天使(脚本)
〇レトロ喫茶
小雀音羽「私は首を絞められて気絶してたらしいわ」
小雀音羽「これで運よく息の根を止められるまではなかった」
笹本蓮「事件当時、音羽さんは犯行を起こした五十嵐によって助けられていた」
笹本蓮「しかも、事件の通報者も彼」
和泉玲「え!自分で殺しておいて?」
小雀音羽「ええ、ここでまず不自然でしょ」
和泉玲「親父もここは引っかかってたの?」
笹本蓮「ああ、だから独自に調査をしてた」
笹本蓮「五十嵐ではなく、三好を首謀者として」
「え・・・」
和泉玲「なんで?なんで三好さん?」
小雀音羽「ありえない。殺す理由なんてない」
笹本蓮「だから言ったんだ。三好には近づかない方が良いって」
笹本蓮「音羽さん、君があげてくれた「通り魔」もそう」
笹本蓮「関係性は薄いにしても、深く深く見ていけば必ず『三好』がいた」
小雀音羽「・・・」
和泉玲「で、でも確証はないだろ?」
笹本蓮「そう、だから捕まえられなかった」
小雀音羽「確証がないなら、違う可能性もある」
小雀音羽「そうでしょ?」
笹本蓮「だけど、音羽さん」
和泉玲「誰?」
笹本蓮「ごめん、俺だ」
笹本蓮「失礼」
和泉玲「──大丈夫?」
小雀音羽「何が?」
和泉玲「めっちゃ苦しそうだけど」
小雀音羽「大丈夫、気にしないで」
和泉玲「けど」
小雀音羽「大丈夫だから!」
小雀音羽「帰りましょう」
和泉玲「あ、うん」
笹本蓮「帰るか?ごめんな引き止めて」
和泉玲「いや、大丈夫っすよ」
笹本蓮「おじさん、要請きたから行かなきゃ」
和泉玲「お金は?」
笹本蓮「俺が払う。ほら、気をつけて帰るんだよ」
和泉玲「う、うん」
笹本蓮「あと、音羽さん。これ以上は踏み入らない方がいい」
笹本蓮「事件は終わった。これでいいだろ」
小雀音羽「・・・」
和泉玲「音羽ちゃん?」
小雀音羽「何も、終わってない」
和泉玲「音羽ちゃ」
小雀音羽「何も終わってない!!」
小雀音羽「なんで、いつも。子供だから?」
和泉玲「落ち着こ?ね?」
小雀音羽「貴方に何がわかるのよ」
和泉玲「・・・」
小雀音羽「・・・・・・」
小雀音羽「ごめんなさい。はしたなかったわね」
和泉玲「いや、大丈夫」
〇街中の道路
和泉玲「暗くなったね」
小雀音羽「うん」
和泉玲「じゃあ、俺こっちだから。おやすみ音羽ちゃん」
小雀音羽「おやすみ」
和泉玲「・・・貴方に何がわかるの、か」
和泉玲「何も、わかんねえな。俺」
〇マンションのエントランス
翌日の朝
小雀音羽「・・・」
〇おしゃれなリビングダイニング
三好「雨すごー」
「次のニュースです」
「昨日昼頃、女優の日向花子さんが亡くなっているのが確認されました」
「死因は薬物中毒と見られています」
三好「・・・きったな」
三好「ヤクなんて、なんでしようと思えんだろ」
三好「ん?誰だ」
三好「こんな日に誰か呼んだか?」
〇シックな玄関
三好「はいはーい。どなたですか」
三好「・・・マサの」
三好「開けたよ、入りな」
小雀音羽「お邪魔します」
三好「珍しいね、家来るなんて」
小雀音羽「・・・」
三好「うお!」
三好「どうしたぁ?急に抱きついて」
小雀音羽「・・・も、やだ」
三好「え?」
三好「お、音羽ちゃん?」
三好「・・・」
小雀音羽「三好、さん」
小雀音羽「えっぐ・・・ぐす」
三好「とりあえずおいで。体拭かなきゃ。風邪引くぞ」
小雀音羽「はい」
〇おしゃれなリビングダイニング
三好「はいどうぞ」
三好「ごめんねー、俺コーヒー派なんだ」
小雀音羽「ありがとうございます」
音羽はコーヒーを受け取ると一口飲んだ
三好「コーヒーには角砂糖2つ。ミルクはなし」
三好「だよね?」
小雀音羽「よく覚えてましたね」
三好「大事な親友の形見だぜ?覚えてるよ」
小雀音羽「・・・お優しいですよね」
三好「よく言われるw」
小雀音羽「・・・」
三好「・・・」
三好「で、なんかあった?」
小雀音羽「・・・」
三好「あ、彼氏くんに振られた?」
小雀音羽「違います」
小雀音羽「あの・・・」
三好「ん?」
小雀音羽「・・・貴方から見た父はどんな方でしたか?」
三好「俺から見たマサか」
三好「んー」
三好「いいよ、久々に話そうか。マサのこと」
〇音楽室
俺とマサが出会ったのは、音楽室だった
白鳥昌仁「・・・」
あーマサでわかる?
