親戚だから…(脚本)
生活が出来ないよ・・・
また、 になってしまう
西峰と、切り離され、
完全に別れられますように。
〇女性の部屋
少しずつでも、社会・企業から被せられている損害から回復すべく、あたしたちは進み始めた。
・・・・・・たぶん、そうだと思う。
作家は、特に小説家はいつだって
命を脅かす反社だった。
そこにはいつも、厳しい残酷な現実だけがあって、夢なんてない。
無いからこそ、皮肉にも、「夢」なんて語っている場所。
憧れや妬みなんて都合のいい、おめでたい妄想で庶民を見下しているけれど
単に夢が存在しない。
それだけが常識だった。
だけど、もしそれが少しでも変わるのなら――――
そう思いながら眠りについた。
その夜だった。
納二科寧音(なにかねね)「!?」
大きな音がして、家が大きく揺れた。
「出てこい!!!!」
「出てこい!!!」
男性の怒鳴り声が響き渡る。
納二科寧音(なにかねね)「酔っ払いかな? 五月蠅いなぁ・・・・・・」
こんな時間に、なんで家の前で騒いでいるんだろう。
そう思っていると、再び家が揺れる。
改めて考えてみると、
男性の激しいノックによるものだった。
「証拠を見せてみぃや!!!!」
・・・・・・、あたしにも何の話かわからないが、いきなりそれは始まった。
「お前が先に在るってそんなん言い掛かりだろうが!!!」
念のために言っておくと、あたしはまだ何も言ってない。
「出てこい!!!」
「お前の言い掛かりのせいでな!! こっちは迷惑してるんだ!!」
「出て来てみぃや!!! 逃げるのか!! 証拠も無いのに五月蠅いんじゃ!」
納二科寧音(なにかねね)「な、なに?」
「もー、五月蠅いよ、寧音」
廊下から、母があたしを叱る。
納二科寧音(なにかねね)「あたしじゃない!」
「西峰さんは、違うって言うとるだろうが!!!」
納二科寧音(なにかねね)「!!!」
眠気が覚めて飛び起きる。
西峰――――
あいつが「違う」とさえ言えば、奇襲をしかけるに充分な動機・・・・・・!
「テレビ見とらんのか!!!」
テレビも雑誌も都合のいいことしか描いていない。
そんなものを見たって、彼らの発言権の大きさであたしたちがどんな圧力を受けているかなど報道されるわけがないのだから
納二科寧音(なにかねね)(うるさいい・・・・・・)
まぁ、とはいえ、此処で変に関わっても、
それはそれで面倒なので、
あたしは寝る事にした。
寧音母「いい加減にしなさい!」
のだが、母は応戦しだした。
「お前がなぁ、土地を盗ってるから」
寧音母「うちの土地です!!」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・」
ドンドンと壁を叩く音。
怒号。
母の声。
納二科寧音(なにかねね)(おかしくなりそうだよ・・・・・・)
早く家を出て・・・・・・
あたしを誰も知らない場所で静かに、だけど安定して暮らしたい。
考えたところで複数の単語が脳裏に過る。
教科書・・・・・・
先生・・・・・・
西峰維織・・・・・・
本当は、分かっていた。
将来・・・・・・
立ち向かわざるを得ない敵が、教育現場そのものだと言うこと。
あたしはまだ、勉強したくて。
だけど教科書も教師も、西峰も、社会も、もう居場所が無かった。
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・村田さんは、偉いな」
まだあたしは当たることも、砕けることも出来ない。
幼い頃から培った本能だけが、
あたしの理解が動くより先に回避してしまう。それにずっと甘えてきた。
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・やりますか」
納二科寧音(なにかねね)「当たって、ブチ壊すやつを」
〇アパートの台所
寧音母「働いて無いんだから!ご飯くらい作るでしょ!」
気の休める唯一の時間もなくなった。
やはり母は何かに囚われたように指示みたいな食事を命令した。
あたしが帰宅した時間は、母にとってはただの暇な時間だ。
あたしには学校や部活の、あの件のストレスから逃れられる唯一の隙間時間
寧音母「はーやーく!私は仕事で疲れてるんだから!」
それを、暇だから、と盾にされ、半ば無理矢理夕飯に『優しさ』や『対立』を見出す作業
味も何も感じない。
ただフラッシュバックを食べている。
寧音母「また来た。うちはうちのものです!! 証拠もあります!!」
母と、西峰の知人?が争いはじめた。
まるで当事者のように。
素をなぞるように。
〇アパートの台所
納二科寧音(なにかねね)(これじゃぁ、昔と同じだよー!)
