微妙な恋の物語 邂逅(かいこう)

B作

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〇田舎駅のホーム
  俺は、1人で旅に来ていた。
  先月、長年務めた会社を定年となった。
  仕事ひとすじと言うほど仕事人間では無かったが
  それでも仕事優先の生活だったので、長期旅行など行った事は無かった。
  なので
  思いつきで、アテの無い旅に出ようと思った。
  奥さんに、一緒に行かないか?と誘ったが、習い事が忙しいので1人で行ってらっしゃいと言われた。
  ローカル線に乗り、何となく気になった田舎の駅を降りてみた。

〇山中のレストラン
  駅から、ブラブラとしばらく歩くと、小洒落たレストランが見えてきた。
  お腹も空いてきたので、このレストランで食事をとることにした。

〇おしゃれなレストラン
  店に入ると、誰も居なかった。
男(もしかして、失敗したかな・・・)
  店に入った事を少し後悔した。
女「いらっしゃいませ!」
  奥から、女性が出てきた。
男「あの・・・食事したいのですが」
女「大丈夫ですよ! お好きな席にお座り下さい」
  そう言って、女性はメニューをくれた。
  俺は、その女性の顔を見た瞬間古い記憶が呼び出された。

〇清潔な浴室
  今から30年くらい前、俺はソープランドに通っていた。
  悪友に連れられて行った店で入った子を気に入ってしまったのだ。
  その子は、歯に衣を着せぬ物言いで、思った事をポンポン言ってくれるので、気を使わなくて良くて心地良かった。
  嬉しかった事を話すと、自分の事の様に喜んでくれたし。
  俺が腐って、ヤサグレた時は、それじゃダメだって怒ってくれた。
  お店の中だけの付き合いだったけど、
  三年くらい通い続けた。

〇おしゃれなレストラン
  歳は取っていたが、間違い無く彼女だ。
男(声掛けない方が良いよな。 昔の事には触れられたくないだろうから)
  俺は、気付かないふりをして、何も言わずに店を出るつもりだった。
女「ご注文は、決まりましたか?」
男「あ! えっと・・・日替わりランチで」
  不意に声を掛けられたので、少し動揺してしまった。
女「日替わりランチですね。 少しお待ち下さいね」
  そう言って、彼女は奥に引っ込んだ。
  元気そうな彼女の姿を見て、嬉しかった。
女「一人旅ですか?」
  彼女が話しかけたくれた。
男「定年したので、昔からやりたかったアテの無い一人旅って奴をやりたくなって」
女「良いですね。 私なんか、何年も旅行に行ってないですよ」
男「このお店は、長いんですか?」
女「ここに来て、20年になりますね」
男「良い所ですよね」
女「ふふふふ」
  彼女が、吹き出したように笑い始めた。
男「???」
女「ごめんなさい」
男「何がですか?」
女「まだ、知らないフリを続けるの?」
男「ん???」
女「相変わらず、変に気を使うんだから。 分かってるんでしょ? 私は別に気にしないから」
男「え?! いやぁ・・・ だから・・・」
女「久しぶりね。 元気にしてた?」
男「そっか! そっちこそ、元気だったか?」
女「お店でサヨナラしてから、30年ぶりかしら?」
男「そうだな。 お互い歳取る訳だ」
女「私は、変わってないわよ」
男「ハイハイ。 そう言う事にしておきますか」
  店をクローズにして、しばらく昔話に花を咲かせた。

〇おしゃれなレストラン
  気が付くと、すっかり暗くなっていた。
男「ゴメン。 長居し過ぎた」
女「いいのよ。 楽しかったから」
男「さてと、どっか泊まる所探さないと」
女「この辺りには、宿泊施設なんて無いわよ」
男「え?! まいったなぁ。 駅で、野宿でもするかな」
女「良かったら、うちに泊まっていく? 私は、一人暮らしだから」
男「イヤイヤ。 さすがにそれはマズイよ」
女「私は別に構わないわよ。 昔みたいに愛し合っても構わないし」
男「な・な・何言ってんだよ」
女「冗談よ。 何、変な期待してんのよ」
男「・・・」
女「四の五の言わずに、言う通りにしなさい」
  そう言って、俺は彼女の家に連れて行かれた。

〇田舎の一人部屋
女「狭い部屋だけど、どうぞ!」
男「おじゃまします」
  レストランのそばの小さな一軒家に案内された。
女「奥さんには、内緒にしてね」
男「もちろん、言える訳無いだろ」
女「適当に座っててね」
  そう言って、台所に向かった。
  しばらくすると、ビールと簡単なツマミを持ってきてくれた。
  二人でビールを飲み始めた。
男「何で、ここに来たんだ?」
女「良い物件が有ったからと、誰も自分を知らない土地で再出発したかったってのが一番の理由かな?」
女「あなたが初めてよ。昔を知ってる人が来たの」
男「それは、悪かったな」
女「ううん。 今になれば、懐かしくて嬉しかった」
男「そう言ってくれると助かるよ。 迷惑だったかなって心配してたから」
男「時々、考えてたんだよ。 どうしてるかな?とか。 元気でやってるのかな?とか」
女「まだ、店に居るのかな?とか」
男「今なら、SNSで見れるけど、当時は電話して確認するしか無いからね。 君に、店に来たらダメって言われたから出来なかった」
女「そんな事言ったかしら?」
男「俺が、嫁さんと付き合い始めたって言ったら、風俗とか来たらダメって言ってくれただろ?」
女「私はフラれちゃったからねえ」
男「イヤイヤ」
女「冗談よ」
男「でも、君の事を心配してたのはホントだよ」
男「君には、本当に色々助けてもらったし 救われてたのは事実だから」
女「お仕事ですから」
男「そうだとしても、救われたんだよ。 俺にとっては、君との時間も大切だったよ」
女「ありがとう。 そう言ってもらえると、ソープ嬢やってた事が良かったと少しは思えそうだわ」
男「お店の中だけだったけど、俺にとっては君は大事な存在だったよ」
女「選んではくれなかったけどね・・・」
  小さな声で呟いた。
男「え?!」
  俺は何て答えて良いか、分からなかった。
  彼女は、黙ってビールをついでくれた
女「何、真に受けてるのよ! 冗談に決まってるじゃないの」
  そう言って、笑っているが、俺には冗談には聞こえなかった。

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