普通の少女。ハロウィンの魔女(脚本)
〇アパートのダイニング
コンニチハ
納仁科寧音「だあれ?」
?「コンニチハ」
?「この辺りの土地を、カウコトニナッタ」
納仁科寧音「?」
懐かしい、夢。
ある日。
赤坂じゃない人がインターホンを押した。
?「コンニチハ。我々はまだ、この辺りの言葉に不慣れでね」
『この辺り』の土地を買うことになった、と言ってスーツを着た大人が訪ねてきた。
明らかにカタコトの日本語を喋っている、金髪のカッコいいお兄さんと、
多分日本人と見られる髭の人。
それが、ドアの前に居たのだ。
もし、これがラブコメ漫画なら憧れるシチュエーションかもしれない。
しかし、あたしはただ、混乱していた。
買い物するのになんでうちに来るの?と。
それに。小さかったあたしはあまりアニメや漫画に馴染みがなかった。
体感180くらいデカい男性に囲まれて、
『怖い』と思った。
あと、カタコトというのも、当時流行っていた本・・・・・・の
人に化けて出てくる妖怪(何故か日本語喋る)みたいに見えて、
なんか、こう、『人に化けてる?』
と思ったのだった。
納仁科寧音「はわわわわ・・・・・・」
?「では、我々はこれで」
?「アリガトウゴザイマシタ」
戸惑っているうちに彼らは帰って行ったのだが
この辺りの土地・・・・・・さっきの金髪の人と、なんか髭の人とかが管理するの?
とか、しばらく謎に混乱したものだった。
〇生徒会室
授業が終わると部室に直行した。
真面目に部活をしよう!
ってことで、今日は真面目に文章と向き合っている。
梅ヶ丘 ゆりこ「寧音ちゃんの小説の人って、金髪の人が一人くらい居るよね」
近くの机で文芸誌をめぐっていた百合子が言う。
納二科寧音(なにかねね)「え?」
納二科寧音(なにかねね)「あー・・・・・・」
それを聞いてあたしは、そういえば、と思った。
納二科寧音(なにかねね)「そうかも、ね」
梅ヶ丘 ゆりこ「なんか拘りとかあるの?」
納二科寧音(なにかねね)「拘り、っていうか・・・・・・」
納二科寧音(なにかねね)「なんか、懐かしくなる、かな」
納二科寧音(なにかねね)「何でだろ・・・・・・」
梅ヶ丘 ゆりこ「ふふ、なにそれ」
迷ったけど、まぁいいかと昔の話をちょっとだけ語る。
納二科寧音(なにかねね)「怖いと思っちゃって、あんまり優しく出来なかったなとか・・・・・・」
納二科寧音(なにかねね)「きっとそういうのが、まだ残ってるんだろうなぁ」
梅ヶ丘 ゆりこ「人に化けてる?って、ふふふ。可愛い」
納二科寧音(なにかねね)「うるさいなー! 純粋だったんだよ」
梅ヶ丘 ゆりこ「でも、まだ気になるなんて、よっぽどだったんだね」
納二科寧音(なにかねね)「その言い方、怪しい」
梅ヶ丘 ゆりこ「だってー。羨ましいよ。 『メルちゃんの執事』みたいだよね」
納二科寧音(なにかねね)「羊?」
梅ヶ丘 ゆりこ「執事」
梅ヶ丘 ゆりこ「少女漫画なんだけど・・・ 今度持ってくるよ」
納二科寧音(なにかねね)「あ、ありがとう?」
自分でもわからない。
あのとき、あまり深く考えていなかったのに。今も無意識に、意識しているんだろうか。
納二科寧音(なにかねね)「うーん・・・・・・」
納二科寧音(なにかねね)「あ、でも」
梅ヶ丘 ゆりこ「何?」
納二科寧音(なにかねね)「綺麗な目、だったな」
須隠 要 (すがくし かなめ)「うわー! 見つけちゃった」
しばらく各々の活動をしていたときだ。後ろの棚の方をごそごそしていた後輩が突如叫ぶ。
納二科寧音(なにかねね)「あ、須隠さん、課題は終わったの?」
確かさっきまでは、部活の課題(部長が置いて行った)をやって居た筈だ。
だが、そんなものより今は気になることがあるらしい。
