龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

第参拾七話 林間学校 最終日 前編(脚本)

龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

今すぐ読む

龍使い〜無間流退魔録外伝〜
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇原っぱ
  夜が明けた。
  早朝に目覚めた玲奈達が見たものは、
辰宮玲奈「何これ」
梶間頼子「踏み荒らされてる」
穂村瑠美「こんなに、沢山・・・?」
  踏み荒らされたテントの周囲の草花と無数の足跡。
辰宮玲奈「何の足跡だろう・・・」
  靴とは明らかに違う形をしゃがみ込んでよく見ようとした玲奈だったが、
辰宮玲奈「臭い・・・」
  鼻を突く異臭に眉をひそめた。
  林間学校三日目、最終日。
  天気は曇り。
  雲が重く低く垂れ込め、夜が明けたとは思えない薄暗い朝だった。

〇白い扉の置かれた森
魔族「我らへの合力、感謝するぞ」
久野駆「・・・」
  キャンプ場の外れで、駆は男と会っていた。
魔族「共に人間に一泡吹かせてやろうではないか」
  意欲に満ち溢れる男に対し、駆はあまり乗り気ではなさそうな様子だった。
  無理もない。
  昨夜、

〇広い玄関(絵画無し)
魔族「こんばんは」
魔族「久野駆さんに会いに来たのだが」
  彼は突然訪問してきた。
  安曇理事長が帰った後のことだった。
真上「駆ですか、少々お待ち下さい」
  対応した真上はすぐさま駆を呼び、
久野駆「何だい、叔父貴」
  呼ばれた駆が玄関に行くと、その男がいた。
真上「お前に来客だ」
  どこにでもいそうな、特徴らしき特徴がない、というのが駆の第一印象だった。
  あらゆる存在には、その個体特有の醸し出す雰囲気というものが例外なく存在する。
  そんな固有の雰囲気が一切感じられない。
  ともすれば、そこに確かに存在しているのに見失ってしまいそうな、そんな感じだった。
真上「二人きりで重要な話をしたいそうだから、私は席を外すよ」
真上「失礼のないようにな」
  真上は自室に戻り、駆は男と話をすることになった。
  客間に通して話を聞いたのだが、

〇古民家の居間
魔族「安曇理事長から聞いたよ」
魔族「我々に合力してくれるとね」
  話が早い。
  いつ連絡を取り、彼はどこにいたのか。
久野駆(一部始終を見ていたんじゃあるまいな・・・)
  そんな疑いさえ抱いてしまう。
魔族「我々は『魔族』という」
久野駆「魔族・・・?」
  決して美称ではない。
  他者に仇なす悪しきものを自称するとは、
久野駆(イカれてんのか、コイツ・・・)
  そして、そんな連中とつるんでいる安曇理事長も、教育者としていかなるものかと考えてしまう。
  男は話を続けた。
魔族「我々は、人に仇為す存在だ」
魔族「人間はあまりにも自分勝手だ」
魔族「環境を破壊し、数知れぬ生物を絶滅させ、何も恥じる所がない」
魔族「今こそ人類に思い知らせねばならん」
魔族「そして、人類を適正な状態に戻してやるのだ」
久野駆「大層なことだな」
  正直、呆れ半分だった。
  山のことを一切考えず、山のことを知ろうともせず、我が物顔で闊歩して踏み荒らす人間の多さに辟易する日々だった。
  いつかその内に手痛いしっぺ返しを食えば良い、とは常々考えていた。
  が、単なる個人的な不満の範疇だった。
  安曇理事長の誘いに乗ったのは、何かやり返せると思ったからだ。
  その反撃の根底にある思想が、ここまで過激なものだとは思わなかった。
久野駆「あんたら、何者だ」
  正直な感想が、つい口を出てしまった。
魔族「先ほども言っただろう」
魔族「我々は『魔族』」
魔族「人を害し、人に仇なすものだ」
久野駆「・・・」
  無個性な雰囲気の奥にある不気味な何かを、駆は垣間見たような気がした。

〇白い扉の置かれた森
魔族「ここに、橋頭堡を築く」
  駆は男の説明を黙って聞いていたが、
久野駆「なあ、」
  話の区切りがついた辺りで徐ろに口を開いた。
久野駆「ここは叔父貴が仕切ってる」
久野駆「無理はしない方がいいぜ」
魔族「どういう事だ?」
  男が不思議そうに問うと、
久野駆「この一帯は叔父貴の縄張りだ」
久野駆「山の連中はちょくちょく来るが、悪さはしてこない」
久野駆「叔父貴はきっちり睨みを利かせてる、ってことだ」
久野駆「ちょっとでも異変があれば、必ず叔父貴が来る」
  ここは山と里の境界。
  山のモノたちが人里に行かないように、真上は様々な工夫をこらし、監視を怠らない。
  彼の張り巡らした結界を崩すようなことがあれば、即座に対応するだろう。
  実際、そうやってキャンプ場一帯の平穏を保ってきた。
  もし、この男が結界に手を加えようとするのなら、真上は容赦なく牙を振るうだろう。
魔族「案ずるな、ここにあるものを変えようとするわけではないよ」
魔族「ここの力を少しばかり抽出して利用させてもらうだけだ」
魔族「真上氏の張った結界は実に理に適っている」
魔族「これをどうこうするなど、とんでもない」
久野駆「なら、いいけどよ・・・」
  男の発言に一応安堵する駆。
  その言葉を完全に信じ切ることは出来ないが、それよりも自分の叔父の実力を信じることにした。
魔族「しかし、相手は龍の宿主だ」
魔族「時と場合によっては、君自身にも出てもらうことになるかもしれん」
久野駆「そうかい・・・」
  龍の宿主。
  駆が見たのは一人。
  未熟な少年をそそのかし、龍は何を目論んでいるのだろうか。

