第2話 季節はずれの紅葉狩り(脚本)
〇和風
鳥居のそばでキスをして
第2話
季節はずれの紅葉狩り
〇森の中
荒木 煌一(あらき こういち)「オレな、実は・・・」
荒木 煌一(あらき こういち)「狐やねん」
英田 乃亜(あいだ のあ)「ど、どういうこと」
荒木 煌一(あらき こういち)「この神社の、神様の使いってこと」
荒木 煌一(あらき こういち)「山ん中でいっぱい狐の像見たやろ? オレも、あん中の1匹やねん」
英田 乃亜(あいだ のあ)「へ・・・?」
荒木 煌一(あらき こういち)「やからな、魔法というか、妖術が使えるんや。人の心を操ることなんて、朝飯前や」
・・・全く話が読めない。
これは、僕の日本語能力が低いからなのか?
それとも、
荒木 煌一(あらき こういち)「好物は油あげとな・・・そうや、人間の魂や!」
荒木 煌一(あらき こういち)「オマエ、よう見たら美味しそうやなぁー」
煌一は落ち葉を踏みしめながら、両手を広げて近づいてくる。
開いた口から覗く犬歯がギラリと光って──
〇広い改札
観光客「〈京都には「ようかい」がいるんだって。モンスターだよ!〉」
〇森の中
英田 乃亜(あいだ のあ)「まさか・・・!!」
荒木 煌一(あらき こういち)「食うたろかああああ」
英田 乃亜(あいだ のあ)「うわぁっ」
なんとか逃げ出そうと後ずさりしたそのとき、
足元の落ち葉がぬるっと滑って──
荒木 煌一(あらき こういち)「ノア! あぶない・・・」
〇木の上
ふたりして、落ち葉の真っ赤な絨毯のうえに倒れこむ。
すぐ目の前に煌一の顔があって、
切れ長のまぶたの奥、茶色っぽい瞳がまっすぐに僕を覗きこんでいた。
荒木 煌一(あらき こういち)「ノアの目ぇ、見たことない色やな・・・」
煌一の指が頬あたりに伸びてきて、
荒木 煌一(あらき こういち)「これ、そばかす?」
荒木 煌一(あらき こういち)「なんや、可愛(かい)らしいなぁ──」
〇森の中
英田 乃亜(あいだ のあ)「貝、らしい?」
荒木 煌一(あらき こういち)「なんでもない! 重かったやろ」
荒木 煌一(あらき こういち)「ごめんな、そんな信じると思わへんかった」
英田 乃亜(あいだ のあ)「だって・・・」
だって、ここは日本で京都だ。東洋の神秘。千年の都。
現に今日だって、季節外れの紅葉に、やたらに身体能力の高いこの男・・・
英田 乃亜(あいだ のあ)「京都ならそんなこともあるのかと・・・」
荒木 煌一(あらき こういち)「ゆうて、ただの日本の都道府県のいっこやで」
荒木 煌一(あらき こういち)「ノアがいたところと変わらんよ」
英田 乃亜(あいだ のあ)「だって、日本は初めてだから」
荒木 煌一(あらき こういち)「へ?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「僕、海外から引っ越してきたんだ」
荒木 煌一(あらき こういち)「そうやったん!?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「親の仕事の都合で、色んな国を転々としてて」
英田 乃亜(あいだ のあ)「だから日本のこと、あんまり知らないし・・・」
日本語にもまだ慣れないし、
今朝の自己紹介だって、慣れない言葉で緊張して・・・
英田 乃亜(あいだ のあ)「なんというか、うん」
英田 乃亜(あいだ のあ)「色々、よく分からない・・・」
荒木 煌一(あらき こういち)「ノア・・・」
荒木 煌一(あらき こういち)「・・・あぁ! だから名前が英田なんか」
英田 乃亜(あいだ のあ)「へ?」
荒木 煌一(あらき こういち)「英語の英やろ! なるほどなー、めずらしい苗字やと思たわ」
英田 乃亜(あいだ のあ)「いや、そんなわけないでしょ!」
さっきから、からかわれてばかりな気がする。
京都の人間は、皆こうなのだろうか・・・
荒木 煌一(あらき こういち)「まー、日本のこと知らんってことはさ」
荒木 煌一(あらき こういち)「ノアはそのぶん、違う世界を知ってるってことやろ?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「え・・・」
荒木 煌一(あらき こういち)「安心しぃ。京都のことはオレが教えるから」
荒木 煌一(あらき こういち)「そのかわり、ノアはオレの知らんこと教えてや」
英田 乃亜(あいだ のあ)「あ、うん・・・」
違う世界を知ってる。
