ガラスの靴はいらない

佐竹梅子

ガラスの靴はいらない(脚本)

ガラスの靴はいらない

佐竹梅子

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ガラスの靴はいらない
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〇森の中
  とある御伽の国の、森の外れ
  人知れずぽつんと建つ、一軒の靴屋がありました

〇山中のレストラン
  お客は少なく、年にひとり訪れることがあるかないか・・・
  それもそのはず。
  この靴屋は、世に二つとない──

〇宝石店
ガラスの靴や「いらっしゃいませ、王子様」
ガラスの靴や「あなたのお姫様のために、よい靴をご用意してお待ちしておりました」
  そう、ここは御伽の国の──ガラスの靴屋
  御伽の国で生きる王子たちは、美しい姫の心を手に入れるため・・・
  神秘的なガラスの靴を求めます

〇ストレートグレー
  店主である青年は、無間のような暇をもてあまして、お客の訪れを待っています
  青年は見目涼やかで、まるでガラスのようでした
  退屈な時を過ごしながらも、仕事こそはまともにしていますが・・・
  たったひとつ、悪癖がありました

〇宝石店
ガラスの靴や「こちらの靴は、いかがでしょうか」
ガラスの靴や「どうぞお手にとってお確かめを・・・」
ガラスの靴や「失礼。手が触れてしまいましたね」
  そうです、彼には王子を誘惑する癖がありました
  好色な青年は甘い蜜を一口、そっと摘まみ食いするのです

〇森の中
  彼は、自分が贈るガラスの靴などは欲しがりませんでした
  そんなある日。
  静かな店内にドアベルが響きます

〇宝石店
ガラスの靴や「いらっしゃいませ」
ガラスの靴や「・・・おや、これは可愛らしい王子様で」
  ドアを開いたのは、儚い少年でした
  ガラス玉のように透き通る、青い瞳を輝かせて言いました
ガラス職人「僕は町に住むガラス職人の息子です。 ここへ弟子入りさせてください」
ガラスの靴や「弟子入り? ここに?」
ガラス職人「はい。ガラスの靴を作りたいんです」

〇宝石店
  見上げる真っ直ぐな視線に、青年はゆるやかに首を振りました
  こんなに綺麗な瞳の少年を──
  悪癖ある店主の傍に置くことなど出来ません
ガラスの靴や「君が王子になった時に、またお客としておいでなさい」
  あくまでやわらかく追い返せば、少年は肩を落として帰っていきました
ガラスの靴や「いつかあの子も、ガラスの靴を求めてやってくる」
ガラスの靴や「だってここは御伽の国だからね」
ガラスの靴や「彼らの手助けをして、ちょっと楽しませてもらえればそれで充分」

〇森の中
  どれだけの年月が経った頃でしょう──
  数年を重ねたくらいでは、青年の見目も悪癖も・・・特に変わることはありません
  相変わらず暇な時間を過ごし、時折店を訪れる王子をつまむ──そんな日々でした

〇宝石店
  からん、と埃を被った鈴が鈍く鳴り、ドアが開かれます
  久方ぶりのお客です
ガラスの靴や「いらっしゃいませ、王子様」
  顔を出した王子はどこか庶民じみていましたが、そういう気さくな王子も御伽噺では定番です
ガラスの靴や(垢抜けないところが、寧ろ可愛いな)
ガラスの靴や「あなたのお姫様には、どのような靴を──」
  すると王子は、靴やの目の前に一足の革靴を差し出しました
ガラスの靴や「あの、王子様?」
王子「これをあなたに・・・」
ガラスの靴や「どういうことでしょうか?」
王子「以前、おっしゃったでしょう。王子になった頃に来なさいと」
ガラスの靴や「あなたは・・・」

〇宝石店
  ──思い出しました
  あのときの、無垢な少年です
ガラス職人「僕は町に住むガラス職人の息子です。 ここへ弟子入りさせてください」

〇宝石店
王子「あれから色々あって・・・ガラス職人から王子になりました」
王子「なので、あなたに会いにきました。この靴を持って」
ガラスの靴や「この靴は、いったい・・・」
王子「ガラスの靴を売るあなたは、自分の靴を持たぬのでしょう」
王子「あなただって・・・めでたしめでたしを迎えてもいいんです」
ガラスの靴や「そんな・・・物語の駒でしかない、自分が」
王子「どうか履いてください。あなたならきっと、履けるはずです」
王子「俺が靴を贈りたいと思った、あなたなら」

〇宝石店
  店主の鼓動が早鐘を打ちました
  いままで、ただ御伽噺を動かす一部に過ぎないと思っていた自分が、靴をもらうなんて考えてもみなかったからです
ガラスの靴や「では・・・」
  王子が置いた真新しい革靴につま先を差しました
  おずおずと差し込んでいくと、それは驚くほどぴたりと合いました
ガラスの靴や「まるで・・・あつらえたように、ぴったりですね」
王子「よかった・・・もしも合わなかったら、どうしようかと」
ガラスの靴や「・・・本当に、このようなしがない靴屋でいいのですか?」
王子「あなたがいいんです」
王子「御伽噺の恋人たちって、そういうものでしょう?」
ガラスの靴や「それも・・・そうですね」
ガラスの靴や「たくさんの王子様を見てきた自分には、よく分かります」
  たった一人、見つけた相手を愛して生きていく──それが御伽の国だから

〇山中のレストラン
  ガラスの靴屋はもう、ひとりぼっちではありません
  ひとりぼっちで、お客を待つ必要も
  ひとりぼっちの寂しさによる摘み食いも、する必要がありません
ガラスの靴や「見つけてくれてありがとう。 ──御伽噺の、王子様」
  めでたしめでたし

コメント

  • シンデレラモチーフのエピソードかと思ってました。次はシンデレラモチーフのエピソードを!

  • 少年の思いがかわいくてキュンしました!
    少年の頃の約束を信じて、ずっと思いを秘めてるなんて、すごくロマンティックですよ!
    ぜひ二人には幸せになって欲しいです!

  • ガラスの靴やさんがいろんな王子さまをつまみ食いしていたのは、さみしさを埋めるためだったのでしょうか。やはり純愛こそが正義ですね。これからお二人の幸せが末永く続くのでしょう。

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