〇街の全景

〇街の全景
　　気温のせいなのか、大地にたどりつくまえには雪の姿を雨のしずくに変えてしまう。
　　真っ青な空から降ってくる白く柔らかな雪は、太陽の光の応援をうけて、虹の梯子を空にやんわりとかけた。

〇幻想2

〇通学路
　　それは茜が住んでいる小さな街だけにおきた、不可思議な出来事だとテレビでなんども放送された。

〇通学路
　　家の窓の外からみえるのは、いつもとかわらない簡素な町並み。
　　茜はふっとため息をついた。知らない老人が犬を散歩させ、茜は自分とおない歳くらい子供たちが、
　　元気にかけまわっているのをみていると、いつもブルーな気分になってしまう。

〇可愛い部屋
　　もともと病弱だった茜はあまり外にでられない。
　　専属の家庭教師に勉強を教わるだけで、
　　友達と遊ぶことはほとんどなかった。
　　だから自分ひとりの心の中で空想ばかりしている。もう、中学校に通う頃なのに、話し相手といえば親や家庭教師だけ。
　　茜は真夏に雪でも降ってきたら楽しいのになと想った。すると突然、空から白い雪が降ってきた。
　　茜は驚きながらも、とても楽しい気分になれた。
　　それからも茜はさまざまなイメ― ジをふくらませて、それが現実になっていくのを窓の外からみつめていた。

〇幻想
　　色とりどりの花が空から舞い降りる。欲しかった犬の人形が空を飛びまわり、猫が空をかけまわりながら降りてきたりした。
　　そのどれもが大地に降りたとたんにすっと溶けていった。

〇明るいリビング
茜のパパ「俺は仕事で忙しいんだ」
茜のママ「なによ、私だって相談したいことはたくさんあるのよ！！」
　　茜の父と母は、顔をあわせるたびに口喧嘩をする。
　　茜はいつも震えながら、二人がしずまるのを、膝を抱きながら座っているだけだった。
　　毎日のように、パパとママの喧嘩をみて
　　いた茜は、手をあわせ、神さまにお祈りをした。
茜「みんなが仲良くなればいいのにな」
　　と、さびしそうに、つぶやいた。

〇宇宙空間

〇落下する隕石
　　すると、今度は巨大な隕石が突然木星のあたりに現れ、その隕石は地球に向かいはじめた。
　　その軌道を計算すると、まちがいなく地球の地中海あたりに落下するということが、各国の人工衛星によって確認された。
　　そのニュ― スはテレビで放送されてい
　　た。
　　それまでさまざまな問題で争われていた国々が、一致団結して方策をねりはじめた。

〇荒廃した街
　　乱心した者たちが軍隊の出動で拘束され、または射殺されていくニュ― スが毎日のように報道されていた。

〇落下する隕石
　　茜は、地球の外をまわっている衛星というものが映した映像をみた。
　　青白い炎に包まれながら、隕石が地球の大気圏内に突入していくのがみえた。茜たちに残された時間はもうないと思われた。

〇明るいリビング
　　茜とパパとママとで体を寄せあい、最後の瞬間を覚悟して、ただおびえ、震えていた。

〇明るいリビング
　　そのとき空が忽然と暗くなり、激しい風が吹きつけ、滝のような雨をガラス窓にたたきつけてきた。
茜のパパ「茜、ママ、大丈夫だよ。きっと大丈夫だよ」
　　茜のパパは、なんどもママと茜をいたわるように、元気づけるような言葉をかけて
　　いた。
茜「私、うれしい。これからもママと仲良くしてね、パパ、お願いよ」
茜のパパ「茜、寂しい思いをさせて悪かったね」
茜のママ「ごめんなさい、茜」

〇落下する隕石
　　彗星が地上におおいかぶさるように衝突しようとするその瞬間、彗星は一瞬光り輝き、

〇落下する隕石
　　花火が炸裂するかのように四方に飛び散り、真っ白な雪へと姿を変えた。

〇街の全景
　　人々がたがいに抱きあい、喜びあっていた。

〇地球
　　純白の雪はいったん空高くへと舞い
　　上がり、やがて全世界に降りそそいだ。

〇街の全景
　　人々が建てたビルのすべてが、いくつもの山になり、空には華やかな色が流れたなびくオーロラが姿をあらわした。

〇明るいリビング
　　しばらくしてから人々が救われたというテレビ放送があった。パパがママと茜をつよく抱きしめた。
　　そして茜の頬から、あたたかい涙が降ってきた。

〇幻想空間
　　fin