エピソード6(脚本)
〇黒
カズミーは俺たちを認めると、何も言わず父親を家の中に押し込めて、分厚い玄関の扉を閉めてしまった。
〇ボロい家の玄関
秋山裕介「なあ! なんとか言えよ!」
秋山裕介「かわいい生徒がわざわざ来たんだぞ!」
〇広い玄関(絵画無し)
佐々木和美「帰って」
「ふざけんなよ! ちゃんと説明しろよ!」
佐々木和美「あんたたちに説明する義理なんて、何もないでしょ!」
佐々木和美「人の家族に口出ししないで!」
〇ボロい家の玄関
井戸端学「もういいよ、裕介。 帰ろうよ」
秋山裕介「おい! カズミー! お前、それでも教師かよ!」
井戸端学「ねえ! 裕介ってば!」
伊藤伸生「ほっといて!」
秋山裕介「・・・っ!」
伊藤伸生「裕介・・・」
秋山裕介「・・・・・・」
霧島由美「あんたたち・・・和美ちゃんの?」
井戸端学「?」
伊藤伸生「ボクたち、函館第3小の6年2組です」
霧島由美「そうなの。 良かったら、おばさんの家に来ない?」
霧島由美「和美ちゃんも、佐々木さんも今はそっとしておいた方がいいと思うの」
伊藤伸生「いや、でも・・・」
霧島由美「今日七夕でしょ、お菓子もたくさんあるのよ」
井戸端学「お菓子!?」
伊藤伸生「がっつくな、バカ」
霧島由美「どうぞ、こちらへ」
秋山裕介「・・・・・・」
〇昔ながらの一軒家
〇実家の居間
霧島由美「そっか。 和美ちゃんが心配で、わざわざ函館から」
伊藤伸生「いえ、心配というか」
霧島由美「和美ちゃんもお父さんに似てる、いい先生やってるのねえ」
秋山裕介「いい先生、っていうか、むしろ悪魔?」
霧島由美「え?」
伊藤伸生「あ、あの!」
伊藤伸生「カズミー・・・いや、和美先生のお父さんって学校の先生だったんですか?」
霧島由美「そうなの。 最後は校長先生もやってたんだけどねえ」
霧島由美「厳しくて、鬼だ鬼だなんて、子どもたちに怖がられていたけど、本当は子供想いの良い先生だったわね」
井戸端学「さすがに血は争えないねー」
霧島由美「?」
伊藤伸生「な、なんでもないです」
霧島由美「でも今は・・・ちょっとね」
伊藤伸生「あれは・・・やっぱり、その」
霧島由美「事故があったの」
霧島由美「キャンプ中にね。 佐々木さんは、もう先生引退してたのに、ボランティアで付き添ってたって」
霧島由美「佐々木さんがちょっと目を離した隙に、男の子が川で溺れちゃって・・・それで」
「・・・・・・」
霧島由美「佐々木さん。責任感強いから」
霧島由美「それで、色々背負いこんでしまって・・・最近は軽い痴呆症みたいになって」
「・・・・・・」
霧島由美「奥さんの佐知子さんも、介護に疲れちゃったのかな。家を出てったみたいで」
霧島由美「今は和美ちゃんが戻ってるんだと思う」
伊藤伸生「・・・じゃあ、和美先生はお父さんのために」
ガン、っとテーブルを叩く音。
秋山裕介「関係ねえよ!」
秋山裕介「生徒がわざわざ来てんのに、追い返すなんてありえん!」
部屋を飛び出していく裕介。
伊藤伸生「おい、裕介、まてよ」
伊藤伸生「・・・すみません、失礼します」
井戸端学「ま、待ってよ二人とも・・・」
井戸端学「あ・・・」
部屋を出て行こうとする学。そのとき、テーブルの上のお菓子が目に入る。
井戸端学「・・・・・・」
霧島由美「ふふ、全部持ってっていいわよ」
井戸端学「あ、ありがとうございます!」
〇広い公園
秋山裕介「・・・くそっ!」
伊藤伸生「おい、裕介! 失礼だろ?」
秋山裕介「・・・うるせえなあ、いちいち説教すんな」
伊藤伸生「・・・・・・」
秋山裕介「ムカつくんだよ。 カズミーも、カズミーの父ちゃんも」
秋山裕介「自分を後回しにして、誰かのために動いて、勝手に背負って、苦しんで・・・」
秋山裕介「本当は自分が一番苦しいくせに、助けてほしいくせに」
伊藤伸生「大人になるってそういうことだろ。 素直じゃいられないってことだろ」
秋山裕介「なんだよ、偉そうに! 自分は大人のつもりかよ!」
伊藤伸生「そんなんじゃねえよ!」
伊藤伸生「大事な人だから、傷つけたくねえから、本音を言わないことだってあんだろ!」
秋山裕介「大事な人に、本音を話してもらえない気持ちが、お前に分かんのかよ!」
伊藤伸生「!?」
秋山裕介「東京に行くんだろ! 函館、出てくんだろ!!」
伊藤伸生「・・・知ってたのか」
秋山裕介「当たり前だ!」
秋山裕介「カズミーも、お前も大嫌いだ!」
伊藤伸生「聞け、裕介」
伊藤伸生「ボクは——」
裕介に手を差し伸べる伸生。
裕介はその手を——払いのける。
伊藤伸生「・・・・・・」
秋山裕介「お前、何様だよ!」
〇広い公園
井戸端学「!」
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