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山本律磨

Firstbattle&LastMission(脚本)

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山本律磨

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〇戦闘機の操縦席(空中)
  トライアングル。
  ユニットは、三機。
  小隊は連なり中空を舞う。
  その内の一機が加速し、美しかった三角形を崩す。
ヴェテラン「おいルーキー! 前に出過ぎだ!」
  『・・・・・・』
ヴェテラン「畜生、あの馬鹿また通信切ってやがる」
リーダー「好きにさせろ」
ヴェテラン「リーダー!」
リーダー「あの性格も込みでスカウトしたんだ」
ヴェテラン「しかし本ミッションは、我がドラクル小隊記念すべき100回目の戦闘であり」
リーダー「後進の育成でもある」
ヴェテラン「何を仰られるんですか。我々はまだやれますよ」
リーダー「とうとう二人になってしまった。このミッションが最後になるかもな・・・」
ヴェテラン「そんな弱気でどうするんです!」
リーダー「悪い悪い」
リーダー「だがいつそうなってもいいように、叩きこみたいのさ」
リーダー「俺達の意地と誇りを」
ルーキー「ヒャッホー!」
ルーキー「ようやくあのジメジメした訓練学校から解放だ!」
ルーキー「見てろよ。このワンミッションで先輩も、あのリーダーだって乗り越えてやるぜ!」
ルーキー「ルーキー、これから目標空域に入る!」
  そして三機は『敵』へと向かい光の矢となった。

〇秘密基地の中枢
ヴェテラン「この大馬鹿野郎!」
ヴェテラン「いいか。俺達はチームで戦っているんだ」
ヴェテラン「『敵』がいきなり消失したからよかったものの・・・」
ルーキー「消失?」
ルーキー「俺にはみすみす取り逃がしたように見えましたけど」
ルーキー「誰かさん達がチンタラ飛んでたせいでね」
ヴェテラン「・・・もう一度言ってみろ」
リーダー「やめろ二人とも」
ヴェテラン「クッ・・・・・・」
リーダー「17:00までのアタックは、ただの偵察にすぎない。悪戯に目立つような真似はするな」
ルーキー「分かってますよそれくらい」
ルーキー「俺はあのジメジメした訓練学校で学んだんだ。奴らの動きも、攻撃方法も、何もかも」
ルーキー「アタックだってイメージよりもむしろ緩いくらいでしたよ」
ルーキー「次は俺の足、いや羽を引っ張んないで下さいよね」
ヴェテラン「貴様!」
リーダー「やめろと言っている!」
ヴェテラン「すみません」
ルーキー「はいはい。サーセン」
リーダー「ルーキー。敵は『本体』以外にも存在するんだ。事は慎重に行わねばならない」
ルーキー「知ってますよ。『最終兵器』でしょ」

〇モヤモヤ
リーダー「BLOOD・AND・PAIN・ELECTRON」

〇秘密基地の中枢
ルーキー「B・A・P・E(ベープ)」
ルーキー「でもここのは半ば壊れかけてるんでしょ」
ルーキー「旧式の兵器」
ルーキー「肥え太った本体」
ルーキー「楽勝っすよ。幾らでも手柄立て放題」
ルーキー「むしろ何で二機まで減っちゃったかな?」
ルーキー「たるんでたんじゃないっすか?パイセン」
ヴェテラン「何だと?」
  と、警報が響き渡る。
ヴェテラン「ご帰還のようですね」
リーダー「レーダールームに移る」

〇秘密基地のモニタールーム
  モニターに映し出される、敵。
  おぞましく肥大した巨大な体躯が、改めて彼らを圧倒する。
ルーキー「こうやって冷静に見ると・・・」
リーダー「恐ろしいか? おぞましいか?」
ルーキー「わ、笑っちゃいますよ」
ルーキー「醜すぎて」
ヴェテラン「そこは同感だな」
ヴェテラン「豚野郎め」
リーダー「ブリーフィングは終了だ。これから本体停止時間まで待機。気を抜くなよ」
ヴェテラン「了解!」
ルーキー「了解っす」

〇黒
  『グゴゴゴゴ・・・・・・』
  『グゴゴゴゴ・・・・・・』
  闇の中、重い嘶きが震え始める。
  『グゴゴゴゴ・・・・・・』
  『グゴゴゴゴ・・・・・・』

〇秘密基地のモニタールーム
ヴェテラン「完全暗転から1800秒。そろそろ活動停止時間に入ります」

〇黒
  『グガッ! ・・・・・・ゴゴゴ』
  『グゴゴゴゴ・・・・・・』
  『グガガガガ・・・・・・』

〇秘密基地のモニタールーム
ヴェテラン「活動停止時間継続。絶対安全時間に入りました」
リーダー「いいだろう」
リーダー「ドラクル小隊。アタックを開始する」
ヴェテラン「了解!」
ルーキー「やってやるぜ!」

