第6話 過去のできごと(脚本)
〇一戸建て
〇男の子の一人部屋
荒木 煌一(あらき こういち)「あれ、なんのポスターなん?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「あぁ、好きなバンドの」
荒木 煌一(あらき こういち)「へぇ、今度聞いてみよかな」
英田 乃亜(あいだ のあ)「今聞く?」
荒木 煌一(あらき こういち)「聞く聞く!」
「・・・・・・」
荒木 煌一(あらき こういち)「ええ曲やなぁ」
英田 乃亜(あいだ のあ)「コウイチは、好きなアーティストとかいるの?」
荒木 煌一(あらき こういち)「せやな、オレはなー」
荒木 煌一(あらき こういち)「て、くつろいでる場合ちゃうんやった!」
英田 乃亜(あいだ のあ)「そうだった」
土曜日。半日授業のあと、僕らがこうして集まっている理由は──
〇和室
煌一の母「・・・ん? ノアくんって、苗字「英田」やったっけ?」
煌一の母「もしかしてお父さんの名前、「孝介(こうすけ)」サン?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「はい、そうです」
煌一の母「ノアくん。ごめんやけど」
煌一の母「アルバイトの話なぁ・・・なかったことにしてくれへん?」
「・・・えぇ!?」
〇男の子の一人部屋
荒木 煌一(あらき こういち)「昨日のあれ! なんやったんや!?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「僕、なにかまずいことしたのかな」
荒木 煌一(あらき こういち)「なんもしてへん! むしろこれまではウェルカムやったやん」
荒木 煌一(あらき こういち)「あの後おかんに聞いても、この話は終わりの一点張りやし」
英田 乃亜(あいだ のあ)「じゃあ、僕のお父さんと何かあったとか?」
荒木 煌一(あらき こういち)「なんかって、なんや」
英田 乃亜(あいだ のあ)「うーん、例えば」
英田 乃亜(あいだ のあ)「昔、恋人同士だった。とか?」
荒木 煌一(あらき こういち)「えぇ!? オレのおかんと、ノアのおとんが!?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「例えばだよ」
英田 乃亜(あいだ のあ)「コウイチのお母さんは、京都で生まれ育ったんだよね?」
荒木 煌一(あらき こういち)「せやで、あの神社が実家」
英田 乃亜(あいだ のあ)「僕の父も京都出身で、この家に子供の頃住んでたんだって」
荒木 煌一(あらき こういち)「ノアのおとん、何歳なん?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「48歳」
荒木 煌一(あらき こういち)「おかんと同いや」
英田 乃亜(あいだ のあ)「てことは、幼なじみの可能性も」
荒木 煌一(あらき こういち)「ちっちゃい頃からの仲良しで、大きなって付き合ったみたいな!?」
荒木 煌一(あらき こういち)「・・・うらやましー」
英田 乃亜(あいだ のあ)「え?」
荒木 煌一(あらき こういち)「なんもないで?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「それから、何らかの原因で別れて今に至るとか」
荒木 煌一(あらき こういち)「そして元カレの子供が目の前に・・・ってなったら、ショックかぁ!」
英田 乃亜(あいだ のあ)「元カレの子供・・・」
荒木 煌一(あらき こういち)「いや、ノアのことを悪く言ってるわけやないで!?」
荒木 煌一(あらき こういち)「せや、なんで別れたんやろ!? なんでやと思う?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「さぁ・・・。父は、大学から東京に出たらしいけど」
思えば、父親のことなんて全然知らないな。
荒木 煌一(あらき こういち)「遠距離恋愛による別離!?」
荒木 煌一(あらき こういち)「そして、ノアのおかんに会ったと」
英田 乃亜(あいだ のあ)「両親はミラノで出会ったって聞いたことあるけど」
荒木 煌一(あらき こういち)「ミラノぉ!? なんの映画やそれ」
英田 乃亜(あいだ のあ)「コウイチのご両親は?」
荒木 煌一(あらき こういち)「ウチ? えー、ほんまに知らんな」
荒木 煌一(あらき こういち)「父親、オレがちっさい時におらんくなったし」
英田 乃亜(あいだ のあ)「そうなの!? ごめん・・・」
コウイチのことも、まだまだ知らないことばかりだ。
荒木 煌一(あらき こういち)「そんな、心配そうに覗き込まんで」
