読切(脚本)
〇山並み
僕の生まれた町には、都市部へと続く峠道があった。
トンネルを掘るほどの大きさでもないので、山を縦にぶち抜く形で道を作ったらしい。
だから道は急な斜面になっており、車ならそうでもないのだが、自転車や徒歩でそこを通るには文字通り山を登る事になる。
所が僕の生まれた町は、村と言えるような田舎。子供や年頃の若者が街で遊ぶには、その山を越えるしかない。
大人達は山を、子どもを様々都会のな誘惑から守る守護者だと崇めた。
”まもやまさん”というゆるキャラを作るほどには。
だが、僕を筆頭にした子供達からすれば、まもやまさんは守護者なんかじゃなかった。邪魔者でしかなかった。
いつしかあの山は子供達の間で
”悪魔山”と呼ばれるようになった。
当然のことだと今でも思う。
そして時は流れ────────
〇黒
僕”も”この山を越える日がきた。
〇山の展望台
某年 1月
イツミ「あっ」
カサミ「ん」
イツミ「・・・・・・・・・」
イツミ「・・・兄貴?」
カサミ「よっ、三年ぶり」
・・・山を越える前日。
僕は三年前に出ていった兄貴に会った。
〇空
〇山の展望台
イツミ「びっくりしたー、いつ戻ってきたのさ」
カサミ「戻っては来てないぞ、近くに来ただけさ」
カサミ「・・・お前も戻りたくないだろ、あんなとこ」
イツミ「あ、あはは・・・」
ヒント∶毒親
カサミ「それにお前が出ていくの手伝ったの俺だぜ?いつ行くかも当然知ってるし・・・」
カサミ「・・・よく言ってただろ?」
イツミ「・・・!」
〇田舎の学校
「家から出ていく時にさ、悪魔山で酒飲もうぜ」
「いいな、それ!」
〇山の展望台
カサミ「だから買ってきたぜ、ほら!」
イツミ「袋麺て・・・お湯どうすんの?」
カサミ「そこは抜かりなく、携帯用コンロを持ってきた!こいつで湯を沸かす!」
イツミ「流石兄貴!ぬかりない!!」
カサミ「はははっ!酒盛りといこうぜ!どうせ警察もいないだろーし!」
〇空
〇山の展望台
イツミ「ふひい、夜風にラーメンの温かさが身に染みますなあ兄貴」
カサミ「寒空の下で食べるラーメン、そして酒・・・あの日からずっとやりたかった事だな」
イツミ「へへ、違いない・・・」
カサミ「・・・・・・」
イツミ「・・・・・・」
カサミ「・・・小さい頃」
カサミ「町を囲む山は、俺には刑務所の壁に見えた」
イツミ「壁・・・」
カサミ「あの向こうには楽しいものがいっぱいある。けれども大人に頼らないと壁は越えられない」
カサミ「そして大人は・・・楽しいものを奪う事が、子供のためになると本気で思っていた」
カサミ「その結果が、いい歳こいてプラモデル集めてる俺さ」
イツミ「でも・・・兄貴は結婚できたじゃないか」
カサミ「対等な夫婦とはとても言えないよ・・・自分でも、妻にお母さんの代わりをやってほしいんだって解る」
カサミ「だから・・・多分、子供も作れない」
イツミ「・・・・・・」
カサミ「・・・・・・」
〇空
〇山の展望台
イツミ「・・・・僕達、毒親育ちなのに仲悪くないよね」
イツミ「普通はよく家族間で戦わせるとかあるのに・・・」
カサミ「まあそこは、運が良かったんだろーよ」
カサミ「お陰でこうして、力を合わせて脱出できる」
カサミ「馬鹿な親だよな、将来の介護要員すら用意できないなんて。毒親としても最低だろ」
イツミ「ははっ」
カサミ「・・・・・・」
カサミ「・・・・・この町は嫌いだ」
カサミ「言うまでもないが山も、親も嫌いだ」
カサミ「でも、お前は嫌いじゃない。大事な弟だ」
イツミ「・・・・・」
カサミ「だが同時に、このクソみたいな牢獄がお前と俺を繋ぐ唯一のもの・・・」
カサミ「ここに戻るのはゴメンだ、だから・・・」
イツミ「・・・もう会う事もない、ってことか」
カサミ「・・・・・悪い」
イツミ「・・・・・いいよ、人生が大事なのはお互い様さ」
〇空
〇山の展望台
カサミ「・・・・・・もうすぐ朝か」
イツミ「・・・・・・そうだね」
イツミ「早く戻った方がいいよ、親に見つかるし」
カサミ「そうする」
イツミ「・・・・・・」
カサミ「・・・・・・」
カサミ「・・・・・・達者でな」
イツミ「・・・・そっちこそ」
〇空
〇山の展望台
────そうしてまた
一日がはじまる。