田中が言うように、仮に母親は悪くないとするならば、
全部西峰が悪い。と思う。
西峰が揉め事を起こすから。
此方を利用して毎日当てつけ続けるから。だからきっと嫌なことがたびたび起きたんだ。
寧音母「いい加減にして!」
寧音母「あぁ、そうですか! それならこっちもやるしかないわね」
ドタバタと、物音がする。
騒音合戦になる。
そのたびに、あたしは不安になった。
事件になるのではないか、と常にハラハラした。
父親は居なかったけど、近所とは毎日揉めている。ある意味喧嘩を見て育ったようなものだ。
知らない人にこういう絡まれ方をする事は
これまで何度も、何度も、あった。
そして母も次第に応戦する性格に変わった。
納二科寧音(なにかねね)「あぁ〜此処でもか。 普通に生活して、普通を心掛けてきたのに・・・・・・」
何処から来ているのか、何故来ているのか。
これまでずっと、不自然で仕方なかったけど・・・・・・最近初めて、『西峰』というワードが出てきた。
少し前に、居た
モザイク団という半グレと変わらない。
西峰の言葉通りに暴れるのではないか?
一時間後
寧音母「警察行ってきた」
納二科寧音(なにかねね)「速っ」
寧音母「あの家でしょう?って反応された」
寧音母「あれはたぶん、かばっているわ」
寧音母「身内から犯罪者は出したくないってうし・・・・・・ まぁ確かに気持ちはわかるけど」
ぶつぶつ、つぶやきながら彼女は窓の外を見る。
あの家、をみているのだろう。
たぶん、警察内部でも有名な人だ。
そんなことを断片的に思う。
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・」
納二科寧音(なにかねね)「母さん、社長って誰?」
だから、あたしは
寧音母「社長?」
納二科寧音(なにかねね)「うん。何かの社長」
納二科寧音(なにかねね)「あたし、最近、社長がどうとか言ってる人に絡まれたんだけど」
納二科寧音(なにかねね)「うちってなんなの? 実親が誰かも教えてくれないしさ」
納二科寧音(なにかねね)「あたし、ヤクザとかの子どもなの?」
寧音母「知らないわね」
納二科寧音(なにかねね)「なんで、そんな突き返すような言い方するの?」
納二科寧音(なにかねね)「知ってるんじゃないの!? 母さんたちが何も言わないから、さっきの人たちだって!」
寧音母「・・・・・・みんな、地域を守ってくれているのよ」
納二科寧音(なにかねね)「そんなわけないじゃん!!」
納二科寧音(なにかねね)「そんなの信じられないよ!!」
不気味な事ばかりだ。
騒音はなくならないし、食事も見張られているみたいだし、社長や田中だって気持ち悪いし、馬田は死んだし、村田さんは刺されるし
わからない。実感出来ない。
納二科寧音(なにかねね)「仕事のこと全然教えてくれないのは コミュニケーションが、言葉が、足りないんじゃないの?」
寧音母「言わない規則になってるの」
〇街中の道路
納二科寧音(なにかねね)「うー・・・納得いかない 納得いかない 納得いかない」
夕方。雨の降り出した街をモヤモヤしながらうろつく。
あたしの周りの大人は皆こんな態度だ。
そして、あたしの目の前で見るのはいつも
喧嘩や騒音だけだ。
何を信じるというのか。
なんなら、村田さんを刺した事も、
あたしが西峰に反抗的な態度をとると隣人が荒れて暴れに来る事も、
母親のあの態度も、田中や社長も、
放置し続ける出版社も全部憎いまである。
何を守っているのか全然わからない。
