第弐拾七話 屍傀儡(脚本)
〇白い校舎
「友よ、今一度共に戦おうぞ!!」
「我が秘技・屍傀儡、存分に堪能するがいい!!」
鳥人が一哉へと襲いかかる。
橘一哉「傀儡というからには糸があるんだろ!!」
一哉は鳥人本体ではなく、その周りに刃を振るった。
しかし、
橘一哉「!!」
鳥人の動きは変わらない。
橘一哉(糸が無い!?)
???「一度切れば終わりだと思ったか!!」
橘一哉「!!」
鳥人は更に一哉に襲いかかる。
が、
橘一哉「この動き!!」
回る。
回る。
独楽のように、クルクルと。
横回転、縦回転、更には斜め。
ブレイキングを見ているかのようだが、
橘一哉「くそっ!!」
その手足には鋭い爪がある。
遠心力と共に襲い来る爪を凌ぎ、反撃に転ずる。
橘一哉「でエエエぃ!!」
橘一哉「!!」
一哉の一撃の勢いで鳥男は回りながら飛んだ。
手応えが殆ど無かった。
勢いを利用して跳んだのだ。
橘一哉「随分と、うまいことやるじゃないか」
〇白い校舎
何処にいるかは分からないが、鳥男の操り手に対して一哉は語り掛けた。
「お褒めに預かり光栄だね」
草薙由希「ねえ、カズ」
由希が近寄る。
草薙由希「あたしの耳が正しいなら、そこら中から声が聞こえてくるんだけど」
由希の言う通りだった。
辰宮玲奈「まるでスピーカーが仕掛けられてるみたい」
もう一人の魔族の声は、学校の敷地内にある全てのものから聞こえてくる。
〇教室
姫野晃大「まさか、この学校自体が魔族、なんて事ないよな?」
顕現させた剣の柄を固く握り締め、忙しなく周りを見回す晃大。
古橋哲也「大丈夫、それはないよ」
そんな晃大の肩を、哲也が軽く叩いた。
古橋哲也「彼を見て」
哲也は校庭の一哉を指差した。
姫野晃大「カズがどうかしたのか?」
古橋哲也「橘くんが見ているのは目の前にいる鳥男だけだ」
姫野晃大「つまり?」
古橋哲也「声の主は、まだ見つかってない」
飯尾佳明「まだ隠れてる、ってことだよ」
姫野晃大「余計にヤバいじゃないか」
飯尾佳明「いや、そうでもないぞ」
姫野晃大「そうなのか?」
飯尾佳明「俺達がいるからな」
姫野晃大「それって、」
古橋哲也「僕達でもう一人の魔族を探し出すんだね」
飯尾佳明「そうだ」
哲也の言葉に佳明は頷く。
飯尾佳明「そいつはカズの相手をしてる鳥男の操作に夢中になってるはずだからな」
飯尾佳明「動き回ることは無いはずだ」
迅速に見つけ出し、早くこの戦いを終わらせる。
〇白い校舎
橘一哉「何となくカラクリは見えた」
???「ほう、ならばやってみるがいい」
ユラリ、と鳥男が動き出す。
傀儡、或いは操り人形と聞いて思い浮かべるのは、上から吊るされた糸によって操られる形式だろう。
常に繋がれており、その糸によって様々な動きを見せる。
しかし、
橘一哉(コイツは違う)
常時繋がれているわけではなく、
橘一哉(時々ベーゴマになる)
一旦勢いがつくと、繋がれていたものから外れて何らかの力が加わり、更に勢いを増す。
橘一哉(気脈もズタズタにしたはずなんだが、)
普通に動いている。
本来彼が備えていた気脈とは別に、新たに気脈が形成されている。
橘一哉(問題は、それをどうやっているのか)
作り直した気脈。
一時的な制御外し。
その仕組みまでは、分からない。
橘一哉「取り敢えず、当たるしかないか」
試しに一撃入れてみると、
橘一哉(マジか!!)
