龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

第弐拾六話 怪鳥(脚本)

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〇教室
  昼休み。
橘一哉「あ〜、あと少しで寝れそうだ・・・」
  食後の満腹感に、心地よい春のそよ風。
  天気は快晴で暖かな日差し。
  絶好の昼寝日和だ。
橘一哉「値千金、だねぇ・・・」
  全てが程良い加減の中でウトウトしていたら、
橘一哉「あ」
  違和感。
  あの『匂い』が紛れ込んできた。
梶間頼子「なに?」
辰宮玲奈「どうしたの?」
  急に体を起こした一哉に玲奈と頼子が声をかけると、
橘一哉「奴らが来た」
  校舎が揺れて窓ガラスが振動し、
  直後、粉々に砕け散った。
  そして、
辰宮玲奈「なにコレ!?!?」
  思わず叫び声を上げる玲奈。
  甲高い大音響が響き渡る。
  体を揺さぶる凄まじい振動だ。
  身体が砕け散ってしまうのではないかと思えてしまう。
飯尾佳明「こんな時間に不意打ちかよ・・・!!」
  耳を押さえて歯を食いしばり、佳明は音源へと足を進める。
  ガラスの破片を踏みしめながら窓際に向かうと、
飯尾佳明「なんだ、アレ」
  校舎の外、運動場の上空で。
  巨大な鳥が、牙の並んだ嘴を目一杯広げて咆哮していた。

〇教室
古橋哲也「あんな鳥、見たこと無い・・・」
  長柄斧を杖突いて、哲也が呟く。
  怪鳥の鳴き声による振動で内臓を揺さぶられ、まともに立っていられない。
  校舎も揺れ続けている。
  そのまま振動で崩落するかと思われたが、
「うっさいわ!!!!」
  男女の大喝一声、巨大な怪鳥は大量の水の流れに押し流されて地に落ちた。
  鳴き声も止まり、動けるようになった哲也達が窓際に駆け寄って外を見ると、
梶間頼子「おお、水も滴るイイ男が解体ショーを」
  一旦は振り上げた金剛書を下ろし、頼子が呟く。