ショウ「女子どもにおいそれと組織の話をするわけ無いだろ」
納二科寧音(なにかねね)「わーっ!!?」
納二科寧音(なにかねね)「びっくりした」
独り言が聞こえていたらしい。
振り向くとショウさんが立っていた。
納二科寧音(なにかねね)「わ、わわ・・・・・・わ」
ショウ「バイト帰り。目の前を挙動不審な女が歩いてたから」
ショウさんは、呆れたようにあたしを見て、ついでに飲んでいたカフェオレを近くのゴミ箱に捨てる。
ショウ「親がヤクザや組織の人間だったところでカタギを巻き込まない掟がある」
ショウ「その点でのコミュニケーションは諦めるんだな」
納二科寧音(なにかねね)「えーーーー!!やだやだやだやだ!!!」
シンジ君のパパみたいな雑さだ。
理不尽だ。
恵まれているとか、偏見とかだけ
背負わされて、何も聞けない。何も言えない
ショウ「巻き込まれるのは嫌だろ?」
・・・・・・
一瞬、百合子の事を思い出した。
納二科寧音(なにかねね)「なにそれ。何も聞かないでおいて、」
納二科寧音(なにかねね)「つか、半端に巻き込まれてから聞いても、なんも響かないんですけどね」
ショウ「・・・・・・なんだ、危ない遊びはやめとけって言ったのに、まだそんなことしてるのか」
納二科寧音(なにかねね)「向こうが来るんですー!」
ショウ「親御さんが心配するぞ」
二回目の台詞。
納二科寧音(なにかねね)「だから? 心配されたら何もしちゃいけないの? 馬鹿みたい」
そもそも心配なんて、あの母親は何もかも心配しているんだから食事まで管理するのだ、
母親という存在の「鳴き声」とか「癖」のようなものなのだと思ったが、そんな事を言うほど親しい訳でもない。
納二科寧音(なにかねね)「心配心配言ってたら、学校にすら通えませんけどね」
ため息を吐く。
納二科寧音(なにかねね)「母親の鳴き声なんか気にしてて何が出来るってんだか」
ショウ「鳴き声って、そんな」
納二科寧音(なにかねね)「心配したら何が偉いの!? 正しいの!? 不安ばっかり煽って卑怯だ!」
納二科寧音(なにかねね)「それなら自分から生まれる子どもがどうなるかから心配すればよかったのに」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・」
不良になりたいとかでも無いけど、
そんな悠長なことが言ってられるのは
あのタイプの母親がどんなものか知らないからなのだろう。
そんな事と、そう、あたしは百合子に同じ事をしているのだ。と、同時に思い出す。
周りはいつも心配するだけ、だった。優しいだけ、だった。
それがとにかく憎かった。
だから、同じに、「優しいだけ」になっちゃいけないんだ。
ショウ「なにやら事情がありそうだな」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・」
ショウ「あれ・・・違うの?」
なにか、言おうとした。
のだが、急にわからなくなってきた。
いろいろな事が綯交ぜになっている。
あると言えばあるし、無いと言えばないし、盗作された、と纏められるのは違うし
もっと、裏工作や暴力の話だ、なんて話すのもな、という気もする。
暴力と、芸能界と出版社を短絡に纏めるのは急ぎすぎな印象になってしまうし・・・
でも、あぁやって食い物にされている子が居る訳で・・・・・・
あたしは、あたしの存在を許して、
例えば作家や出版社がどうなっても、あたしを許させて、それで・・・・・・
どうするんだろう?
