仕方ないの言葉で終わらせないで(脚本)
〇黒
俺は
〇黒
震災経験者だ
〇学生の一人部屋
それは本当に突然で
阿賀 有利(今日は卒業式の練習で早く終わったし)
阿賀 有利(今から誰か誘って釣りでも行こうかな〜)
〇学生の一人部屋
阿賀 有利「えっ」
ガガガガガガガタガタガガガガガガゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
〇学生の一人部屋
緊急地震速報です!
緊急地震速報です!
〇学生の一人部屋
ガガガガガガガガガガガタガタガガガガガガッ!!!!!!
阿賀 有利「うわぁあぁああぁあああああぁあああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
〇黒背景
〇学生の一人部屋
バリーンっ!!!!!!
阿賀 有利「うわぁあああっ!!!!!!!!!!!!」
ドーンっ!!!!!!ガガガガガガ
〇学生の一人部屋
ガガガガガタガタ・・・ガガガ・・・
阿賀 有利(まだ収まらないのか!?)
ドドド・・・ガガッ・・・ガッ・・・
〇学生の一人部屋
阿賀 有利「おさまった・・・のか?」
阿賀 有利「地震・・・だよな? こんな大きいの初めてだ」
阿賀 有利「家には俺しかいないし、 避難した方が良いのか?」
阿賀 有利「外はどうなってるんだ? 停電してるし、とりあえず見てみよう」
〇家の階段
〇壁
〇荒廃した街
阿賀 有利「なんだ・・・これ」
阿賀 有利「お母さんやお父さんや兄ちゃん・・・ 高校の奴らは大丈夫なのか・・・?」
〇海
携帯のテレビの情報を見て驚いた。
俺の家からは見えない所で
この街を、津波が襲っていたことを。
〇学生の一人部屋
阿賀 有利(電気がないから充電もできないし、 携帯もあんまり使えない)
阿賀 有利(両親は余震の中なんとか戻ってきたけど)
阿賀 有利(別の学校に通ってた兄ちゃんは学校に取り残されてる)
阿賀 有利(高校の奴らは?色んなとこで爆発音も聞こえるのに、情報が何もわからない)
〇黒背景
それか3日後、余震が続く中
数十キロかけて兄は歩いて帰ってきた。
足には豆が潰れた跡が。
手にはガラスで切った跡が。
とても痛々しかった。
〇学生の一人部屋
数日後
阿賀 有利(何とか電気も通って、水道ももうそろそろかな)
阿賀 有利(充電切れが怖くて暫く携帯の電源節約してたけど)
阿賀 有利(何人かから心配の連絡や生存確認が来てて良かった)
阿賀 有利(すぐに会いたいけど、学校も被災してるし電車もバスも通ってない)
阿賀 有利(しばらくは会えないのがもどかしいな)
〇体育館の舞台
震災から1ヶ月半
やっと学校から登校の許可が出た
〇体育館の舞台
「久しぶり!!」
阿賀 有利「無事そうで良かった」
前田「なーっ!」
前田「まぁ俺んちほぼ流されたけど」
「マジッ!?」
前田「その時、奇跡的に家に誰もいなくて助かったけどさ」
前田「もうすぐ仮設に行く予定なんだよ」
阿賀 有利「──そうだったのか」
前田「まぁ命があれば何とかなるっしょ! お前らは家とか大丈夫?」
木葉「俺はじいちゃんのベッド流されちゃってさ〜」
木葉「「わしの寝床〜!!」って走って取りに行きそうだったから焦ったわ」
前田「やっばそれwww」
阿賀 有利(今、こいつはあえてこの空気を変えたんだろうな)
阿賀 有利(多分、前田は気まずかったり気を遣われる方が嫌だから)
木葉「ゆーりは?」
阿賀 有利「うちは食器とかチャリとか壊れたけど」
阿賀 有利「1番は小学生の時に好きな子から貰った 豚の貯金箱が割れたこと」
「辛過ぎwwwwwww」
〇体育館の舞台
その後知らされた校長からの話では
うちの学校の生徒にも数人の犠牲者がいた
その中の1人は、いつも賑やかで
よく先生に怒られてたような元気な人で
彼の担任は
「絶対に死なない人だと思ってた。
でも死んだ。それが震災だ」と泣いていた。
〇教室
それから数週間後
阿賀 有利「仕方ないにせよ、やっぱり修学旅行は中止か」
前田「家族が亡くなったり、親が失業してる人も多いからな」
木葉「金ある奴は行けて、金ない奴は行けないみたいになるよりは」
木葉「俺は中止になって良かったと思ってる」
阿賀 有利「確かにな」
前田「何で俺たちの時に限って・・・とはやっぱどうしても思うけど」
前田「他に楽しい思い出沢山作ってこうな」
「あぁっ」
〇教室
周りの大人は口を揃えていった。
「仕方ない」「これから何度でもいける」
阿賀 有利「そんなの本人たちが1番分かってる」
阿賀 有利「だけどさ。これから旅行には行けても、」
阿賀 有利「クラス全員でどこかに行く機会は」
阿賀 有利「今後一生ない」
〇黒背景
──それから数年後
今度は世界的に感染症が流行った
テレビのインタビューで彼らは言う
〇アーケード商店街
アナウンサー「学校生活はどう変わりましたか?」