〇戦闘機の操縦席(空中)
ヴェテラン「ルーキー。暗視モードに切り替えろ」
ルーキー「もうやってますって」
リーダー「確認事項だ。ちゃんとやれ」
ルーキー「へいへい」
  三機は加速し、かつ慎重に、敵本体に接近する。
ルーキー「敵本体、大腿部の露出を確認しました。攻撃許可を」
リーダー「許可する」
ルーキー「ヒャッホー!」

〇戦闘機の操縦席(空中)
  ルーキーは一陣の風と化し、敵へと最接近する。
  そして、そのおぞましく肥大した肉体に攻撃を繰り出す。
ルーキー「オラオラオラオラ!」
ヴェテラン「そのへんにしておけ」
ルーキー「へっ! これからが本番だろ」
ヴェテラン「大腿部を狙うくらいで調子にのるなよ」
ルーキー「あ?」
ヴェテラン「手練れのソルジャーは関節を狙う。膝よりも肘、肘よりも指」
ヴェテラン「関節部をな」
ルーキー「馬鹿じゃねえの? そんな部分、硬いし脈も通ってない」
ルーキー「ハイリスクノーリターンだぜ」
ヴェテラン「それでも狙う。何故か分かるか?」
ルーキー「知らねえよ! 興味もねえ」
ルーキー「次は腕僥骨筋、お先にいかせてもらうぜ!」
リーダー「腕の内側、筋肉の塊か。危ういな」
ルーキー「今は活動停止時間中。余裕っすよ」

〇黒
  と、突如暗闇に閃光が走る。
リーダー「こ、これは・・・T・V!」
ヴェテラン「な、何故今テレビジオンが軌道している?」
  G・i・l・g・a・m・e・s・h・N・i・g・h・t
ヴェテラン「ギルガメッシュ、ナイト? これは何かの暗号か?」
リーダー「テレビが誤作動を起こしたのか?」
  『ロ・・・・・・ク・・・・・・ガ』
ルーキー「敵が嘶いている」
  『デンゲン・・・』
  『イレテイタ・・・』
  『マチガ・・・イ・・・』
ヴェテラン「何を言っている・・・目覚めるのか?」
リーダー「照明装置起動。完全明転」
リーダー「本体、覚醒!」

〇白
  『ムンンンーーーーッ!』
  『フアアアーーーーッ!』

〇戦闘機の操縦席(空中)
リーダー「覚醒したぞ! ルーキー! 退避だ!」
ヴェテラン「逃げるんだ!」
ルーキー「ヘッ! こっちはまだ見つかってないっすよ。チキン先輩」
ルーキー「攻撃を続けるぜ、この豚野郎!」
リーダー「おかしい。何故ヤツは、敵は動かない?」
リーダー「こちらは三機、気づいてないはずなど・・・」
ルーキー「ははっ、寝ぼけてるんでしょ。豚だから」
リーダー「待て」
リーダー「ヤツの視線・・・」
リーダー「ルーキー! お前、発見されているぞ!」
ルーキー「ば、馬鹿な!」
ルーキー「動けないッ! ニードルが抜けないッ!」
リーダー「筋肉を硬直させて我々の動きを封じ、もがき苦しませた上で叩き潰す」
リーダー「ヤツらの攻撃の中で最も残忍なやり方だ・・・」
  『グヒヒヒヒヒヒ・・・グヒヒヒッ!』
ルーキー「笑ってやがる」
リーダー「ケダモノめ。一寸の虫にも五分の魂という言葉も知らんのか」
ルーキー「畜生・・・」
  『グヒヒヒヒヒヒーーッ!』
ルーキー「た、助けて・・・リーダー・・・」
リーダー「もう無理だ・・・撤退する」
ルーキー「た、助けてくれえええッ!」

〇ストレートグレー
ヴェテラン「うおおおおーーーーーッ!」

〇戦闘機の操縦席(空中)
ヴェテラン「この豚野郎。調子に乗るんじゃねえぞ」
リーダー「何をしているッ! 撤退しろ!」
ヴェテラン「リーダーが言ったんじゃないですか。このミッションは後進の育成でもあると」
ヴェテラン「それに俺も一度くらいキメてみたいんですよ」
リーダー「関節攻撃か。今はそんな状況では・・・」
ヴェテラン「いや、関節の上を行く難易度SSS」
リーダー「トリプルS・・・瞼だと!?」
ヴェテラン「瞼への攻撃をキメれば、俺は貴方を超えられる」
リーダー「クッ・・・無謀だ」
ヴェテラン「飾らせて下さいよ。このロートルに最後の花道を」
リーダー「やめろおおおーーッ!」