納二科寧音(なにかねね)「実は、マフィアの抗争に巻き込まれまして」
適当に言ってみた。
ショウ「え、マジで」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・」
普通に信用されてしまった。
(嘘も言ってない)
納二科寧音(なにかねね)「よくあることなの?」
ショウ「・・・・・・」
ショウ「向こうが来る、って何やったの」
納二科寧音(なにかねね)「だから、何も・・・・・・」
・・・・・・たぶん
納二科寧音(なにかねね)「母さんも、友達も、みんな変になった」
納二科寧音(なにかねね)「このままだと、あたし・・・・・・」
〇田舎駅の待合室
ショウ「なるほど・・・・・・借金の連帯保証人にしている、みたいな流れだな」
雨宿りも兼ねて、この時間誰も来ない停留所に座る。
あたしたちの他に、誰かが置いていった林檎がポツンと座っていて、バスを待っていた。
ショウ「・・・・・・そうか」
ショウ「犯人と容疑の隠匿。組織ぐるみでの詐欺となると、重罪じゃないか」
ショウ「工作する気があるなら、故意に行っているな。絶対」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・なんでそんなに詳しいんですか?」
ショウ「え、あっ・・・・・・いや、それは」
納二科寧音(なにかねね)「まぁ、なんでもいいですけど・・・・・・」
ショウ「昔も、似たような事があってな」
ショウ「・・・・・・ちょっと、その辺りの企業が過去に問題を起こしてるんだよ」
ショウ「で、俺が」
納二科寧音(なにかねね)「本当!?」
思わず身を乗り出してしまった。
自分以外にも、経験者が居たとは
ショウ「だけど、俺のときと全部同じではない、と思う」
ショウ「・・・・・・もしかしたら、それより規模が大きいかもしれないくらいだ」
おぉ・・・・・・なにやら恐ろしげだ。あたしは恐る恐る聞いた。
納二科寧音(なにかねね)「つまり、」
ショウ「つまり、隠匿の為に俺の事件と重ねられる恐れがある」
ショウ「もう終わった、と主張する為にな!」
納二科寧音(なにかねね)「えぇーー!?」
ショウ「他の事件から話題を盗んで無理矢理解決したように見せかける」
ショウ「あいつらのお得意の工作だからなぁ」
ショウ「同化されないでくれよ」
納二科寧音(なにかねね)「そ、そんなぁ〜」
納二科寧音(なにかねね)「ショウさんの事件に見せかけられるなんて」
という事はつまり、何を訴えてももう解決している、再犯はしないと言っている事になる。
単純に被害だけ訴えても勝てない。
どころか虚言として実際の事件が本来よりも軽く扱われてしまう恐れがあるという事だ。
納二科寧音(なにかねね)「あ、メールだ」
家を飛び出してきたから母が心配しているのだろうか?
と端末のメール画面を開く。
・ムニエル
・ピーマンの肉詰め
↑ケチャップ必須
または、生姜焼き。
おばさんに安いと言われて
生姜を買ってきました。
送られてくるのは献立だった。
納二科寧音(なにかねね)「どうして、こう・・・・・・」
偶然にしては毎日毎日、しつこい。
それに、ときどき母以外の人物が登場している。
会社の渡邉さん、おばさん、親戚。
何も貰うなとは言わないけど、意思を親や渡邉さんが管理しているかのようで気持ちが悪い。
それにこの速さはなんだ。
ショウさんと話しているのを知っていたかのように、あるいはかつての事件を知っていたかのように
『生姜が安くなって買ってきました。
焼いてくれ』と即時メールしてくるなんて、絶対普通じゃない。
納二科寧音(なにかねね)「うぅ、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、」
こんなに嫌な気分になるのに。
日常を見張られて、思想を管理されている気分になるのに。
田中に、お母さんは大事にしろよ♥とか言われなくちゃならないんだと思うと言いようのない悲しみと吐き気がこみあげて来る。
ショウ「どうした?」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・どうしたら、同化されないの?」
ショウ「俺が言いたいのは、主人公がショウの作品に気を付けろって事だ」
ショウ「奴らは絶対、主人公をショウにしてお前の話を出して来る」
ショウ「実際いくつか見たからな。 あれ、俺知らない、っての結構あるもん」
納二科寧音(なにかねね)「わかった。気をつける」