こってりラーメン

水田柚

こってりラーメン(脚本)

こってりラーメン

水田柚

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こってりラーメン
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〇黒
  ──ある友達が、こんなことを言っていた。
  渋谷はこってりラーメンみたいだと。
  ──さらに私がそこのアパレルで働くと言うと、友は続けてこう言うのだ。
  「やめとけやめとけ、渋谷はこってりラーメンみたいだからな」と──

〇ラーメン屋のカウンター
  こってりラーメン、私は好きだった。
  とにかく、あの体に悪そうな味が好きなのだ。
  渋谷がこってりラーメンと言うのなら、それはもう、大変に満足なことである。
  「けどお前、それはもうこってりラーメンだぜ?」
  私は困惑した。あまりにも渋谷とこってりラーメンが繋がらない。と、なると次の言葉はこうである。
  「渋谷のどこがこってりラーメンなのだ?」
  友はこう言う──
  「お前、渋谷は分かるな?」
  「もちろん」
  「じゃあこってりラーメンは?」
  「大好き」
  「両者に共通することは?」
  思わずとも言葉に窮した。何故なら、そんなものはあるはずがない。
  渋谷は渋谷で、こってりラーメンはこってりラーメンなのだ。
  すると友は、こう不敵に笑うのだ。
  「・・・渋谷もな、こってりしてるんだよ」
  私は、その意味がさっぱり分からなかった。
  今その時は・・・

〇渋谷スクランブルスクエア
  さて、渋谷。品川から山手線とやらの乗り継ぎ、私は新天地へと降り立つ。
  しかし、私は驚愕した。

〇渋谷駅前
  人が、多すぎる。
  まっすぐ歩く隙間すらない。祇園祭状態である、いやあれよりもひどい。歩きスマホが多すぎるからだ。
  さらにうるさい。人の声だけではない、なにやら騒がしい車が、怪しげなメロディで街を爆走している。
  あとなんか臭い! どうして街の中で公衆トイレの臭いがするのだ!?
  正に愕然。私は、なにやらとんでもないところに来てしまったと錯覚をしてしまう。

〇渋谷駅前
  そのあとも、人にもみくちゃにされ蹴飛ばされ、車に怒鳴られひかれかけ。ふと気がつけば日も暮れようとしている。
  どこのなに坂にいるやも知れぬが、この時になれば腹も減る。その時今目の先に。私の前にそれがある。そうすなわちラーメン屋だ!

〇ラーメン屋のカウンター
  「へいらっしゃい」
  その掛け声はどこの誰であっても落ち着くものだ。私はカウンターに座り込み、味噌豚骨ラーメンを注文した。
  さて、ラーメン。私は待ってましたと野菜をむさぼり、麺をこれでもかとすすり、こってりとしたスープを流し込む。
  正に完食、空になったどんぶりを眺めながら多幸感に満たされていると、ふと、友の言葉を思い出した。

〇黒
  「渋谷はこってりラーメンみたいだ」

〇ラーメン屋のカウンター
  私は笑った。確かにその通りだと。
  人も物も、あらゆるものが・・・

〇黒
  『いっぱい』でもう充分なのだ。

コメント

  • 冒頭から言い得て妙だと頷きながら読んでいました。ラストも納得です。
    では、天婦羅蕎麦はどこ、きつねうどんはどこ、などと妄想したくなりますw

  • こってりって言うと、まずはラーメンを思い出しますね。
    じゃあこってりってどんな感じ?と問われたら中々説明は難しいですが…。
    でもこの作品と同じで、イメージの渋谷はこってりしてそうです笑

  • 最初は そうか? なんて思ってたけど、説明を聞いてると、なるほどと思える展開が面白かった!

    あと オチもよかった。だよねー ってなると思える作品です。

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