龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

第弐拾八話 蜘蛛、再来(脚本)

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〇白い校舎
???「上だけ残すとは、詰めが甘いな」
橘一哉「残してやったんだ、ありがたく思え」
???「そうは思えんな」
  空に魔法陣が現れ、
魔族「追い詰めたつもりなのだろう?」
  男が逆さまに出てきた。
橘一哉「まるでコウモリだな」
魔族「私にとっては、こちらが地上なのでね」
草薙由希「アレってまさか、」
  由希は、ある事に気付いた。
草薙由希「魔法陣型の網・・・!?」
魔族「その通り、コレは私の足場だよ」
  男が足の裏を付けている場所を中心に、魔法陣は下に向けて僅かに膨らんでいる。
魔族「気配遮断の魔法陣も兼ねていたのだがね」
草薙由希「それも、もう使えないわね」
魔族「結界の崩壊と再構築を同時進行とは恐れ入ったが」
  男は八人の龍使いに順々に目を向け、
魔族「ここまでのようだな」
  いずれも椅子に腰掛けたり、得物を杖代わりにして、立っているのがやっと、といった様子。
魔族「迦楼羅の友よ、君の死は無駄ではないぞ」
  五指から糸を伸ばして戦闘態勢をとる。

〇白い校舎
魔族「ゆくぞ!!」
橘一哉「!!」
  男は空を『駆け下りて』きた。
魔族「せい!!」
  腕を振ると、鋭い風切り音と共に糸が一哉に迫る。
  後ずさって紙一重で躱した一哉だったが、
橘一哉「あ、やべ」
魔族「バカめ!!」
  地に刺したままの刀をそのままに、素手で後退してしまった。
  男は刀に糸を巻き付けて放り投げた。
  刀は大きな弧を描いて宙を舞い、男の後方へと落下した。
橘一哉「まずったな・・・」
  と口では言いつつも、焦る様子は見られない。
魔族「得物無しで私と戦うか?」
橘一哉「得物なら、まだあるさ」
  一哉は腰の鞘を抜いて構える。
  鞘の長さは全長90cm強。
  刀よりも柄の分だけ短く、いささか頼りなく感じられなくもないが、
橘一哉「橘流棒術、見せてやるよ」
  鯉口側を左手で握り、鞘尻の方に右手を添えて構えを取る。
  だが、そんな流派は存在しない。
  要は我流である。
魔族「やってみろ」

〇校長室
矢口朱童「本気かね」
  部下の言葉に、土蜘蛛党党首・矢口朱童は問い返した。
魔族「はい」
  部下の男は首を縦に振る。
魔族「同胞より申し出があったのです」
魔族「応ぜねば義理が立ちませぬ」
矢口朱童「奴らは強いぞ」
魔族「承知の上です」
魔族「策も講じてあります」
矢口朱童「そうか」
  朱童は瞑目して深く溜め息をついた。
矢口朱童「私としては出る必要は無いと考える」
矢口朱童「彼らに仕掛ける必要性が無い」
  彼が仕掛ける時点において、龍使いを戦闘に縛り付ける必要性が無い。
魔族「しかし、何れはぶつかる相手」
魔族「龍蛇の天敵たる彼らの助力があるのなら、可能性はあります」
矢口朱童「止めないぞ」
  部下の意欲は充分であると朱童は理解していた。
  まして、あの一族からの助力もあるとなれば、尚更のこと。
  止めても彼は行くだろう。
魔族「これは私の独断専行、朱童様の落ち度では御座いませぬ」
矢口朱童「これは私の独り言なのだがな、黒龍使いの橘一哉を消耗させれば良い」
矢口朱童「奴は強いが、その強さが弱点となる」
矢口朱童「他の七人は、無意識にだが常に彼を戦闘の要に据えている」
矢口朱童「その要が機能しなければ、力任せの烏合の衆だ」
魔族「御助言、痛み入ります」