高校生「修学旅行も体育祭も無くなりました。悲しいです」
アナウンサー「お母さんはどう思いますか?」
母親「でも仕方ないですよね。だってかかったら元も子もないですし」
アナウンサー「そうですね。かかるのが1番怖いですよね」
アナウンサー「以上街中のインタビューでした」
〇テレビスタジオ
アナウンサー「と言うわけですが、いかがお考えですか森山さん」
森山「いやぁ仕方ないよね。だってクラスターにでもなったら大変だもん」
森山「彼女たちはまだまだこれからだから」
森山「大人になってからいっぱい楽しんでほしいね」
〇休憩スペース
阿賀 有利「・・・」
俺は彼女たちが、とても他人事には思えなかった
笹間「うちの娘も修学旅行が無くなったわ」
阿賀 有利「そうなんですか!?」
笹間「可哀想だけどどうしようにもないもの」
笹間「「仕方ない」って言ってるんだけど、やっぱやり切れないみたいで荒れてるわ」
阿賀 有利「娘さんに、「仕方ない」って言ったんですか?」
笹間「えっ、そうよ?だって納得してもらうしかないじゃない」
阿賀 有利「──な・・・くないです」
笹間「えっ?」
阿賀 有利「仕方なくないです」
笹間「どうしたの急に?」
阿賀 有利「俺、震災の影響で修学旅行行けませんでした」
阿賀 有利「「仕方ない」「これが最善だ」 そんなの、いやでも本人は知ってます」
笹間「・・・」
阿賀 有利「1番辛かったのは」
阿賀 有利「自分の気持ちを押し殺すことでした」
〇通学路
近所のおばちゃん「あらお帰りなさい」
阿賀 有利「こんばんはッス」
近所のおばちゃん「そういえばもうそろそろ修学旅行の時期じゃない?今時の子はどこ行くの?」
阿賀 有利「あーっ震災の影響でなくなっちゃいました」
近所のおばちゃん「あらっ!可哀想に!」
近所のおばちゃん「でも仕方ないわね。みんな大変なんだもの」
阿賀 有利「──はい」
阿賀 有利(きっと、悪気はないのかもしれない)
阿賀 有利(でもおばちゃん。その言葉は遠回しに)
阿賀 有利(「みんな大変なんだから我慢しろ」って聞こえちゃうんだよ)
阿賀 有利(これでも俺たち、実は結構たくさん我慢してるんだよ)
〇屋上の隅
先輩「来週京都に出張だなぁ」
先輩「修学旅行以来、京都とか行ってねーわ」
先輩「俺も俺も」
先輩「阿賀は?」
阿賀 有利「えーっと・・・実は俺、修学旅行は震災の影響で行けてないんですよ」
「マジっ!?」
先輩「一生に一度なのになぁ」
先輩「でもほら、無理していくもんでもないし」
先輩「学生だったから使える金だって限られてるしさ!」
先輩「そうそう!先生マジでうるさいし、大人になったらいくらでも行けるから!」
阿賀 有利「──そうなんですね」
「そうそう!!!」
阿賀 有利(こんなこと言われて反応に困っただろうし)
阿賀 有利(自虐して気を使ったのかもしれない)
阿賀 有利(でも、どんなトラブルも、腹が立った話も俺にはない経験で羨ましいし)
阿賀 有利(何よりさ)
〇黒
あんたらは行けたんだろ?
〇休憩スペース
阿賀 有利「学生は、この状況をすぐに飲み込めるほど大人じゃないし」
阿賀 有利「この状況を理解できないほど子どもでもない」
阿賀 有利「どこにもぶつけられない気持ちを、少しずつ整理したいだけなんです」
笹間「──そうは言われても、じゃあどうすれば良いの?」
阿賀 有利「寄り添ってあげて下さい。何も言わないならそっとしておいて」
阿賀 有利「何か言われたら、話をゆっくり聞いて下さい」
阿賀 有利「同じ経験はできなくても、同じ目線に立とうとはしてみて下さい」
笹間「──そうね。分かったわ、そうしてみる」
笹間「ありがとう、阿賀くん」
阿賀 有利「いいえ、どういたしまして」
〇黒
もうすぐ、東日本大地震から11年。
今度は、震災と違う形で
色々なものが失われていく。
私たちは忘れては行けない大切な事を
忘れてはいないだろうか
最後となりましたが
震災で被害を受けた方々に
心より追悼の意を捧げると同時に
1日でも早く平和な世界になることを
心よりお祈り申し上げます。
あんなに大きな地震でなくてさえ、時々、地面が揺れる錯覚に怯えて、あの危険音と、緊急地震速報ですという言葉を思い出します。
不条理です。突然、命が奪われ、生活が奪われ、その後も自由な気持を押し殺される。
伝えてくれて、ありがとう。
本当に震災の時は悲惨でした。
私の家はそこまで被害は出ませんでしたが、テレビで見ていた時にとても心に刺さるものがありました。
11年が経ち、徐々に風化されつつありますが、後世に残していきたいものです。
大事な問題提起と指摘、そしてそれを物語に昇華させたこの作品、とても深く読み入りました。
中高生世代はちょうど、世間の空気が読めないほど子供でなく、事態を自らの手で変えられるほど大人でない世代ですから、最も我慢を強いられているのかもしれませんね。一番エネルギーに満ち溢れている時期だというのに。