須隠 要 (すがくし かなめ)「皆の去年のアルバムですよ!」
大袈裟にリアクションしながら彼女は目の前に一冊の本をひろげ始める。
納二科寧音(なにかねね)「あぁ・・・・・・」
梅ヶ丘 ゆりこ「懐かしい!1年はまだ居なかったもんね」
須隠 要 (すがくし かなめ)「寧音先輩。顔ちがくないですか? 整形したんすか?」
納二科寧音(なにかねね)「失礼だな!」
あたしは去年の春頃、花粉症で目や唇が腫れていた時期がある。
そこそこ目立つ症状だった為、皮膚科に通っており、内服薬とか塗り薬とかを服用していた
納二科寧音(なにかねね)「整形じゃない! 回復したの!」
須隠 要 (すがくし かなめ)「ええっ!!」
納二科寧音(なにかねね)「驚くな~!!! あたしのデフォルトはこっちなの!!」
須隠 要 (すがくし かなめ)「ひいー!ごめんなさいごめんなさい」
梅ヶ丘 ゆりこ「わー!! 二人とも、部室で走っちゃだめだよお!」
私は普通に生きていく。
普通が一番だ。
普通のやりとりをしながら、
あたしはふと「いつまで」続くのだろうと考えた。
だけど、薄々分かっている。
普通ってのは、
「なる」ものじゃない。
いつだって「維持する」もので―――ちょっとでもバランスを崩せば無くなってしまう。
村田さんのバイト先や、あたしを出待ちしているという事は。文芸誌が既に「魔の手」に在るという事はそういう事だ。
いつだって、想定されているのは「権力者の都合」と「大人にとっての平和」だけで
――その影響下の子どもは、自力で立ち上がらなきゃいけない。
仮に大人が居ても、守られるのは「命だけ」
それでも戦いなんて無い、平和なんだよと、
いつだってあたしは言って来た、そう矯正してきた筈。
それが、普通だった。
ドアが開き、部長がそこから顔を出したときに、あたしは言った。
納二科寧音(なにかねね)「部長。 あたし―――やります」
部長「そうか。考えて来たのだな」
納二科寧音(なにかねね)「はい」
夢は見続けなきゃいけない。
普通の為には、変わり続けなきゃいけない
〇街中の道路
思えば、昔から。
何処まで時間を稼ぐことが出来るのかって、あたしはいつも、ずっと、考えて居た。
納仁科寧音「あたし、延長され続ける」
?「でも・・・」
納仁科寧音「あたしが普通じゃない事は、 お母さんたちも、気にしてた」
納仁科寧音「きっと、貴方とあたしは違う・・・・・・」
?「パパと、ママの事?」
納仁科寧音「・・・・・・」
大人は、血液や、■■■■が違うと、子ども■■■■■■■■■■■■■■
あたしたちは、その冷たい眼差しの中で暮らして来た。
あたしには、どうしても普通が必要だった。
そうじゃないと、それを維持しないとみんなが不機嫌になって家が壊れてしまうから。
納仁科寧音「何も無くなって、心なんて無くなってしまうだろうけど」
納仁科寧音「きっと、いつかそれが普通になる」
納仁科寧音「みんなが、普通に笑って暮らせるし、 きっと争いも起きないし、」
納仁科寧音「大丈夫、バレないよ」
あたしが異常だという事は、あたしが普通にしていればいいと
ずっとそう思っていた。
だけど、今になるとこうも思う。
あたしが普通じゃないと、異常だと、
何故周囲が不機嫌になるのか?
何故『そっち』が普通なのか?
〇アパートのダイニング
どうして、考えなかったんだろう・・・・・・
当たり前だったから?
『延長』を使うと、その分の何割かの負担がお前に返って来る。
やつらは何処からでも現れる。
?「頻度によっては、通学も通勤もままならないだろう」
?「それでも、延長するか?」
――――どうして、そもそも、あたしたちは『延長』を使うのか?