そんな風に言われたのは初めてで、つい頷いてしまった。
荒木 煌一(あらき こういち)「せや、じゃあノアは他の言葉喋れるってこと?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「あ、うん。英語なら」
荒木 煌一(あらき こういち)「おぉ、ほんまに!?」
荒木 煌一(あらき こういち)「この神社、海外から来てくれはる人も多いねんけど」
荒木 煌一(あらき こういち)「英語しゃべれる人がいーひんくて、困ってんねんて」
英田 乃亜(あいだ のあ)「うん・・・?」
荒木 煌一(あらき こういち)「というわけで、ノア。ここでバイトせーへん?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「バイト・・・?」
荒木 煌一(あらき こういち)「アルバイトや、英語で観光案内とかすんねん!」
荒木 煌一(あらき こういち)「あとは神社の仕事手伝ったりとか」
予想外の提案だった。
荒木 煌一(あらき こういち)「そしたら京都のことも知れるし、」
荒木 煌一(あらき こういち)「この辺の人らとも仲良くなれるし、」
煌一は、そうやそうやと嬉しそうに手を叩いている。
荒木 煌一(あらき こういち)「それに、オレも一緒にいれるし──」
英田 乃亜(あいだ のあ)「・・・」
荒木 煌一(あらき こういち)「・・・ノア?」
〇市場
京都を知る。人と仲良くなる。
そのことばが、僕の頭の中をぐるぐる回っていた──
ノア、手紙書くね!
ずっと友達だよ!
〇海沿いの街
ノアのこと、忘れないから!
ぜったい遊びに行くよ!
〇外国の駅のホーム
離れてしまえば、
どうせ忘れて、なかったことになる。
どうせ、どうせ──
〇森の中
英田 乃亜(あいだ のあ)「ごめん、無理・・・」
荒木 煌一(あらき こういち)「ノア、どうしたん? 具合悪い?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「なんでもない・・・」
英田 乃亜(あいだ のあ)「ただその、アルバイトは、ごめん。出来ない・・・」
荒木 煌一(あらき こういち)「・・・そうか、わかった。急にごめんな!」
荒木 煌一(あらき こういち)「ほな、そろそろ・・・」
観光客「ハァ、ハァ・・・」
「あ!」
英田 乃亜(あいだ のあ)「〈この前、京都駅で会った・・・〉」
観光客「〈うぅ・・・〉」
荒木 煌一(あらき こういち)「ひざ、血ぃ出てるやん!」
観光客「〈さっき転んだの。帰り方もわからなくなってしまって〉」
荒木 煌一(あらき こういち)「ノア、なんて言うてはる?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「転んでケガして、道にも迷ったって」
荒木 煌一(あらき こういち)「社務所まで行こ。手当できるから」
荒木 煌一(あらき こういち)「もし病院行くことなったら、おかんが車出してくれるわ」
観光客「〈あし、痛い・・・〉」
荒木 煌一(あらき こういち)「ほら、おぶったる! おいで!」
英田 乃亜(あいだ のあ)「〈あ・・・このお兄さんが、おんぶしてくれるって!〉」
観光客「〈うん・・・〉」
荒木 煌一(あらき こういち)「こっちから下りればすぐや! 行くで!」
〇山道
荒木 煌一(あらき こういち)「もうすぐやで、がんばりや!」
英田 乃亜(あいだ のあ)「〈もう少しで着くそうです! 大丈夫ですよ!〉」
煌一はこの山に詳しいようで、帰り道は傾斜のゆるい、開けた道を進んでいった。
子供をおぶる煌一の背中はとても頼もしくて、
僕もなんとか力になろうと、親子に声をかけ続けた──
〇神社の本殿
〇和室
煌一の母「よし、これで大丈夫や。 大したケガやなくてよかったわ」
観光客「ありがとー」
煌一の母「京都やったらおおきに、やで。言うてみ?お・お・き・に」
観光客「お、お、き?」
荒木 煌一(あらき こういち)「いちいち京都弁に訂正すんなや」
観光客「〈本当に助かりました、ありがとう〉」
観光客「〈あの子がここの神社気に入っちゃって〉」
観光客「〈帰る前にもう一回!って言うから来たものの、まさか迷うとは・・・〉」
英田 乃亜(あいだ のあ)「〈いえ・・・何回も来たくなる気持ち、わかる気がします〉」
英田 乃亜(あいだ のあ)「〈すごく日本らしいっていうか、雰囲気があるっていうか〉」
観光客「〈わかるわかる!〉」
「・・・」
