〜乙女ゲー厶のヒロインに転生しましたが悪役令嬢に弱愛されてて困ってます〜

翡翠。(最垢)

エピソード1、目覚めたら、そこは“推し”のいる世界でした(脚本)

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〇貴族の部屋
  カーテン越しの光が、やけにやさしく感じた。まぶたの裏がじんわり温かくなる。
ティアナ「ん...んぇ...朝?」
  ぼんやりと目を開けた瞬間、視界いっぱいに広がったのは――ふわっふわの天蓋。
ティアナ「...え?」
  私の部屋、こんなにメルヘンじゃなかったよね?
  布団、分厚すぎない? カーテン、可愛すぎない?
  いや、ていうかそもそもこれ、私の部屋じゃない。
ティアナ「え、え、ええぇぇえええっ!?!?!?!?!?!?」
  跳ね起きて、叫んだ。全力で叫んだ。
  夢だと思いたかったけど、足元の絨毯がふかふかすぎて、感触がリアルすぎて...
ティアナ「ちょ、ちょっと待って、嘘でしょ? これ...ティアナの部屋...!?」
  自分の髪をつかむ。
  長い。やわらかい。サラッサラ。
ティアナ「え、え、私、昨日まで会社員だったんですけど!? 地味OLだったんですけど!? 社畜で人生消耗してたんですけどおおお!!?」
  もしかして...これ、転生ってやつ!?
  いや、何がどうしてそうなった!? 私はただ寝落ちしただけだよ!?
  ラストシーンを見返して、推し(※悪役令嬢)に涙してたら気づけば──
ティアナ(いやいやいやいや!!)
ティアナ「しかもヒロイン枠って...推しの敵ポジなんだけど!? 嘘でしょ!?」
  この時点で私はもう、精神的にはだいぶ限界だった。
ルカ「ティアナ様? 起きていらっしゃいますか?」
  ――ドアの向こうから、控えめなノック音。
ティアナ「は、はいっ!」
  演技力ゼロなのに、生き残りたい本能だけで返事しちゃった。
ルカ「失礼いたします。おはようございます、ティアナ様」
  メイドさんたちが優雅に入ってきて、息をつく間もなく着替え開始。
  すっっっごい勢いでドレスを着せられて、髪を巻かれて、香水をつけられて──
ティアナ「えっ、あっ、ちょっと待って、なにこれ、なんか王女様みたいな...!?」
ルカ「ふふっ、ティアナ様、今日はご機嫌がよろしいのですね?」
ティアナ「い、いや、そうじゃなくてですね!? え、これは毎朝...?」
ルカ「ええ、もちろんでございます。ご令嬢として当然のことかと」
  マジかよ。体感5年分の美容ケアが朝だけで終わったんですけど。
  鏡に映った“私”は、確かにティアナだった。
  ――水色の瞳。
  ――淡いローズゴールドのロングヘア。
  ――白百合みたいな雰囲気の、守りたくなる顔立ち。
ティアナ(うわ、見た目補正やば...ヒロイン強...)
  でも、そんな自分の姿にうっとりしている余裕はなかった。
ティアナ「...推しに会うまでに、心の準備しとかなきゃ...」
  そう。あの“悪役令嬢”――カトリーナ・ヴェルディア。
  彼女はこのゲームの悲劇の象徴。
  高慢で冷たい悪役として描かれていたけど、実はただひたすら、孤独なだけだった。
ティアナ(ゲームのストーリー、全部知ってる。バッドエンドも...)
  でも。私は見てしまったんだ。
  最後のルート、誰も気づかない隠しルートで──
  彼女が、誰よりも純粋にヒロインを、私を──
ティアナ「...いやいやいやいやっ!違う違う違う!それは私が前世で見てただけのルート!現実じゃないから!!」
ルカ「ティアナ様?」
ティアナ「ひゃっ、な、なんでもないですっ!!」
  メイドさんが不思議そうに首をかしげる中、私は気を取り直す。
ティアナ「...よし。こうなったら...推しを救って、ハッピーエンド掴んでみせるっ!」
  もちろん、恋愛ルートはあくまで“男子キャラ向け”で進める予定。
  ――だったはずなのに。
  このあと私は思い知らされる。
  この乙女ゲームの世界、ちょっと仕様がバグっていたことを。