〇生徒会室
知っているなら、あのメニューを強要する理由になる。
知らないなら、あのメニューは・・・・・・
事件と、母の介入。二つを結び付けているものは・・・・・・考えられるのは・・・・・・
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・」
梅ヶ丘 ゆりこ「寧音ちゃん?」
納二科寧音(なにかねね)「あっ! えっと、な、何」
梅ヶ丘 ゆりこ「いや、これからの事を話そうって・・・・・・」
部長「どうした? 顔色が優れないようだが・・・・・・」
納二科寧音(なにかねね)「いえ・・・・・・ちょっと 寝不足で」
納二科寧音(なにかねね)「部長は・・・・・・大丈夫ですか」
部長「・・・・・・? ああ」
部長「まぁ、いろいろとあるが、一刻も早く ふざけた延長をなくさなくては」
納二科寧音(なにかねね)「そうですね。それがありがたいです」
部長「どうかしたのか」
納二科寧音(なにかねね)「実は・・・・・・」
納二科寧音(なにかねね)「という事が続いていて」
部長「それは確かに変だな」
タカガキ(田中)「ご飯。煮物。ありがたい。 お味噌汁ですか? 頂きます」
タカガキ(田中)「ズズッ・・・・・・ 焼き魚?食べる、食べるよ。 お母さん」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・田中」
タカガキ(田中)「うん。美味しい。 栄養考えて、毎日考えてくれて、ありがとう」
納二科寧音(なにかねね)「何、やってんの?」
いきなりうちの母親で妄想しだしたり、
感謝始めたりする田中に、鳥肌が止まらない。
タカガキ(田中)「お母さんが、全面的に信頼して協力してくれているじゃねぇか・・・・・・泣けるね、こりゃ」
納二科寧音(なにかねね)「うわっ・・・・・・」
何なんだコイツは。
と言いたいのだが、なんとなく、言葉が出てこなかったのは
母に対する漠然と感じて居る恐怖を自分の中で表現できていないからかもしれない。
タカガキ(田中)「子ども想いのいい親御さんじゃねぇか。ぐすっ・・・・・・」
納二科寧音(なにかねね)「そうじゃなくて、何。田中は何しに来たの? うちに、あたしの態度にいちゃもん付けに来たの?」
外から見た母の印象と、あたしから見た印象はきっと違うとは思うけど、それでも母に入れ込む田中、キモい。
田中も田中で明らかに「まわし者でーす」って感じで出てくるわ、
何も話して無いのにこれが好きなんだろ?ムーブを始めるわ
あからさまに気持悪いのだが。母もそういう類だぞ?
タカガキ(田中)「あ、そうだった」
タカガキ(田中)「いやぁ、ちょっとばかし、納二科嬢をお借りしてよろしいでしょうか」
部長「え、ええと」
納二科寧音(なにかねね)「此処で話すんじゃだめなやつ?」
タカガキ(田中)「んーーまぁ、ちょっとな」
部長「そ、そうか、行ってきていいぞ」
納二科寧音(なにかねね)「えぇ・・・・・・」
タカガキ(田中)「んじゃ、失礼しまーす」
〇広い廊下
納二科寧音(なにかねね)「で、話ってなんなの?」
タカガキ(田中)「あぁ、実は――――」
タカガキ(田中)「えぇー、文芸部の部誌をだな」
タカガキ(田中)「見つけちゃったんだなー」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・」
タカガキ(田中)「お前、西峰の大ファンだろ?」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・」
タカガキ(田中)「西峰と同じような内容のページが幾つかある。それが納二科の作品だったわけだ」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・」
あー、駄目だ。ストレスがたまる。
地雷を素足で踏み抜くタイプというか。
タカガキ(田中)「俺さ、最近西峰先生の編集?だった人とも関わりがあるんだけど」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・・・・」
あー、駄目だ。なんかこう、目の前のなんかをこう、殴りたい。
タカガキ(田中)「さーらーに。今なんと、松井さんが・・・・・・」
納二科寧音(なにかねね)「話終わった? 帰るね」
タカガキ(田中)「んだよっ!!!何故帰るんだよっ!!!」
あー・・・・・・説明という説明、この世のあらゆる神羅万象クラスの説明がめんどい。