〇白い校舎
魔族「棒切れ一本、どうにでもなるわ!」
橘一哉「うげぇ!!」
  あっさりだった。
  鞘は微塵切りにされ、細切れの破片がバラバラと足元に落ちる。
魔族「さあ、いよいよ無手だな、黒龍使い」
橘一哉「こんちくしょう!!」
  手元に残った鞘の残骸を力一杯投げつけるが、
魔族「ハッハッハ」
  男は苦も無く躱す。
  が、
魔族「!!」
  一哉が一足飛びに間合いを詰めてきた。
橘一哉「オラァ!!」
  左腕を振り抜く一哉。
  それを避けて糸を絡めようとしたが、
魔族「なんと!!」
  糸が黒い霧に飲み込まれて消滅した。
魔族「これが黒龍の力か・・・」
草薙由希(大丈夫かしら・・・)
  武器を使わず、直接龍の力を使うのは心身への負担が非常に大きい。
  龍の力の制御と、龍使い自身の防護のために武器を使っているのだが、
橘一哉「でやっ!!」
魔族「くっ!!」
  神気発勝の効果はまだ続いている。
  その上で、武器を手放し素手での戦い。
  一人で結界を破壊し、更に戦闘を継続している。
  どこから気力体力が湧いて出てくるのだろうか。

〇白い校舎
橘一哉「どっこいしょお!!」
  ついでに言うと、声と動きが微妙に合わない。
  声音は兎も角、文字に起こした時の掛け声が、どうにも気が抜ける。
  動き自体はキレがあり、熟練者のそれなのだが、
橘一哉「エイサァ!!」
  掛け声が。
草薙由希(もう少し、それらしい掛け声は出ないのかしら・・・)
  それはそれとして、
魔族「はっ!!」
橘一哉「っ!!」
  複数の糸が絡みつく。
橘一哉「でぁっ!!」
  黒い火の粉を散らし、糸を消し去る。
草薙由希(少し、不利かな・・・)
  一哉が押され気味だ。
草薙由希(ここは、あたしが!)
  重い体をどうにか動かし、
草薙由希「でぇい!!」
魔族「!!」
  脇構えからの振り上げと共に水飛沫が飛んでいく。
魔族「ちっ!!」
  男は腕を振り上げて糸を上に飛ばし、上空の網陣へ昇り水飛沫を躱す。
  そして、
魔族「そらっ!!」
  振り子のように勢いを付けて由希へと襲い掛かった。
草薙由希「っ!!」
  糸が薙刀に絡みつく。
魔族「ぬん!!」
  網陣から糸を外して宙を舞いながら、男は薙刀に絡めた糸を思い切り引っ張り上げる。
草薙由希「このっ!!」
  負けじと由希も薙刀を振り回し、男を地に叩きつけようとしたが、
魔族「くっ!」
  糸が外れて大きく空振った。
  男は由希と一哉の間に着地して由希と向き合う形になったが、
橘一哉「チェストぉ!!」
魔族「!!」
  背後からの大猿叫。
  咄嗟に躱した男の横を、刃風が掠めていく。
  紙一重だった。
  袖が僅かに切り裂かれた。
魔族「拾われたか・・・」
  振り下ろした刃はそのままに、向きを変えて脇構えで男に鋭い目を向ける一哉。
  その手には、先程飛ばされた刀が確りと握られている。
魔族「耳障りな声だ」
  魔族の方も、一哉の掛け声が不愉快らしい。

〇古めかしい和室
月添灯花「・・・」
  平坂市内某所。
  年経りたる屋敷の一室で、その女性は、あるものを『観て』いた。
月添灯花「ダメだったみたいね」
  閉じていた瞳を開いて女性は呟き、ため息をつく。
月添灯花「でも、まだ戦いは続いている」
月添灯花「向こうがうまくやってくれるかしらね・・・」

