〇荒野
　　上杉輝虎
　　法名不識庵謙信
　　比類無双の戦国武将
　　軍神毘沙門天を信仰し
　　生涯に渡って不犯を貫いた男
　　つまり、子を為すことは無かった。
　　家臣領民怨敵その上虫けら犬畜生とて、
　　己が魂を次の世に継承したであろうに。
　　何が最強か・・・
　　我はこの世で最も・・・

〇病院の待合室
千草「・・・」
「あの・・・ここ携帯は」
千草「あ、すいません。ついクセで」
晴美「あれ？千草ちゃん？」
千草「ウソ！晴美？」
晴美「帰ってきてたんだ！」
千草「まあね」
晴美「・・・っていうか。 ここにいるってことは」
千草「・・・」
千草「・・・まあね」

〇テラス席
　　何たる幸運。
　　晴美殿とやらのおかげで、
　　一時、審判は回避された。
　　まあ、ほんの一刻ではあろうがな・・・
晴美「そっか。シングルマザーか」
千草「・・・」
晴美「あ、ゴメン。 全然そういう意味じゃなくて。 やっぱり千草ちゃん凄いなーって思って」
千草「・・・」
晴美「・・・わ！わ！ゴメン！ だからそういう意味じゃなくて！」
千草「泣きたいのはこっちよ」
千草「相変わらず泣き虫ね。 そんなんで本当にママになれるの？」
　　母上が言いますか！
晴美「がんばる」
晴美「千草ちゃんも一緒だから頑張れる！」
千草「私は・・・」
晴美「私、憧れてたんだよ。千草ちゃんに」
千草「まあ何となく知ってる」

〇体育館の舞台
千草「～～～♪」
　　『人気者で。モッテモテで』

〇グラウンドのトラック
千草「・・・・・・！」
　　『スポーツ万能で。モッテモテで』

〇学校の下駄箱
千草「～～♪」
　　『モッテモテで。モッテモテで』
　　『モッテモテでモッテモテでモッテモテでモッテモテで』

〇テラス席
千草「言い方！」
晴美「勉強はチョットアレだったけど」
千草「言い方！」
晴美「それにくらべて私なんて、 地味で根暗で何やらせても中途半端で」
晴美「勉強は出来たけど」
千草「帰っていいかな！」
晴美「ゴメン。お腹の子に触るよね」
千草「お互いにね！」
　　・・・え？
　　母上、今なんと？
千草「ったく頭くんな～」
千草「やっぱアンタにだけは負けてらんないよ」
晴美「私、これからちゃんとやり遂げるんだ」
千草「・・・」
千草「ちゃんとやり遂げる・・・」

〇おしゃれなリビングダイニング
政一郎「反抗ばかりで 何ひとつやり遂げたことのないヤツが、 偉そうな口を叩くな！」

〇テラス席
千草「・・・そうね」
千草「これからちゃんとやり遂げないと」
千草「強くならないと。そうでしょ？」
晴美「うん！」
千草「晴美に言ったんじゃないわよ」
　　え？
晴美「分かってる。その子にでしょ？」
千草「うん」
千草「この子に誓うわ」
千草「強くなるからね！」
　　母上・・・
　　貴女こそ毘沙門天の母です。
　　比類なき軍神の母にございます！
　　我もまた、強く産まれて参ります。
　　強く、健やかに生き切ってみせます！
晴美「それじゃ、帰ろっか」
　　ククク・・・クククク・・・
　　な、何だこの声は？

〇テラス席
　　久しぶりじゃな。我が宿敵よ
　　き、貴様！もしや！
　　『Café　kawanakajima』
　　完

〇テラス席
　　されど人生は始まる