カラフル・スクランブル

bisuko

カラフル・スクランブル(脚本)

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〇渋谷駅前
  ──今日も「あたし」は この街に居る。

〇渋谷の雑踏
  人、ひと、ヒト──
  誰もあたしのことなんて、気に留めていない。

〇白
  渋谷は、ごちゃ混ぜの街。

〇黒
  いろんな色が混ざり合い、真っ黒になっている。

〇渋谷のスクランブル交差点
  だから、誰も他人の色なんて気にならない。
  (だから、ここはあたしの居場所だ)

〇黒
「み・・・く・・・・・き・・・」
  ・・・
「・・・な・・・ん・・・きて」
  ・・・
「・・・・・・」
  ・・・
「ちょっと!!いい加減起きてよ!!」

〇教室
  雑に肩を揺すられ、思わず目を開けた。

〇教室
???「もう!やっと起きた!」
  目の前の人物は、どうやら自分に腹を立てているらしい。
  ひとまずここは謝っておく。
  『・・・村上さん、ごめんね。何か用事?』
村上「用事って・・・今日、日直だったでしょ!?」
村上「日誌、もう書いてくれた?」
  自分の仕事もせずに、居眠りしていると思われたのだろう。
  真面目な彼女のことだ。苛立っても無理はない。
  『書いてあるよ。提出しておくね』
村上「なんだ!もう書き終わってたんだ!」
村上「一応確認するから中見せて!」
  正直なところ、書き直せなどと言われないか心配だったが、見せないと彼女は納得しないのだろう。
  苦い顔になりそうなのをぐっと堪え、ぱらぱらとページをめくりながら今日の日付を探す。
  『──!! いたっ・・・』
村上「どうしたの!?」
  『ちょっと紙で切っちゃって』
  痛みを感じた指先には、薄っすら血が滲んでいた。
村上「私、絆創膏持ってるよ!・・・はい!」
  『ありがとう・・・──』
  受け取った絆創膏を思わずまじまじと見つめてしまう。
  パステルピンクの絆創膏には、うさぎのキャラクターやリボンが描かれており、彼女の持ち物にしては”意外”だったからだ。
村上「ごめん、つけるの恥ずかしいよね」
  『・・・うん』
  ──そう。自分がつけるには、こんなに可愛らしい物はきっと恥ずかしい。
村上「内容確認したら、日誌は私が出しておくよ」
  『え?良いの?』
村上「いいの!日誌ちゃんと書いてくれてたのに、怒っちゃってごめんね」
村上「絆創膏は血が止まるまで我慢して!」

〇黒
「じゃあね、水瀬”くん”!」

〇渋谷のスクランブル交差点
  初めて「あたし」が渋谷に来た時
  改札を出てすぐ、スクランブル交差点を歩く人達はみんな忙しそうで、楽しそうで・・・
  誰もあたしを見ていない。
  誰もあたしを気にしてない。
  そんな中に居ると、自分が普通なんだって安心できた。
  渋谷は、「僕」がなりたい自分でいられる唯一の場所。

〇雑貨売り場
  ──雑貨店──
  (あ、あのマグカップ可愛い)
  (欲しいけど・・・)
  (家であんなの使ってたら・・・──)
  なにそれ、女の子みたい
  (・・・・・・)
  (──せっかく今は”あたし”でいるんだから。そんなこと考えるの、やめよう)
  (とりあえず、見るだけ・・・──)
  マグカップに手を伸ばすと、ふと指先の絆創膏が目に入る。

〇教室

〇雑貨売り場
  (あの時、意外なんて思っちゃったな・・・)
  (”あたし”だってそう思うんだ・・・他の人達は・・・)
  (・・・・・・)
  (誰もあたしを気にしてない・・・本当に?)

〇黒
  なりたい自分でいるだけなのに
  何でこんなに苦しいの?

