・園田さぁん」
橋本「なんでアンタ死んだんだよぉぉぉっ!」
橋本「ううう・・・」
園田「・・・なんかオレ恨まれてねぇ? 半分先生のせいで死んでんのに」
橋本「この悲しみ・・・胸が張り裂けそうだ」
園田「開胸した遺体の横で よくそんなこと言えるよね」
橋本「まさにハートブレイク」
園田「うるせぇよ!」
橋本「もうこれは・・・ボクには必要ない」
橋本「園田さん、ボクからの餞別です」
橋本「・・・さよなら」
園田「海に捨てるみたいに オレの開いた胸に指輪放り投げんな!」
橋本「うう・・・りなぴ・・・ 別れたくない・・・」
園田「・・・」
園田「でも、なんか責任感じちまうな」
園田「なんとか・・・生き返れねぇかな?」
園田「要はこの魂の状態のオレが 体にもう一回入ればいいわけだから・・・」
園田「ぬぅん・・・」
園田「せいっ!」
園田「・・・ダメだ、すり抜けちまう」
園田「もう一回・・・」
園田「ふんぬぅっ!」
園田「くそっ!」
園田「・・・入れ」
園田「入れっ!」
〇黒
「入れっ!」
〇病室(椅子無し)
園田「入れぇぇぇぇぇっっっ!!」
園田「・・・」
園田「え?」
高島「園田さん、目が覚めましたか」
園田「・・・ほえ?」
橋本「随分うなされてましたね」
橋本「まぁ、麻酔がとける時に夢うつつの状態に なるのはよくあることです」
園田「・・・」
園田「ってことは?」
橋本「成功ですよ!」
橋本「手術も・・・」
橋本「プロポーズも!」
園田「あ、りなぴ・・・ いや、看護師さん、それ・・・」
高島「ふふ、りなぴでいいですよ」
橋本「紹介します・・・妻です」
園田「・・・早ぇよ」
園田「ま・・・でも、よかった」
高島「園田さん、全部ご存知だったんですってね」
高島「わたし、全然知らなくて・・・」
高島「指輪出された時は びっくりしすぎちゃって」
高島「こっちの心臓が止まるかと思いました!」
橋本「おいおい、ブラックジョークすぎるって」
橋本「すいません・・・ウチの家内が」
園田「だから早ぇって」
橋本「園田さん、お願いがあります」
橋本「ボクたちの婚姻届の 証人になってもらいたいんです」
園田「・・・オレが?」
橋本「だって、結婚できるのは」
橋本「園田さんが手術を乗り越えてくれた おかげなんですから!」
高島「わたしからもお願いします!」
園田「いや、まぁ・・・」
園田「わかったよ」
橋本「・・・」
橋本「では、早速お願いします!」
高島「今日、大安なんで!」
園田「・・・」
園田「は?」
橋本「腕、もう動かせます? アレだったら薬投与しましょうか?」
高島「ジャマなら、体に繋がってる管とか 全部はずしますんで!」
園田「・・・やれやれ」
園田「心臓に毛の生えたヤツらだぜ」
〇黒
お し ま い
園田が亡くなってプロポーズも失敗……。😭
と思ったら夢オチで安心しました。😅
手術もプロポーズも成功して良かった良かった。
職場で結ばれた2人の夜の手術が楽しみですね。←やめないか!
執筆お疲れ様です。
最初タイトルから見て「あれ、死亡フラグなのかな?」て思って内容をじっくり見たら、まさかの患者さんの手術でりなぴのプロポーズ決めるというギャグな展開でした。
まあ患者さんの手術は成功できたしプロポーズも成功できたので良かったと思います!