龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

第参拾陸話 林間学校 二日目 後編(脚本)

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〇原っぱ
辰宮玲奈「何だったんだろうね、アレ」
穂村瑠美「何でもいいよ、私達は無事なんだし」
梶間頼子「・・・」
  あの空気と匂い。
  明らかに異常だったが、それ以外には何も異常は起きなかった。
  三人は無事に戻ることができている。
  だが、

〇体育館の舞台
真上「この地図は、肌身離さず持っていなさい」

〇原っぱ
  答え合わせで真上に見てもらった時に言われた言葉が気になる。
辰宮玲奈「もう要らないんじゃないかな、これ」
  無駄にクオリティの高い描き込みが入った地図をヒラヒラと振りながら玲奈が呟く。
穂村瑠美「でも、あの人が持ってるように言ったなら、後で何かに使うんじゃない?」
  地図は全員に渡されていた。
  当然ながら、瑠美と頼子も持っている。
  玲奈とは違い、瑠美も頼子も地図に書き込んだ記号は簡単なものだ。
梶間頼子「そうかもしれないね」
  裏返したり回したりしながら、頼子は地図と睨み合っている。
辰宮玲奈「何か見えそう?」
  玲奈がたずねると、
梶間頼子「う〜ん、ダメ」
  頼子は首を横に振った。
梶間頼子「暗号とかは無さそうな感じ」

〇古民家の居間
真上「マーキングされてしまった子が出たか・・・」
  今夜の準備をしながら真上は呟いた。
  その生徒たちには、オリエンテーリングで使った地図を肌身離さず持っているように伝えはした。
  記号の書き込みは正しく行われていたから、問題なく機能するはずだ。
真上「あれで凌げれば良いのだが・・・」

〇原っぱ
  そして夕方。
  生徒たちはクラスごとに分かれて広場に集まっていた。
  それぞれの集団の真ん中には、薪を井桁に組んだ大きな櫓が鎮座している。
教諭「それじゃあ、点火しまーす」
  教諭が松明を櫓の基部の隙間に押し込む。
  櫓の中に詰め込まれた新聞紙や木端に日が燃え移り、炎が大きくなっていく。
教諭「昨日・今日と普段はできない事を色々体験しました」
教諭「今夜は火を囲んで、みんなで色々と話してみよっか」
  夜の部が始まった。

〇原っぱ
  そして、日が落ちて月が出た頃。
教諭「今日も月が綺麗ね」
教諭「天候に恵まれて本当に助かったわ」
辰宮玲奈「ホント、そうだよね」
梶間頼子「死んでもいいわ、なんちゃって」
教諭「あら、梶間さん、太宰治かしら?」
梶間頼子「有名な一節ですから」
穂村瑠美「んっ・・・」
辰宮玲奈「瑠美ちゃん、どうしたの?」
穂村瑠美「あ、いや、ちょっとね」
  些か寒気を感じたのだが、多分気温が下がってきたせいだろう。
梶間頼子「・・・」
辰宮玲奈「頼ちゃん?」
  急に黙り込んだ頼子へと顔を向ける玲奈。
梶間頼子「・・・」
  頼子は人の輪の外へと目を向けていた。
  同じような炎とそれを囲む人の群れの隙間、その先にある暗闇を見つめている。
辰宮玲奈「どうしたの?何かあった?」
  玲奈が頼子の顔を覗き込むと、
梶間頼子「や、多分気の所為」
  頼子は愛想笑いを浮かべて首を横に振った。
辰宮玲奈「・・・?」
  親友二人の変な様子を怪訝に思いつつ、玲奈は最も親しい仲にある少年の方へと視線を移してみると、
橘一哉「はー・・・」
辰宮玲奈「えー・・・」
  呆けた顔で月を見上げていた。
  半開きになっている口は、月が転がり落ちてくるのを待っているかのよう。
  親鳥の餌を待つ雛鳥の方がまだ可愛い。
  有り体に言って、阿呆丸出しだった。
古橋哲也「・・・」
  そんな一哉の顔を見て、隣の哲也も顔を困惑一色にしてフリーズしていた。
梶間頼子「うわぁ、アホがいる」
  玲奈の視線を追った先にあるものを見た頼子も、思わず呟いた。
  と、その時。
  フウッ、と風が吹き、
辰宮玲奈「!?」
  玲奈もハッとした。
穂村瑠美「玲奈?」
  玲奈がピクリと体を震わせた様子を瑠美は見逃さなかった。
辰宮玲奈「ねえ、」
  小声で玲奈は瑠美に話しかけた。
辰宮玲奈「なんか、変じゃない?」
穂村瑠美「玲奈も感じたの?」
辰宮玲奈「うん」
  小さく頷く玲奈。
梶間頼子「なんか、いるよね」
  うんうん、と瑠美と玲奈は揃って首を縦に振る。
  炎や人の塊からはなれた所。
  月光も炎の光熱も届かない、影や暗闇。
  そこに、なにか、『いる』。

〇原っぱ
「!!」
  雲が流れ、月を覆い隠した、その時。
  その『なにか』が、見えた。
  靄のような影のような、黒い塊が幾つも幾つもキャンプ場の周辺を取り囲んでいる。
  目も鼻も口も耳も分からないが、
穂村瑠美「こっち、見てる・・・?」
  こちらに意識を集中しているのが、はっきりと分かる。
  しかも、
辰宮玲奈「ねえ、他の皆は気付いてないのかな・・・」
  他の生徒達は全く気に留めていない。
???「おや、月が隠れてしまったね」