〇白い校舎
  いつの間に飛び出したのか、一哉が巨鳥との決闘を繰り広げていた。
  ずぶ濡れで。
???「妙なタイミングでカズと被っちゃったわね・・・」
  上から聞こえたバツの悪そうな声。
  玲奈が上の階を見上げると、薙刀を担いだ長身の女生徒が身を乗り出している。
辰宮玲奈「由希さん!」
  玲奈が女生徒の名を呼ぶと、
草薙由希「あ、玲奈ちゃん!」
  向こうも気づいたようだ。
草薙由希「そっちは大丈夫!?」
辰宮玲奈「はい、なんとか」
  答えて玲奈は弓を出すと、矢を番えずに弦を弾き鳴らした。
  建物の揺れが徐々に収まっていく。
  龍使い達の体内に残る不快な残響も、次第に小さくなっていった。
  残響の消失を確認した玲奈は一哉の援護をすべく外に出ようとしたが、
辰宮玲奈「ひっ」
  外の光景に思わず小さな悲鳴を上げた。
  だが、動きは止めない。
  ベランダに出て弓に矢を番える。
  お互いずぶ濡れで、動く度に水滴を撒き散らしながら戦う一哉と怪鳥。
  怪鳥も羽毛が濡れてうまく飛べないらしい。
  羽ばたきはするが、それは飛ぶためではなく一哉への攻撃だった。
  翼を叩き付け。
  嘴で突付き、あるいは噛みつき。
  足で蹴ったり掴もうとしたり。
  嘴で、翼で、足で。
  一哉を狙って繰り出す攻撃に対し、
橘一哉「だあぁりゃあっ!!」
  防ぐでもなく、躱すでもなく。
  迫りくる攻撃に対して一哉は一歩も引かず、真っ向から剣撃を繰り出す。
  羽毛と血を撒き散らしながら、怪鳥もまた一哉に対して攻撃をぶつけ続ける。
  怪鳥の動きは徐々に鈍っていく。
  全身に増えていく浅深様々な傷。
  出血が体力を着実に奪っているのだ。
  段々と動きが雑になっていく。
  だが、逆にそれが一哉を手こずらせていた。
  初期よりも精度が落ち、却って不規則になった動き。
  読めない。
  それでいて、
橘一哉「はっ!」
  刀と嘴がぶつかり合うが、すぐには離れない。
  怪鳥には嘴を即座に引く余力が無くなっている。
  しかし、その分体重をきっちり乗せてきているのか、容易には弾けない。
橘一哉「おおっ!!」
  鍔迫りからの押し返しという手間が入り、一哉の方も余計に体力を消耗する羽目になっている。
辰宮玲奈「落ち着いて、カズ」
  玲奈が小声で呟く。
  退かず、躱さず、防がず。
  その場から動く時は前進のみ。
  前進攻撃一辺倒。
  ただひたすらに真正面から当たるのみ。
  今の一哉は、明らかに冷静さを欠いている。
  証拠に、怪鳥を全く押し込める事が出来ていない。
  一哉らしくない。
  そんな一哉の為に玲奈がなすべきことは、
辰宮玲奈「・・・」
  玲奈の瞳が怪鳥の一点を凝視する。
  弓を限界まで引き絞る。
  視界に入るものが目標の一点のみになり、体の感覚が消失した、その瞬間、
  鋭い唸りを上げて烈風が吹いた。
  玲奈が見つめた一点は、怪鳥の翼。
  羽ばたきの瞬間、僅かに合わさった左右の翼を、玲奈の放った一矢が貫いた。
  重なった翼は諸共に地に縫い付けられ、羽毛が飛び散る。
  急に入った横槍に、獣のような動きで一哉は怪鳥から飛び退いて離れると校舎へと目を向けた。
橘一哉「玲奈?」
  幼馴染の名を一哉が呟くと同時に、
  二射目が飛んだ。
  一哉の目の前を通り過ぎた矢が向かったのは、怪鳥の腿。
  大動脈を射抜いたのだろう、鮮血が勢いよく噴き出す。
  それを見た一哉の目に輝きが戻り、
橘一哉「お見事!」
  嬉々として叫ぶや否や、怪鳥に吶喊した。
橘一哉「であぁぁりゃぁっ!!」
  足、翼、嘴。
  急所を着実に切り刻み、
  最後に喉元を深々と刺し貫いた。

〇白い校舎
  怪鳥が動かなくなったのを見届けると、一哉は刀を抜いた。
  そして怪鳥の羽毛で刀を拭い、鞘に納める。
草薙由希「カズ、大丈夫?」
  いつの間にか下りてきていた由希が一哉に駆け寄り声をかけた。
草薙由希「ごめんね、被せちゃって」
橘一哉「うん」
草薙由希「でも、血まみれなんて、アンタらしくないわね」
  そう言って濡れタオルで一哉を拭く由希の姿は、まるで母親のようだった。
橘一哉「昼休みを邪魔されたもんだから、つい」
草薙由希「あー、そうよねえ」
  うんうん、と頷く由希。
草薙由希「五月蝿かったもんね」
橘一哉「由希姉もキレてたじゃん」
  一哉の言う通りだ。
  空飛ぶ巨鳥を墜落させる、大量の水流。
  生半可な力の出し方ではない。
  一哉の立ち回りもそうだ。
  あの大音響が響く中で反撃に出た二人の怒りたるや、相当のものがあったのだろう。
草薙由希「まあ、カズのキレっぷりには負けるけどね」
  何の技術も無く、ひたすら真正面で撃ち合い圧倒する。
  一哉の地力を示すものではあるが、普段通りならばもう少し立ち回りを考えるはずだ。
草薙由希「おかげで、正気に戻れたわ」
  一寸刻み、五分試しといった言葉があるが、それを目の当たりにするとは思わなかった。
  それは当の本人も同じだったようで、
橘一哉「うん、俺も正直やり過ぎたと思う」
  沈んだ面持ちで一哉が目を落としている血溜まりの中にいたのは、怪鳥ではなかった。
  全身余さず切り傷に覆われた、長身の男だった。
  男の顔は苦悶に染まり、苦痛と無念に満ち満ちた凄まじい形相をしていた。
橘一哉「これ、少しマズイことになったかもしれない」