納二科寧音(なにかねね)「あのさ、あたし、何にもあんたに言ってないんだわ。何故そう次から次へと出てくるの?」
タカガキ(田中)「はぁっ!? 人が親切にしてやっているのに!! 人の優しさが受け取れないのか?」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・・・・・・・そうかも」
タカガキ(田中)「えー、おい、待てよ・・・・・・」
「今度使う、新しい教科書に、西峰出てくるんだぞ」
廊下の途中。田中に変な事を言われながらも、あたしは部室に戻ろうと背を向け、歩き出す。
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・はぁ」
あらゆる優しさ、自分への干渉が日に日に受け付けなくなってきている。
このまま居ると、安易に情報を渡した百合子の事も憎みそうだ。
百合子に聞かれた情報を、社長が握っていて、それを田中がベラベラ聞き出そうとしてくる。
それだけでもう、百合子と関わっている場合じゃないような気がしてくる。
田中も、母さんも、みんな気持ち悪い。
人の優しさが受け取れない。
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・」
先生「おぉ、納二科」
納二科寧音(なにかねね)「先生・・・・・・」
先生「明日から新しい教科書、使うからな。間違って前のを持って来るなよ?」
納二科寧音(なにかねね)「1年じゃないんですから」
先生「ははは、そうか」
先生「こういう教科書にも、先生の知り合いが関わってたり、教え子の研究生がいる。くぅ〜感慨深い・・・・・・」
先生とすれ違いながら、そういえばこの春から教科書が新しくなったのを思い出した。
そういえばさっき、田中が「西峰」って言ってたような・・・・・・
嫌な 予感がする。
近所の飲食店が、西峰系列だったよりも
納二科寧音(なにかねね)「戻るか。部室・・・」
〇広い廊下
廊下を急ぎながら、教科書の事が気になりながら。あたしはあえて別の事を考えて見た。
この前から、田中はなんなのか。
田中がどうも好きになれない。
相手の意識に自分が居ると思い込んでるなんてのは、そもそも傲慢だと思う。
悔しがることも、喜ぶことも、悲しむのも、全部が傲慢だと思う。
勝手な期待があるから。
相手を見下しているから。
そう、田中は傲慢だと思う。
納二科寧音(なにかねね)(赤坂と同じ・・・・・・)
相手が好意か嫌悪かを持っていると思い込むことで理想化する。
そして勝手にヒステリーを起こす。
納二科寧音(なにかねね)「帰りましたー」
〇生徒会室
須隠 要 (すがくし かなめ)「ハロウィンの魔女だ!」
突如聞こえた言葉に面食らう。
須隠 要 (すがくし かなめ)「あっ、納仁科先輩」
部長「これまでの経緯を話していたんだ」
須隠 要 (すがくし かなめ)「その途中で、ハロウィンの魔女の話になったんですよ」
ちなみにハロウィンの魔女、は最近あたしが書いた短編のタイトルでもある。
主人公が街灯モニタで見た光景。
ある人が、皆がハロウィンにカボチャを食べるように勧めている。
みんながこぞって同じ時間にカボチャを食べることで、無意識のうちにジャックランタンの召喚儀式に加担する。
それが彼らの狙い、ハロウィンの魔女の計画──という話なのだが
しかしこの国のサブリミナル法に違反している。
同じ時間に、記憶を消すチョコを使っている。ことも明らかになり・・・・・・
納二科寧音(なにかねね)(まぁ、元ネタが何かなんて話は、してないよね・・・)
須隠 要 (すがくし かなめ)「この飯テロ行為ってガチなんすね」
そこまで話していた。
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・そうなんだよ」
須隠 要 (すがくし かなめ)「チケット配ってますって」
納二科寧音(なにかねね)「は?」
〇コンサート会場
ハロウィンの魔女、先行上映チケットを配っています。
彼女は部長が開いているスマホに表示されている劇団のサイトを見ていた。
そこにあったのは、あたしの作品と同じような内容が舞台になっている光景。
「マスクって、便利ー!!」
載せられている、運営のSNSアカウントには、
『マスク』が便利過ぎると書かれている。
色んな柄のマスクを買い込んでいて、
また買っちゃった、とあった。
感染予防になるから、皆にも良いよね