〇原っぱ
穂村瑠美「!!」
真上「せっかくの綺麗な月だったのに」
  背後からした声に瑠美が振り向くと、管理人の真上がいた。
真上「アレはこの山のモノたちだ」
真上「君たちが持っている地図が護符の役割を果たしているから、直接害が及ぶことはない」
  驚いた。
  あの地図にそんな効能があったとは。
真上「今夜一杯、気を抜かずにいなさい」
穂村瑠美「はい・・・」

〇テントの中
  そして深夜。
辰宮玲奈「うーん・・・」
  玲奈は目が覚めてしまった。
  テントの隙間から入り込む空気が、何やらおかしい。
辰宮玲奈「どうしよう・・・」
  気になる。
白龍「玲奈」
  白龍が出てきた。
  このテントに居るのは玲奈の他には瑠美と頼子。
  つまり、龍使いの少女三人のみ。
  しかも深夜。
  龍が出てきてそれと会話をしていても、怪しまれる様な事は無い。
白龍「獣の匂い、気になりますか?」
辰宮玲奈「うん・・・」
  白龍の問いに玲奈は頷く。
  取り巻く空気、漂う匂い。
  それらが、昨夜とは趣を異にしている。
  山の澄み切った空気ではなく、重く澱んだ空気。
  土と草木の匂いではなく、獣の饐えた匂い。
梶間頼子「寝れない」
  ムクリと頼子も起き上がった。
梶間頼子「なんか、色々いて、うるさい」
  まだ寝ぼけているのか、訥弁だ。
  半開きの目を上下左右に動かす頼子。
  続けて、首をゆっくりと動かす。
梶間頼子「ああ・・・」
  その目が見ているのはテントのすぐ外の辺りの距離。
梶間頼子「うざいなぁ・・・」
  パリッ、と空気の弾ける音がした。
  いつの間にか寝袋の外に出ている頼子の手には、金剛杵が握られている。
辰宮玲奈「ちょ、ちょっと、頼ちゃん!?」
  慌てて頼子を制止する玲奈。
  近所迷惑にならないように声量は控えめだ。
梶間頼子「ん、なに?」
辰宮玲奈「今、夜!ここ、キャンプ場!みんな、寝てる!」
梶間頼子「あー、そうだった」
  頼子は一旦振りかぶった手を下ろし、金剛杵を引っ込めた。
紫龍「まったく、頼子はうっかりさんだな」
白龍「その頼子に何の躊躇もなく力を貸したのは誰でしたかね」
紫龍「それはまあ、龍として、な?」
白龍「そこは一呼吸置くのが常識でしょう」
紫龍「・・・すまんかった」
穂村瑠美「ねえ、何だか寒くない?」
  瑠美も異変を感じたらしい。
辰宮玲奈「寒い、かな?」
赤龍「生を離れ死に寄り添うモノがいる」
  赤龍も顔を出した。
赤龍「我らを取り囲むモノたちには、生あるものが持つ熱量が無い」
  それを瑠美は『冷たい』と感じたのだろう。
白龍「ここを出てはなりません」
真上「あの男性が持たせてくれた護符のおかげで、このテントが結界になっています」
白龍「ですが、破られないとも限りません」
辰宮玲奈「・・・」
  玲奈は腕時計を手繰り寄せ、時刻を確認した。
  時刻は丑三つ時。
  正に魔物が蠢く時間帯だ。
  テントを取り囲む人ならざるものの存在にも納得がいく。
  まだ夜明けまでには時間がある。
  ガサリ。
  ザッ。
「!!」
  物音がした。
  玲奈が弓を出して矢を番えた。
  テントの中では流石に狭いため、普段の和弓ではなく短弓だが、それでも目一杯番えて放てばそれなりの威力になる。
  テントの入り口に狙いを定める。
  そんな玲奈の死角を補うように、頼子は玲奈とは背中合わせになって金剛杵を取り出し構える。
穂村瑠美「こういう時に長物は不便ね・・・」
  呟く瑠美の右腕からは火の粉が断続的に舞い散る。
  ザッ、ザッ、ザッ。
  足音がテントの周りをゆっくりと回る。
  何かを探すような、伺うような、ゆっくりとした足取り。
  幾つもの足音が、ゆっくりと、ゆっくりと、三人のテントの周りを囲む。
辰宮玲奈「!!」
  フッ、フッ、フッと息遣いも微かだが聞こえてきた。
  興奮しているのか、それとも疲れてきたのか。
白龍「私達も結界を張ります」
  白龍が口を開いた。
白龍「それなら、夜明けまで確実にもつはずです」
  紫龍と赤龍も白龍の言葉に頷いた時、
???「Wooooo・・・ooon・・・」
「!!」
  遠吠えが響き渡った。
  同時に、
???「ヒケ・・・」
???「ニゲロ・・・」
  片言の低い声が幾つも幾つも聞こえ、
辰宮玲奈「消えた・・・?」
  玲奈と頼子は得物を下ろし、瑠美は手に込めた力を抜いた。
  気配も、匂いも、寒気も、全てが消えた。
  涼しく澄み渡る空気、草木の匂い。
  全てが元通りに戻っていた。

〇森の中
魔族「ふむ」
  そんな様子を離れた所から眺めている人影があった。
魔族「あの狼が、この縄張りの主か・・・」
  男はコテージを見上げる。
  そこには、屋根の上で吠える巨大なイヌ科の獣の姿があった。
  その獣は遠吠えを一頻り終えると屋根から飛び降り、建物の中へと姿を消していった。
魔族「このような狭間の地で、よく生きてきたものだ」
魔族「人に対する良からぬ感情が渦巻いている」
魔族「山の力を借り、奴らを潰してみるか」

次のエピソード:第参拾七話 林間学校 最終日 前編

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