〇白い校舎
  糸が鋭い風切り音を上げて襲い来る。
  陽光を反射して僅かに見えるそれへと刃を合わせ、
  黒龍の力で勢いを失わせ、間合いを詰めて斬りかかる。
  両手の間に糸を張り、魔族は一哉の一撃を防ぐ。
魔族「ぬん!!」
  手を回して刀を巻き取ろうとするのを、一哉は素早く太刀を引いて防ぎ、
橘一哉「はっ!!」
  間髪入れずに突きを繰り出す。
  魔族は向かい合わせにした両手の間に張ったままの糸で受け流し、
  至近距離から手を振り糸を繰り出すが、
橘一哉「うお!?」
  体を倒し、紙一重で一哉は避けた。
  耳スレスレの所を鋭く細い風が掠めていく。
橘一哉「でぁっ!!」
魔族「ぬぅ!!」

〇校長室
理事長「誰かが結界を張っているな・・・」
  平坂学園の理事長室。
  安曇理事長は、当然ながら学園の変化に感付いていた。
理事長「何故だ?」
  理事長の口から疑問符が出るのも、ある意味当然だった。
理事長「龍使いの彼らを結界に引き込む必要性は無いはずだ・・・」
  理事長の知る限りにおいて、同胞達の計画には本日の平坂学園内での行動、即ち龍使いへの妨害活動は存在しないはず。
理事長「誰かが先走ったか・・・」
  同胞の数は多い。
  『向こう側』から『此方側』に来るのは容易なことではない。
  此方側に来られた事で高揚し、血気に逸り独断専行してしまう者が出てしまうのもやむを得ないだろう。
  だが、
理事長「彼らに、どのような影響を与える事ができるのか・・・」
  単なる無駄死ににならない事を祈るばかりだ。

〇白い校舎
橘一哉「粘るじゃないか」
魔族「朱童様とは違って一騎討ち同然の状態だ、早々に負けはせぬ」
橘一哉「やっぱり奴の手下か」
魔族「貴様の首を、御頭への手土産にしてやる!!」
  激しく火花を散らす一哉と魔族の傍らで、
草薙由希(あの魔族、生きてたの!?)
  由希は自分の聞いた言葉が信じられなかった。
  八人がかりで戦い、晃大が止めを刺したはずの魔族、矢口朱童。
  彼が生きているというのか。
  あの時、朱童は確かに晃大の一撃で光に還ったのを見た。
  なのに、なぜ。
  それに疑問を抱く様子もなく、一哉は戦っている。
草薙由希(もしかして、カズは知ってたの?)
  だとしたら、何故自分達に教えてくれなかったのだろうか。
草薙由希(後で詳しく聞かないと)

