1面 真奈の時(脚本)
〇コンサートホールの全景
演出家「そこはいっぺんで「死ね、クリ王!」と!」
俺と名取さんの間に飛び込んできた
クリ王は襟首つかまれて、
演出さんに、ひっぺがされるように
這いつくばらされる。
練習の流れ確認。
江藤鉱(最初からすごいな、やることが)
──数分前
江藤鉱(以前に一度、同じ舞台に立っているからな!)
跳んでバン!と着地して
脚開いて腰を落とし、
歌舞伎風に手を突き出し、
開いた手の平を向ける
江藤鉱(名取さんと合わなかったな)
江藤鉱(無理やり合わせた感がある 俺が覚えてないんだ)
江藤鉱(だって見て知ってはいるけど)
江藤鉱(実際にはサシでなんて 大役は今回からなんだから)
江藤鉱(でも、引かない)
江藤鉱(ここまでは、舞台に立つ居姿も)
江藤鉱(存在感で負けてないだろう)
とはいえ思ったより
名取さんてすごいな。
いざかかり合うとさすが
年季入ってるだけのものはある。
俺は下ろした手の指先
まだ居心地悪いし、
舞踏っぽく後ろの空間を
抑えるようにしたり
神経入れてどうにかしようとして、
その後の流れ、セリフ、自信というか
覚えてないから不安になって、
そこでクリ王が
飛び出してきてやられたんだ。
──先刻
江藤鉱「・・・キレイとか、かっこいい っていうのは演技じゃないからね」
って音楽番組の司会も務めていた
女性アナウンサーに話して歩いてきたら、
舞台上でも同じこと言ってる。
そこに、文字通り飛び乗り躍り出て
即、名取さんと対峙して
自分は中央上手寄り、
名取さんが前に出てる分
後ろの位置になる──
〇地下駐車場
──ヤオヨロバザール B1
折中珠未「すみません」
と声をかけられて
って、もう横を通り過ぎるとき、
声かけられるのわかってたんだけど。
だって、その前にまず傍を通り過ぎて
越したときくらいに、
折中珠未「告白する」
って話聞こえてんだもん。
足元、床に腰おろして、
女性の方が多いな割合、8:2くらいか。
ヤオヨロバザールで一緒に働くスタッフ
みんな上下黒のトレーナー着とか軽装で。
何さんだっけ?サヤカじゃない
なんて名だっけ。
もっと大きい方と思ってたけど
むしろ小柄でコロッとした感じ。
上目使いでショートカット。
折中珠未「・・・・・・」
江藤鉱(え、何?声が小さくて 言ったのかどうかわからない)
そこに仲介役、見届け役、
進行係?の女性がいて、
アナ「・・・どうする?」
江藤鉱(言ったってことになったのか)
江藤鉱「・・・うん、受けます。告白を」
その前の「すみません」という声に
俺が足止めて、向き合って、
その間通ろうとした男性も
腰上げようとした男性も
さすがに察して立ち止まって退き。
江藤鉱(しかし華奢な男性多いな)
江藤鉱(顎鬚細く耳下までつなげて生えてても ワイルドじゃないしな)
江藤鉱(ここで受けると、その後の可能性が なくなるんだよな当然)
江藤鉱(他にも告白してくれる女性 付き合えるかもしれない・・・)
でも、うん、受けます。
──告白を受けて、
その流れでじゃあ二人で
連れそってそこから離れることに。
江藤鉱「何だー俺のこと 好きだったんじゃーんっ」
と、肩小突いたろうとしたけどその前に、
江藤鉱「あっ、俺まだ仕事終わってないよ」
江藤鉱「17:30で・・・ あと30分ある、18時まで」
折中珠未「大丈夫よ、来れたんで 平然としてれば」
と、アンテナ立ててたシーバー伏せて
下ろしてポケット突っ込ませて
江藤鉱(それでいいのか)
江藤鉱(じゃあ言うことを聞こう)
江藤鉱(彼女の方がよく知ってるものな 仕事のことに関しては)
ヤオヨロバザール
B1のエレベーター
搬入口辺りから、
ちょっとガラスの自動ドア
近く、なかったけど。
で、告白受けて、地下抜ける方に
二人で歩いていくくらいなのかな?
折中珠未。
幸先の良さそうな名前でいい?
顔も、目がクリクリして可愛いし
とか思ったりして。
〇備品倉庫
5555
ヤオヨロバザールのバックヤードの本棚に
その数字の書かれた札がついていて
折中さんがつけた?
コウコウ
折中珠未「鉱くん、いらっしゃーい」
・・・なんてね
こじつけたいんでしょ?
〇学校の体育館
──早朝
折中珠未「何でこんなすごく早く来たんですか?」
江藤鉱「そんなすごくってほどでもないですけど」
折中珠未「30分前か」
仕事の相方、
早番の人が来てると思って
あいさつしようとしたらいなくって
○△×で描いた人が周回してました
──したら、おばちゃんら来ちゃって
で、おばちゃんら
体育館使いたそうだから、
江藤鉱「どうぞ」
って言って譲って、
今、館内前半分おばちゃん、
俺と折中さんは後方に退いたけど
(うわー自分ら邪魔くさい)
江藤鉱「あー今、邪魔くさかったすっごく」
折中珠未「ねー」
って外に出たんだ。
途中、天井から下りている梯子に
江藤鉱(ジャンプして片手伸ばして届く)
って思ったんだけど、
ひっかかったように低ジャンプで
江藤鉱(こけたな我ながら)
一人で休んでっかな、
くらいで来たんだけど
江藤鉱(折中さんは奇遇だったな)
うちら邪魔くさいって思って
二人して示し合わせたように
外に連れだって出たしな。
〇備品倉庫
ヤオバザのバックヤードの壁の下部、
えぐられて女神の形になってる?
戦乙女の
俺、削ってないよ
で、女神の後ろ姿、結んだ髪の先に
ハートが下向きについてたりして。