英田 乃亜(あいだ のあ)「あ。この神社、何度も来たくなるねって話をしていて」
煌一の母「嬉しいこと言ってくれはるやん」
煌一の母「神社はずうっとここに在りますから、またいつでもおまいり来てくださいね」
僕はできるだけそのままの意味で、英語にして親子へ伝えた。
観光客「〈また来ます!〉」
観光客「おおきにー!」
煌一の母「ふたりとも、おつかれさん」
荒木 煌一(あらき こういち)「ノアがいてくれて、ほんま助かったわ」
荒木 煌一(あらき こういち)「ありがとうな」
英田 乃亜(あいだ のあ)「・・・!」
英田 乃亜(あいだ のあ)「そんな、大したことは・・・」
煌一の母「大したことやで!」
煌一の母「ノアくんやっけ? ほんまに流暢な英語やねぇ」
煌一の母「なぁ、よかったらうちで・・・」
荒木 煌一(あらき こういち)「おかん、無理言うたらあかんて」
荒木 煌一(あらき こういち)「引っ越してきたばっかりで忙しいやろし、バイトなんて──」
英田 乃亜(あいだ のあ)「あ、あの!」
英田 乃亜(あいだ のあ)「アルバイトって・・・具体的にどんなことをやるんでしょうか」
荒木 煌一(あらき こういち)「へ?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「えっと、ちょっと興味が出てきた、というか・・・」
さっきの親子の笑顔。ありがとうの言葉。
僕がいることで、少しは役に立ったみたいだ。
僕が、ここにいる意味が──
英田 乃亜(あいだ のあ)「あの、自信はないんですけど・・・」
煌一の母「せやったら、今度お試しで一日だけやってみたら?」
煌一の母「いっかいやってみて、それから決めよし!」
英田 乃亜(あいだ のあ)「あ、ありがとうございます」
巫女さんバイト「おかあさん、ちょっと来てくれはりますぅ〜!?」
煌一の母「あぁ、今行くわ!」
煌一の母「そしたらよろしくね、ノアくん!」
荒木 煌一(あらき こういち)「ノアー、ありがとうな!!」
荒木 煌一(あらき こういち)「けど・・・無理してへんか?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「ううん。本当にやってみたいなって、思ったからさ・・・」
荒木 煌一(あらき こういち)「えー、ほんま!? 嬉しいなー、ノアー!」
英田 乃亜(あいだ のあ)「ちょっ・・・今度試してみて、だからさ」
抱きつかんばかりの勢いで肩を掴んでくる煌一を押しとどめる。
なんか狐っていうか、犬みたいだ・・・
英田 乃亜(あいだ のあ)「あ、そうだ! お母さん、この神社で働いてるんだね」
荒木 煌一(あらき こういち)「え? うん」
荒木 煌一(あらき こういち)「まぁ、ここオレの家やし」
英田 乃亜(あいだ のあ)「・・・え?」
荒木 煌一(あらき こういち)「あれ、言ってへんかったっけ?」
荒木 煌一(あらき こういち)「こちらの神社の跡取り、荒木煌一と申します」
荒木 煌一(あらき こういち)「よろしゅう、おたの申します」
英田 乃亜(あいだ のあ)「え、えぇ!?」
わざとらしく三つ指をついて頭をぺこりと下げる煌一に、驚きの声を上げるしかなかった。
荒木 煌一(あらき こういち)「これはほんまに冗談ちゃうからな」
スチルの紅葉が、二人の心情を表しているかのようで美しく微笑ましいです!
一言で表すならば、「尊ぇ-てぇてぇ」です✨
スチル時のBGMもマッチしていて素敵でした!
連続スチルもカッコ良く、落ち葉エフェクトの演出が風情を感じますね!
二人の今後を見守っていきたい気持ちになります☺️
待ってました。
スチル数枚を使って、2人がアクシデントで密着する様を表現。これには脱帽です。🎩
煌一くんは狐ではなかったものの、神社の跡取り。これは本当の様ですが、人間だとしても妖怪の力を持っていそう……。
神社のアルバイトをする事になった乃亜くんには、これからコミュニケーション能力が試されますね。
乃亜くんの仕事姿、楽しみにしてます。😊
演出力高くて膝を手で打ちました😂素晴らしいの一言につきます!メロすぎでしょこれェ!!(スチル連発大好き侍)
スチルの素晴らしさもそうなんですけど、紅葉・神社・自然といった秋の京都の雰囲気の再現が良い&その中でキャラ達が情感的に動くのが見てて楽しいです。人間関係の繋がりに億劫になるノアくんの背景の共感のさせ方も上手いと思いました。絆パワーで乗り越えて素敵な思い出作って欲しいです👏👏