!と締め括られている。
〇生徒会室
納二科寧音(なにかねね)「なななななにこれ・・・・・・」
須隠 要 (すがくし かなめ)「やっぱ許可取ってない、ですよね」
部長「最近、特に納仁科作品の動きが活発になっている」
納二科寧音(なにかねね)「独り歩きしてるよ・・・!!」
意味がわからない。
わからないけど、なんだか凄い数動員して、
チケットを売るらしい。
須隠 要 (すがくし かなめ)「あ、でも、完成度は高いらしいですよ。 監督がファンだって」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・」
作品を好きかどうかなんて、
どうでもいい。
他人は、好意で動かせるほど甘くない、とそう思われていないことの方が問題だ。
〇アパートのダイニング
寧音母「いい? 絶対に、小説家にはならないで」
寧音母「部活も許さないから」
納二科寧音(なにかねね)「わかってるよ」
あのとき、何故人前に出る全てが禁じられていたのか
今になると、なんとなくわかった
〇生徒会室
納二科寧音(なにかねね)「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
須隠 要 (すがくし かなめ)「うわ、顔色が・・・・・・ 大丈夫ですか」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・」
梅ヶ丘 ゆりこ「寧音ちゃん!?」
呼吸が速まる。意識が揺らぐ。
納二科寧音(なにかねね)(中身が、外に出ているという事実だけで どうしてこんなにも、)
全身に力が入らないかのような、酷い寒気がして───
梅ヶ丘 ゆりこ「でも、凄いね。 先生が嫉妬する程才能があるなんて」
あたしは、守ってきたのに
須隠 要 (すがくし かなめ)「確かに、このポジションはなかなかなれないっすよ。 優秀さゆえの悩み──褒めているようなものじゃないっすか」
あんなに、毎日、毎日、
破らないように
〇保健室
あたしは、
褒められるのが嫌いだ。
居場所が窮屈に感じて、
誰かの為にしか描けない気がしてくるから
何かを好きになることは、
とっても危険なことだ。
大事なものを持つことは、命の危険があることだから。
・・・・・・・・・・・・
そう、思い出しながら目を覚ますと
何故かベッドの上だった。
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・あれ」
先生「あ、おはよう」
カーテンを開けると、養護教諭が立っていた。
納二科寧音(なにかねね)「おはようございます?」
先生「あなた、急に部室で倒れたらしいわね」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・」
納二科寧音(なにかねね)「あ」
思い出した瞬間、再び全身の血の気が引きそうになる。
自分には決定権の無いまま、世界が勝手に動いていく光景・・・
母に、何かの拍子に広告や本、テレビを指して「これ貴方に似てる」なんて言われたら・・・
納二科寧音(なにかねね)(もう、褒められたくないよ。 閉じ込められたくない・・・・・・)
褒められたくない。干渉も嫌。
閉じ込められるのも嫌。
あたしの話なんて、誰も理解してくれない。
納二科寧音(なにかねね)「文芸誌は存在するし、なぁ・・・」
今すぐ死んでしまうか、というくらいには
恐ろしい。
何故、気づかなかったのだろう。
西峰の本なんて読まないから、と油断していたけれど・・・・・・
メディアミックスだってあるじゃないか。
先生「倒れる前、部活やめるかも、って言ってたそうだけど・・・ きっとコミュニケーションがたりないだけよ」
先生「お母さんと話し合ってみたら?」
納二科寧音(なにかねね)「・・・・・・はぁ」
納二科寧音(なにかねね)(違うよ先生・・・)
根本的な問題は、別に小説家が反対だから、じゃない。
反対されようがネットもある時代、匿名のゆるふわネームで幾らでも出版自体は出来るのだ
・・・・・・いや、知られたくないけれど。
『暴力団』に娘を関わらせたい親が居ない。
西峰はほとんどシノギみたいなことをしていて、あたしを巻き添えにしている。
その状態で、あたしが行動を起こすと勝手にそっち側に認定されてしまうかもしれない。
母親が発狂不可避なのだ。
納二科寧音(なにかねね)(んなもんで、コミュニケーション取れるか!)