〇黒
「・・・水瀬くん?」

〇雑貨売り場
  『──!!』
  聞き覚えのある声が、「僕」の名前を呼んでいた。

〇黒
  声の主を確認もせず、そこから逃げるようにただ走った。
  なりふり構わず走り抜ける僕を、道ゆく人が見ているのがわかる。
  みんなが、見ている。
  お願い、見ないで。
  見ないで、見ないで──

〇高架下
  『はぁ・・・はぁ・・・・・・』
  もう走れないという限界まで走り続け、立ち止まった。
  息を整えながら思考を巡らせる。
  (あの声は多分・・・村上さんだった──)
  (どうしよう、見られた・・・どうしよう、どうしよう──)
「水瀬くん!!」
  『────』
  『・・・!!』

〇高架下
???「ふぅ・・・やっと追いついた・・・」
水瀬「村上・・・さん・・・?」
村上「そうです!」
村上「ねぇ、それよりも──」
村上「それだけ走って崩れないメイクとウィッグって!!何使ってるの!?」
水瀬「・・・はあ!?」
水瀬「いや、他に色々言うこと・・・」
村上「うん!水瀬くん、すっごい綺麗!」
村上「最初は全然わかんなかったんだけど、可愛い絆創膏貼ってたから!」
村上「よく見たら綺麗なお姉さんが水瀬くんで驚いちゃった!」
水瀬「・・・・・・」
水瀬「変だって思わないの?」
村上「変じゃないよ!すごく似合ってる!」
水瀬「だって・・・こんな・・・」
水瀬「・・・・・・」
村上「『村上さんは可愛い服ってキャラじゃないよね』」
村上「──ってクラスの子に言われたことあるんだ」
村上「私、昔からリボンとかフリルとか大好きだったから、ショックでさ」
村上「でも、今はそんなのどうでもよくなっちゃった!」
村上「だって・・・見て!」

〇渋谷のスクランブル交差点
  みんな、おしゃれして好きな服着て
  ちょー楽しそうに歩いてる!
  だから私も、この街では
  好きな服着て可愛いメイクして、なりたい自分になるんだ!

〇高架下
村上「水瀬くんも私も、自分が好きな格好してるんだもん!」
村上「私たちも楽しまなきゃ損だよ!」
水瀬「・・・・・・」
水瀬「・・・とりあえず、”水瀬くん”はやめて欲しい」
村上「そうだね! 何にする?”水瀬ちゃん”とか?」
水瀬「いや、普通に”水瀬”で良いよ」
村上「じゃあ私も”ムラカミ”でいいよ!」
村上「おそろいだね!」
水瀬「・・・・・・」
水瀬「・・・おそろいか・・・?」

〇白
  渋谷は、ごちゃ混ぜの街。

〇黒
  いろんな色が混ざり合い
  真っ黒に見えていた交差点が

〇渋谷の雑踏
  今日は何だか、カラフルに見えた。

コメント

  • 水瀬が必死で逃げるのを、メイクとウィッグ知りたさに追いかけるムラカミ~って展開が、なんかいいなと。『多様性』の保全は当たり前とて、無関心・不干渉でなく『そこ』から誰かにとっての意味を抽出する事が大切なんだなと思いました。
    良くも悪くもなく無限にキャラがいるタップノベル、キャラの価値が変わるのは書き手の技量次第…って場所で、こういう物語が生まれたのも、 なんかいいなと。
    このお話に出会えて良かった。

  • とても素敵なお話でした。
    自分らしさと世間の目のギャップは、ジェンダー関係なく多くの人の心に引っ掛かるのではないかと思います。巧みな心情表現で、他人事ではなく自分事として感情移入できるさじ加減が絶妙でした。
    先入観を裏切られる構成は文章ならでは、モノクロやエフェクトの効果的な表現は映像ならではで、タップノベルの特性をフルに活用しているところも素敵でした。長編化楽しみにしています。

  • 前半の教室の件で主人公が「~君」と呼ばれた瞬間、一気に惹きこまれました。その後は、まるで囲碁の盤面が寄せで次第に埋まっていくかのように、渋谷の「色」を心理描写とうまく調和させて展開されていくストーリーが秀逸でした。

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