夢想列車

nori

夢想列車(脚本)

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夢想列車
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〇大きい交差点
「事故?」
「蛇行運転の車が正面から突っ込んできたらしいよ」
「そりゃ、避けられんわ」
  私は今も生きている。愛する者の命を犠牲にして
  判断が早ければ、娘の人生が8年で終わることはなかった

〇高級一戸建て
沙紀「行ってきます」
近所のおばさん1号「沙紀ちゃん、いってらっしゃい」
近所のおばさん2号「健気よね」
近所のおばさん1号「お母さんが亡くなって8年。もう吹っ切れてるんじゃない?」
  私は今も生きている。愛する者の命を犠牲にして
  私にはお母さんの記憶がない。私の誕生日がお母さんの命日だから

〇外国の駅のホーム
エマ「乗車希望の方はご搭乗願います」
由紀(こんな小さな子まで)
エマ「夢想列車は貴方を夢想の世界にお連れします。癒されたい深い傷さえあれば、どなたも乗車可能」
エマ「但し」
  出発時刻までにはお戻りください。遅れたら、どうなるかは保証致しかねます

〇海辺の街
由紀「ひとり?」
沙紀「あっ、はい」
由紀「夢想の世界に連れて行ってくれるんだよ。キミはどこに行きたいの?」
沙紀「遊園地。お姉さんは?」
由紀「私は特になくて。他の参加者について行くだけ」
  次は光の丘遊園地。お降りの方は発車時間、厳守でお願い致します
由紀「希望の場所に着いたようだね」

〇遊園地の広場
(ママ、次はあれ)
(走らないの)

〇メリーゴーランド
由紀「乗らないの?」
沙紀「あの、乗ったことなくて」
由紀「遊園地、初めて?」
沙紀「はい」
由紀「一緒に乗ってみない?」
沙紀「わあ」
沙紀「はい」
沙紀「一度、来てみたかったんです。ママと、こういうところ」
由紀「それって──」
沙紀「私が生まれた日にママは旅立ったから、ママとの想い出がないの」
由紀「そんな。ゴメン」
沙紀「ううん。憧れが叶って嬉しい。一緒に乗ってくれてありがと」
由紀「楽しかったね」
由紀「発車時刻だ。戻っろか」
沙紀「もう少しだけ」
沙紀「もう少しだけ、ここにいていい?」
由紀「いいよ。付き合うよ」

〇外国の駅のホーム
由紀「あ──」
沙紀「私のせいで」
由紀「次の列車に乗ればいいだけだよ」
  出発時刻に遅れたら、どうなるかは保証致しかねます
沙紀「避けて──」
由紀「見えてた?」
沙紀「車線を横切って、突っ込んでくる車が」
由紀「舞が、娘が亡くなった時の私の記憶。発車時刻に遅れると、こんな罰が待ってるんだ」
由紀「娘の命を犠牲にして、私、生きてる」
沙紀「私もだよ。私がママの命を奪って」
由紀「そんなふうに思っちゃダメ。私の場合だけど、生まれてくる子の笑顔が見たかっただけ」
沙紀「同じだよ。そんな言い方したら、マイちゃんが可哀そう」
沙紀「私は泣いてばっかで、ママに笑顔みせれてないけど・・・」
由紀「涙は愛する人への思い。泣いたっていいんだよ」
沙紀「ホント?」
由紀「泣いた後、少しだけ笑顔を見せれれば」
沙紀「それならできる。やってみようよ、一緒に」
由紀「えっ?」
沙紀「ちょっとずつ笑顔を取り戻すの」
由紀「ちょっとずつかあ。いいかも」
沙紀「うん」
由紀「列車来た」
由紀「発車時刻に遅れたらダメなのかと」
エマ「保証しないとは言ってません」
由紀「戻ろっか?私たちの現実へ」
沙紀「はい」
由紀「今度、動物園行ってみない」
沙紀「行きたい」
沙紀「私、手長猿みたい」
由紀(どうして手長猿?)

コメント

  • 心の傷を完全に治すのは難しいですが、似たような境遇の誰か。そして自分自身が傷を埋める事は可能だと僕は信じてます。

    列車で知り合った2人が、これからも強く生きられますように。😌

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