7月6日のスタンド・バイ・ミー

YO-SUKE

エピソード7(脚本)

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〇タクシーの後部座席
「・・・・・」
伊藤正樹「な、なんだか学くん、頼もしかったな。 俺、行ってきますんで、なんて」
伊藤伸生「学は、ああ見えて大事なときは役に立つんだ」
伊藤正樹「そうか」
伊藤伸生「それより、迎えに来るの早かったね」
伊藤正樹「そりゃあまあな。 お前が帰ってくるの、ずっと待ってたし」
伊藤伸生「・・・・・・」
伊藤正樹「今日、お母さんの命日だろ」
伊藤伸生「覚えてたんだ」
伊藤正樹「当たり前だ、はは」
伊藤伸生「ねえ、お父さん」
伊藤正樹「うん?」
伊藤伸生「ボク、東京に行くことは全然嫌じゃないよ。 お父さんは好きな仕事をすればいいし、ボクはもっといい環境で勉強ができるんでしょ」
伊藤正樹「まあ、そうだな」
伊藤伸生「これでもボク、一応エリートで通ってるからね」
伊藤正樹「そうか」
伊藤伸生「ただ・・・東京に行ったら、お母さんと過ごしたこの街や、裕介たちのことを忘れてしまうんじゃないかって、それが怖い」
伊藤正樹「・・・・・・」
伊藤伸生「そういうのって変かな?」
伊藤正樹「変じゃないさ。普通だよ。 大人だって同じだと思う」
伊藤伸生「・・・・・・」
伊藤正樹「でも、なんとなく、だけどな」
伊藤正樹「俺は伸生も、裕介くんたちも、決してお互いを忘れるようなことはないと思うな」
伊藤伸生「なんでそう思うの?」
伊藤正樹「だって、あんなにボロボロになるまで喧嘩をしたんだろ?」
伊藤伸生「喧嘩したことが重要?」
伊藤正樹「ああ。だって、本当に相手を怒ってなかったら、喧嘩なんてできないぞ」
伊藤伸生「・・・・・・」
伊藤正樹「大事に思うから、歯がゆいし、悔しいんだろ?」
伊藤正樹「そういう想いは、ずっと消えないよ」
伊藤伸生「・・・・・・」
伊藤正樹「俺も、先に逝っちまった母さんに、言いたい文句が山ほどある」
伊藤伸生「お母さんも、お父さんに文句たまってるだろうね」
伊藤正樹「それはまあ、そうだな」
伊藤伸生「たとえば今日一日だけでも、会話できたらいいのにね、織姫と彦星みたいに——」
伊藤伸生「・・・・・・」
伊藤正樹「どうした?」
伊藤伸生「そうか! わかった! 7月7日、七夕だ! この手があった!」
伊藤正樹「いったいどうしたんだ?」
伊藤伸生「ねえ、お父さん」
伊藤正樹「ん?」
伊藤伸生「できるかどうかは分からないけど、やってみたいことがあるんだ」
伊藤伸生「裕介と学が一緒なら、なんとかなるんじゃないかって」
伊藤正樹「やってみたいこと・・・?」

〇市街地の交差点
秋山裕介「・・・ッ!」
井戸端学「子どもかよー」
秋山裕介「うるせえ。ほっとけ」
井戸端学「てか裕介知ってたんだね、伸生のこと」
秋山裕介「隠せてるつもりかよ、バカ」
井戸端学「伸生、ああいう奴だからさ、素直に言えないだけだろ?」
秋山裕介「・・・・・・」
井戸端学「・・・裕介?」
秋山裕介「なんか、じいちゃんのことを思い出しちゃうんだよ、俺」
井戸端学「・・・・・・」
秋山裕介「じいちゃん、もうずっと病気で悪かったのに、大丈夫って」
秋山裕介「いつも同じように漁に出て、俺と遊んで」
秋山裕介「なのに、本当は全然大丈夫じゃなくて、病気であっさり死んじゃってさ」
井戸端学「・・・・・・」
秋山裕介「・・・だから、なんていうか、嘘ばっかついてる奴が許せないんだ、俺」
井戸端学「でも、嘘をつくのは傷つけたくないからだろ? みんな、裕介のためじゃないか」
秋山裕介「カズミーもか?」
井戸端学「うん、カズミーも」
秋山裕介「・・・・・・」
井戸端学「それに昔、母ちゃんが言ってたぞ。 女は特に嘘つきだから、男はそれを許さなくちゃいけないんだって」
秋山裕介「・・・・・・」
井戸端学「なあ、裕介。思い切って目的を変更して、俺たちでカズミー救おうぜ」
秋山裕介「はあ?」
井戸端学「悪を退治することだけが勇者じゃないだろ? 弱っている人を助けるのも勇者じゃん」
秋山裕介「バカ言うな! 救うってどうすんだよ」
秋山裕介「それにカズミーだけの問題じゃないだろ。 カズミーの親父はどうすんだ?」
井戸端学「そこをなんとかするのが裕介だろ?」
秋山裕介「ふざけんな! なんとかなるか!」
「まあ、裕介じゃ無理だな」
「!」
伊藤伸生「裕介じゃ偏差値的に無理」
秋山裕介「うっせぇ! お前は黙ってろ!」
伊藤伸生「学も無理。汗かくだけで終わる」
秋山裕介「じゃあ、お前ならなんとかできるっていうのかよ?」
伊藤伸生「ボクも無理だ」
秋山裕介「・・・なんだよ、偉そうに。 結局無理じゃねぇか」
秋山裕介「帰ろうぜ、学」
伊藤伸生「でも・・・三人ならできる」
「?」
伊藤伸生「3人ならカズミーも、カズミーのお父さんも、みんな助けられる。どうする?」
秋山裕介「どうするって、偉そうに言うからには、策があんだろうな」
伊藤伸生「ボクの脳内コンピュータを見くびってもらっちゃ困る」
井戸端学「ねえ、裕介!」
秋山裕介「わかったよ! うっせえな!」
  手を前へと差し出す裕介。
  学と伸生の二人は、目を見合わせて笑う。
  そして学と伸生も手を差し出し、三人の手が折り重なった。

〇タクシーの後部座席
  正樹が運転するタクシーに乗っている、裕介、学、伸生の三人。
秋山裕介「お前、バカか!」
井戸端学「そんなことできるわけないよ!」
伊藤伸生「できる。日没まであと8時間もある」
秋山裕介「時間の問題じゃねえ!」
井戸端学「ほとんど奇跡じゃん!」
伊藤伸生「奇跡は起こる」
秋山裕介「だからその自信はどこから来る!?」
伊藤伸生「今日が7月7日だから」

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