前腕で受け止められ、
橘一哉(倍返しかよ!!)
拳の乱打が返ってきた。
刀を折られないように気を付けながら攻撃を捌き、間合いを取る。
橘一哉(しっかり腰が入ってる)
形だけでもなければ腕の勢いだけでもない。
生きてる人間と同じ、腰の入った拳だった。
気脈の再構成がされているのは確かなようだ。
橘一哉(それにしても、)
受け止められた時、些かの違和感があった。
橘一哉「もう一本!!」
それを確かめるため、再び一哉は仕掛けた。
〇教室
飯尾佳明「どうだ、テツ」
古橋哲也「うーん・・・」
哲也は眉を顰めて唸る。
梶間頼子「ダメっぽい?」
古橋哲也「分からないや・・・」
飯尾佳明「どんな感じなんだ?」
古橋哲也「地脈経由で見てみたんだけど・・・」
魔族の存在が見当たらないらしい。
古橋哲也「魔族の力は感じるんだけどね・・・」
古橋哲也「それが、結界の至る所から感じるんだよ・・・」
飯尾佳明「どういう事だ、そりゃ」
古橋哲也「何ていうか、幾つもの点が無数にある感じだね」
飯尾佳明「辿れないか?」
佳明の質問に哲也は首を横に振った。
古橋哲也「無理」
古橋哲也「途中で曖昧になって消えちゃう」
飯尾佳明「隠形バッチリ、ってか」
しっかり遮断されてしまっているらしい。
梶間頼子「カズが頑張ってる間に見つけたいね」
飯尾佳明「そうだな」
いくら一哉が戦い慣れているとはいっても、体力には限界がある。
しかも、今の一哉の相手には体力の限界が無い。
早急に見つけ出さねばならない。
〇白い校舎
再び一哉が打ち込むと、
今度は爪を振るって一哉の太刀に合わせてきた。
二人の攻撃が交わり、火花を散らす。
橘一哉「おっと!!」
空いた片方の手が伸びてきた。
一哉は横に跳んで躱し、
橘一哉「どや!!」
足を広げて腰を落とし、身を伏せて足を薙ぎ払いにかかる。
鳥男は足を蹴り出し、一哉の太刀を足裏で止めた。
橘一哉「!!」
橘一哉(これは!)
違和感が再び。
辰宮玲奈「カズ!!」
一哉の頭上を風が掠め、矢の唸る音が聞こえた。
鳥男は手を掲げる。
橘一哉「!!」
玲奈の放った矢が刺さるかと思った瞬間、それは起きた。
辰宮玲奈「逸れた!?」
橘一哉「違う、流されたんだ」
玲奈の矢は、真っ直ぐ男の手に向かっていた。
しかし、矢は男の手には当たらず、刺さらず。
男の腕に沿うようにして、流れた。
橘一哉「からくり、解けた」
見えた。
橘一哉「屍傀儡、破れたり」
ニッ、と一哉は笑った。
〇白い校舎
橘一哉「さあ、料理するかね」
一哉は刀を片手持ちに変え、クルリと回した。
橘一哉「着込んでる薄皮一枚、切り刻んでやる」
橘一哉「フウゥ・・・」
一哉の全身から黒い火の粉が舞い散った。
黒龍の力を全身に巡らせる。
『神気発勝』。
橘一哉「そいや!!!!」
速かった。
次から次へと何度も太刀を振るう一哉。
対する鳥男も手足を繰り出して一哉の攻撃に応じるが、
草薙由希「あれじゃ浅いわ・・・」
踏み込みが浅い。
あれでは鳥男には届かない。
皮一枚を掠め切るのがやっとだ。
草薙由希(そこまで消耗していたというの・・・?)
