怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

エピソード10(脚本)

怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

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〇教室
  次の日。
  いつも通りに登校し、席に荷物を下ろす。
  体調が回復してしみじみ思う、健康って素晴らしい。
由比隼人「おっはー茶村!」
由比隼人「昨日急に倒れてビビったわ。 もう大丈夫か〜?」
茶村和成「ああ。 心配かけて悪い」
由比隼人「・・・でもなんか、若干疲れてね?」
茶村和成「あー・・・」
  鋭い由比の言葉に、俺は苦笑いを零(こぼ)す。
  ・・・それもそうだろう。
  実際昨夜と今朝は、ひどい目にあった。

〇住宅街
  昨晩。
  あのあと、あれよあれよと丸めこまれ、薬師寺に連れられるまま、俺は最低限の荷物を持って薬師寺の家に向かった。
  もう日も沈んで、街灯が輝いている。
  薬師寺は、フンフンと鼻歌を歌いながら歩いていた。
  正直これ以上怪異とは遭遇したくないし、薬師寺の家にいさせてもらえるのならありがたい、が・・・。
茶村和成「・・・あのさ。 親御さんとかは、いいのか?」
薬師寺廉太郎「ん? あ〜大丈夫だよ。 ひとり暮らしなんだ」
茶村和成「へえ・・・」
  こいつも、色々と事情があるのか。
  尋ねたい気持ちはあれど、黙って薬師寺のあとを追う。
  しばらくついていくと、薬師寺の足がピタリと歩みを止めた。
茶村和成「・・・え?」

〇高層ビル群
  目の前に立つのはタワーマンション。
  呆然と立ち尽くす俺に気づかず、薬師寺は慣れた様子でカードキーを使い、平然と中へ入っていった。
  狼狽(うろた)えたまま、慌てて薬師寺のあとに続く。
  変わらない様子の薬師寺は、エレベーターを上がって廊下を進んだ。
  角の部屋の扉の前で足をとめ、キーを差し込み中に入っていく。
  ・・・マジか・・・。

〇高層マンションの一室
茶村和成「お、お邪魔します・・・」
  萎縮(いしゅく)しながら部屋に入る。
  物は少ないながらも、俺の部屋より何倍も広い部屋に息を呑(の)んだ。
  どう見ても、学生がひとり暮らしする部屋じゃない。
薬師寺廉太郎「荷物は適当に置いてね、自由にくつろいでくれて構わないから」
  勝手知ったる様子の薬師寺に、俺はかろうじて首を縦に振って応えた。
薬師寺廉太郎「こっちがトイレで、その右が洗面所ね。 浴室もそっちの方」
薬師寺廉太郎「それから台所がここで、あるもの使ったり飲み食いしてくれていいからね」
  薬師寺が家の説明をしてくれているが、俺はいまだに追いつかずに、内容の半分も頭に入ってこなかった。
  そんな俺を見て薬師寺は笑う。
薬師寺廉太郎「まあ、とりあえず風呂入りなよ。 疲れてるだろうし、お湯張ろうか?」
茶村和成「い、いや、いい! シャワーだけ借りるから・・・」
薬師寺廉太郎「そう? じゃあタオル出すね」

〇黒
  ・・・何者なんだこいつ。
  俺は薬師寺からタオルを受け取り、だだっ広い浴室でシャワーを浴びた。

〇高層マンションの一室
  濡れた髪をガシガシと拭きながら、ふと俺は薬師寺に尋ねた。
茶村和成「そういや、俺はどこで寝ればいい?」
薬師寺廉太郎「え? ベッドでしょ?」
  きょとんとした薬師寺の声。
  俺は1台しかないベッドを横目に見た。
茶村和成「いや、お前はどうするんだよ」
薬師寺廉太郎「一緒に寝ればいいじゃん」
茶村和成「・・・は?」
  薬師寺の言葉に身体(からだ)が固まった。
  なに言ってんだ、こいつ?
茶村和成「男ふたりで寝てなにが楽しいんだよ!?」
薬師寺廉太郎「ちょちょ、落ち着いて茶村」
薬師寺廉太郎「でもうち布団とかないし。 別に、ただ一緒に寝るだけじゃん」
茶村和成「・・・そうだけど」
薬師寺廉太郎「もしかして、なにか変なこと考えてる?」
薬師寺廉太郎「・・・茶村のえっち」
  むぎゅ
  太ももをきゅむりと掴まれる。
  本ッ当に、この男は・・・。
茶村和成「お前がそういうことするからだろうが!」
薬師寺廉太郎「ぐえッ!」
  俺の拳を避けようともせず、いつもと同様、親指を立てて「今日も調子良いね・・・!」と言う薬師寺。黙ってほしい。

〇高層マンションの一室
  そのあと、しばらく寝る場所で揉(も)めたが、結局同じ部屋で寝ることになった。
  家主は薬師寺とはいえ、すっごい癪(しゃく)だ。
茶村和成「絶対になにもするなよ」
薬師寺廉太郎「うん」
  俺が念を押すと、ニコニコしながら薬師寺が頷いた。
  まったく信用はできなかったが、色々なことが起こって疲労がたまっていたのか、すぐに意識は遠くなっていった。

〇高層マンションの一室
茶村和成「・・・ん、うう・・・」
  ぼんやりと目が覚めた。
  なんだかすごく心地が良い。暖かいものが全身をすっぽりと覆っているような——
  ふと顔を上げると、目の前に色素の薄いふわふわとしたものを見つける。
  それがなにか認めると、俺は叫んだ。
茶村和成「ぎゃー!!」
薬師寺廉太郎「うぎゃっ!?」
  目の前のものを強く押し返し、勢いをつけて起き上がる。眠気は一気に霧散(むさん)していた。
  薬師寺は寝転んだ体勢のまま、目を擦(こす)ってむにゃむにゃとしている。
薬師寺廉太郎「なに〜? 朝からうるさいよ・・・」
茶村和成「おま・・・、おま・・・っ!」
  悠長にあくびをしている薬師寺を見て、呆然と口をパクパクと開け閉めする。
  俺は慌てて薬師寺から距離をとった。
茶村和成「抱きしめながら寝るやつがあるかッ!」
薬師寺廉太郎「ええ〜? でも、よく眠れたでしょ?」
茶村和成「う・・・」
  ここのところ不眠が続いていてろくな睡眠がとれていなかった。
  ・・・悔しいけどたしかに、今日は久しぶりに熟睡できた、と思う。
  俺はなにも言い返せずに黙り込んだ。
薬師寺廉太郎「朝ご飯、食べるよね。 用意してあげる」
  ベッドから抜け出し、伸びをしながら台所へ向かう薬師寺を見つめる。

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