どうしよう。
あたしは、「作戦」をやるって言ったのに。
「失礼します」
梅ヶ丘 ゆりこ「あの、・・・・・・大丈夫?」
納二科寧音(なにかねね)「あ、百合子・・・・・・ うん。もう平気」
梅ヶ丘 ゆりこ「・・・・・・部活で伝えてないこと、あって」
チラッと百合子が先生を見る。
梅ヶ丘 ゆりこ「行こう・・・・・・?」
納二科寧音(なにかねね)「あ、うん」
納二科寧音(なにかねね)「ありがとうございました」
先生「はーい。気を付けて帰ってね」
鞄を持ってくれている百合子に腕を引かれて、あたしは保健室を出た。
〇古めかしい和室
今になっても、わかりたくない。
納仁科寧音「・・・・・・」
?「は!?なにするんだよ」
納仁科寧音「え・・・?」
納仁科寧音「何、ってうまく行かなかったから 捨てるの」
納仁科寧音「な、なに、やめて」
?「捨てるな!」
納仁科寧音「一度消して作り直せばもっとうまく書ける」
?「駄目だ。捨てるな、って言ってるだろ?」
納仁科寧音「捨てたいよぉ・・・・・・ これを完成にされるなんて、嫌だよ」
?「絶対に、捨てるな!! 捨てたら殺す」
は異常だった。
普段は大人しいのに、まるで監視しているみたいに、あたしに張り付いていることがある。
ときどき、気が狂ったように、怒り出した
寧音母「あら、どうしたの」
寧音母「まぁ、せっかく描いたのに、どうして捨てようとするの?」
納仁科寧音「どうして、あたしの意思なのに、」
寧音母「いつか、役に立つから」
?「描いたものを捨てるなんて、絶対許さないぞ!」
自分の意志で捨てられないものを作って、なんになるの?
作品全てに責任を持ち、全てに自覚を持つことを、お金を貰っているわけでも無いのに意識しろというのか
いつか役に立ったって、
想像力を育てる前に、目の前の成長の現実に苦しんでいるじゃないか。
まるで、何処かに報告するみたいに。
何処かと通じているみたいに。
寧音母「あら。また新しく描いてたの」
寧音母「そうそうそう! 出来るじゃない!!」
〇街中の道路
納二科寧音(なにかねね)「いや、いっそ言うか? 暴力団がシノギにしているから何も出来ないです、とか」
納二科寧音(なにかねね)「変な人が絡んできたり、嫌がらせがこっちに来るってわからないから、美談にしときゃいい、みたいに思うのかな」
納二科寧音(なにかねね)「こっちからしたら本が出る度に嫌味なんだけど・・・」
あのSNSで見たマスク、という投稿。
一見するとただの感染予防だけど、どことない嫌悪感があった。
きっと他人の人生を「便利」な「マスク」としか
認識していないから、影響を考えられないのだ。
納二科寧音(なにかねね)「早く仕事を終わらせたいだけの奴に利用されんの、ムカつくなぁ」
納二科寧音(なにかねね)「うーん・・・・・・もっとやんわりと、 ゴーストライター的な立ち回りを・・・」
納二科寧音(なにかねね)「でもなにと? 誰と? 何処と話すんだ?」
納二科寧音(なにかねね)「警察も、なぁ・・・・・・」
恵まれている、と言われて話を聞いてもらえないのは昔からだった。
成績が良かった程度のことでもリカたちが憤慨し、進度のお陰だと吹聴したように
周囲のお陰だ、恵まれていると人格全てを否定する。
納二科寧音(なにかねね)「部活くらいは、あたしの力でやってるって思ってたのに」
納二科寧音(なにかねね)「また、作家が邪魔しに来た」
納二科寧音(なにかねね)「なんなの? 職業の皮をかぶった指定暴力団?」
褒められたいのも他人がいなきゃ評価されないのもそっちじゃないか。
あたしは何も言わなかった。
何一つ、社会に浸透しない方が、本当は良かった
あの舞台が成功したって、
あたしがオリジナルと呼ばれることはない。
あたしにとっての思い出や、正史があったという事実も、表に出ているものだけで語られる事になる
ショウ「コンビニの前で、何物騒な話をしてるんだ」
納二科寧音(なにかねね)「わーーっ!?!」
ぬっ、と物陰から男性の声がして、あたしは反射的に身構える。
ショウ「元気があるのは良いことだけど、あんまり危ない遊びはしないほうが良いぞ」
ショウ「親御さんが哀しむからな」
分かったようなことを言われる。
ショウさんは何を知っているというのだろうか。
納二科寧音(なにかねね)「ショウさんこそ、いつも、女の人に囲まれてるじゃないですか」
ショウ「あれは・・・・・・」
でも、確かにショウさんの言う通りかもしれない。
うじうじ悩むよりも、親が誰か、
どんな仕事をしているのか、全部聞いてしまえばいいのだ。
納二科寧音(なにかねね)「自分を特別だと思ってるんだろーとかって 、じゃあ全部話すから、今、此処で、コミュニケーションしてみろってことだよね」
納二科寧音(なにかねね)(そうだよ、何で気付かなかったんだ。 向こうが黙ってたって問答無用で聞きだせばいいんだ)