全ての攻撃が、鳥男に防がれてしまっている。
加勢しようと由希が薙刀を持ち直した、その時、
草薙由希「!!」
グラリ、と、鳥男が揺らいだ。
橘一哉「せえええゃっ!!」
それを気にすることなく、更に剣撃を浴びせ続ける一哉。
諸手、片手、逆手、左右持ち替え。
持ち方を何度も何度も変えながら、太刀を繰り出していく。
鳥男も反応して動くが、反応が鈍い。
???「くっ・・・!!」
姿を表さない魔族の歯噛みする声が聞こえた。
橘一哉「どんどんいくぞ!!」
草薙由希(そういうことか!!)
由希も理解した。
玲奈の放った一矢がヒントだったのだ。
一哉は『流された』と言った。
何が、何に、どうやって流されたのか。
流されたのは玲奈の矢で間違いない。
では、何に、どうやって?
矢が流れた時の力の流れを考えてみる。
矢は鳥男の手に当たる直前で横に逸れ、更に腕に沿って斜め後ろに流れていった。
つまり、斜め後ろへと流す力が働いた。
では、その力の正体は何か。
それは、鳥男を覆うように巻きついているもの。
不可視の力が帯となり、鳥男に巻き付いている。
それが擬似的な筋肉となって、鳥男を動かしているのだ。
鳥男の纏うそれを、一哉はひたすらに攻撃している。
だから、深く切り込む必要はない。
切っ先で掠め切り、皮一枚を切り裂くのだ。
橘一哉(当たれば良い)
当たれば、刀が纏う黒龍の力で鳥男に纏わりついているものを切り裂ける。
鳥男の腕が上がらなくなった。
首が垂れ下がる。
上半身が傾き倒れた。
一哉は低く腰を落として身を屈め、
橘一哉「セイヤッ!!」
足に向けて刀を振るった。
ついに足から力が抜け、鳥男は大地に倒れ伏す。
橘一哉「今度こそ!!」
倒れた男の胸に刀を突き立てた。
黒い霧が刀身から吹き出て鳥男を包み込み、
次の瞬間、鳥男は光の粒子となって消滅した。
〇白い校舎
橘一哉「さあ、そろそろ姿を見せたらどうだい」
天を仰ぎ、何処にいるかも分からないもう一人の敵に向けて一哉は語り掛けた。
???「見事だ、黒龍使い」
???「あとは私を見つけ出すだけだな」
???「速く私を見つけ出せないと、この結界の中で死んでしまうぞ?」
飯尾佳明「苛つかせやがる」
舌打ちする佳明。
どうやらもう一人は自ら姿を表すつもりはないようだ。
???「貴様たちが一処に集まっていたのは実に僥倖だ」
???「このまま揃って一網打尽にできるのだからな」
飯尾佳明「焦るなよ」
飯尾佳明「焦れば奴の思う壺だ」
そう言う佳明が一番苛立っているのは、頻りに足を揺すっているのを見ても明らかだ。
梶間頼子「飯尾くんも大分落ち着いてるね」
手の内で金剛杵を回しながら、頼子が呟く。
堪える事が出来るならば、まだ大丈夫という事だろう。
梶間頼子「カズ、」
橘一哉「おい、クモ!」
頼子が一哉に声をかけるのと、一哉が声を上げたのはほぼ同時だった。
梶間頼子「あたしはクモじゃなくて頼子だよ」
憮然とする頼子に、
橘一哉「いや、頼ちゃんに言った訳じゃないんだよ」
ゴメン、と一哉は謝り、
橘一哉「敵さん、見えた」
獣が牙を剥き出すように、ニィ、と笑った。
草薙由希「それで、どうするの?」
橘一哉「喰い破る」
そう言って一哉は刀を地面に突き立てた。
橘一哉「この網をね」
刀身から『闇』が溢れ出す。
黒龍の司る『闇』とは即ち、『停止』。
あらゆる動きや力を止める力。
分子や原子の結合すらも消滅させることができる。