そ、わかるか。いつもさ、昼休みになると綺麗なピアノが聞こえてた
三好「ここか」
近づけば近づくほど、旋律はより大きくなる
音楽室のガラス越しに、ピアノを弾く青年をとらえた
マサのピアノは何の混じり気のない綺麗な音だった。柔らかく、儚く、何より芯の強さを感じる。
三好「すげぇ綺麗」
音を立てぬよう、静かに中に入った。
白鳥昌仁「・・・!」
曲も終盤に近づき、彼の演奏にも熱が入る
最後の音を作り出したその時、強風が音楽室を吹き抜けた
白鳥昌仁「・・・!!」
三好「──!!」
俺は目を見開いた。
宙を舞う羽根のような楽譜
白木カーテンを纏い恍惚とした表情で天を仰ぐ彼の顔。
三好「天女だ」
白鳥昌仁「え・・・誰?」
三好「あ、ああごめん。なんか手出ちゃって」
白鳥昌仁「う、うん」
これが、俺とマサとの関係の始まりだった
〇おしゃれなリビングダイニング
三好「あのあと、一緒に落ちてた楽譜拾ってさ」
三好「ほんと忘れらんないのはあの顔だよ」
小雀音羽「顔?」
三好「うん」
〇音楽室
三好「お前、めっちゃうまいんだなピアノ!」
三好「透き通るみたいに儚くて、熱さも感じて・・・」
三好「俺、演奏きいてこんなになったの初めて!」
白鳥昌仁「ふふっありがとうございます」
ほんと、綺麗な笑顔だった。なんの代償も求めない純粋な笑顔
三好「俺、お前の演奏に惚れたわ」
白鳥昌仁「えっ」
三好「これから毎日聴きにくる。んで、お前のことも知りたい!」
白鳥昌仁「・・・」
三好「あれぇ?白鳥さん、照れてます?」
白鳥昌仁「う、うん。褒められたのが嬉しくて」
白鳥昌仁「私、将来作曲家になりたいんです」
三好「作曲家」
白鳥昌仁「はい」
白鳥昌仁「私はたくさんの幸福の中で生きています」
白鳥昌仁「だから、私はその幸せをお裾分けしたいのです」
三好「・・・」
白鳥昌仁「だから、貴方の心に届いて本当に良かった」
微笑んだ瞬間、羽が舞った
嘘じゃない。本当に俺にはそう見えたんだ
この世の宗教画のモデルはコイツなんじゃないかって思うぐらい、神々しかった
〇おしゃれなリビングダイニング
三好「これが、俺とマサの話」
小雀音羽「そうなんですね」
小雀音羽「お父様は何も変わっていなかったのですね」
三好「ああ、あいつはほんと純粋な奴だったよ」
三好「うん」
徐々に三好の顔が曇っていく。
小雀音羽「どうかしたんですか?」
三好「あ、いやちょっと思い出してさ」
三好「知ってる?あいつが誘拐されかけた時の」
小雀音羽「えっ」
小雀音羽「高校生男子を誘拐ですか?」
三好「いや、違う。確か、26歳男性」
小雀音羽「は?」
〇街中の道路
三好「あー疲れた。プロデューサーも大変なんだなぁ」
その頃俺は駆け出しでさ、まだ事務所にはいたんだけど
成長期ぐらいな感じ
三好「あのオッサン飲みまくってたなあ」
三好「結局深夜で終電ないし」
三好「家の近くでよかったー」
三好「ん?」
遠くに人影が見えた
珍しいなって思ったたら、なんか見覚えあって
三好「あれ?マサじゃん」
三好「なんでいんの、深夜なんだけど」
男「ちょっと、道を教えてくれませんか?」
白鳥昌仁「はい、いいですよ?どこですか」
男「このお店なんですけどね」
男とマサが話をしてた
どうやら道を尋ねてるらしかった。普通だったら『お人好しだな』だけでよかったんだけど
三好「あれ?あいつの顔どこかで」
三好「あ」
三好「マサ・・・!!」
久々に走ったな、あん時
男「ごめんね、やっぱ道がわからなくて」