〇原っぱ
  低く垂れ込める雲の下、炊事の煙が上がっている。
  煙の数は昨日よりも多い。
  今作っているのは、朝食だけではないからだ。
  今日の昼食となる握り飯も作るため、炊く米の量は二倍。
  各班ではそれぞれに工夫をこらしての増産体制だ。
辰宮玲奈「瑠美ちゃん、頼ちゃん、ちゃんと見ててよ」
穂村瑠美「大丈夫よ」
梶間頼子「任せなさい」
  玲奈達の班は、竈をもう一つ作って炊飯量の増加に対応していた。
  朝食用と昼食用に分けて炊飯している。
辰宮玲奈「今日で林間学校も終わりだね」
梶間頼子「あっという間だったね」
  設営、飯盒炊爨、オリエンテーリング、キャンプファイヤー。
  そして今日は撤収。
  普段やらない事ばかりで全てが目新しく、目まぐるしい二泊三日だった。
  気がつけば、もう三日目の最終日。
  朝食を終えたらテントを撤収して講堂で集会、そして学校へ帰投し解散。
  という予定である。
穂村瑠美「このまま無事に帰りたいわね・・・」
  昨夜の出来事を思い出し、瑠美はポツリと呟いた。

〇森の中
魔族「ふむ、これか」
  魔族の男は、とある標識の前に来ていた。
久野駆(こいつ、結構足腰が強いな)
  今日のキャンプ場利用者は平坂学園高等部の1年生のみ。
  その生徒たちは皆設営場所で活動している。
  その対応のために真上もコテージで待機している。
  現在、このハイキングコースにいるのは駆と男の二人だけだ。
  誰憚ることなく歩き回ることができるとはいえ、その迷いのない足取りは力強く勢いもある。
  山育ちの駆でも速いと感じるくらいだ。
  目的の場所も、その道筋も、既に把握できているからこその足取りだろう。
魔族「ふむ・・・」
  止まることも迷うこともなく男は標識の前に到達し、その隅に象嵌された記号に目を向けた。
魔族「これが結界の要だな・・・」
  指でゆっくりとなぞっていく。
久野駆(鋭い・・・!!)
  一般の客に気付かれぬようにしてあるはずのそれを、男はあっさりと見抜いた。
魔族「念入りにかけられているな」
魔族「しかも、幾重にも重ねられている」
魔族「次は、あちらか」
  顔を上げて向けた先には、男の言う通り記号の象嵌された標識が立てられている場所がある。
久野駆(どこまで見えているんだ・・・?)
  魔族。
  自らを邪悪なるものと称する彼らの能力に、駆は底知れぬものを感じずには居られなかった。

〇原っぱ
飯尾佳明「梅干しか・・・」
  皿の上にある紅色の玉を見て、佳明は溜め息をついた。
  昼食用に作る握り飯には、梅干しを入れるようにとの指示が出ている。
  梅干しと言えば、日本の伝統的な保存食であり、食中毒対策も兼ねたものではあるのだが、
橘一哉「あれ、よっくん梅干し苦手?」
飯尾佳明「まあな・・・」
  飯盒の下で燃える薪を崩しながら、佳明は答えた。
橘一哉「食わず嫌いだったりする?」
飯尾佳明「いや、食えないわけじゃないんだよ」
橘一哉「ほう?」
飯尾佳明「種があるだろ?」
橘一哉「あるね」
飯尾佳明「それを一々出すのが面倒なんだよ」
橘一哉「あー、分かる」
  一哉は笑った。
  硬さといい、大きさといい、梅干しの種は中々存在感の主張が激しい。
姫野晃大「ならさ、種を出して実をほぐしちゃえばいいんじゃないか?」
「それだ!!」
  晃大、ナイスアイデア。
飯尾佳明「テツ、梅干しの処理頼むわ」
古橋哲也「え、僕!?」

〇原っぱ
辰宮玲奈「おにぎりおにぎりニギニギよ〜」
  玲奈が鼻歌を歌いながら握り飯を握っていると、
穂村瑠美「あれ、古橋くん何やってるんだろ?」
  瑠美が友人の異変に気づいた。
梶間頼子「え、なになに?」
  頼子も手を止めて瑠美が見ているものへと目を向ける。
  そこには、
  六尺超えの巨体を縮こまらせ、包丁片手に何やら作業に没頭している哲也の姿があった。
梶間頼子「何してるの?」
  作業を止めて頼子が近付くと、
古橋哲也「梅干しをほぐしてるんだよ」
  見れば、種を除かれ細かく刻まれた梅干したち。
古橋哲也「こうして種を除いてしまえば食べやすいだろう、って話になってさ」
梶間頼子「それは確かに」
姫野晃大「俺のアイディアだぜ、俺の」
  得意げな顔をして晃大がやって来た。
梶間頼子「にしても、ほぐすと匂いが更に強くなるね」
古橋哲也「そうだね」
  バラバラになった梅の香りが哲也の周りに充満している。
橘一哉「ところで頼ちゃんや」
梶間頼子「何?」
橘一哉「昨日、変なものに絡まれなかった?」

次のエピソード:第参拾八話 林間学校 最終日 後編

成分キーワード

ページTOPへ