出会いは交差点と決めているので!

樹木義記

出会いは交差点と決めているので!(脚本)

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〇リサイクルショップの中
高円寺店 店主「交差点ねぇ・・・」
  店主は渋い顔でタブレットを見ている。
  ここは高円寺にあるパターン屋。
  よくありそうな出来事をパターン化して販売している。
高円寺店 店主「ちょっとさぁ、曖昧なんだよね」
高円寺店 店主「パターンって、誰でも想像できそうなものしか作れないの」
ユリ「たとえば?」
高円寺店 店主「敵の前に立ち往生して矢を浴びながら死ぬとか」
ユリ「弁慶か」
高円寺店 店主「この戦いが終わったら婚約者と・・」
ユリ「それ死亡フラグ」
ユリ「っていや、死ぬ前提?」
高円寺店 店主「わかりやすいでしょ? まぁ、いまのは冗談だけどね」
  店主はユリの白い目を避けるように後ろを向いてタブレットを操作し始めた。
ユリ「・・・交差点ですれ違う男女! 振り返ると白黒の世界で2人だけカラー!」
ユリ「そういう運命的な出会いないですか!」
  一気にしゃべったユリの顔は、恥ずかしさで赤くなっていた。
  店主はニヤニヤしながらユリの顔を覗き込む。
高円寺店 店主「ふーん、出会いね」
ユリ「ダメですか? 最近はパターン婚とか言うじゃないですか」
高円寺店 店主「確かに最近多いよ、出会い系」
高円寺店 店主「でもねーここ高円寺なんだわ 芸人とか売れないミュージシャンを支えるとかそういうのばっかり」
ユリ「・・・」
高円寺店 店主「渋谷店に行ってみな」

〇オフィスのフロア
ユリ「はぁ~」
  ユリはパソコンを操作しながらため息をついた。
  きのう、せっかく勇気を出してパターン屋に入ったのに、目的のものが買えなかったのだ。
ユリ(渋谷に行った方がいいのはわかってるよ)
ユリ(でも行きたくないんだよなー)
ユリ(しかも出会いを求めてパターン屋なんて・・・)
サトウ「おーい、聞こえてるー?」
  目の前に突然ニョッと手が出てきて、ユリは慌てて顔をあげた。
サトウ「どうした?怖い顔して」
ユリ「ちょっと考えごとを・・・なんですか?」
サトウ「モトキの二次会の買いもの、土曜日でいい?」
  会社の先輩であるモトキの結婚式があり、モトキの同期であるサトウと後輩のユリが二次会の手伝いを頼まれたのだ。
ユリ「いいですよ」
サトウ「じゃ、渋谷14:00」
ユリ「渋谷かぁ~・・」
サトウ「え、ダメ?そのままナカメのモトキん家に運ぶから、渋谷なら1本じゃん」
ユリ「いや、苦手なだけでダメじゃないです」
サトウ「じゃあモヤイ集合ね」

〇女性の部屋
  金曜の夜、ユリはマップ確認に余念がなかった。
  スマホでモヤイ像までの道をシミュレーションする。
ユリ(あした、帰りにパターン屋いけるかも)
  そう考え、ユリはパターン屋までの道のりもシミュレーションする。
  だんだん渋谷に行くのが楽しみになってきていた。

〇モヤイ像
  買い出しはアッサリと終わった。
  前日のシミュレーションが功を奏し、ユリは迷わずモヤイ像までたどり着くことができた。
  そこから先はサトウについていくだけだったので、ユリは拍子抜けしていた。
ユリ(渋谷って思ったより普通だったな)
サトウ「そういえば、行ってみたい店があるんだよね」
ユリ「いいですよ」
サトウ「パターン屋っていうんだけど知ってる?」
  ユリはドキッとした。自分が行きたいのがバレていたのだろうか?
サトウ「新型出会い系みたいなやつで、出会いを作ってくれるらしい」
ユリ「出会いが欲しいんです?」
サトウ「知り合いにネタ的に試したいなと思って」
サトウ「仕組みはわかんないけど、マンガや映画でありそうな出会いのパターンがプログラムされてて、それを体験できるらしい」
  ユリにとって、願ってもないチャンスだ。
  1人で行くのは不安だったので、自分も友だち用に~とか言って買ってしまえばいい。

〇レトロ喫茶
渋谷店 店主「いらっしゃい」
渋谷店 店主「初めて?これ料金表ね」
サトウ「え、意外に安い」
渋谷店 店主「基本は導入のプログラムだからね」
渋谷店 店主「肩と肩をぶつからせるだけ~とか」
渋谷店 店主「そこからは自分で行動してねってやつ」
渋谷店 店主「もう少し演出が欲しければ、オプションで」
サトウ「セミオーダーってこと?」
渋谷店 店主「そうだね」
渋谷店 店主「あとは、渋谷ハチ公前で~ってパターンの場合、渋谷に来ない人には発動しない」
渋谷店 店主「だから、その人に合った場所に変更することもできる」
サトウ「プレゼントするなら?」
渋谷店 店主「汎用性あるのがいいかな コンビニとか公園なら全国あるでしょ」
ユリ「あの、交差点とかありますか?」
渋谷店 店主「たくさんあるよー!」
渋谷店 店主「うちはスクランブル交差点しかないけど」
渋谷店 店主「例えばゾンビが・・・」
ユリ「バイオハザードか!」
ユリ「っていや、そういうのいいです!」
ユリ「冗談ですよね?」
渋谷店 店主「・・そうだね、冗談だけど」
  ユリのあまりのツッコミの早さに店主は面食らったようだった。
ソウ「ちわー」
渋谷店 店主「あ、ソウ」
ソウ「頼まれたの置いとくんで、あとでチェックお願いします」
渋谷店 店主「OK!」
ソウ「あ、ぼくのパターン見てってくださいね」
  突然現れたソウという青年は、ユリにそう言うとさっさと出て行ってしまった。
  店主が言うには、ソウは腕のいいパターンクリエイターらしい。
サトウ「じゃあ、オレはソウくんのパターン買います!ユリも何か買うの?」
ユリ「わたしは・・・」

〇渋谷の雑踏
  翌週、ユリは渋谷にいた。
  先日、買いそびれたものがあったので、サトウに言われ1人で買いにきたのだ。
ユリ(駅からすぐの店だし、きっと大丈夫!)
  自分を励ましながらスクランブル交差点を渡る。
ユリ(あ、あの人・・・)
  人ごみの中、先日パターン屋で会ったソウが前から歩いてくるのが目に入った。
ユリ(こっちのことなんて覚えてないよね)
  ユリは何となくソウを目で追いながら振り返る。
  その瞬間。
  ソウがゆっくりと振り返る。
  ユリは息をのんだ。
  交差点にスローモーションがかかったように感じる。
  音は消え去り、自分と彼以外は色彩を失っている。
  目を逸らすことができない。
  これはプログラムされたパターンなのか、それとも・・・。

コメント

  • とっても素敵なラストにドキっとしました!
    それにしても、パターン屋という発想は驚きです。こんなお店があったら買いに行きたいです!

  • あの彼が買ったパターンは出会いだったみたいですね。
    ラストのあたりがすごくロマンティックでよかったです。
    パターンを売るっていう発想がすごくいいです!

  • 出会いのパターンですか…、でもこれを買うとどうやって出会うかがわかってしまうのですよね?
    ちょっぴりドキッと度が下がってしまう気がしますが、相手がどんな人なのかまではわからないから、こうした最後のようなロマンチックもあるのかもしれませんね!

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