男「できれば、一緒に乗って案内してくれないかい?」
白鳥昌仁「一緒にですか?」
男「ああ、できればでいいです。乗ってくれたら、家まで送りますよ」
白鳥昌仁「いえ、とんでもない」
男「さ、乗ってください。早く。会わなきゃいけない人がいるんです」
白鳥昌仁「・・・じゃ、はい。わかりまし、た」
男「ありがとうございます♪白鳥さん」
白鳥昌仁「えっ?」
三好「マサ!」
白鳥昌仁「三好く──」
三好「乗んな、ばか」
男「チッ、邪魔されたか」
三好「逃げんなゴラ」
発進しようとする車の窓ガラスに勢いよく鞄をぶつけた
〇おしゃれなリビングダイニング
小雀音羽「え」
三好「その時のカバン、固かったんだ」
三好「ガラス割って、そいつを引きづりだした」
小雀音羽「なんで・・・?」
三好「そいつ、話題の誘拐犯だったんだよ」
〇街中の道路
三好「・・・」
男「何すんだてめえ!」
三好「おい降りろや」
男「何だよ、関係ねえだろうがウ゛っ」
まずは腹に一発
三好「何が関係ねえだよ。お前、マサんことどこ連れてくつもりだった?」
白鳥昌仁「三好くん、どこって?」
白鳥昌仁「なんで殴ってるの?」
三好「マサ、わかんねえの?こいつ最近話題の誘拐犯」
三好「この車も盗難車」
白鳥昌仁「え」
男「なんだ知ってたのか」
男「捕まっちゃならねえんだ、はなせ!」
三好「うるせえ口だな」
まあ、何?穏便に暴力で解決した
内容は言えないな。子供の前だもん
白鳥昌仁「三好くん!三好くん!もうやめて」
三好「ふざけんな、俺のマサだぞ。クソッタレ」
白鳥昌仁「み、よしくん」
白鳥昌仁「血・・・」
三好「あ、」
三好「やりすぎた。まあ正当防衛ってことで」
三好「警察呼ぶか」
男の顔はまあちょっと折れたけど、命に別状はなかった
あのゴ・・・男はちゃんと警察に引き渡した。問題はマサ
〇おしゃれなリビングダイニング
三好「マサは血が苦手だった」
三好「それこそ五十嵐が大学ん時、マサの目の前で自傷したからだけど」
小雀音羽「自傷・・・」
三好「トラウマ蘇って顔面蒼白」
三好「・・・ま、こんなことがあった」
小雀音羽「・・・」
小雀音羽「あれですか?三好さんがお父さん抱えて帰ってきた」
三好「あーそれそれ」
小雀音羽「誘拐もそうですけど、貴方」
三好「ん?」
小雀音羽「よく殴れましたね」
小雀音羽「人を。骨が折れるまで」
三好「なんで?あんなんいても困るでしょ」
三好「いらねえだろ、あのゴミ」
小雀音羽「・・・!?」
三好「おっと、子供には刺激が強かったか」
三好「少なくとも暴力シーンはカットすべきだったな」
小雀音羽「そういう問題じゃ」
三好「まあなんだ。マサは恨まれるタチじゃねえよ」
小雀音羽「でしょうね」
三好「その逆」
三好「悪人も善人もみーんな惹きつける。そして信仰の的になる」
三好「誘拐犯だってそう」
三好「あいつは許した」
三好「『血まで吐かれて。痛かったですね。なぜ誘拐なんてされたかわかりません。けど』」
三好「『しっかり、犯してしまったことを反省してください』」
三好「『私はあなたを許します。今まで、一人でよくがんばりましたね』」
三好「・・・」
小雀音羽「・・・」
三好「すげえだろ?」
三好「こういうタチなんだ。だから悪魔も引きつけちゃったんかな」
小雀音羽「悪魔・・・」
この話は音羽にとって衝撃的なことだった
音羽から見た、三好は『気さくなおじさん』
小雀音羽(でも、これじゃ)
三好の裏にあるものは何なんだろうか
小雀音羽(私は、この人の一面しか見えていないのかもしれない)