〇華やかな寮
  今日から、王都アリアナの学園生活が始まる。
  「王立アリアナ学園」。乙女ゲーム『王国の花嫁』のメインステージだ。
  私はヒロイン、ティアナ・ルシエール。
  貴族の令嬢でありながら、平民にも優しい理想のお姫様...という設定。
ティアナ(でも中身はどう考えても社畜OLなんですけど...!?)
ティアナ「ふぁあ...やば...朝がつらいのは転生しても変わらないのね...」
  朝の準備にぐったりしながら馬車に揺られ、私は学園の正門に降り立った。
  さすがの名門校、校舎はお城みたいに豪華だった。
ミレイユ「おはよう、ティアナ!」
  明るく駆け寄ってきたのは、ミレイユ・リゼット。
  栗色のショートボブに、つぶらな金の瞳。快活で、人懐っこい子だ。
アナスタシア「ちゃんと寝れた? 緊張してたっぽいけど」
  こっちは、アナシスタ・セレスタイン。
  銀髪ロングで、青い瞳がクールにきらめく。冷静で、でも優しい。
ティアナ「ありがとう、アナシスタ。うん、まあ...寝た。気絶するように」
アナスタシア「ふふ。無理はしないでね」
  ふたりとも、ティアナの“仲良し女子枠”として登場するキャラだ。攻略対象じゃないけど、重要な存在。
ミレイユ「さて、入学式だよ~っ! 第一王子さまもスピーチするんだって!」
ティアナ(...攻略対象、ついに登場か)
  私は小さく深呼吸する。いよいよ物語が動き出す。

〇大広間
  講堂の壇上に立つのは、金髪に蒼眼の少年――。レオン=フォン=グラディウス、王国の第一王子。
レオン「皆、入学おめでとう。これからともに学び合い、成長できることを楽しみにしている」
ティアナ(あ、声かっこよ。。。ゲーム通り...)
  表情も穏やかで、品のある佇まい。
  攻略対象の中では“王道の王子様”ポジションだ。
  でも――その隣に立つ少女を見た瞬間。
ティアナ「...っ!!」
  息を呑んだ。
  長い赤茶色の巻き髪。紫水晶のように艶めく瞳。
  誰よりも気高く、誰よりも孤独なその姿。
  カトリーナ・ヴェルディア。
  ゲームでは“悪役令嬢”のポジション。
  だけど私は知っている。
  彼女の真実を。
ティアナ(やばい、心の準備まだできてない!! 推しが美しすぎる...!!)
  ふと、壇上のカトリーナと目が合った気がした。
  私のことを、鋭く見下ろすような視線。
  けれど――その奥に、妙な色が混じっていた。

〇ファンタジーの教室
  そのまま式が終わり、教室へ移動。
  自己紹介タイムが始まったとき──
先生「次、ティアナ・ルシエール様」
  私の番だ。
ティアナ「えっと、ティアナ・ルシエールと申します。皆さんと仲良くできたら嬉しいです。よろしくお願いします」
  ちょっと緊張したけど、なんとかセリフ通りのヒロインムーブはできた・・・・・・と思う。...そう思ったそのとき。
カトリーナ「ふん、“仲良く”? 安っぽい言葉ね」
  低く、冷たい声が響いた。
  全員が振り向く。その視線の先には──
ティアナ「...カトリーナ様?」
  彼女が、私の方に近づいてきていた。
  そのまま、私の机のすぐ隣に――ストン、と腰を下ろす。
ティアナ(え?)
  いやいやいや、ここあなたの席じゃないのでは!?
  ゲームだと、カトリーナ様とは距離があって、最初は敵対する流れで...
カトリーナ「...あまり無理はしないことね。お人形のような顔で、心まで演じていれば疲れるでしょう?」
ティアナ「...っ」
ティアナ(やば...初対面から圧がすごい...)
カトリーナ「けれど、悪くないわ。...その顔。...私の趣味に、合っている」
ティアナ「―――え?」
ティアナ(え、今、なに!? 今“趣味”って言った!? 私を“趣味”って言った!?)
先生「...カトリーナ様、こっちの席でしたよね」
  教師が、苦笑しながら声をかけると──
カトリーナ「...あら、そうだったかしら?」
  全く悪びれる様子もなく、彼女はふわりと立ち上がり、行ってしまった。
ティアナ(な、なんだったの...!? え? 推しってこんなに距離近かったっけ!?)
  頭が混乱していた。
  そして同時に――ほんの少し、心臓が速くなっていた。
ティアナ(まずい...このままだと、ゲームと違うルートに突入する...!)
  それは、“悪役令嬢とヒロインが恋に落ちる”ルート。
  私の前世の記憶にしか存在しなかった、あの隠しエンドの匂いがした。
ティアナ(待って、フラグ立ってる? 今、立った? 立っちゃった!?)

〇おしゃれな食堂
  この日を境に、カトリーナ様はことあるごとに私の近くへ現れはじめる。
カトリーナ「今日の紅茶、あなたに合うと思ったの。味見して?」

〇ファンタジーの教室
カトリーナ「あなたの髪、もっと似合う結い方を知っているの。...試してもいい?」

〇ファンタジーの教室
カトリーナ「あなたを気に入ったの。...困る?」
ティアナ「...って、これ、あの恋愛フラグじゃん!!」
  思ってたのと、違う。
  でも、もしかしたら――私はまた、あの結末を見たいと思ってるのかもしれない。

次のエピソード:エピソード2、フラグ、増殖中につき注意報。

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