〇ストレートグレー
ヴェテラン「聞こえるかルーキー」
ルーキー「す、すみません・・・俺・・・」
ヴェテラン「これからヤツの頭部、眼前に特攻し瞼を突く! 動揺するスキを狙って逃げろ!」
ルーキー「先輩・・・」
ヴェテラン「お前のためじゃねえよ」
  『グオオオッ! ウゼエエッ!』
ヴェテラン「俺のアタックの邪魔だ! とっとと逃げろ!」
ルーキー「うわあああッ!」
ヴェテラン「食らえええーーッ!」

〇炎
ルーキー「せ、先輩・・・」
リーダー「大丈夫か」
ルーキー「俺のせいだ・・・俺のせいで先輩は・・・」
リーダー「まだ戦いは終わってないぞ」
ルーキー「ヤツめ・・・どこへ向かう気だ?」
ルーキー「あ、あれはまさか!」
リーダー「最終兵器『B・A・P・E』」

〇電脳空間
ルーキー「あ、あれがB・A・P・E」
リーダー「ヤツめ、既に百弐拾日仕様に切り替えていたのか」
ルーキー「それって・・・」
リーダー「最新型だ。このエリア全体を一瞬で制圧できるほどのな」

〇電脳空間
  『グヒヒヒヒ・・・』
リーダー「B・A・P・E起動」
リーダー「来るぞ!」

〇電脳空間
リーダー「うおおおッ!」
ルーキー「ぐあああッ!」
リーダー「飛べ! 飛び続けろ!」
ルーキー「く・・・苦しい・・・」

〇戦闘機の操縦席(空中)
ルーキー「俺はもうダメです・・・本体の攻撃も・・・よけられそうにない」
リーダー「何を言っている。敵の攻撃圏外、網の目を抜けるまであと少しだ」
ルーキー「どうか置いていって下さい。俺は名誉あるドラクル小隊の名を汚しました」
ルーキー「生き残って笑われるくらいなら、いっそ・・・」
リーダー「諦めるな!」
ルーキー「!?」
ルーキー「何をしてるんです! そっちは敵の本体です!」
リーダー「なあ、なぜ俺達が実戦にありながら難易度AだのBだの、そんな非効率的な事をしているか分かるか?」
リーダー「馬鹿馬鹿しいとは思わないか?」
ルーキー「そ、そんな・・・」
リーダー「より難易度の高いターゲットに攻撃して、伝説と呼ばれるため・・・」
リーダー「なんてな」
リーダー「意地だよ」
ルーキー「意地?」
リーダー「関節、特に指関節への攻撃は敵に筆舌に尽くしがたい程の痛痒さを残すと言われている」

〇血しぶき
リーダー「今まで幾千、幾万、幾億の同胞が叩き潰されて来ただろう?」
リーダー「だが俺達がどんな犠牲を払っても、決して敵の息の根を止める事はできない」

〇戦闘機の操縦席(空中)
リーダー「だからせめて俺達の攻撃の痒みに、死んでいった仲間達の痛みを加えて食らわせてやるんだ」
リーダー「親指よりも中指」
リーダー「中指よりも小指」
リーダー「そしてここが瞼につぐ、最高難易度AAA(トリプルA)」
リーダー「TheFoot! FingerofDrug!」

〇モヤモヤ
  『グオオオッ! ガィィィーーーッ!』
リーダー「さあ串刺しだ! 俺はここにいるぞ豚め!」
ルーキー「リーダー!」

〇血しぶき
  『グオオオオオーーッ!』
リーダー「ぐあああッ!」
ルーキー「リーダー!」
リーダー「飛べーーーッ!」
ルーキー「うおおおおおッ!」
リーダー「そうだ・・・それでいい」

〇戦闘機の操縦席(空中)
リーダー「飛べ、ルーキー」
リーダー「命ある限り・・・」

〇戦闘機の操縦席(空中)
ルーキー「ひと夏・・・」
ルーキー「たったひと夏・・・」
ルーキー「きっとお前達にとっては、瞬く間の時間なんだろう」
ルーキー「だが俺達にとっては長く苦しい戦いの生涯なんだ」
ルーキー「悪いな、俺はまだ生きている」
ルーキー「そうだ。人生はまだ始まったばかりだ」
ルーキー「先輩に、リーダーにもらった人生は」
ルーキー「だから何度でも戦う」
ルーキー「何度だって飛んでやる!」

〇二階建てアパート
ルーキー「この命が尽きる、秋までな!」
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  END

コメント

  • 後書きにファイターに対する敬意を感じました! B型でお酒好きなせいか昔からこの時期彼らの天敵な私です。長々生きる私達より彼らはドラマチックに生きていて頭が下がります。

  • ギルガメッシュナイト笑った。懐かしい。私は深夜を蚊取り線香で戦っていました。彼らは命懸けで小指の関節を狙っていたんですね。

  • 面白かったです!
    タイトルで彼らの正体はわかったんですが、熱い戦いがすごくよくて、気がついたらグイグイ読んでました!
    彼ら側からするとそうなるよなぁと妙に納得しました。

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