それが意味するものは、『死』と『破壊』。
死と破壊をもたらす事から『戦の龍』と呼ばれることもあり、戦乱の兆しとされた事もある。
一方で、悪を喰らい尽くす『降魔の龍』とも呼ばれる。
黒龍「さあ、出血大サービスだ」
一哉の意図を汲んだ黒龍が喰い破る『網』とは、
???「正気か!?貴様らの正体が知れれば大騒ぎになるぞ!!」
魔族の声に対し、
橘一哉「だからどうした」
橘一哉「俺が俺であることに何の不都合がある」
一哉は臆することなく言い返した。
姫野晃大「え!?」
一哉の為さんとする事を察し、晃大も焦り出す。
〇白い校舎
古橋哲也「結界、急ぐよ!!!!」
哲也がよく響く声で号令をかける。
姫野晃大「でも、どうやって、」
結界を張られたことはあっても、張ったことはない。
光龍「任せておけ」
光龍が顔を出した。
他の龍使い達も龍を出し、各々の得物に巻き付かせる。
赤、白、青、黄、緑、紫、金。
様々な色の気が流れ出し始める。
姫野晃大「何だ、コレ・・・」
黒龍が放つ闇は、拡散しながら結界内のあらゆるものを分解していく。
建物はおろか、地面すらも消えていく。
そうして生まれた空間の隙間に、龍たちの放つ力が絡み合って入り込む。
隙間を埋めた力は次第に凝り固まっていき、消滅したのと同じものを形作っていく。
姫野晃大「ね、眠い・・・」
光龍が光を放ち続ければ放ち続けるほど、晃大の心身は疲労と眠気がいや増していく。
穂村瑠美「コウ、頑張って」
様子を察した瑠美が、晃大の腕に手を添える。
ハッと我に返った晃大が周囲を見回すと、
皆苦しい顔をしていた。
得物を杖代わりにして、倒れそうになるのを何とか耐えている。
姫野晃大(あ、)
魔族の結界を黒龍が喰い破り、他の七龍が結界を張り直していく中で、晃大は確かに見た。
それは、
橘一哉「これで糸電話も網も使えなくなったな!!」
結界内に響き渡る大音声で一哉の発した言葉が物語っている。
飯尾佳明「とりあえず、」
フウ、と溜め息をつくと佳明は両手の鞭剣の先で床を何度か叩く。
飯尾佳明「これで、防御態勢は整ったな」
緑龍の金気が校舎に巡らされたのを確認した。
飯尾佳明「さて、あとは外の姉弟に任せるか」
佳明は自分の席に戻り腰掛けた。
しかし得物は手放さない。
古橋哲也「せめて支援はした方がいいんじゃない?」
飯尾佳明「結界の維持も支援だろ」
古橋哲也「そう、だね」
佳明の言葉に哲也は頷き、自分の席に座る。
だが、斧を杖代わりにして体重を預けている。
穂村瑠美「コウも疲れたんじゃない?」
姫野晃大「あ、ああ」
瑠美は休息を暗に促しているが、晃大は不安を隠しきれず、素直に休息をする気にはなれなかった。
はたしてあの二人に任せて良いのだろうか。
落ち着かない様子で立ち尽くしていると、
梶間頼子「ほい」
姫野晃大「うわ!?」
何か硬いものが膝裏に当たり、そのまま晃大は座り込んだ。
姫野晃大(い、椅子!?)
それは晃大の椅子だった。
勢い良く座り込んだので尻が痛い。
梶間頼子「ここでカズなら『尻が割れる!!』とか言うんだけどなあ」
姫野くんには無理だったか、と笑う頼子が椅子の背を持っている。
姫野晃大「か、梶間さん・・・!?」
梶間頼子「ま、アタシ達はゆっくり見物しましょうよ」
ポンと晃大の両肩を叩き、頼子は窓際の席に腰掛けた。
梶間頼子「あとは頼むよ、降魔利剣と四神の一柱さん」