プロローグ(脚本)
〇車内
カチリ──
ギアをパーキングに戻す音が、重く響いた。
街の灯が遠くに滲む、高台の駐車場。
夜風が揺らした木々の音さえ、やけに遠くに思える。
葉山 寧々(はやま ねね)「・・・・・・聖、もう無理だよ」
助手席で俯く彼に向けて、声を絞り出す。
手は震えていたけど、心は決めていた。
柊 聖(ひいらぎ しょう)「・・・・・・本気で言ってるのか?」
葉山 寧々(はやま ねね)「うん」
葉山 寧々(はやま ねね)「あなたが他の子といたの、知ってる」
葉山 寧々(はやま ねね)「・・・・・・ホテル入っていくところも見たの」
小さく吸い込むように、彼が息をのむ。
誤魔化すつもりも、弁解する気もないことが、黙ったままの目に出ていた。
柊 聖(ひいらぎ しょう)「・・・・・・俺は、本気だったのは寧々だけだった」
柊 聖(ひいらぎ しょう)「だけど・・・・・・」
柊 聖(ひいらぎ しょう)「それでも、ああすることでしか、自分を保てなかったんだ!!」
葉山 寧々(はやま ねね)「だったらなおさらでしょ!」
葉山 寧々(はやま ねね)「私はもう一緒にいたくない!!」
葉山 寧々(はやま ねね)「あたし・・・・・・ 自分を大事にしてくれる人と一緒にいたいから!!」
葉山 寧々(はやま ねね)「・・・ 私たち、別れよう!!」
言葉を発した瞬間、胸が張り裂けそうになった。
でも、それ以上に――心の奥の鎖が、ふっと解ける音がした。
柊 聖(ひいらぎ しょう)「・・・・・・寧々!!」
助手席の彼が、何かを言いかけて、
ハンドルに手をかけた、そのとき──
眩い光が、視界を焼いた。
見たこともない形の“魔法陣”のような紋様が、突如フロントガラスの向こうに浮かび上がる。
葉山 寧々(はやま ねね)「なに・・・・・・これ・・・・・・?」
柊 聖(ひいらぎ しょう)「避け――っ!!」
(ドンッ!!!)
轟音と衝撃。
車体が跳ね、視界が反転する。
──次の瞬間、世界は闇に包まれた。
〇古い本
???「ネネフィア!戻ってきて──」
〇荒廃した教会
葉山 寧々?「っ・・・・・・ぅ・・・・・・」
硬い石の上に横たわっていた。
瞼を開けると、そこは古びた神殿――
いや、崩れかけた廃墟だった。
天井の割れ目から差し込む光。
砕けた柱、苔むした床。
見たことのない・・・・・・
けれど、どこか懐かしい空気。
葉山 寧々?「ここ、どこ・・・・・・? 私・・・・・・」
言葉を吐いた自分に、違和感が走る。
声が、名前が、体が、自分のものじゃないみたいで。
ネネフィア?「ネネ、フィア・・・・・・?」
自分の中から、自然に“その名前”が浮かぶ。
でも、違う。
私は――葉山寧々。
ずっと、そう生きてきた。
けれど、この世界はそれを否定するように、静かに囁く。
まるで本当の名を取り戻したかのように。
ネネフィア「私は・・・・・・ ネネフィア・・・・・・ なの・・・・・・?」
ざわり、と胸の奥で何かが動く。
神殿の奥、崩れた壁の魔法陣が淡く光り始める。
彼女の瞳に、微かな光が宿り──
やがて、それはこの世界に与えられた、
忘れられた“継承者”の印となる