〇白い校舎
魔族「ところで、何故私が土蜘蛛党だと分かった?」
橘一哉「糸を使うのは蜘蛛、鉄板だろ」
  男の問いに一哉はサラリと答えた。
魔族「ハハ、確かにそうかもしれんな」
  短絡的、しかし的を射た考えだ。
魔族「そろそろ決着をつけるぞ」
  男は両手を下ろし、手首を交差させる。
橘一哉「そうだな」
  一哉も半身になって腰を落とし、中段に構えた。
「フウゥ・・・」
  息を整え、互いの機を窺う。
  張り詰めた沈黙が場を支配する。
  僅かな隙、ブレ、揺らぎ。
  狙うのは寸毫の隙間。
  機を逃さず、過たず、必殺の攻撃を叩き込むための無言無動の駆け引き。
  互いの得物に気を通す。
  魔族の糸は鋭利なる鋼の刃糸に。
  一哉の太刀は不破必殺の利剣に。
魔族「ぬん!!」
  先に動いたのは魔族。
  左右の手指から伸びる計十本の糸が交差して振り上げられ、格子を成して一哉に迫る。
  一哉は後方に飛び退き、太刀を上げて八相に構え直す。
  格子は一哉の眼前で分かれ、魔族への道が開いた。
橘一哉「チエエエエェエエエェエエエエァっっっ!!!!!!!」
  大猿叫を上げて一哉は魔族へと一直線に駆け出した。
魔族「フン!!」
  だがそれも計算の内。
  魔族は大きく開いた両腕を素早く内側へと振る。
  手首と指のスナップを利かせて振られた糸は鋭い風切り音と共に高速で一哉を挟み込む。
  それに対し、
橘一哉「ふん!!」
  足音が響くほどの急停止。そして、
橘一哉「せいやっ!!」
  一回転。
  左手のみの片手持ちで腕を大きく伸ばして逆時計回りに全方位の横薙ぎ。
  黒い帯が広がって一哉の前後左右を覆う。
  糸は脆くも崩れ去り、
橘一哉「倶利伽羅!!!!」
  刀身に黒い龍を巻き付かせた一哉が、黒い輪の中から一直線に突進してきた。
魔族「っ!!!!」
  後ろに下がって躱そうとした魔族だったが、
魔族(伸びた!?!?)
  切っ先が伸びてきた。
  右足前の諸手突きから、左片手への持ち替え。
  更に、左足を前に出して左半身を大きく出した一重身。
  加えて、
魔族(喰われる!!!!!!)
  刀身の黒龍が伸びてきた。
魔族「ぬ、オオオオォォォッッッ!!!!!!」
  胴体に喰らいつかれ、魔族は咆哮した。
魔族「まだだ!!」
  再び五指より糸を伸ばして一哉の左腕を絡め取ろうとするが、
魔族「消えた!?」
  目の前から一哉が消えた。
  次の瞬間、
魔族「!!」
  目の前に一哉が出現し、
魔族「!?」
  逆袈裟の一閃と共に一哉は跳び上がった。
魔族(ああ、)
  体から力が抜けていく。
  張り詰めた気力が萎えていく。
  魔族は己の敗北を悟った。
橘一哉「せい!!」
  更に着地しながらの真っ向唐竹割り。
  魔族は仰向けに倒れ込みながら無数の光の粒子となって消滅した。
橘一哉「・・・フゥ」
  一哉は魔族の消滅を見届けると、一歩退き血振りをして刀を左手で逆手に持ち直す。
橘一哉「・・・終わった」

〇教室
橘一哉「お〜つかれ〜」
  一哉が教室に入ると、
飯尾佳明「お疲れさん」
  最初に声を掛けてきたのは佳明だった。
古橋哲也「ごめんね、あいつの居場所が掴めなくて」
  哲也がすまなそうな顔をするが、
橘一哉「いやあ、あれを突き止めるのは無理っしょ」
橘一哉「てっちゃんが咄嗟に対応してくれて助かったよ」
  一哉にも聞こえた哲也の大声。
  普段は穏やかな哲也が、あのような声を出したのだ。
  だからこそ、皆も咄嗟に動いた。
  その胆力と沈着さには毎回ながら感心し、感謝はしきれない。
穂村瑠美「それにしても、よくあれだけ動けたね」
橘一哉「ああ、根性だよ、根性」
  ニッと笑う一哉。
  苦しい様子は全く見えない。
姫野晃大(根性、か・・・)
  戦う時の一哉は、普段よりも生き生きしているように思えた。
  結界を一人で崩壊させた上で、あの立ち回り。
  自分達は結界の再構成で疲労困憊だったというのに。
  彼は根っからの戦闘者ではないか、と晃大は思った。
梶間頼子「で、結界はいつ解くの?」
草薙由希「一休みしてからでいいでしょ、あたし達も疲れたし」
  由希も教室に入ってきて空いている席に腰掛けた。
辰宮玲奈「そうだね」
橘一哉「なら、早速一寝入りさせてもらうよ」
  一哉も自分の席に着き、
橘一哉「zzz・・・」
辰宮玲奈「寝るの早っ!!」
梶間頼子「やっぱ疲れてたんだねえ」
  あっという間に寝入ってしまった。

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