才能とは(脚本)
〇綺麗な一人部屋
人間は3つは才能がある、と言われている。
しかし人より才能に恵まれない男がいた。
その男、獅堂は意識だけは高かった。
だが能力が理想に見合わない。
シドウ(くそっ、なぜ俺はこうも才能に恵まれなかったんだ・・・)
シドウ(才能さえあればそこらの人間より遥かに活躍できるのに・・・)
シドウ(神のバカヤロー・・・いるんだったら出てきてみやがれってんだ)
──んだかね
シドウ(えっ? なんだ、空耳か・・・?)
神「呼んだかね」
シドウ「なっ、誰だあんた!? どっから入った!?」
神「お前が呼んだから来たというのに」
シドウ「呼んだ・・・? ま、まさか神、なのか・・・?」
自分でも突拍子のない発言だと獅堂は思った。
神「いかにも。 わしはミスってお前に才能を3つやるはずが2つだけにしてしまったらしい」
神「お詫びに1個だけお前に好きな才能を恵んでやろう」
シドウ(俺の思考を読み取ってる・・・ 紛れもなく神だ!)
シドウ「本当か! じゃ、じゃあ俺を・・・」
シドウ(今さら勉強の才能があっても活かしきれないし、運動の才能はもっと活用しづらい。 この世の中で最も役立つ才能は・・・)
シドウ「俺を稼ぐ天才にしてくれ!」
神「分かった。 お前は確かに稼ぐ天才になった」
シドウ「ほ、ほんとか!? ありがとう神様!」
神「まあ、あとは頑張りたまえよ」
神は煙と共に姿を消した。
〇大企業のオフィスビル
そこから獅堂は「稼ぐ才能」を発揮した。
仕事で提案した内容は軒並み採用され、投資した先は跳ね上がるように伸びる。
やがて会社の業績を大幅に伸ばした実績を買われCEOの座についた。
シドウ(稼ぐ才能・・・! これがあれば俺は最強だ・・・!)
獅堂は自分の才能に酔いしれながらシャンパンを揺らし、オフィスの最上階からの夜景を楽しむ。
優秀な部下に恵まれたこともあり、会社もかつてからは想像も出来ないほどの規模になっていた。
しかし、徐々に業績は伸び悩む。
〇大会議室
シドウ「おい開発部! お前らが不甲斐ないからこうなってるんだぞ!」
部下「も、申し訳ありません・・・」
シドウ「謝って済むのはガキまでだろうが! ったく・・・」
シドウ「おい、営業部、お前らもだ! ろくに業績を上げられず何が営業だ!」
シドウ「広報部もセンスのかけらも無い宣伝しやがって・・・」
会議もとい獅堂の叱咤は2時間続いた。
もはや生産性のない、ただの八つ当たり。
やがてこれが週に1度は開かれることになる。
だからこうなるのも自然なことであった。
シドウ「なっ!? こんな一斉に辞表を出して・・・お前ら本気か!? この企業がいかに伸びてきたか・・・それを忘れたのか!?」
部下「お世話になりました」
よりによって、いや当然だろう、優秀な人間から辞めていった。
業績が悪化すると凡人と呼べる社員まで辞めるようになり、会社はすっかり勢いを無くした。
株価も暴落、人材不足、もはや獅堂の才を持ってしても会社を救うのは困難であった。
〇綺麗な一人部屋
結局獅堂は多額の借金を背負うことになる。
今日も朝から電話が響く。
シドウ「は、はい、そういうわけであと2週間、いや3週間待って頂ければと」
「既に返済日を1ヶ月過ぎておりますが・・・」
シドウ「いえ、やはり2週間で返済致しますので・・・」
獅堂の机は請求書で埋め尽くされていた。
シドウ(くそっ、俺は稼ぐ天才なのにどうしてこうなったんだ・・・! 神のやつ、まさか嘘をついたのか?)
「──嘘はついとらんよ」
振り向くと、そこには老人が佇んでいた。
シドウ「神! あんた俺に稼ぐ才能をくれたんじゃなかったのか!」
神「あぁ、やったとも」
シドウ「じゃあなんだこれは!? 社員は離れ、返済は遅れ・・・」
神「なんだ、稼いでるじゃないか」
シドウ「ふ、ふざけるなよ! どこが稼いでるって言うんだ!」
神「社員からヘイトを稼ぎ、借金取りから時間を稼いでる」
神「紛れもなく『稼ぐ天才』だ」
それを聞き獅堂は唖然とする。
神「どの才能にも対価はあるんだよ。 頭が良すぎれば周囲と会話が合わないようにね」
神「君の場合、金を稼ぐことばかり考えて知識や人望を築くことを怠った」
シドウ「なっ、だってこんな才能あったら誰だって──」
神「君にも2つ、意識が高い、演説が上手いという才能はあったんだけどねぇ。 その才能さえ上手く発揮すれば違っただろうに」
シドウ「な、なあ神様、また俺に才能を──」
神「ダメだ、才能は3つまでだ。あとは頑張りたまえ」
神は煙と共に去ってしまった。
獅堂は才能を過信し、才能に振り回された。
そして本来するべき努力を怠った。
彼が失敗したのは慢心のせいか、神と出会ったから──
いや、才能のせいなのではないのか。