〇教室
飯尾佳明「・・・ヤバいな」
  一哉と同じ言葉を、佳明は呟いた。
姫野晃大「何で?」
  過程と現状はどうあれ、敵を倒したのだ。
  問題は無いはずだ。
飯尾佳明「あの鳥男、なぜ消えない?」
姫野晃大「あ」
  晃大も気付いた。
  鳥男は消えていない。
  息絶えただけ。
  肉体は、未だに残っている。
梶間頼子「出ようか」
  頼子が言うのと、外の異変は同時だった。

〇白い校舎
橘一哉「!!」
  最も間近だった一哉が、まず最初に気付いた。
橘一哉「由希姉、下がって!!」
草薙由希「!!」
  言いながら一哉は由希を校舎側へと突き飛ばし、一度は鞘に納めた腰の刀の鯉口に手を掛ける。
  血溜まりが霧と化して男の亡骸を覆い、
  次の瞬間に無数の羽毛へと変じて一哉に襲いかかった。
  一哉は腰を落として身をかがめ、鞘に納めたままの腰の刀を前に突き出す。
  鍔と柄では盾とするには幅も高さも足りないが、
橘一哉「黒龍!!」
  一哉が叫ぶと、左腕から飛び出した黒い霧が鍔と柄に纏わりついて巨大な龍の頭と化した。
  黒龍の頭はその口を大きく開き、
  吠えた。
  鮮血の羽毛の嵐は勢いを失い、無数の光の粒子となって消え去ったが、
橘一哉「!!」
  次の脅威が既に目前に迫っていた。
  先ほど倒したはずの怪鳥が、死して変じた人の姿。
  鳥の力を持つ魔族だったのだろう。
  その魔族が、跳ね起きて、人間と鳥の中間のような姿に変じて飛び掛かってきた。
  黒龍が一口に噛み砕こうとしたが、
橘一哉「ウソだろ!?」
  信じられないような反応速度と動きで、黒龍の噛みつきを躱した。
  明らかに物理法則を無視したような、何かに無理矢理引っ張られたかのような軌道。
  手足も胴体もバラバラの、まったく協調性のない動き。
橘一哉「何なんだ、コイツは・・・!?」
  黒龍は一旦左腕に戻った。
  一哉は鯉口に手を掛け、何時でも抜き打てる状態を保ちながら相手を見る。
魔族「・・・・・・」
  鳥男の瞳に生気が無い。
  焦点が定まっておらず、虚ろだ。
  表情も無い。
  流血は止まっている。
  そして、
橘一哉「・・・!?」
  揺れている。
  鳥男は、揺れている。
  ユラユラと、不安定に揺れている。
  姿勢が定まらない。
橘一哉「コイツ、」
  もしや。
橘一哉「操られてるのか!!」
???「御名答!!」
  どこからともなく声が響き渡る。
橘一哉「どこだ!姿を見せろ!!」
  あれだけ何度も切りつけた。
  ただ皮膚を切り裂いただけではない。
  腱を切り、血管を裂き、気脈を絶ち、経絡を潰した。
  それでも尚自力で動けるものは存在しない。
  動けるのであれば、それは、
橘一哉「貴様、コイツを傀儡にしたな!!」
???「そうともさ!!」
  声の主は得意げだ。
???「彼は私と組むに当たり、一つの提案をしてくれた」
???「たとえ死すともただでは死なぬ、我が骸を存分に使うべしと申し出てくれたのだ!!」
???「迦楼羅の友よ、その骸、借り受けるぞ!!」

次のエピソード:第弐拾七話 屍傀儡

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