荒木 煌一(あらき こういち)「照れるやろがっ!」
英田 乃亜(あいだ のあ)「ちょっと、何」
コウイチが急に羽交い締めにしてきた。
京都人は、案外スキンシップの多い人種なのかもしれない。
母「やっぱり、荒木煌一くん! 本当にオレンジの髪」
英田 乃亜(あいだ のあ)「帰ってたの!?」
荒木 煌一(あらき こういち)「お邪魔してますッ!」
母「いつもありがとうね。アルバイトまでさせてもらってるって」
英田 乃亜(あいだ のあ)「それが、お父さんと──」
荒木 煌一(あらき こういち)「ノア、それは!」
英田 乃亜(あいだ のあ)「ちょっと出かけてくる!」
〇和風
鳥居のそばでキスをして
第6話 過去のできごと
〇アーケード商店街
荒木 煌一(あらき こういち)「やっぱ、情報が少なすぎるねんなぁー」
英田 乃亜(あいだ のあ)「誰かに聞いてみる?」
荒木 煌一(あらき こういち)「ええな! ちょい、そこのおねーさん」
英田 乃亜(あいだ のあ)「そんな、いきあたりばったりな」
ご近所さん「あら、荒木さんとこの! 大きならはったなぁ」
ご近所さん「夕子ちゃん、あんたのお母さんな、同級生やったんえ」
英田 乃亜(あいだ のあ)「いきなり当たり!?」
荒木 煌一(あらき こういち)「ほんなら、「英田」って人も覚えある?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「英田孝介、僕の父なんですが」
ご近所さん「あー! 知ってる知ってる」
ご近所さん「ふたりとは、幼稚園と小学校まで一緒でなぁ」
「幼なじみだ!」
ご近所さん「その頃は、近所のみんなで遊んだりしてたけど」
ご近所さん「中学から、英田くんは男子校行かはったやろ? あの進学校」
ご近所さん「その制服、お父さんと同じ学校やん! 頭の良さは遺伝するんやなぁ」
英田 乃亜(あいだ のあ)「いえ、そんな」
荒木 煌一(あらき こういち)「そんで? 中学入ってからは?」
ご近所さん「そっからは会ってないなぁ」
ご近所さん「高校からは、夕子ちゃんとも違う学校なってしもたしなぁ」
荒木 煌一(あらき こういち)「そっからが重要やのにぃ・・・」
英田 乃亜(あいだ のあ)「ふたりのその、関係性といいますか、ご存知の方は・・・?」
ご近所さん「そんなん、直接聞いたらええやないの」
荒木 煌一(あらき こういち)「それはちょっとぉ・・・」
ご近所さん「ほんなら、それこそ荒木さんとこの神社の人に聞いたら?」
ご近所さん「ほらあのおじいちゃんとか、まだいはるんかいな」
英田 乃亜(あいだ のあ)「そうだ、松尾さん!」
〇神社の本殿
〇神社の本殿
荒木 煌一(あらき こういち)「そろーり、そろーり」
英田 乃亜(あいだ のあ)「何してるの?」
荒木 煌一(あらき こういち)「おかんにバレへんようにしてるねん」
煌一の母「松尾さん、みかんちゃん! 休憩とってやー」
みかん「いぇーい⭐️」
荒木 煌一(あらき こういち)「そろーり」
松尾のじいちゃん「おっ、おふたりさん」
松尾のじいちゃん「昨日は大事件やったな」
荒木 煌一(あらき こういち)「松尾さん、そのことやねんて!」
英田 乃亜(あいだ のあ)「あの、コウイチのお母さんと僕の父、昔何かあったんでしょうか!?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「その、恋人同士だったとか!?」
みかん「なにそれぇ!? ドロドロ展開ぃ!?」
荒木 煌一(あらき こういち)「目ぇ輝かせすぎちゃうか」
松尾のじいちゃん「恋人ぉ!? ちゃうちゃう・・・」
松尾のじいちゃん「・・・いや、子供であるあんたらには、 知っとく権利があるわな」
「!?」
松尾のじいちゃん「夕子さんと、英田くんのお父さんは、実は」
「実は!?」
松尾のじいちゃん「生き別れた、双子やったんや」
英田 乃亜(あいだ のあ)「へ、ふたご・・・?」
松尾のじいちゃん「せや。その昔、双子は災いを起こすと忌み嫌われとった」
松尾のじいちゃん「神社の跡取りとして産まれた子供が双子・・・」
松尾のじいちゃん「災いを避けるため、英田くんのお父さんは産まれてすぐ、養子に出されたんや」
英田 乃亜(あいだ のあ)「それで・・・!?」
松尾のじいちゃん「しばらくは、本人たちは何も知らんと過ごしとった」
松尾のじいちゃん「でも、ふたりが高校生になった頃やったか。そのことが明るみに出てな」
「!!」
松尾のじいちゃん「そこからは、壮絶な家督争いや」
松尾のじいちゃん「神社の広大な土地、跡取りの座を巡って、ふたりは血で血を洗う争いを・・・」
英田 乃亜(あいだ のあ)「そんな・・・!」
松尾のじいちゃん「そして、争いに敗れた英田くんの父は、京都を去った」
松尾のじいちゃん「これが、事のあらましや・・・」
荒木 煌一(あらき こういち)「でも、それがノアのバイトとなんの関係が」
松尾のじいちゃん「一度去った片割れの血縁者に、敷居を跨がせるわけにはいかへんのや!」
松尾のじいちゃん「それが掟なんや・・・!」
みかん「そんなことってぇ・・・!」
荒木 煌一(あらき こういち)「・・・おい、おかん!!」
英田 乃亜(あいだ のあ)「ちょっと、待って!」
〇神社の石段
煌一の母「あとで、ちゃんと謝らななぁ・・・」
荒木 煌一(あらき こういち)「おかん!!」
煌一の母「煌一、どうしたん」
荒木 煌一(あらき こういち)「わけわからん事情に、オレらを巻き込むなぁ!」
荒木 煌一(あらき こういち)「ノアがやる気になってくれてんのに」
英田 乃亜(あいだ のあ)「いいんだ! 僕、もう二度と来たりしませんから!」
煌一の母「乃亜くん! 昨日のことやけどな──」
英田 乃亜(あいだ のあ)「ごめんなさい! 僕、全く知らなくて」
英田 乃亜(あいだ のあ)「まさか、あなたと僕の父が・・・双子だったなんて!!」
煌一の母「双子?」
煌一の母「・・・松尾さん。なんか変なこと言うたやろ」
松尾のじいちゃん「ちょっと、からかいすぎてもうたかなぁ」
みかん「・・・てことは、元恋人パターン!?」
母「あ、やっぱりここにいた!」
英田 乃亜(あいだ のあ)「わぁ、ダメ──!」
煌一の母「なんや騒がせてしもて、悪かった! ちゃうねん、全部誤解やわ」
荒木 煌一(あらき こういち)「じゃあなんであんなこと言うてん」
煌一の母「それは・・・」
松尾のじいちゃん「もう、正直に言うてもたほうが」
煌一の母「・・・仲、悪かってん」
荒木 煌一(あらき こういち)「へ?」
煌一の母「めちゃくちゃ、仲悪かってん!!」
荒木 煌一(あらき こういち)「・・・は?」
煌一の母「ちょうどあんたらぐらいの頃、何かと張り合っててやなぁ」
煌一の母「昨日は大人げなかった! ほんまにごめんな」
荒木 煌一(あらき こういち)「そしたら、ノアのバイトは──」
煌一の母「愛想尽かされてへんかったら、ぜひ」
英田 乃亜(あいだ のあ)「こちらこそ、よろしくお願いします」
煌一の母「お母様も、よろしいですか? ほんまに、ようやってくれはるんです」
母「あ、私!?」
母「もちろん! 乃亜がお世話になります」
母「すいません、京都弁に圧倒されちゃって」
「えらいすんまへん」
みかん「よかったなぁ〜!」
松尾のじいちゃん「なんでおみかさんが泣いてんねん」
みかん「これで、もう英語対応せんで済むぅ〜」
〇一戸建て
〇シックなリビング
英田 乃亜(あいだ のあ)「ただいま──」
父「乃亜、一週間ぶりか」
父「お土産や」
英田 乃亜(あいだ のあ)「あ、あぁ」
母「ヴェネチアの仮面!? 細かい装飾ね」
父「わざわざ仮面専門店で買うたんや」
英田 乃亜(あいだ のあ)「へぇ・・・」
母「そうそう。乃亜ね、神社でアルバイトすることになったのよ」
父「へぇ、どこの?」
母「ほら、あの大きい稲荷神社。荒木さんってお家の」
英田 乃亜(あいだ のあ)「あっ、それは・・・」
父「・・・」
父「あぁ、懐かしいな。ええやんか、お世話になり」
英田 乃亜(あいだ のあ)「・・・ありがとう」
父「ええ社会勉強や。なかなかできひん経験やで」
英田 乃亜(あいだ のあ)「僕も、そう思──」
父「『京都の神社でバイト』なんて、いい話のネタになる」
父「どこの国の人でも興味持ってくれるわ」
英田 乃亜(あいだ のあ)「・・・僕、着替えてくる」
〇部屋の扉
話のネタになる──その言葉に、なんだか違和感を感じた。
僕にとっての、これからの京都の経験、そして煌一との時間も
いつか、軽い過去のできごとになってしまうのだろうか?
母「乃亜、これ忘れてるよー!」
それは、嫌だな。
僕は仮面を握りしめて、リビングを後にした──
煌一くん母が不機嫌になった原因は乃亜くん父と双子……ではなく不仲によるものでしたか。😓
松尾のおじさん、冗談はほどほどにですよ。
しかし、神社で仕事をする乃亜くんに対してあの言い方は……。🤨
煌一くん母が腹を立てるのも納得がいきますね。
続き待ってます。
好き勝手な想像で盛り上がる2人と適当に話すおじちゃんのとこが大好きです😂
こうぼんのお母ちゃんもちゃんと謝ってくれましたし、2人の関係に亀裂が入らなくてよかったです🙏🏿
でもオトン!君はデリカシーがないよっ!!
乃亜とこうぼん2人の仲への応援にますます気合が入っているわたくしですが、お父さんとの関係性にも目が離せなくなってきました!🤔